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中野テルヲ

サイン波の魔術師が贈る“エッジのある癒し”サウンド

 80年代からP-MODEL、LONG VACATIONといったバンドで活動してきた“サイン波の魔術師"、中野テルヲが約1年ぶりにニューアルバム『Oscillator and Spaceship』をリリースする。

音響調整用のサイン波発振器、超音波センサー、短波ラジオ等のインターフェイスを利用した独自の電子音楽と、手刀で宙を切って音を鳴らすライブパフォーマンスはまるで現代美術のよう。

だが、そんな実験的な要素がある一方で、歌詞・メロディ・歌というポップスの基本が音楽的な芯になっているのも大きな特徴だ。

クールでありながら親しみやすいという稀有なサウンドは、“エッジのある癒し”とでも呼ぶのがふさわしいだろう。

POLYSICS、FLOPPYといった後進のバンドからも熱いリスペクトを受ける、中野テルヲの音に今こそ触れてみて欲しい。

Interview

「色んな人に聴いてもらいたいんですよね。歌ものの電子音楽って、たぶん独自のものだと思うから。聴いてもらえれば、他との違いを感じてもらえると思います」

「随分、歌が前に出ていることを実感する仕上がりにもなっていて。きっと自分が聴いていたい音や見ていたい波形が、そのまま現れているんでしょうね」

●中野さんは80年代からP-MODELのメンバーとして活動されていたわけですが、ソロになってからのキャリアも長いんですよね。

中野:1996年からですね。その前にやっていたLONG VACATIONというグループが活動休止してから、本格的にソロ活動を始めました。

●中野さんといえば手刀による演奏パフォーマンスが有名ですが、あのプレイスタイルはいつ頃から?

中野:LONG VACATIONの後期に、関わりのあったナイロン100℃という劇団の芝居の中で使い始めたのが最初ですね。超音波センサーを手刀で斬ることで、音が出る仕組みになっています。

●何がキッカケでその方法を思いついたんですか?

中野:ヒカシューの坂出雅海さんとのデュオで実験的なライブをやった時に、坂出さんが光センサーとコンピューターを組み合わせたパフォーマンスをやっていらっしゃったのに刺激を受けたんです。そこから赤外線センサーとかも調べてみたんですが、その中で自分に合っているのは超音波かなと。

●使用されている超音波センサーは、本来音楽に使われるものではないんですよね?

中野:元々は超音波のビームを発射して、その跳ね返りで距離を測定するための機械ですね。ステージでは演奏テーブルの上に置いて、天井へ向けて発射したビームが跳ね返って、センサーに入るようになっていて。その間の宙を手刀で斬ると距離間隔が変わって、短い5ボルトの電圧の電気信号が出る。その電気信号をコンピュータで演奏する情報へと変換しているんですよ。言うなれば、手刀はトリガーのような役割です。

●楽器を使って演奏しているわけではない。

中野:キーボード類もないですし、入力装置としての楽器は使っていないですね。トラックとして楽器の波形はシステムの中に入っているので、音源としては鳴っていますが。

●今作にはスクラッチ音も入っていましたが、あれもトラック音の中に入っているんでしょうか?

中野:あれはCDJを使って、自分でこすったり叩いたりリバースしたりしています。CDJはライブでも自分の声を取り込んでスクラッチしたりするのに使っているんですよ。

●ライブではその場でデータを読み込んだりしながら、演奏されているんですよね。

中野:ライブでは打ち込みも使っているんですけど、生でやっている部分もすごく多いんです。トラックを止めて即興的な要素だけをするシーンもありますし、センサーの誤動作も含めて音源とは違うシーンが出てきたりもします。

●打ち込みや電子音も使いつつ、リアルタイムでの演奏がメインになっている。

中野:ボタンを押して、曲を流して終わりというライブは自分は嫌なんですよ。打ち込みも生音もランダムに取り扱っていけたらいいなと思っています。

●ソロ活動を始めた当初から今のようなサウンドのイメージがあったんでしょうか?

