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urema

美しき崇拝が生み出す哲学的音楽が内なる感情を呼び覚ます

関西を中心に活動する、平均22歳のダウナー系オルタナ・スリーピースバンド、urema(ウレマ)。彼らにとって初の全国流通盤となる『carpe somnium』は、“夢”をテーマにしたコンセプトアルバムだ。様々な作品に触れ磨かれたVo./G.長江の世界観は、聴く者を深沼へと誘うような、不思議な引力を持っている。美しき崇拝が生み出す哲学的音楽に触れた時、あなたの内に眠る感情が目を覚ます。

 

 

●今作『carpe somnium』は、ラテン語で『夢を摘め』という意味ですが…。

長江:今回のリリースが決まった時期に出来た曲には、偶然にも全て“夢”という言葉が入っていたんですよ。“夢をテーマにしたアルバムを作りたい”というのは前作を作った時点から思っていたし、コンセプトアルバム以外は作る気がなかったので“これは形にするしかない”と思いました。

●偶然だったんですね。

長江:しかもよくよく歌詞を読んでみると、それぞれの曲が無意識の内にすごくリンクしているなと思ったので、作品を総括する意味を込めてタイトルをつけました。この曲順にしたのにも意味があるんですよ。

●というと?

長江:2曲目で死んで、3曲目で外から他人を見て、4曲目で崇拝に触れ、5曲目で過去の自分を回想し、6曲目でループし、1曲目で生まれ変わる。2曲目以降の歌詞が俯瞰になっているのはそういう理由で、この流れじゃなかったら成立しなかったと思います。歌詞カードには曲にリンクしたイラストも載せていて、ジャケットを含めたトータルで“永劫回帰”を感じさせるアルバムになっていますね。あと、全曲に“夢”という言葉が入っているけど、それぞれまったく違った意味合いを持ってるんですよ。

●例えば?

長江:M-2「さむいさむいこおりのなか」に出てくる“夢”は、自分がすがっているもの。M-3「ナイチンゲールとばらの花」は、無自覚さゆえに持つ夢。人と手を繋ぎたいとか、そういったチープなものですね。M-4「ハッピーエンド」の場合は救済されるという“夢”で、M-5「ピアノのある部屋」は自分自身で作った時間の流れない場所のこと。M-6「永遠の森」の夢は2曲目と結構似ているかな? この作品で表現しているものは、夢の世界の視点なんですよ。全て自分の内面の出来事。

●本当にコンセプチュアルですね。リードトラックは「さむいさむいこおりのなか」なわけですが。

長江:これは“認識の崩壊”をテーマに作った曲です。エドワード・ゴーリーの『ギャシュリークラムのちびっ子たち―または遠出のあとで』がモチーフなんですが、その本は子どもたちがアルファベット順に死んでいくという内容なんです。その中でWにあたるウィニーが“さむいさむいこおりのなか”で死んでしまうシーンが、すごく悲惨やなと思って。

●誰にも知られずに死んでいく、ということでしょうか?

長江:そこから感じた潜在的な恐怖を表現しています。この曲のMVで手を伸ばしてもう片方の手を確認するように触って、最後に引き離されていくというカットがあるんですけど、この曲はそのシーンに表されているなと思って。“認識すること”が出来なくなった片方の手はもう一方の手に触れることで“ここに手がある”という認識を取り戻して、やっと安心感を得られそうだった時に手が離れて“何も認識できない”世界に戻ってしまう…。直接的な言葉はないですけど、誰もいないところから伸びる手のような“寂しさ”が溢れた悲惨な曲ですね。

●なるほど。この曲は“認識の崩壊”をテーマに書いたとおっしゃいましたが、曲ごとにテーマがあるんですか?

長江:例えば「ナイチンゲールとばらの花」は、オスカー・ワイルド作の同名小説を背景に“大衆の無自覚さと残酷さ”を表現しています。「ハッピーエンド」は“崇拝と理念の葛藤”、「ピアノのある部屋」は“美しき過去の回想”、そして「永遠の森」は“永劫回帰”。どの曲にも何かしらテーマがありますね。

●あれ? M-1「iii」は?

長江:「iii」は僕らの曲ではなく、友達の音楽家が贈ってくれた曲なんですよ。この曲は僕の中で細胞の繋がりというイメージがあって、それが今作を表現する上でかかせないキーワードになるので使わせて頂きました。1曲目に持ってくることでアルバムが完成されたループになったし、出会うべくして出会ったのかなと。

●運命的な出会いだったと。長江さんの曲は体験した事実をそのまま言葉にするんじゃなくて、ご自身の思想というフィルターを通した表現になっていますよね。

長江:僕自身、自分の作品によって感化されたり影響されたりすることが必ずあると思っていて。僕の曲は何かに対する崇拝から生まれるんですが、同時に自分の表現を崇拝したいというか、曲に導かれたいという気持ちがあるんです。例えば、ただそこにある物を模写した絵であっても、人によっていろんな解釈ができるし、そこに大きな力が生まれることがある。僕らの演奏によっても、それまで考えもしなかったようなことを感じ取るきっかけになるかもしれない。

●高橋さんや芦原さんは、長江さんの歌詞からどんなことを感じますか?

高橋:歌詞はいつもレコーディング直前まで見せてくれないんですよね…。

●じゃあ、レコーディング後に初めて見た?

芦原:録ってからもまだ見ていないですね。正直、見たところで難解過ぎてあんまり理解できない(笑)。

●ハハハ(笑)。完成度の高い作品だけに、この曲たちがライブでどう表現されるのかが気になります。

長江:テンションが上がって来ると、本来叫ばないところでも勝手に叫んでます(笑)。あと普通のギターロックじゃ聴けないような音が聴けますよ。高橋はダメ出し番長なので、アレンジ面でもすごく貢献してくれていて。

高橋:今までのフロントマンには嫌がられたんですけどね(笑)。ソロプロジェクトじゃなくてあくまでバンドなので、ただ追従するのは嫌だなと思っていて。

●そういう考え方もバンドにとってプラスに働いていると。今作が初の全国流通盤になるわけですが。

長江:この作品が店頭に並んでいるのを見た時に、誰もいないところから伸びている手のようなものを感じて泣きたくなりましたね。このCDがすごく寂しそうに店頭に並んでいるように見えて、「さむいさむいこおりのなか」で表現されているような“寂しさ”が感じられたんです。

●このアルバムに込めた想いがにじみ出ていたんでしょうね。

長江:そうですね。やっぱりリード曲あってのアルバムだし、僕らのことを全然知らない人たちがその“寂しさ”を感じて手に取ってくれたら嬉しいですね。誰かにとって、この作品が無意識のうちに眠っている感情を呼び覚ますものであって欲しいと思います。

Interview:森下恭子

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