音楽メディア・フリーマガジン

the hills

青さを孕んだ音像をキレのあるメロディとキャッチーなアレンジで塗りつぶす

新潟県三条市で結成、USインディーシーンやオルタナティブロックから影響を受けつつ、様々な音楽的要素とバンド的経験値で動的な進化を遂げたthe hills。一聴すれば記憶に突き刺さるメロディと中毒性の高いアレンジセンス、クラウドを踊らせるダンサブルなビート。2人のソングライターから生まれた青さを孕む音像は、4人のアイディアとセンスによって抜群の貫通力を持つロックへと変貌する。10/17にリリースされるシングル『DROP』は、そんな彼らの現在と未来を結ぶ3曲を収録。一度聴いたらクセになるthe hillsサウンド、必聴です。

「“お客さんともっとコミュニケーションしたいな”と思ったとき、単に自己満足的な曲ばかり作っていてもダメだし、間口の広い曲を作りたかった」

●2004年に地元新潟県三条市で結成とのことでキャリアは結構長いですが、今回が初の全国流通音源なんですよね。色々と紆余曲折があったんでしょうか。

小柳:2004年が初めてのライブだったんですけど、新潟のライブハウスに結構可愛がられまして。2回くらいライブをやったときにART-SCHOOLとかフジファブリック、ILLとか憧れの人たちと対バンさせていただいたりして。そういう経験はあったんですけど、きっとバンド力が伴っていなかったんでしょうね。

●バンド力が伴っていなかったというと?

小柳:実は過去に事務所にお世話になったり、メジャーのレコード会社の人から声がかかったりしたことがあったんです。そこで、僕らは自分たちのペースで曲を作ったりしていたんですけど、大人たちの期待に応えられなかったというか。CDリリースまでには至らなくて。

●ふむふむ。

小柳:そこで“これからどうしよう?”となったのが去年くらいだったんです。で、今年新潟LOTSでやっている大きなイベントのトリを任せていただいたんですけど、そのイベントにwinnieが出ていて、winnieの所属レーベルであるEVOL RECORDSの人とご挨拶して。いい感じでお話をさせていただいたんです。

●でも、そろそろ音楽業界での人間不信になってる時期ですよね(笑)。

小柳:そうそう(笑)。“「出す」と言っても社交辞令だろうな”と内心思っていて。そしたら次の週の東京のライブにも観に来てくれて、そこでも色々と話をして。その結果、「一緒にやろう」ということで今作に至ります。

●なるほど。

小柳:ここまで8年かかったんですけど、今から考えてみると、結成当初からいい対バンに恵まれたし、ツアーバンドのオープニングアクトなんかをよくやらせてもらったりして、“俺たちはいい音楽やってるんだ!”って、ちょっと自信みたいなものがあったんですよね。

●それが井の中の蛙みたいな感じになっていたと。

小柳:そうそう。だからライブで東京に来ても気づかないわけですよ。客観的に自分たちを見れてないから、他のバンドを観ても“いや、俺らの方が楽曲かっこいいし…”と思っていて。でもだんだんと活動を続けていくうちに、他のバンドとの差がすごくわかるようになって。

●というと?

小柳:自分たちに足りないところが見えてきたというか。でもそれは最近のことなんです。以前のライブは「俺らの楽曲聴けよ」みたいな感じで、ライブというより演奏をやって帰るだけ、みたいな感じだった。

●最近気づいたというのは、何かきっかけがあったんですか?

