2012/9/2@泉大津フェニックス
BOOM BOOM SATELLITES / [Champagne] / Dragon Ash / RIZE / the band apart / the telephones / TOTALFAT / 10-FEET / サカナクション / 髭
OPENING ACT:WHITE ASH
ATMC:Czecho No Republic / Hermann H.&The Pacemakers / N'夙川BOYS / QUATTRO / rega / The Flickers / キドリキドリ / 真空ホロウ / 長澤知之 / 忘れらんねえよ
数々のドラマを生み出したRUSH BALL 2011から1年、今年もついにこの季節がやってきた。ソールドアウトの会場は、開場前から長蛇の列が出来上がっている。押えきれない鼓動の音と、どこか浮ついた心地良い喧噪に耳を傾けながら、私は開演の時を待っていた。
トップバッターは、6月のRUSH BALL☆Rからのオープニングアクトに大抜擢されたWHITE ASH。ほどなくしてATMCではキドリキドリのライブが始まり、にわかに会場がざわめき出した。真空ホロウは1曲目から『闇に踊れ』で独自の世界観に惹き込み、髭はアダルディ風貌からは想像もつかないほど、子どものように純粋でキラキラした歌詞とメロディを放つ。The Flickersはタイトかつハイセンスなエレクトロサウンドで、新たな才能の誕生をシーンに知らしめる。
その後、N'夙川BOYSの出番になるとATMCの熱気は最高潮に! 入場ゲート付近まですし詰め状態で、ATMCとしてはこの日最高の動員数だったのではないだろうか。ロックンロールの初期衝動を詰め込んだ、しかしその実、確かな実力に裏付けされた存在感のあるステージングは多くのキッズ達の心を突き動かしたことだろう。the telephonesが音を発した瞬間、そこはディスコに豹変する。「ハッピーに踊ろうぜ!」という石毛の言葉を皮切りに、スタンディングスペースはもちろん後部シートエリアの人たちまでも踊り狂うほどの熱狂っぷり。会場が揺れんばかりの盛り上がりを見せた。
少し日も落ちて涼しくなった頃、本日唯一のインストゥルメンタルバンド、regaが登場。変則的で複雑なアレンジにも関わらず、音を自由自在に操り放たれるサウンドドラッグの数々に中毒者が続出。そして私は疲れた体を休めようと、芝生に寝転がりしばし黄昏れる。Czecho No Republicのライブが始まる頃には、眼前に美しい夕映えが広がっていた。「こういう場所でライブをしたくてバンドを始めたので、今まさに夢が叶い中です」。武井(Vo./Ba.)がはち切れんばかりの笑顔で言う。暖かくて優しい彼らの楽曲は、このロケーションにぴったりだ。対して、緩急をつけた展開で場を掌握したのはQUATTRO。『HEY』のようなブチアゲナンバーからカントリーテイストの『opening』美しいファルセットの光る『ほどけた靴紐』まで、幅広いジャンルを貪欲に吸収し、見事に表現しうる非凡な才能をひしひしと実感した。
BOOM BOOM SATELLITESの魅力は、何と言ってもそのステージワーク。サウンドのカッコ良さ、耳に残るメロディ、ライブの臨場感…素晴らしいライブを構成する要素は多々あるが、完成された至上のビッグ・ビートとクールな照明の演出が融合がした時、一瞬で異世界に連れて行ってくれる。
「おまたせしました、Hermann H.&The Pacemakersです!」。今年7年越しの復活を遂げた彼らは、喜びをあらわにしたファン達から大喝采で迎え入れられる。岡本(Vo./G)のクセになる声と泥臭い深みのある楽曲たち、それを盛り上げるWolfこと若井悠樹のファニーなダンスが非常に印象的だ。「エレクトロニクスに切り刻まれた 半端な星空に」会場とメンバーが一体となって歌う『アクション』の一節は、この上なくピースフルに、満点の星空の下に響き渡った。
