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NIKIIE

それは前に進むため、未来を信じるための吐露だった

作品とツアーを重ねるごとに様々なことを感じて歌にしてきたシンガーソングライター・NIKIIEが、4月にリリースしたミニアルバム『hachimitsu e.p.』に続き、2枚目となるミニアルバム『CHROMATOGRAPHY』を完成させた。自分の弱さや孤独を肯定し、心の根っこ、自身の本質をより色濃く紡いだ5曲は、幅広い音楽性はもちろん、前に進もうとする人間の力強さを感じさせる。リリース後は初のオールスタンディングツアーが決定。ピアノの前で表情豊かに歌い、想いを自由に表現するそのライブも必見だ。

「自分が隠している本音だったりとか、孤独だったりとかをちゃんと吐露して、それを肯定して初めて前に進める」

●ミニアルバム『hachimitsu e.p.』(2012年4月)の取材のとき、「ツアーではもっとお客さんとの距離を縮めたいと思っている」とおっしゃっていましたよね。

NIKIIE:はい、言ってましたね。

●その後、『hachimitsu e.p.』のツアーでライブを観させていただいたんですけど、ライブを重ねるごとに自由度を増している感じがして。イメージ的な話なんですけど、以前のライブでは“自分の居場所は鍵盤の前”と思っていたのが、最近のライブでは“自分の居場所はステージ全部”という感じがした。

NIKIIE:そうですね。特に1stアルバム『*(NOTES)』(2011年7月)のツアーとかは、おっしゃっていた通り、ピアノの前が自分の居場所みたいな感じになっていて。でも気持ち的には“もっと自由に動きたい”と思っていたんです。でもピアノは動かせないし、ギターみたいに派手な動きもできないし。

●うんうん。

NIKIIE:気持ち的な部分でのお客さんとの近づき方とか、距離感の取り方を掴み切れていなかったところがあって。でも『hachimitsu e.p.』のツアーでは、リハの段階からイメージが結構できていて。やっぱり『*(NOTES)』は1stフルアルバムということもあって、“どういう人に出会うんだろうな? どういう気持ちで観に来てくれるんだろうな?”っていう、怖い気持ちの方が強かったんですよ。

●ああ〜。

NIKIIE:お客さんに人見知りしていた、みたいな(笑)。“私はこういう想いを伝えたい”という一心だったというか、伝えたい気持ちが強すぎたんです。隙間がなかったんですよね、自分の想いに対しても。

●『*(NOTES)』はそういう楽曲が揃った作品でしたもんね。

NIKIIE:そうなんです。自分の内面を詰め込んだ作品だったからこそ、余計にどう表現していいかわからなかったところがあったんです。でも『*(NOTES)』のツアーを終えて、すごくやり切った感があって。自分が貫こうとしていたこととか、トライしたいと思っていたことも全部やり切って。そこから心に余裕ができてきて、『hachimitsu e.p.』の制作に入った間に少しずつ自分のナチュラルな状態がわかってきたんです。

●なるほど。

NIKIIE:そういう経緯を経てのツアーだったので、自分だけと向き合うんじゃなくて、ちゃんと周りと向き合う余裕がありました。ギターが出している音だったり、ドラムが出しているリズムをちゃんと感じることができて、感じた波の中で自由に振る舞える自分がいて。そういう変化がすごく大きかったですね。

●ツアーでも新曲をやっていましたけど、今作『CHROMATOGRAPHY』はいつくらいから着手したんですか?

NIKIIE:『hachimitsu e.p.』と同じくらいに、作品に収録する曲を選びはじめました。『hachimitsu e.p.』は自分の“陽”の部分というかサニーサイドを表現していて。だからその次に出す作品としては、もうちょっと本質というか、奥に入った作品にしたいなと。『hachimitsu e.p.』の歌詞は意外とネガティブだったり明るいものではないんですけど、“この曲調だから歌える”というポップさがあって。対して『CHROMATOGRAPHY』では、ちゃんと歌詞から入ってくるメロディというか、奥に入っていくものを意識したんです。『hachimitsu e.p.』が“窓”だとすると、『CHROMATOGRAPHY』は“部屋の中”というか。

●“CHROMATOGRAPHY”という言葉はあまり馴染みがないですけど、なぜこのタイトルにしたんですか?

NIKIIE:前作タイトルの蜂蜜…蜂蜜って毒性を持っているものもあるんですよ。蜂が花粉を摂取した花によっては猛毒になる場合もあるらしくて。

●あ、そうなんですか。

NIKIIE:そのこと自体は知っていたんですけど、“その毒性を検出する方法ってどうやるんだろう?”と思って色々と事例を調べていたら、その方法のひとつとして“クロマトグラフィー”という技法があったんです。今回2枚目のミニアルバムとして表現したかったことは、自分が隠している本音だったりとか、孤独だったりとかをちゃんと吐露して、それを肯定して初めて前に進めるというか、楽曲がもともと持っている性質だったんです。そういう楽曲が並んでいるミニアルバムのタイトルとして、いちばんらしい言葉だなって。

●前作に収録されている「ito.」で、“これでいい これでいい これでいて私だ”という歌詞がありましたけど、その視点からすごくNIKIIEらしさを感じて印象的だったんです。今作『CHROMATOGRAPHY』で歌っていることは、その視点の延長線上ですよね。

NIKIIE:そう。自分の肯定ですよね。ライブでの心境の変化も含めて、ちゃんと繋げることができてよかったと思います。

●アニメ『LUPIN the Third〜峰不二子という女〜』のエンディングテーマにもなっているM-1「Duty Friend」はツアーでも披露していましたが、大人の女性っぽさというか、曲調もかなりアダルトな雰囲気ですよね。今までのNIKIIEとかなり印象が違う。

NIKIIE:そうですよね。この曲はデモの段階で持っていたグルーヴ感が、そもそもジャズやファンクのリズムにマッチするものだったんです。でも、今までは敢えてジャズやファンクっぽい雰囲気を避けていたところがあって。

●なぜ避けていたんですか?

