音楽メディア・フリーマガジン

Suck a Stew Dry

間違いだらけの世の中に真っ直ぐ突き刺さる Suck a Stew Dryのノンフィクション

数多のミュージシャンが歌にしないようなことを、ためらうことなく歌うVo./G.シノヤマコウセイ。

中学1年生のころからゲーム感覚で曲を作り始めた彼は、やがて生活の一部として音楽を綴るようになる。過度な期待もなければ、打ちひしがれるほどの絶望もない。

人によっては残酷なほどショッキングな音楽と感じるかもしれない。間違いだらけの世の中に真っ直ぐ突き刺さる、Suck a Stew Dryのノンフィクション。目を逸らさなければ、それはとても美しい。

Interview

「ラブソングの対極。例えばジョン・レノンは愛とか平和を歌っているじゃないですか。じゃあ僕はその逆を歌おうと」

●アルバムタイトルにもなっているM-4「人間遊び」を初めて聴いたとき、ショッキングだったんですよ。この曲は…あまりにもひどい。

一同:アハハハハハ(爆笑)。

フセ:歌詞の話ですよね?

●あっ、すみません、歌詞の話です。曲は素晴らしいと思います。この「人間遊び」は"愛の偽物を作って/試しにそれを配ってみた/彼女が一つ手に入れて/愛されていると思い込んだ"という歌詞で始まりますけど、こういう視点は、もしかしたら誰しもが思っていることかもしれないけれど、絶対に口にしないようなことというか。

シノヤマ:うんうん。

●口にした途端に何かを失ってしまうようなことというか。その視点は他の曲にも共通していると思うんですけど、なぜこういうことを歌詞にしたんでしょうか?

シノヤマ:いや、あまり人が歌っていないようなことを歌詞にしたいなと。

●確かにこういうことを歌っている人はあまりいないですね。ラブソングの対極というか。

シノヤマ:あ、それです。ラブソングの対極。例えばジョン・レノンは愛とか平和を歌っているじゃないですか。じゃあ僕はその逆を歌おうと。

●なぜ逆を歌おうと?

シノヤマ:特に理由はないんですけど、ジョン・レノンとかが既に歌っているから、僕が愛とか歌わなくてもいいかなって(笑)。

●何かイヤなことがあったんですか?

シノヤマ:いや(笑)、別に何もないですよ。

●むむむ…今回のインタビューはシノヤマさんのパーソナリティを紐解いていく必要がありそうですね。

キクチ:シノヤマは天然なところがあるっていうか、自分でもあまりわかってないんです。

フセ:自分がやっていることを把握しきれてないんでしょうね。

●意図的にショッキングな表現をしようとは思っていないというか、確信犯ではないということ?

キクチ:そうですね。自分が思ったことを出してみたら自然にそういう歌詞になったんじゃないでしょうか。

フセ:出てきちゃうものが、もう自然とそういう方向に向かってしまう(笑)。

●プロフィールによると、Suck a Stew Dryは何もしていなかったシノヤマさんをキクチさんが誘ったことがきっかけで結成したとのことですけど。

シノヤマ:大学には行ってたんですよ。軽音楽部に所属して。

キクチ:ウチのメンバーはその軽音楽部で知り合ったんですけど、僕は普通にバンドとかやっていたんです。で、シノヤマは1人でいっぱい曲を作ってて「聴いてくださいよ」って持ってくるんです。

●宅録みたいな感じで?

キクチ:そうそう。で、「いい曲できたんですよ~」「聴いてくださいよ~」ってうるさいんで「じゃあもうバンドやろうよ」って。いいかげんめんどくさくて(笑)。

●それがきっかけなのか(笑)。シノヤマさんはバンドをやっていなかったんですか?

シノヤマ:やってませんでした。でも曲は中1のころから作っていて。でも別に音楽でがんばろうという気も特になくて、就活をしていたんですけど、うまくいかずに就職が決まらなくて「まあいいや」って。

●キクチさんはシノヤマさんの曲に何か感じるものがあったんですか?

キクチ:うーん………。

●え?

キクチ:うーん…、そこまでピンとはきてなかったですね。でも、とにかく曲がいっぱいあるんですよ。

フセ:シノヤマは曲を作るペースが速いんだよね。

キクチ:ふざけた曲から真面目な曲までいっぱいあって。大学の軽音楽部は、練習室とは別に部室もあって、部室は防音とかになっていないんですけどシノヤマが大きい声で1人で歌ってたりしてうるさいんですよ。だから曲云々以前に、とにかく発散させてやれる場所を作ってあげないとなって。

シノヤマ:そういう理由だったのか…。

●ハハハハ(笑)。シノヤマさんはなぜ曲を作るようになったんですか?

シノヤマ:昔の携帯って、着メロを作る機能が付いてたじゃないですか。あれが楽しくて、メロディを自分で作って遊んでいたんです。で、家にパソコンもちょうどあったから、「パソコンにもそういうソフトあるんじゃねぇかな」って色々と探して、そこから打ち込みを始めたんです。最初はコピーというか、有名な曲を打ち込んだりして遊んでいたんですけど、そのウチに自分でも作ってみようかなという気になって。で、やってみたらどっぷりハマっちゃったんです。

●作曲という作業自体が楽しかった?