RUSH BALL 2012もいよいよクライマックス、ついにサカナクションの登場だ。1曲目はいきなり『『バッハの旋律をよるに聴いたせいです。』』からのスタート。この時点で既にオーディエンスのテンションが臨界点を突破し、大合唱の嵐。驚くべきことに、ほぼ全曲に渡ってオーディエンスの歌声が聴こえ、どれほど期待していたのかが見てとれた。3曲目「僕と花」の時のこと。アウトロに入ると、突然ライトが消え辺りが闇に包まれる。その間も鳴り続けるアウトロ、予想外の展開に戸惑う観客。舞台に再び光が戻った時、漆黒の衣装に身を包み、共に横一列に並んだメンバーの姿があった。ヘッドフォンとゴーグルを装着した近未来的な姿で、前にはPCが設置されている。そして聴こえて来たのは、同期ものの音を多用し究極のダンスチューンへと変貌した「僕と花」のリミックスバージョン! 歌が耳に残る原曲とは対照的に、声さえも楽器と化してオーディエンスを踊らせる。続く「ネイティブダンサー」から「アイデンティティ」への繋ぎも絶妙。ラストはリリースしたばかりの最新曲「夜の踊り子」でフィニッシュ。曲単位というレベルを超えて、ライブの頭から終わりまでの流れがひとつの芸術のように洗練された、幻想的な時間だった。
太陽が照りつける日中から無数の星が顔を出す宵の刻まで、湧き立つ衝動をはき出した完全燃焼の夏。体に残る心地良い疲労感と、涼風が吹くような清々しい胸のうちが、どんな言葉よりも如実にイベントの素晴らしさを物語っていた。
TEXT:森下恭子
RUSH BALLが、今年も夏の終わりを告げる。毎年、夏休み最後の日曜日に開催されるRUSH BALLは、今年で14年目を迎える。筆者にとって、このフェスがなければ、気持ちよく夏を締めくくることができなくなってしまった。RUSH BALLに一度でも足を運んだことがある人ならきっと今、同感して頷いてくれていることであろう。季節の区切りとして恒例化したRUSH BALLでは、ステージに立つアーティストも、オーディエンスも、この夏に残した気力を全て使い切り、溜め込んだストレスやマイナスな感情は全て発散し、次のシーズンに踏み出すためのエネルギーを持って帰る。朝11時、TOTALFATの疾走感溢れるビートが泉大津フェニックスを埋め尽くし、準備体操もないままモッシュやダイブが沸き起こる中、RUSH BALLは幕を開けた。
この日唯一のソロアーティストとしてATMCに登場した長澤知之は、『神様がいるなら』の毒気のあるギターイントロからスタート。「ひきこもりなんで、屋外は苦手」とはっきり言いつつも、世の中の不条理や自己嫌悪と必死に闘いながら叫び歌っていた姿は、今も脳裏を離れない程強烈だった。『センチメンタルフリーク』では、力を抜ききった右手首でギターをストロークし、諦めの感情を込めて“はいはいはい”と歌う。闘いと諦め、叫びと脱力、その極端な感情の両方が、生命をリアルに描いていた。
RIZEの『heiwa』が演奏されると、4年前、同じ場所で、RIZEの3人と観客が一体となって手でピースサインを掲げて「heiwa」と歌っていた景色を思い出した。RIZEが平和や愛を訴え続けた4年間、この国・この世界が少しでも平和になったか? と問われると、笑顔で「はい」とは答えづらい。それでも、これからもRIZEにはこの歌を訴え続けて欲しいと願った。なぜなら、ライブ会場で、大勢の人間が一体となって“heiwa”と合唱している景色が、あまりにもピースフルであったから。
明るい空から雨が降り出すというとても皮肉な天候の中、忘れらんねえよのステージがスタート。ただただ馬鹿な、いやむしろ天才なくらい型にはまらないロックなステージを繰り広げ、皮肉な空も、オーディエンスの頭の中も、一瞬にしてスカっと快晴に変えた。「1年後、客に戻ってるかもしれない」なんてことを言っていたが、彼らの中で溢れるエネルギーを、キレイに加工しようとせずにただストレートにぶつけ続けてくれたら、私たちはきっと“あなたたちのライブが一番忘れらんねえよ!”なんて言葉を今後も言い続けたくなる。
