音楽メディア・フリーマガジン

リリィ、さよなら。

“セカンド思春期”綴った。 不器用に刹那を生きる、作家の苦悩に迫る

リリィ、さよなら。横A写人気ダンス&ボーカルグループ・超特急に提供した楽曲「EBiDAY EBiNAI」が一躍ヒット。作家“ヒロキ”としても注目を集める彼のソロ・プロジェクト、“リリィ、さよなら。”が待望の1stミニアルバム をリリースする。自らの名前をタイトルに冠した本作は、「セカンド思春期」がキーワード。J-POPの心地よさを持つ楽曲に、恋愛と生と死が同居したような独特な歌詞が乗り、痛いくらいに聴き手の心に突き刺さる。自身の体験が元になっているという物語を綴った楽曲は、等身大のリアリティが滲み出た赤裸々な作品となった。2013年の活動以来「約束」、「ナイト・トレイン」と配信リリースを行い、その実力が各所で話題になっている“リリィ、さよなら。”。一体どんな人物なのか? 実像に迫れば迫るほど、彼の以外な一面が見えてきた。

 

「僕にとって大事なことを伝えるツールが音楽しかないので、曲を書いているんです」

●ヒロキさんは中学生の頃から音楽を始めたそうですね。

ヒロキ:そうなんです。でも、僕はもともと人前に立ったり、歌うことが苦手だったんですよ。小学6年生の頃なんて、音楽の授業で歌のテストがあった時に、みんなの前で歌うことがイヤで僕、泣いちゃって(笑)。「学校に行きたくない…歌うくらいなら死ぬ!」くらいの勢いで…。どうしてもダメで、僕だけ音楽の先生と個室でテストを受けるっていう。

●そんなにイヤだった(笑)。そんな人が、なんでまた音楽を始めたんですか?

ヒロキ:中学1年生の時に、初めて人のことを好きになったんです。当時好きだった子はカラオケが好きで、一緒に連れて行かれたんですよ。そこで、ずっと好きで聴いていたKiroroの「長い間」を歌ってみたら「めっちゃ歌上手いじゃ〜ん!」って、その子が褒めてくれたんですよね。そこから歌うようになったんです。

●思っていた以上に自分の歌が上手かった?

ヒロキ:いや、当時は本当に下手で(笑)。カエル(の鳴き声)みたいな歌声だったんですけど…。

●逆に女の子が褒め上手だった。

ヒロキ:そう! 良い子だったんですよね(笑)。僕も馬鹿だから調子に乗っちゃって、中学1年生からオーデションを受け出したんですよ。でも、いざ受けてみたら自分より上手い人が沢山いて、一次選考で落ちるっていうのを繰り返していたんです。そこで「歌だけじゃ、ここを勝ち残れない」って思ったんですよね。その頃ちょうど叔父さんからギターをもらったので、「これは(ギターを)弾くしかないな」と。

●最初に褒められた経験が繋がって、今の活動に至ると。

ヒロキ:初恋がきっかけで…そこから長かったなあ。僕は好きを引きずるタイプなんですよね。

●それがエネルギー源になって活動できるって、すごいことだと思いますよ。

ヒロキ:こう言うのもどうかと思うんですけど、僕の生活の主体は音楽ではないんです。小さい頃からヴァイオリンもピアノもやっていたんですけど、本当に怠惰で、練習が嫌いでした。

●でも表現したい欲求はあったんですね。

ヒロキ:普段の生活で伝えたいことがあっても素直になれなくて。曲を書くと「僕はこんなにお前のことを思っていて、こんなに大事な気持ちがあるんだ!」って、自分も気付かされるんです。それを曲にして誰かに伝えることによって、誰かが喜んでくれたりとか。だから、音楽がやりたくて曲を書いているんじゃないんですよ。僕にとって大事なことを伝えるツールが音楽しかないので、曲を書いているんです。楽器や音楽という媒体を通してしか、世の中や大切な人に発信できない。

●伝える手段として書いていると。

ヒロキ:(曲を)日記や手紙だと思っています。何か「音楽をしなくちゃ」とか「歌わなきゃ」っていう感覚が本当に嫌で。

●義務感でやるんじゃなくて、もっと自然に音楽をやっていたい?

ヒロキ:そう。苛まれてやるんじゃなくて、息をするように歌いたい。空きっ腹を酒でやっつけているような、どうしようもない夜。やってられない時にギターを弾く方が好きなんです。というか、そういう時しか弾かない(笑)。

●ははは(笑)。そうやってできた曲が、相手に伝わっている実感はありますか?

ヒロキ:伝わることもありますけど、全部が全部そうじゃないんです。今回、ボーナストラックとしてM-6「約束」が入っているんですけど、これは実話なんですよ。本当に「生まれ変わったら、その時は探すからね。来世でまた会おう」みたいなメールが来た時があって。

●おぉ、それは重い言葉…。

ヒロキ:その子とは連絡も取れなくなって、もう会えないんですけど。それがトラウマになっちゃって。高校2年生の時にこの曲を書いて、「いつか街角でこの曲が流れてくるまでは、僕は音楽を辞めない」って心に決めたんです。だから「約束」は、そういう意味でも自分が音楽を始めた“狼煙”みたいな曲なんですよね。

●この曲が活動の原点だったんですね。歌詞の中で、人の一生が“生命線”で表現されているじゃないですか。手のひらで人生を表す感覚って面白いなと。

ヒロキ:嬉しいです。ありがとうございます。

●それでいて、詞の世界観が「恋か死か」っていうくらいの勢いで。多感な時期に書いたと聞いて納得したというか。

ヒロキ:あの頃からこじらせていたんですよね…。

●ははは(笑)。曲では素の自分を出しているんですか?

