音楽メディア・フリーマガジン

あずままどか

その歌は彼女のすべてであり、誰かが一歩を踏み出すきっかけとなる

鹿児島県徳之島生まれの神戸育ち、2002年より活動を始めたあずままどか。数年前からライブにループマシンを導入し、アコギとループマシンという形態で紡がれるその歌には、音楽に対する想い、自らを支えてくれたたくさんの人への感謝、そして故郷への愛が溢れている。そんな彼女が11/7に満を持して1stフルアルバム『I round』をリリース。「何かを伝えようと思ったとき、しゃべるよりも歌っている方が伝えやすい」と言うその感性にぜひ触れてみてほしい。

「作って、歌って。同じように思っている人が、私の歌を聴いて癒されていくじゃないですか。それを見て自分も癒されていく」

●今作『I round』を聴かせていただいて、あずまさんが音楽にかける想いというか、あずまさんなりの音楽との向き合い方や、あずまさんにとっての音楽、その想いの強さとか深さとかがものすごく伝わってきたんです。あずまさんが音楽を始めたきっかけは何だったんですか?

あずま:中高一貫の学校に行っていたんですが、中学生のときに文化祭で高校の先輩のライブを観て、“かっこいい!”と思って軽音楽部に入ったんです。友達と入部届を出しに行って「パートは何をやりたい?」と訊かれて、友達は「ギターがやりたい」と言っていたんですけど、私は全然決めていなくて「じゃあボーカル」と言っちゃったのがきっかけです。それまでは“人前で歌うなんてとんでもない!”という感じだったんですけど。

●音楽に想い入れがあったというわけではないんですね。

あずま:全然なくて、“なんだかかっこいいからやってみよう”と思っただけです。

●でもその後ハマったから今も音楽をやっているわけですよね?

あずま:そうですね。やり始めたら楽しくなってきて、先輩が引退する文化祭のときにステージに立って“これだ!”って思ったんですよね。その日の打ち上げでみんなに「私は歌手になります」と言っていました(笑)。

●早いな(笑)。

あずま:私は本来すごく考えちゃう性格なんです。しかも、考えれば考えるほど悪い方にいっちゃう。でも“こうだ!”と思えば突き進むところもあって。ステージに立つ前にも片鱗みたいなものはあったんですよ。友達にピアノを弾いてもらって、音楽室とかで歌の練習をしているときに、ハッと気が付いたら周りに人が集まって聴いてくれていたんです。そのとき、注目されることが気持ちいいというわけではなくて、“歌を歌えば寂しくない”と思ったんです。

●“寂しい”という想いが常にあったということ?

あずま:きっと心のどこかにあったんでしょうね。別に友達がまったくいなかったわけじゃないんですけど、中学生で軽くいじめに遭うこともあったので、少し傷付いた部分も抱えつつ、“人間なんて…”と思っていた部分があったんだと思います。それが“歌を歌えば見てくれるんだ”と気付いたんですよ。それで文化祭でいざステージに立ったときに…。

●“めっちゃ寂しくないぞ”と。

あずま:“これだ!”と。別に好奇の目で見られたいわけじゃないし、「すごい!」って言われたいわけでもなくて。

●その感覚は今でもありますか?

あずま:あります。別に傷付いたことを引きずってもいないし、“周りの人から大事にされているなあ”といつも思うので、普段から寂しいわけではないですけど(笑)。でも生きていたらいろんなことがあるじゃないですか。そこでドーン! と思ったことは、だいたい歌で癒していきますね。

●そこには“歌を作る”ということも含まれているんですか?

あずま:そうですね。作って、歌って。同じように思っている人が、私の歌を聴いて癒されていくじゃないですか。それを見て自分も癒されていく。

●曲を作るようになったのはいつからなんですか?

あずま:20歳くらいからですね。でも曲を作るきっかけは特にないんですよ。

●え?

あずま:朝、学校に向かって歩いていたらメロディが出てきたので、当時は録音機器を持っていなかったから公衆電話で自分の携帯に電話をかけて、留守番電話に歌って録音しました。

●そこから急に作れるようになったということ?

あずま:作り出しました。

●今作にはM-1「melody」という曲がありますけど、あずまさんにとってのメロディは、感情を変換したものなんでしょうか?

あずま:うーん、いつも作ろうとして作っていないんですよ。散歩をしているときとか、掃除をしているときとかに、ふ〜っと出てくるんです。それでどんどん繋がっていくんです。

●そのメロディって、温かいとか冷たいとか、色があったり、嬉しかったり、悲しかったり、気持ちとかも付随しているんですか?

あずま:そのときの自分の状態に依るところはありますね。感覚的でしかないです。音楽の専門学校にも行ったんですけど、理論とかもまったく覚えていなくて(笑)。本当に歌うことしか考えていなかったんです。

●すごく感覚的ですね(笑)。今は基本的にギターとループマシンを使ってライブをしているということですが、なぜループマシンを使おうと思ったんですか?

あずま:ループマシンは3〜4年前から使い始めたんですけど、それまではサポートメンバーにお願いしてバンド形態でやっていたんです。でもサポートメンバーが「音楽を辞めて就職する」と言い出したので、とりあえず1人でやってみることになって。そのときにメンバーが「おもしろい人がいる」と言ってKTタンストールというアーティストを教えてくれたんです。

●ほう。

あずま:KTタンストールはループマシンを使って、声とかギターをカッティングしたものを重ねて、すごくおもしろいことをやっている人なんです。それで“私もやってみたい!”と思って、ループマシンを買ってやってみたらすごくおもしろくて。ライブでも観てくれた人が“おっ! 何だこれ?”ってなるし。

●ループマシンは弾いたり歌ったフレーズをその場で録ってループ再生し、そこへ更に生演奏で音を重ねていくわけですよね。即興みたいな感じで。

あずま:1人の即興ですね。その場で失敗しちゃったらもう失敗なんです。ほんのちょっとのズレがずっとループされるので。でもそれがスリリングでおもしろいんです。

●それと最初に言いましたが、今作の楽曲を聴くと、歌いたいことというか、歌詞に込められた想いがすごく強い気がするんです。歌詞はどうやって書いてるんですか?