小柳:対バンとかのすごく盛り上がっているライブを観るようになったからですね。以前は対バンのライブもあまり観なかったというか、興味がなかったというか。4人ともそんな感じだったと思うんです。

渋谷:最初の頃はそうでしたね。洋楽ばかり聴いてて日本のバンドをあまり聴いてなかったんです。だから対バンしたとき、なんか勝手に洋楽との差を感じて落胆しちゃって。“日本はいい音楽がないな”と思っちゃっていたんです。

梅津:だから、最初の頃は打ち上げもあまり出てなかったよね。

渋谷:そうだね。

小柳:他のバンドとの関わり方もよくわかっていなくて。ツアーバンドとかも、地元バンドにはあまり興味を示さない人が多いと勝手に思っていたし。だから拡がっていかなかったんです。

●そういう考えだったけど、色々と苦労して経験を重ね、視野が拡がったと。

小柳:そうですね。“必死になってやらないと俺らもう終わりだな”みたいな危機感もあって。ここに来て“負けたくない”という気持ちが強くなってきたんです。だから“あのバンドはあんなにお客さんを盛り上げてるのに、なぜ俺たちは盛り上げられないんだろう? 何が違うんだろう?”ってすごく考えるようになったし、メンバーともすごく話し合いするようになりました。

●なるほど。

小柳:それに、うちのソングライターは渋谷と坂上なんですけど、特に渋谷は、昔はこだわりが強いタイプだったんです。でも最近はキャッチーなものもどんどん積極的に作るようになって、それで音楽も変わってきて、バンドが上手くまわるようになった感じもある。

渋谷:昔はポストパンクとかニューウェーブとか暗い音楽とかが好きだったんですよ。でも年を重ねて、だんだん明るい音楽を聴きたくなったし、作りたくなったんです。

●ほう。

渋谷:昔からポップなものも聴くのは好きだったんですけど、自分が作るものは暗い曲が多くて。でも最近は“わかりやすく伝えるにはどうしたらいいか?”と考えるようになりました。“お客さんともっとコミュニケーションしたいな”と思ったとき、単に自己満足的な曲ばかり作っていてもダメだし、間口の広い曲も作りたかった。

●曲は渋谷くんと坂上くんの2人が作るということですが、どんな感じで作ってくるんですか?

坂上:曲によりますね。全部作ってくることもありますし、アイディアだけ持ってきて4人で合わせて作ることもあります。僕はドラムですけど、曲はギターを弾きながら作るんです。WeezerとかNUMBER GIRLが好きだったので、最初の頃はちょっとトゲトゲしててエモかったり、暗い感じの曲が多かったですね。でも、コードとか弾けないくせに自分の中のイメージは強いので、それをメンバーに伝えるときに衝突したりまとまらなかったりすることも多くて。

●渋谷くんは?

渋谷:鼻歌でメロディを作って、そこにコードを当ててという感じですね。あとはリズムから作る場合もあって、それをスタジオでメンバーに伝えてアレンジしていきます。

●今回リリースするシングル『DROP』を聴かせていただいたんですけど、各パートの個性が強いと思ったんです。もちろん歌が中心にあるんですが、メンバー全員が作曲に対するモチベーションの高いバンドなのかなと想像したんですが。

小柳:以前は個々のアレンジに対して他のメンバーが口を出すことがあまりなく、各人が好き勝手にやっていたんですよ。昔、地元の知り合いに「the hillsはメンバー全員が主役になれるバンドだよね」と言われたことがあったんですけど…。

渋谷:でも今から考えたらまとまっていなかったんだよね。それぞれがバラバラに主張していた。

小柳:うん。

渋谷:だから最近の曲…今作の曲なんかは、完成像のイメージを4人全員が共有して、手数が多かったら「それは削ろう」という感じで話し合いながら完成させたんです。

●今作の3曲、M-1「コースのないレース」とM-2「シロップ」、M-3「時を駆ける少女」はどういう風に選んだんですか?