中野:最初はインスト主体でもいいかなと思っていたんです。でも1stソロアルバム『User Unknown』(1996年)を、P-MODELを一緒にやっていた平沢進さんの立ち上げたレーベル(DIW/SHUN)から出すことになって。その時、平沢さんに「ちゃんと中野テルヲの顔が見える音楽をやったほうがいいよ」と言われたのもあって、歌の入ったアルバムを最初に出すことになりました。

●1stソロアルバムを出した時点で、方向性はある程度定まっていたんでしょうか?

中野:まだはっきりとはしていなかったんですが、直前までLONG VACATIONをやっていたこともあって、わりとポップなものが身体に染み付いてはいましたね。そこで吸収したものが、随分出たんじゃないかと思います。

●演奏の手法等だけを見るとアヴァンギャルドな音楽を想像してしまうんですが、実際の音はかなりポップですよね。

中野:実験的なものも頭の中にはあるんですけど、それだけでは初めての人に入ってきてもらいにくいと思うんです。歌やメロディが乗っていることで入りやすくなるだろうし、そこから一度入ってきてもらえれば隠れた実験的な部分にも触れてもらえるんじゃないかなと。

●中野さん自身は昔からポップな音楽も聴いていたんでしょうか?

中野:元々はあまり自分から聴くことはなかったですね。ニューウェーブやポストパンクといった、少しアヴァンギャルドなものを好んでいました。モロにポップス的なものや映画音楽等とは、LONG VACATIONで初めて向き合った感じです。

●ポップさと向き合うのはLONG VACATIONの活動がキッカケだった。

中野:LONG VACATIONをやるにあたって、"ポップスとは何ぞや"ということを研究しなければいけなかったんです。そこでポップスのコード進行なども、色々とわかっていった感じですね。

●実際に音楽的なルーツになっている部分というのはどのあたりなんでしょうか?

中野:テクノポップやニューウェーブといったパンク以降の音楽を聴いてきたんですが、それが必ずしもルーツになっているとは思えなくて。今作『Oscillator and Spaceship』の中では短波ラジオを使っているんですが、中学生くらいの時に短波ラジオを使って海外放送を受信するBCLブームというのがあったんです。10代後半には"デンスケ"というテープレコーダーを担いで外に出て、集音マイクで鳥の声を録るということもやっていたんですよ。それがダミーヘッドマイクを使った今の音響システムにつながっていたりもするし、何かしら今の音楽に取り込まれているんじゃないでしょうか。

●リスナーとしての経験というよりも、そういう実践が音楽的なルーツになっている。

中野:そういう行為みたいなものがルーツなんでしょうね。フィールドレコーディングで録ってきた素材のカセットテープを分解して短いテープをつなぎ合わせたりと、今で言うサンプリングのようなことをしていた時期もありました。ラジカセ2台や4チャンネルの多重録音機を使って自宅で多重録音をしていたこともあって。そうやって機械をイジることが好きだったんでしょうね。

●歌には歌謡曲的なエッセンスも入っているような気がしました。

中野:自分が中高生の頃は、歌謡曲が流行っていた時代でもありましたからね。もしかしたら、そういう経験が蓄積されていたのかもしれないです。

●今作には狂言を使ったものも入っていましたが、伝統文化的なものもルーツになっているんでしょうか?

中野:ルーツというわけではなくて、狂言と出会ったのは去年の秋に呼ばれた学園祭なんです。学生たちの企画で狂言師の方とコラボレーションしたんですけど、その時に狂言師の方から提案されたのがこのM-3「雪山」という曲だったんです。

●狂言とのコラボレーションがキッカケだった。

中野:その時に初めて狂言がどういうものなのかを知りましたね。それを自分なりに解釈してトラックを作って、狂言師の方がそれに合わせて舞い、私が歌うという形でやりました。

●それが今作にも入ることになったのは?