シノヤマ:そうですね。ゲームをやるような感覚というか。1曲作ったあとの達成感みたいなものが好きで、毎日1曲ずつ作ってたんです。

●中1からゲーム感覚で曲を作り始めて、一応軽音楽部には入ったけどバンドも組まず、就職をしようと思っていたけど挫折した。要するに音楽に思い入れがあったわけでも、音楽の道でやっていこうと思っていたわけでもないんですよね? でもSuck a Stew Dryは今も続いていて、今回デビューCDをリリースすることになった。Suck a Stew Dryを始めて、シノヤマさんの中で何かが変わったんでしょうか?

シノヤマ:というか、何もなければ、もしかしたら今もフワッとやっていたかもしれないです。

●え?

キクチ:色々とご縁に恵まれまして、オーディションで賞をもらったり、ライブハウスからお誘いを受けたりしたことが今に繋がっていて。

シノヤマ:僕ら結成は2009年なんですけど、初ライブが2010年5月なんですよ。オーディションに送ったのは結成してすぐのころで、どうやって活動していこうとか何も決めてなかったから勝手に送っても別にいいかなと。賞金20万円とか書いてあったし。

●動機が不純ですね。あ、でもM-2「Proletarier」で"お金があったら良いのになぁ"と歌っているし、Suck a Stew Dryにとっては普通のことか。

一同:(笑)。

シノヤマ:最初は友達同士で遊んでいるだけみたいな感覚だったんです。で、MySpaceとかに曲をアップしていたらライブハウスから「出演しませんか?」っていうお誘いのメールが来て、それでやったのが新宿MARZでの初ライブだったんです。それまで新宿MARZには行ったこともなかったんですけど。

●そこでライブの魅力を知った?

シノヤマ:うーん、でも「やるぞー!」っていう感じにはなりませんでした。普通にやって、普通に楽しかったねっていう中身のない感じ。で、ライブが終わったらライブハウスの人から「次はいつやりましょうか?」って声を掛けられて。その2回目のライブで今のレーベルの人に出会ったんですけど、そこからはバンドのことを色々考えるようになりました。そもそも僕はバンドをどう動かすべきかとか何も知らなくて、下北沢なんて行ったことすらなかったんです。だからバンド経験のある他のメンバーと相談しながら、1つ1つ活動を重ねてきたっていう感じなんです。

●それが今回の1stミニアルバム『人間遊び』に繋がるんですね。サウンド的にはキャッチーなメロディと細やかなアレンジで構成されていて、曲によっては情景が見えたり、また曲によってはすごく爽やかな雰囲気を持っていたりして。どの曲も完成度が高いというか、練り込んで作ったという印象があるんです。

キクチ:はい。

●そこにシノヤマさんの特徴的な歌詞を乗せたときのコントラストというかギャップ感がSuck a Stew Dryの個性になっていると感じたんですけど、メロディと歌詞はリンクしているんですか?

シノヤマ:してないですね。最近は弾き語りでメロディから作ったり、歌詞を先に作ったり、バンドのアンサンブルを考えながら作るときもあって、色んな作り方をしているんです。でも、意味合い的にメロディと歌詞はリンクさせていないです。もちろん言葉の響きとか譜割りは意識していますけど。

●最初に「人間遊び」の歌詞がひどいという話をしましたけど(笑)、シノヤマさんの歌詞は誰しもが思っていたりするけれどなかなか歌にしないようなことを綴っていますよね。「人間遊び」もそうだし、M-1「二時二分」では音楽活動自体に対することを歌っていたり、M-3「Payment」では"働かなくちゃ生きていけないな"とボヤいている。どういう感覚で歌詞を書いているんですか?

シノヤマ:思ったことをそのまま書いてるというか、ちょっとムカつくなと思ったことを詰め込んでいる感じですね。それを見た人にどう思われようが全然構わない。

●どう思われたっていいんですか。

シノヤマ:はい。もともと僕はそういうところがあるんですよ。普段の言動も、人から嫌われるようなことを結構言っていたりして。でも、思っていたほど人から嫌われたりはしない気がしていて。まあ嫌われても別にいいし。

●こうやってシノヤマさんと話していると、別に人生を諦めてるとか、すべてに絶望しているというような感じもしないんですよね。会うまではもっとギスギスした人柄を想像していたんですけど。

キクチ:きっと嘘をつきたくてもつけないタイプの人間なんですよ。だから歌詞のまんまというか。普段もこんな感じだし、ひどいことを言っててもそこに嘘はないんですよね。

●トゲはあるかもしれないけど、誠意があると。

キクチ:そうそう。人が嫌いなわけでもないし。

●さっき「歌詞はちょっとムカつくなと思ったことを詰め込んでいる」と言ってましたけど、生きていて疑問に思ったり腹が立ったりすることが多いんですか?

シノヤマ:たぶん多い方だと思います。

●自分の周りの色んなムカつくこと…それをシノヤマさんはどう処理してるんですか?

シノヤマ:「こいつムカつくから曲にしてやろう」って。

●そういうことか(笑)。

シノヤマ:それでムカつくことが無くなるわけじゃないんですけどね。

●でもガス抜きにはなっていますよね?

シノヤマ:確かにそうですね。ストレス解消にはなってるかな。言われて気づいたんですけど、強いて言えば自分の感情の中でエネルギーの高いものが歌詞になってるような気がします。僕は普段、人間としてのエネルギーがかなり低いと思うんですよ。でも曲を書いているときはそうじゃないんです。客観的に自分を見てそう思います。

interview:Takeshi.Yamanaka

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