音楽メディア・フリーマガジン

the hills

心を揺らすビート 記憶に刻まれる音 胸を焦がす言葉

PHOTO_thehills一聴すれば記憶に突き刺さるメロディと中毒性の高いアレンジセンス、クラウドを踊らせるダンサブルなビートと胸に焼き付く強烈なリフを武器に、2012年10月にシングル『DROP』をリリースしたthe hills。レコ発ツアー“ここだけの秘密ツアー2012~2013”も大成功させた“踊るロック”の旗手である彼らが、待望の新作『ロストインザヤムヤムエクスペリエンス』を7/17にリリースした。今作は、聴く者の心に作用するダンサブルなビート、記憶の引き出しの中からリアルな感情を思い起こさせるメロディと音像など、彼らでしか成し得ない美しさに溢れている。8/4からのツアーを控える小柳と渋谷に話を聞いた。

 

●昨年10月にシングル『DROP』をリリースして、ツアーファイナルのワンマンは大盛況(2013/2/9@新潟CLUB RIVERST)だったらしいですね。

小柳:あの日が初ワンマンだったんですけど、盛り上がってよかったです。

●あ、初ワンマンだったんですね。今から振り返ってみるとどうでしたか?

小柳:今までのお客さんに楽しんでもらえるようなライブではあったんですけど、今のライブの方が3倍くらい良くなっていると思います。

●ここ半年くらいでライブが成長していると。

小柳:シングル『DROP』のツアーは全国15箇所だったんですけど、あのツアーの経験が大きくて。ツアー途中で心が折れたんです。

●え? 心が折れた?

小柳:まだまだ僕らのことを知らない人たちばかりで、初めて行く場所も多かったんです。

渋谷:僕らはそれまで、県外でライブすることがほとんどなくて。

小柳:地元の新潟以外だと東京くらいで。だからツアーをやっていて、地方でのライブを重ねるごとに自分たちの気持ちもだんだん落ちていったというか。

●要するにアウェーの洗礼を受けたと。

渋谷:そういうのがツアーの前半だったんです。で、真ん中くらいでやっと気持ちを切り替えることができたというか、知らないところに行って知らないお客さんとどうやったらコミュニケーションが取れるのかっていうのがちょっと見えてきて。

●うんうん。

渋谷:そこからライブが変わったんですよね。それは自分たちでも自覚があって。

●ツアーの経験がメンタル面を鍛えたと。

小柳:メンタル面が大きいですね。今まで如何に甘かったかということも痛感したし、CDを出したのにそれを積極的に広めようとも思っていなかったというか、わかっていなかった。以前は僕らが演奏して「聴けよ」っていう感じだったのが、今は「フロアの隅まで一緒に楽しもう」という意識に変わったというか。

●話し合ったりしているんですか?

小柳:そうですね。スタジオの後やライブの後、映像を観ながら「ああした方がいい」「こうした方がいい」と話し合ったり。以前と比べて自分たちのライブを客観的に観るようになりました。

渋谷:ライブに対する目的意識が全然変わりましたね。今までは曲を演奏して、反応する人はするし、市内人はしないっていう感覚だったんです。でもそれだと、初めて行ったところとかだと何も起きないんですよね。でも僕らは何かを起こしに行ってるわけだから「もっとできることあるじゃん」って。

●それが今のライブに繋がっていると。今回1stミニアルバム『ロストインザヤムヤムエクスペリエンス』はいつ頃作り始めたんですか?

渋谷:M-1「裸のダンス」はツアーで既にやっていました。

小柳:ファイナルのワンマンに向けて「ノリのいい曲を作ろう」と思って作ったんです。だから作り始めたのは去年の秋くらいからですね。

●今作は、最近のthe hillsのライブから感じることでもあるんですが、歌やメロディだけではなくて、リフやビート、グルーヴなど曲を構成する要素全部が、聴く人を巻き込んでいく力があると思ったんです。それはきっと、さっき言っていたようなツアーでの経験が形になっていると思うんです。

渋谷:そうですね。

●そこに加えて、前作からも感じた“青さ”や“哀愁感”、夕暮れみたいなニュアンスを強く感じるというか。今作は6曲収録ですけど、曲を聴き進めるにしたがってその哀愁感は強くなっていくんです。

2人:うんうん。

●それでハッとしたんですけど、M-1「限りなく透明に近いオレンジ」には“オレンジ”という言葉が入っていて、M-4「パープルなピープル」には“パープル”、そして再録のM-6「ビデオガール[gunjo yum yum ver.]」は“群青”と銘打ったバージョン…1枚で、夕方から夜にかけての情景が表現されている。

渋谷:そうなんですよ。僕も聴いてて自分でそう思いました。歌詞もそんな感じなんですよ。「限りなく透明に近いオレンジ」は夕暮れっぽいし、「裸のダンス」は夜だし。

●うんうん。

渋谷:夕暮れから夜になっていく感じはありますね。意識して作ったわけではないんですけど。

●あ、意識したわけではないんですね。

小柳:前作収録の「コースのないレース」は“自分たちがもっていない部分を出そう”という意識で作った曲なので、ポップなんですよね。メジャーな感じのコードも使っていて。

●はい。

小柳:で、今作を作るとき「もうちょっと叙情的な部分が本来の自分たちのルーツじゃないか」という話があって。だからコード感を叙情的にしようというコンセプトで作った作品だったんです。