中野:今までのレパートリーと並べた時に、あまり違和感がなかったんですよね。リズムもメロディーも間のとり方も含めて、すごく自然な感じで入ってきたんです。今作に入れるにあたっては、そこからもう少し丁寧に作り込んでいきましたが。

●「雪山」はダブの要素を取り入れているんですよね。

中野:その学園祭でやった時点で、もうステージ上でダブ・エフェクトをかけたり、ディレイをかけたりしていました。

●間を活かした感じが、中野さんの音楽と狂言のような日本的なものに共通するところかなと。

中野:自分の作るものは隙間のあるものが多いので、一緒に並べた時にも違和感がなかったんでしょうね。やっぱり日本人だからなのか、音と音の間隔はすごく大事だと思います。

●M-4「Pilot Run #7」にも環境音のようなものが入っていますよね。

中野:あれはダミーヘッドマイクを使って、スタジオのある部屋の音を録ったんですね。ああいう遊びというか、音響的な仕掛けとかも音楽だと思っています。間があると、特に仕掛けを作りやすいんですよね。

●ライブでもそういった音を演奏に取り込んだりしている?

中野:去年のライブではダミーヘッドマイクで開演前のザワザワした音を拾って、本番の演奏の中にミックスすることを実験的にやってみました。ライブでは細かい音響のコントロールがなかなか難しいんですけど、リアルタイムでボーカルのエフェクトをかけたりはしています。録音したものは最低限にして、生でやれるものはできるだけ生でやるようにしています。

●だから、人間らしい音になっているというか。パフォーマンスも含めて、観ている側も楽しめる。

中野:自分は音と見た目がシンクロしていないと面白くないと思うんですよ。だから他のデバイスも、ちゃんと音と同期して光るところでは光るという感じにしていて。独特の"生"感があると思っています。

●今作の『Oscillator and Spaceship』というのは何かコンセプトを感じさせるタイトルですが。

中野:タイトルは先に決めていたんですが、内容はコンセプト的なものを意識せずに作りましたね。Oscillatorというのは、自分のサウンドのテーマになっているサイン波発振器をイメージさせるようなもので。逆にSpaceshipはOscillatorのリアルさから、かけ離れたスケール感を出したかったんです。

●その2つを組み合わせて、タイトルにしたと。

中野:今回は自分のサウンドイメージが伝わるようなタイトルにしようと思っていて。アルバムタイトルが先にできてから、1曲1曲にイメージを分配していった感じですね。できあがったものを聴いてみると、自分が蓄積してきたものや自分が持っているサウンドのテーマがよく出ていると思います。

●前作『Signal / Noise』からは約1年ぶりの作品となりますが、その間に作った新曲を収録した感じでしょうか?

中野:今回は、前作からあまり間隔を開けずにリリースしたいと思っていて。実作業としてはここ1年なんですが、古くからあったトラック素材やサンプリング素材も使っています。そういったものもたまに引っ張り出してきて、"今だったらこうするな"とアレンジしたりするんですよ。

●素材としては蓄積してあったものを利用したりもしている。

中野:引き出しは少なくなってきましたけどね(笑)。今回も、何もないところから向き合って作った曲もあって。

●M-7「フレーム・バッファ II」は前作に入っていた「フレーム・バッファ I」の続編なんでしょうか?

中野:内容的に連続しているわけではないですね。「フレーム・バッファ I」を作った時に、これについても既に歌詞を含めてモヤっとした世界観ができていたんです。それにしっくりくるトラックが今回できたので、このタイトルにしたという感じです。

●今作収録の7曲はどんな基準で選んだんですか?