初登場であることが意外なくらい、RUSH BALLの会場に馴染んでいた10-FEET。「俺のこと嫌いなやつ全員飛べー!」と斬新な煽り方でオーディエンスのテンションを上げつつ、“亡くした友人のことを、仲間と笑って思い出しながら飲んでいると、そいつが目の前にいるかのように思う”と話した後に、新曲『シガードッグ』を披露。10-FEETはいつだって、悲しみや切なさを背負って生きていくことを肯定してくれる。どんな憂いも、前を向いて歩いていくための強さに変えてくれる。そんな10-FEETの音楽を必要とするオーディエンスが、ステージ前のスタンディングエリアが満員になる程集まった。10-FEETの後は、the band apartが、クリーンな高音のギターフレーズ・ベースの轟音・細やかなドラムさばきによる激しいアンサンブルの中に、Vo.荒井の涼しい声を乗せ、爽やかな風を呼び起こした。『coral reef』からスタートし、次々とキラーチューンが演奏され、最後は『Eric.W』で幕を閉じた。無意識に音とビートに身体を揺らされ続けた35分間であった。
[Champagne]は、本番前のサウンドチェック中に、Oasisの『Don’t Look Back in Anger』を演奏。ロックを愛するオーディエンスから歓声が沸き起こる。2年前には、ATMCステージに立っていた[Champagne]だが、その間、大きなステージに立つにふさわしい程の迫力あるライブパフォーマンスと洗練された曲を確実に物にし、ファンの数も増やしてきた。それでも川上(Vo./Gt.)は、「ここに立てて嬉しい」と言いつつも、「偉そうなんだけど…次は夜にやりたいな」と貪欲な気持ちを露にし、数年後にはトリを任せられている姿をイメージさせた。
Ba.IKUZONEが他界し、RIZEのKenKenがサポートメンバーとして演奏しているDragon Ashのライブを見るには、少し勇気と覚悟がいった。しかし、それは全く要らぬ感情であった。最強のロックスター・Kjが率いるDragon Ashというエンターテイナー集団は、苦境を経験したことで更に私たちの知らない境地に立ち、そこから私たちを引っ張って、私たちが知らない景色を見に行かせてくれているようだった。悲しみなんて一切見せず、とにかくこちらの心を震わす力強い音だけを鳴らし続けた。最後の『Fantasista』では、10-FEETやTOTALFATのメンバーが乱入。何かを乗り越えようとする人間と、それに力を添えようとする人間が共に鳴らすロックには、目頭が熱くならざるを得なかった。
そして最後はサカナクションが登場。7月にはフジロックで彼らのライブを初めて体験するオーディエンスが多い中での挑戦的なライブを見たが、RUSH BALLでは、長年共に歩んできているイベンター・GREENSの主催イベントであるせいか、幾度目の出演になるためか、どこかホームな雰囲気を感じながら演奏しているように見えた。しかし、どんなステージでも、自分たちが鳴らすべき音・届けるべき言葉・魅せるべきショーの内容に変わりや迷いはなく、ロック・エレクトロ・フォークを融合させた音楽を、完璧な照明・レーザービームと共に繰り広げた。
TOTALFATのShun(Vo./Ba.)が、ステージを去る前に言った一言、「ワンマンで会いましょう」という言葉が印象的であった。各アーティスト持ち時間35分(ATMCに関しては25分)は、決して長いとは言えない。TOTALFATをはじめ、ほとんどのステージが“腹8分目”といったところで終わってしまった。しかし、オムニバスイベントでアーティストがオーディエンスにそう思わせることは、ある意味アーティスト側の“勝利”である。その感情が、アーティストの表現が120%見られるワンマンライブへの一歩となることを、多くのアーティストやスタッフは望んでいるからだ。
RUSH BALLの終わり。それは新たな季節へのスタートでもあり、来年の夏に向けた1年の始まりでもある。来年のRUSH BALLでは、どんな新しい音楽やアーティストの進化が見られるのだろうか?そこに恥じのない姿で戻って来られるよう、自分もまた一歩を踏み出す。
TEXT:yUkAkO y.