NIKIIE:その理由はコードの積み重ね方なんですけど、そういう曲を聴いたときにすごく苦しくなるというか、悲しくなったりすごく切ない気持ちになることがあったんです。だけど、この曲はそこを避けると活きないなと思ったので、自分にとっては大きなチャレンジだったんです。この曲で歌っていることは根っこというか、人に言えないような人間の暗い部分だったりするんですけど、楽曲的にはそれをものすごくダークに描いているわけではないじゃないですか。だから、こんなにキツいことを歌っているのに、自分の中で嫌味なく歌える。今回本当にチャレンジしてよかったなと思います。すごく可能性を拡げることができた感じがしました。表現の仕方で全然変わるっていうか。

●今作では「Duty Friend」とM-4「Everytime」がPVになっていますが、どちらもすごくインパクトのある映像ですよね。そのもう1つのPV曲「Everytime」ですが、これはいつ作った曲なんですか?

NIKIIE:18歳のときに作った曲です。

●あ、結構前なんですね。

NIKIIE:ミュージシャンになるために上京したんですけど、なかなか実家に帰れなかったんですよ。「がんばってね」と送り出してもらったのに、東京で自分の居場所も作れてないし、何かを始められているわけでもなくて。「いつでも帰っておいでね」と言ってくれる人が居るのは本当にありがたかったけど、それができなくて。でも“いつまでも意地を張ってないで1度帰ろう”と思って、上京してしばらくしたときに実家に帰ったんですけど、そのときに書いたんです。ひとりで東京に居て何もできなくて、アルバイトをして、たまにライブができて…という環境の中で、すごく自己否定に走っちゃうんですよね。ひとりで居る時間も長いから。

●うんうん。

NIKIIE:“アルバイトをしに東京に来たわけじゃないのに、私なにやってるんだろうな?”という気持ちになることもあったけど、でも実家に戻ったときに、自分がやるべきことは変わってないし、自分の想いも変わっていないことに気づいたんです。そこでちょっとだけ素直になれた感じがして“前に進もう”と思えた。自信をなくすことはいっぱいあったんですけど、“自分がやるべきこと”とか“自分の想い”くらいは信じないと潰されちゃうなって。“未来をどんどん変えて行こう”って。

●NIKIIEさんは“自己否定”を経た“気づき”を曲にしていることが多いですよね。

NIKIIE:そうですね(笑)。私はそのときに感じたことはそのときにしか曲にできないと思っているから、そのときに感じたことをなるべくそのまま曲にしようと思って書いてきていて。そうすることによって、“今”を描いたものは何年経っても“今”であり続けると思っているんです。だからこそ、今「Everytime」を歌いたいなとすごく思って。

●どうしてそう思ったんですか?

NIKIIE:デビューして“自分というものを知ってもらいたい!”と強く思って『*(NOTES)』というアルバムを作ったんです。自分がどういうことを考えていて、どういうふうに葛藤したりもがいたりして、そこからどういう答えを見つけるのか? を知ってもらいたくて。

●はい。

NIKIIE:でもそれがナチュラルな自分であるのかどうかはわからなくて。『*(NOTES)』でやり切って自分の本質は出せたけど、それは上京した頃…「Everytime」を作る前…のがむしゃらな感じにも似ていたんですよね。そこから少し肩の力を抜いてナチュラルになったとき、“私は過去を追いかけていたんだ”ということがわかったんです。だから“未来を変えていきたい”、“未来を信じよう”と思って18歳のときに書いた「Everytime」を歌いたいと思ったんです。

●あとM-5「harmonic harmonist」もツアーで披露していましたが、MCで「『hachimitsu e.p.』を作って思ったことをそのまま書きました」と言っていましたよね。

NIKIIE:『hachimitsu e.p.』を持って全国キャンペーンをやって、ライブしたりとかイベントに出たりとかして。そのときに出会った人たちの表情とか、想いとかの大きさをすごく感じて。『hachimitsu e.p.』はポップでキャッチーな作品だったから、出会う人もそういう表情の人が多かった気がするんです。明るい表情の人。

●はい。

NIKIIE:そういう人たちと触れ合ったときに、“今、この瞬間をしっかりと生きていきたいな”とより強く思ったんです。ただ生きているだけだとあっと言う間に時間が過ぎていって、振り返ったときに何も残ってなかったりとかするくらい時の流れは残酷じゃないですか。だからこそ、今自分が感じること、やってみたいなと思ったことを否定して“そんなことできるはずないよ”と思うんじゃなくて、ちゃんと夢見たりとか、自分が好きと感じることを“でも人は嫌いかもしれない”と臆病になるんじゃなくて、ちゃんと自分が好きでいることとか。そういうことを1つ1つちゃんと気づいて生きていきたいなと思ったんです。自分が感じた最初の気持ちを隠さないで生きていきたい、そういう人になりたい、そういう存在になりたいと思って曲にしたんです。でも別に大きな大きな誓いというわけではなくて、ささやかな誓い。その誓いを曲にした感じですね。

●ナチュラルな雰囲気が伝わってくるいい曲だと思います。

NIKIIE:自分の指針ができた気がします。

interview:Takeshi.Yamanaka

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