渋谷:「シロップ」が新曲で、あとの2曲はライブの定番曲です。だから“the hills入門編”という感じで選びました。

●どの曲もキャッチーな要素を持ちつつ、その要素1つ1つは非常に中毒性が高くて。それは、さっきおっしゃっていた“各メンバーの主張”がいい方向に働いていると感じるんです。

小柳:そうかもしれないです。僕らはもともと洋楽志向が強くてやや暗い音楽を好んでいましたけど、結局みんなポップなものが好きなんですよ。作曲作業でそういう話し合いをしたことがあって。

渋谷:その話し合いがあってこその今の形だよね。

小柳:うん。それこそ「時を駆ける少女」は4年くらい前からライブでやっている曲なんですけど、収録するにあたってアレンジを変えてシンプルな方向にまとめたんです。当時はもっとゴチャゴチャしていたというか、ブロック・パーティが好きでそれっぽいリフを入れたりとかしていたんです。

●あと、これは意識しているかどうかわからないんですけど、この3曲を聴いておもしろい共通点というか匂いを感じて。それは切なさというか、哀愁というか青春というか…青くささがどの曲にも漂っている。

4人:ああ〜、確かに。

●どのパーツがという話ではなく楽曲全体から漂ってくるんです。夕暮れ感みたいなもの。

渋谷:夕暮れのような哀愁や孤独感はありますね。僕は「コースのないレース」と「シロップ」を作って、今僕らは28歳なんですけど、それくらいの年になると周りで結婚する奴とか出てきたりして。でもこっちは相変わらずバンドで音楽やったりしていて。やっぱりそういう年を重ねて別々の人生を歩んでいる悲しさがあるんですよね(笑)。

●わかるわかる。

渋谷:だから曲を作るとき“20歳の小僧には出せない雰囲気を出したいな”とちょっと意識した感じはあります。爽やかでもなく、かと言ってただ悲しいだけではない…喜怒哀楽だけでは表現できないような感情とかそういうものを音と言葉とリズムで表現したい。

●そうですね。坂上くんはそういう自覚あります?

坂上:「時を駆ける少女」はタイトルを見ればすぐにおわかりだと思うんですが、アニメ版『時をかける少女』を観て、インスピレーションを受けたんです。

●アニメ版なんてあるのか…。

小柳:坂上は“喪失感”が楽曲のメインになる傾向が強くて。

●それは何か理由があるんですか?

坂上:その頃は…実は高校のときに別れた彼女をずーっと引きずっていて。精神的にもトゲトゲしていた時期だったんです。

●え? 「時を駆ける少女」は4年前からやっている…24歳のときに作ったことを考えれば、高校のときに別れた彼女を6年ほど引きずっていたということ?

坂上:そうですね(笑)。周りには「吹っ切れた」と言っていたんですけど、そのときにこういう曲ができたことを後々考えれば…やっぱり引きずっていたのかもしれない。

●というか、「アニメ版『時をかける少女』からインスピレーションを受けた」と言いつつ、実は自分の物悲しい実体験を描写しているじゃないですか。

坂上:あっ、そうか。そういうことか!

●『時をかける少女』のせいにして自分の本心を隠しているだけなんだよ!

坂上:してました!

一同:(爆笑)。

小柳:でも坂上が表現する“喪失感”は、バンドとしてすごく評価されている部分でもあるんです。そういう雰囲気を好きな人ってやっぱり多いじゃないですか。

●それがもうバンドの個性になっているんでしょうね。

小柳:そうですね。以前はそういった色が強かったんですけど、最近はさっき言ったようにポップでキャッチーな色が徐々に強くなってきていて。だから今作はバンドが変わっている過程のような作品というか。もちろん暗い曲も好きだし、そういう曲を聴いたりもするんです。だから次にアルバムを作るとしたら、その辺はバランスよく表現していきたいですね。the hillsというバンドが持つ色んな側面を出していければいいなと思います。

渋谷:そうだね。昔よりもメンバーがまとまって、バンドとしてはポップかつシンプルになってきているんですけど、シンプルなだけではダメだとも思うんですよね。だからシンプルでもよく聴くと色んな音やリズムが入っている、そんな遊び心を持った楽曲を作っていきたいです。だから目指すところは普遍的でシンプルだけれど、そこに自分たちの個性を混ぜ込んだもの。それは薄っぺらいものじゃなくて立体的なテクスチュアをもったもの、そういうものをつくりたいです。

interview:Takeshi.Yamanaka

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