ヒロキ:もう、怖いくらい出しています。友人や家族は僕の素性を知りすぎていて、誰と何が起こったか分かっちゃうくらい(笑)。だから周りに「心が傷んで、この曲はもう聴けない!」とか言われちゃうんです。

●曲を作ることで、自分の中の何かを吐き出すような感覚がある?

ヒロキ:飲み過ぎたら吐かないといけない、次の日も健康でいるためにアウトプットしなきゃいけない。僕はたまたま、それを音楽として吐き出してリスナーに聴いて頂いているっていう。

●話していると、ヒロキさんの根っこにはロックな部分がある気がしてくるんですが…。

ヒロキ:根っこがバンドマンなんですよ。“リリィ、さよなら。”はJ-POPアーティストっていう括りだと思うし、音楽的にもそういう姿勢は崩さないんですけど。それを発信している自分は、壁に落書きしてあるような地元のライブハウスの叩き上げだと思っていて。このアーティスト名にした理由も、「シンガーソングライターとして囚われたくなくて、もっとバンドとして見てもらいたい」っていうところがあるからなんです。

●楽曲もバンドサウンドが中心ですもんね。

ヒロキ:シンガーソングライターとして僕が発信すると、どうしても人物が先行しちゃう気がして。正直、自分が有名になるとか、売れることを目的としていないんですよね。それよりも“リリィ、さよなら。”っていう音楽を、いろんな人に届けたいんです。

●なるほど。作曲はどのようにされるんですか?

ヒロキ:詞を先に書いて曲にしていくことが多いですね。僕はいっぺんに同じことができないので、詞を一度殴り書きするんですよ。それを見ながら「何やっているんだろうな、僕は…」って後悔しながら曲を作ります(笑)。M-1「snow 〜君がくれた物語〜」とか、あまりにも赤裸々過ぎて…。

●確かに赤裸々な内容ですね。

ヒロキ:“机の上に置かれていたキーホルダーの小さなネコ〜”から始まる歌詞も、実際にあったことなんです。喧嘩した後に謝ろうと思ったら、もうその人はいなくて。「ありがとう。これ、返すね」って一言書かれたメモの切れ端が机に残されていたんですよ。しかもメモは相手が使っていた手帳の切れ端で…。そこに一緒に置かれていたネコのキーホルダー(付きの合鍵)が「お前、何やっているんだバカ!」みたいに睨んでいる気がしたんですよね。その後号泣しながら曲を書く、みたいな。

●この歌詞の一節は、歌の熱量もすごいですもんね。

ヒロキ:メロディも一番ワ〜ワ〜言っていますからね(笑)。この歌詞のくだりがどうしても言いたかった言葉で、それに肉付けをして曲にしていきました。あの時「今の気持ちを書かないと」と思ったんです。

●今作を聴いてすごく感じたんですけど、日常と恋愛と生死が混在しているというか。この多感で混沌とした歌詞の世界観が、正に“思春期”の感覚な気がしたんですよね。

ヒロキ:生き死にや好き嫌い、全部が並列して頭の中に入ってきてグチャグチャになって、「また今日も1日が終わっちゃった…」っていう。そういう生き方をしているから、こういう歌詞しか書けないんですよね。「やれ!」って言われたら、もっと漠然とした“愛”について歌うと思うんですけど。確実にリアリティが損なわれると思うんです。

●じゃあライブで歌う時って、自分の体験を思い出したりして感情が出過ぎちゃうんじゃないですか?

ヒロキ:ライブでは「POPなイメージどうした?」っていうくらい、わめくように歌いますし、もはやギターは打楽器だと思っていますね(笑)。ライブではアウトプットしすぎて、終わった後の楽屋でよく燃え尽きています。

●今回、リリース記念のワンマンが行われますね。バンド編成でのステージだそうですが、 弾き語りの時とやっている感覚は変わりますか?

ヒロキ:バンドの時の方がオラオラな感じですね(笑)。逆に弾き語りの時は静かに怒っている感じ。だから怒りとかやるせなさ、みたいな負の感情が活動の元になっているのかな…。昔からいつ死んでも分からないような生活をしていたので、この作品ができた時に「やった!! 僕はこの世にひとつ爪痕を残せた!」と思って。だから僕は「明日死んでもCDは世に出るだろう」くらいの気持ちでいるんです。

●「生きることと、音楽をすることが同義だ!」くらいの勢いですね。

ヒロキ:そう、一緒なんですよね。音楽をやめる時は、僕が死ぬ時でしょう。音楽をやっていないと自分が成立していない気がする。それくらい普段の生活がダメなんですよ。そういうことを言うと、周りに面倒臭がられるんですけどね(笑)。

●ははは(笑)。今作を作り終えてみて、今後やっていきたいことはありますか?

ヒロキ:あまり今後の音楽のことは考えていなくて、ボサノヴァをやるかもしれないし、ブルースをやるかもしれない。何を書くかは分からないし、明日のことも分からないです。その時に書きたいことを書くっていうスタンスでやっていきたいですね。

Interview:馬渡司

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