渋谷:「コースのないレース」は自分たちの幅を拡げるために思いっ切りやってみたんですね。それをやってみて、今回は前作も踏まえて自分たちのよりリアリティがあるものを作ったというか。その結果、哀愁感というか夕暮れな感じが色濃く出たんです。

●なるほど。“哀愁感”はどの曲にも出ていると思うんですが、メロディだけじゃなくてリフもコードもアレンジもそうなっていると思うんです。

小柳:癖っていうか、やっぱりそういう音楽が好きなんですよね。洋楽とかもアゲアゲのものよりも、切ないものが好きだったりするし、それは4人に共通している部分でもあるし。そっちの方が作っていてしっくりくるんです。僕はコード進行とかあまりわからないから感覚的にやってるんですけど、しっくりくるのはやっぱり叙情的なものなんですよね。

渋谷:歌詞にしてもメロディにしても、明るいコードよりも暗いコードにしたときの方が胸にぐっとくる感覚があるんですよね。ただポジティブなメッセージはあまりリアリティがないと思っているんですよ。ポップスとか聴いて「そんなにポジティブに考えられるわけないじゃん」と思うし。

●うんうん。

渋谷:逆にネガティブだったり後ろ向きだったりする方が、そこにリアリティを感じることができるんです。だからthe hillsの音楽はこういう感じになるんだと思います。

●でも哀愁感を出し過ぎると、ライブでの即効性が削がれる可能性が大きくなりますよね。the hillsはダンサブルな要素も強いですけど、その両面性を持っていると思うんです。

渋谷:今作ではやっぱり「裸のダンス」が突き刺さりやすくていちばんキャッチーだと自分たちでも思うんですけど、やっぱりライブでの反応が違うんですよね。知らない人の反応がいい。

●うんうん。

渋谷:曲で表現しようとするリアリティと、ライブで表現しようとする一体感みたいなものは、極論ですけど別物として考えているんです。ライブで歌詞を全部聴き取ることはなかなか難しいじゃないですか。ライブに於いて最も大事なのは、熱量がフロアに届くかどうかというか。

●うん。確かに。

小柳:ツアーファイナルはアルカラとの2マンだったんですけど、アルカラはそのバランスがすごいと思ったんです。持っていき方もすごく上手いし。その影響も大きいと思います。

●「裸のダンス」はリード曲にもなっていますけど、この曲は自分たちの新境地みたいな感覚なんですか?

渋谷:新境地というより、自分たちが作りそうなのに今まで作っていなかったものというか。それは周りからも言われたんですよ。「これが聴きたかった」って(笑)。確かになと思って。

小柳:自分たち的にはそんなに新しくもなく、狙った感もそんなになかったんです。でもライブでやったときの反応が良くて、それが僕の中では意外だったんです。

●はい。

小柳:でもよく考えたら、サビのメロディと言葉が一緒に入ってくる感じとかは最近のthe hillsにはなかったなと。そういう面ではキャッチーな曲なのかな。

●自分たちのツボも押さえつつ、ツアーで培ったライブ感も備えているんでしょうね。

渋谷:きっかけは“暗いダンスの曲を作ろう”と思ってリフを弾いてたんですけど、そしたらそこでサビのメロディが出てきて。“あ、これはいいんじゃないかな”と。

●なるほど。個人的に今作の中でツボなのはM-5「サマータイムヤムヤムエクスペリエンス」なんです。すごくいいメロディだと思うんですけど、メロディだけじゃなくて音の1粒1粒もぐっとくるというか。この曲の中間色な感じがなんとも言えない。切ないんだけど、心が震える感じもする。

小柳:僕はこの曲の歌詞が好きなんです。the hillsでは渋谷と坂上が作詞作曲をするんですけど、この曲は渋谷が書いてきた歌詞で。

●はい。

小柳:歌詞をもらって歌うとき、僕は共感する部分を探すんです。で、この曲はデモの段階で聴いたときにうるっとしてしまって。個人的な話なんですけど、僕は前作から今作までの間に結婚して子供もできたんですよ。

渋谷:ツアー中に結婚して子供もできたんです。

●マジかよ。

小柳:結婚式の2日後にまたツアーに出たんですけど、今作のレコーディングの最中に子供が産まれたんです。

●要するにできちゃった婚ですね。

小柳:「サマータイムヤムヤムエクスペリエンス」の歌詞に“単純に繕った道それて歩いていっても/もう少し愚かなままのそれも笑って許してくれるかい?”とあるんですけど、そこがなんかすごく自分に当てはまって聴こえたというか。

渋谷:バンドマンは愚かな道を進むことですからね(笑)。

●ハハハ(笑)。そういうことか(笑)。

小柳:結婚して子供も産まれたけど好きなことを続けている自分に当てはまって、更にサビの抜ける感じとかが自分の心境に重なったんです。それでまさかの、自分たちの曲でうるっとしてしまうという。だから個人的にも想い入れの強い曲になりました(照)。

●いい話だ(笑)。

渋谷:いい話だ(笑)。

小柳:初めてこんな話したんですけど、歌っててぐっときます。

interview:Takeshi.Yamanaka

  • new_umbro
  • banner-umbloi•ÒW—pj