あずま:1つのパターンとしては、メロディと同時に出てくるんです。そういうときは完成するのに30分もかからないこともあって。もう1つのパターンは、できたメロディを鼻歌で歌いながら“どういう歌詞にしようかな?”と考えていたときに、フレーズがポンッと出てくるんです。「これ言って!」みたいな感じで。

●他人事か(笑)。

あずま:自然と出てくるんですよ。“こういうことを伝えたいから”と思って書き出すんじゃなくて、何か分からないけど「これを言って」という感じでフレーズが勝手に出てくるんです。

●「これ言って」って誰が言っているんですか?

あずま:(後頭部を指しながら)この辺。

●誰やねん(笑)。

あずま:ポロッと出てくるんです(笑)。それで“今自分が言いたいのはこういうことなのか”と妙に納得できるというか。“今こういうことを歌わなきゃいけなかったんだな”って。

●メロディも歌詞も意識的に作っているわけじゃないんですね。

あずま:“誰かにこれを伝えよう”というのではなくて、結果的に“こういうことを伝えなきゃいけなかったんだな”という感じです。

●でも歌詞は文章としても成り立つものになっているじゃないですか。言葉の羅列とかではなくて、しっかりと言い切っているというか。

あずま:私はしゃべることがあまり得意ではないので、何かを伝えようと思ったとき、歌っている方が伝えやすいんですよ。「こうこうこうで、こう思うんだよね」という風に歌いながらしゃべっている感覚というか。

●確かに歌いながらしゃべっている感じですね。

あずま:きっと言わなきゃいけないことを上手く伝えられないから、「こう言って!」と言葉が出てくるんだと思う。

●M-7「音楽」の歌詞に“言葉が宙を舞って捕まえてという”とありますよね。要するに、歌うことが好きというだけではなくて、人とコミュニケーションを取るという部分でも、音楽はあずまさんにとっていちばん自然な自己表現の方法だと。

あずま:そうです。思っていることを伝える術だったんです。

●興味深かったのがM-10「ほこらしゃ」なんですけど、これは方言なんですか?

あずま:そうです。私は奄美地方の徳之島出身なんですよ。

●でも神戸育ちなんですよね。言葉づかいも訛っていないし。

あずま:家族としゃべるときは訛ってはいるんですけど、方言はしゃべれないです。徳之島の方言ってずーっとその土地で育たないとなかなか話せないんですよ。だから小さい子はしゃべれなくて、ずっと聴いて覚えていって、大人になったらしゃべれるようになるというか。おじいちゃんやおばあちゃんは字幕がいるくらいの方言で、何を言っているか分からない言葉をペラペラとしゃべっているんですけど(笑)。“自分が生まれた土地の言葉なのになんでしゃべれないんだろう?”と思っていて“しゃべりたいなぁ”と。私は訛っていることが恥ずかしいと思ったことがないし、逆に羨ましいくらいなんです。だからおばあちゃんや両親にいろいろ教えてもらったんです。島向けの曲もあるんですよ。

●徳之島の方言の曲もあるんですか?

あずま:はい。もともと作っていた曲を島口…島の方言に直してもらって。島の集まりに呼んでもらったり、島のお祭りに出させてもらったりしたときに歌うんです。「ほこらしゃ」はその一環というか。徳之島の民謡は言葉の掛け合いがあるんですけど、そのフレーズ集みたいなものがあるんですよ。「ほこらしゃ」の“今日ぬ誇らしゃや 何時よりも勝り”という歌詞は、そのフレーズ集にある言葉なんです。

●著作権はないんですか?

あずま:確認したら著作権フリーなんです(笑)。だから私も使わせてもらいました。すごくいい言葉(※“今日という日はいつにも勝る素晴らしい日だ”という意味)だったので。

●徳之島の言葉を使えば、自分が生まれたところを思い出すというか、常に故郷を思っていられる。それは素晴らしいことですね。

あずま:自分があるのは産んでくれた親だし、更にその上のおじいちゃんおばあちゃん、ご先祖様たちがいるからであって、その土地もすごく大事だと思うんですよ。流れている血がそうだし。だから大事にしたいなと思うんです。

●人との関係性の中で自分が成長してきたという実感があるんでしょうか?

あずま:ありますね。自分1人だけではなかなか成長はできないと思うんです。私は本当に周りの人たちがすごく良くしてくれるんです。その気持ちってすごく分かるし、大事にしたいし、大切な人を増やしていけたらいいなと思っていて。

●なるほど。今後はどういうミュージシャンになっていきたいですか?

あずま:誰かのきっかけになりたいと思うんです。誰かが何かを踏み出すとき、“よし!” って思える気持ちにたどり着くきっかけになりたい。

●それはなぜなんでしょう?

あずま:自分がそうだからだと思います。いろいろ悩んで、手探りで這い上がっていくことを日常的によくしているので。

●楽観的に見えますけど、結構悩むんですね(笑)。

あずま:そうなんですよ(笑)。いつもうずくまっている感じがあるので。だから、みんなにもホッとしてほしいんです。

●そういう意味では、自分にも歌っていると。

あずま:そうですね。“立ち直れるから大丈夫”って。だから、常に楽観的な人には届かないかもしれないんですが(笑)。

Interview:Takeshi.Ymanaka
Assistant:Hirase.M

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