中野:候補は全部で9曲あったんですが、2曲をボツにして7曲に絞りました。無理矢理入れてもよかったんですが、今回は価格を下げて買いやすさを重視した方が聴いてもらうチャンスも増えると思って。

●間口を広げることを重視した。

中野:色んな人に聴いてもらいたいんですよね。歌ものの電子音楽って、たぶん独自のものだと思うから。聴いてもらえれば、他との違いを感じてもらえると思います。

●テクノポップやエレクトロニカで歌が入っているものもありますけど、そういうものとは全く違う"中野テルヲ"の音楽になっている。

中野:それも蓄積してきたものが出てきているんでしょうね。無理をしたら続かないので無理はしていないし、特に驚かせようということもしていない。自分の中から自然に現れたものという感じです。

●そもそも手刀での演奏も奇をてらおうとして始めたわけではないんですよね。

中野:LONG VACATIONでも打ち込みの作業をやってたのでいつの間にかキーボード/シンセサイザー担当のようになっていたんですが、元々はそうじゃないので違和感があったんですよ。そこで「鍵盤を弾く以外の表現スタイルがないだろうか?」「音とシンクロしたパフォーマンスを見せられるものはないか?」と考えた結果、今のスタイルになりました。

●作品を重ねる中で、進化している部分もあるのでは?

中野:超音波センサーとの関わりというか、目に見えないビームの扱い方が小慣れてきたかなと。

●今回のレコーディング中にもオシロスコープが増えたそうですが、機材もどんどん増えていっている?

中野:新しいものよりも、古いものを取り入れていますね。オシレーターも、普段はミキサーに内蔵されている固定周波のものを使っているんですが、今回はもっと自由にチューニングのできる30Hz~30kHzまでを8つプリセットできるオシレーターを2台導入して、固定オシレーターだけではない表現ができるようにしてみました。他にもアマチュア無線に使うようなモールス用の電鍵を超音波センサーとは別のトリガーとして、ライブでもレコーディングでも使い始めています。

●音はデジタルなのにアナログ感があるのは、古い機材を使用しているからでしょうね。

中野:MIDI楽器を使っているのに、制御はアナログという(笑)。最近は、より深い部分が出てきている気がします。前作に比べて音数も少なくできましたし、"これ以上、音を足す必要はないな"ということがわかってきましたね。

●音数が減ることで隙間が増えて、その中にいる"中野テルヲ"の姿はより深いところまで見えるというか。

中野:より、自分が見えてきていると思います。随分、歌が前に出ていることを実感する仕上がりにもなっていて。きっと自分が聴いていたい音や見ていたい波形が、そのまま現れているんでしょうね。

●そういう作品だから、他人にとっても聴きやすい作品になっている。

中野:表面的に見ると難しいように思われがちですが、自分では決してそうではないと思っているんです。若い人にも理解してもらえるトラック作りをしているつもりですし、耳に残るメロディーを意識しているのでぜひ一度聴いてもらいたいですね。

Interview:IMAI
Assistant:Hirase.M

ARTIST RECOMMENDATION

・ハヤシ(POLYSICS)
今作も純度の高いパルス音&ノイズが呼吸して、飛んだり、跳ねたりしている様な、楽しい「電子音楽」をありがTOISUでございます。クールなイメージの「電子音楽」ですが、中野さんの作品を聴くと、作る人の姿勢、性格があからさまに出る、とても人間味溢れる音楽であることがわかります。スリリングで遊び心のある中野さんのプログラミングに僕は多大な影響を受けています。

・戸田宏武(新宿ゲバルト / FLOPPY / NESS)
高3の冬。モノレールから覗く都市の原風景。圧倒的東京。代々木の不動産屋で賃貸契約を交し、めくるめくアーバンライフの予感に目ェ剥いていた私の耳元で、鳴りっぱなしていたのが中野テルヲ1stアルバム『User Unknown』だ。荒涼として潔い。東京そのものであった。あれから15年。東京は暮らしに変わったが、憧れは変わらない。『Oscillator and Spaceship』は、ガラス越しに伝わる体温のように涼しく優しい作品であり、一分の隙無く「中野テルヲ」そのものであった。

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