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南壽あさ子

歌に心を染み込ませていく歌い手

PHOTO_南壽あさ子02移動距離38,446.5km(※南壽あさ子調べ)に渡る47都道府県ツアーを終え、シングル『どんぐりと花の空』をリリースする南壽あさ子。原風景と切なさを綴り、忘れたくない気持ちを歌に封じ込める彼女の新作は、ずっと大事にしてきた「どんぐりと花の空」と、彼女の新たな魅力が詰まった「狼にベルガモット」、そしてサンリオピューロランドの新アトラクション「My Melody in Akazukin ~マイメロディの不思議な大冒険~」のイメージソング「狼にベルガモット(赤ずきんちゃん Ver.)」が収録。自身がその場で歌に心を染み込ませて歌う彼女は、たくさんの人の心を惹き寄せていく。

 

 

 

「影響はありそうですね。考えないようにしようと思っても、いい意味でもう無理なくらいいろんな人が関わっていて、聴いてくれる人が見えている」

●2/14の赤坂BLITZで47都道府県ツアーが無事終わりましたが、今回のツアーはどうでしたか?
南壽:すごく楽しかったです。最初に考えていた想像とはだんだん変わってきて。最初は、その場所に行ったらなるべく土地のもの…名所を観たりとか、前みたいに神社を巡ってみたり、写真をいっぱい撮りたいと考えていたんですけど、だんだんそういうことを忘れちゃって。

●忘れちゃった?
南壽:写真くらいだったら撮れるじゃないかと思うんですけど、そういうことも忘れるくらいライブに集中し過ぎていて。

●いい意味で、余裕もなくライブに集中していたと。
南壽:はい。いろんなところに行くのはその日のライブに反映させるためって考えていたんですけど、ファイナルまでちゃんと何事もなく終わらせたいという想いが自然に強くなっていって、なるべくリラックスしたり、ライブのために休むっていうことをしていました。いろんな街に行った思い出というより、ライブをしに行った場所で毎回すごくいろんな思い出ができたんです。精神的なものの変化というか、今まで以上に歌うことに集中していたツアーでした。それも自分では気付かずに、BLITZが終わってからハッと自分で気づいた感じでした。

●南壽さんは以前のインタビューで「歌は心の表れだと思う」とおっしゃっていましたが、それを実践したツアーだったんですね。
南壽:私の歌は精神状態に大きく左右されるので、なるべく余計なことは考えないようにして。“心を保つ”ということを重点的に考えていたツアーだったんです。ライブハウスだけじゃなくて、本当にいろんな場所で歌わせてもらったんです。ショッピングモールとかだと、普通に考えれば雑音のような音が聞こえていたり、店内放送があったり、誰かの音楽が流れていたり、まったく別の方を向いている人が居たり。そういうところでも、ワンマンライブとまったく同じように歌うとか。

●ほう。
南壽:どんな場所でも同じように歌わないと通じないし…もちろん場に応じた臨機応変さは必要ですけど…そういう核は持っていないと届くものも届かないなって。言葉にはなかなか表せないんですけど、空気を読みつつ、その上で同じようにするというか。そこはすごく心掛けていて。毎日のようにライブをやっていると、日々勉強というか、自然と実践できていく感じがあって。もう少し昔だったら、初めての状況や場所に戸惑うこともあったと思うんですけど、ライブを重ねるごとにそういう戸惑いもなくなっていきました。

●大雪の日に開催されたファイナルのライブはどうでした?
南壽:最後にスタンディングオベーションをしてくれたとき…あれは自然に起こったことなんじゃないかなって私は感じて、我慢できなくなって涙が出てきて。実際に、今回のツアーで追いかけてくれた人たちも居たんです。北海道とか沖縄のライブでも。

●すごい。
南壽:そういう人が少しずつ増えてきて。BLITZも遠くから来てくれた人たちがいて。それだけ想ってくれる人が居るということとか。よく「追っかけ」と言いますけれど、単純にそういう風には思えないですね。1人1人、いろんなお仕事があって、生活があることを考えると、どういう気持ちで来てくれているのかとか、応援しようとしてくれているその気持ちが本当にありがたくて。

●そりゃ泣きますね。
南壽:はい。後から知ったこととかもあったんですけど、お花を頂いたり、寄せ書きを書いてくれたり。だから自分がやってきたということよりも、私が自分の意志で始めたことに対していろんな人が共感してくれたり、応援してくれる人が少しずつ増えていって、すごく大きな輪になっている感じがあって。それも私が中心にというのではなくて、その輪に私も入っている、という感覚で。

●南壽さんの音楽は、自分が今までの人生で感じてきた“切なさ”だったり、原風景とか妄想を、自分なりの美学で表現しているものだったじゃないですか。言ってみれば、南壽あさ子という1人の人間の中から出てくるものが歌になっている。でも今おっしゃったように、今回のツアーとかは1人の範疇を超えていますよね。そういう経験を経て、今後作る音楽は変わっていくと思いますか?
南壽:そうですね。なんか変わりそうな気がしています。

●あの頑固な南壽あさ子が?
南壽:フフフ(笑)。なるべく自分の空想の中で作りたいという核の部分は変わらないと思いますけど、影響はありそうですね。考えないようにしようと思っても、いい意味でもう無理なくらいいろんな人が関わっていて、聴いてくれる人が見えている状況なので。そういう人たちの生活を思ったり、より見えている人たちに聴いてもらいたいという想いも強くなっているし。今回のツアーはいろんな人を知るきっかけにもなりましたので、視野が拡がりましたね。すごいことだと思います。お手紙もたくさんいただくんですけど、そこでその人のことを打ち明けてくれたり。いろんな人生をこうやって知ることができるなんて、なかなかないと思うんです。今はちょっと戸惑っているくらいです。いろんなものを吸収したので。

●ファイナル後はゆっくりできたんですか?
南壽:BLITZの次の日が、私の兄の結婚式だったんです。そこでも歌ったんです。

●気持ち的にも忙しい2日間ですね(笑)。
南壽:そこでまた泣いてしまって(笑)。私と私の家族にとって忘れられない2日間でした。
この2日間だけ雪もすごくて、なんか不思議な感じがしました。

●今回リリースとなる2ndシングル『どんぐりと花の空』収録の2曲は、どちらもBLITZで歌っていましたよね。
南壽:はい。M-1「どんぐりと花の空」は曲を作り始めて3曲目にできた曲なんです。「フランネル」の次に書いた曲ですね。でも引っ張りだしてきたわけではなくて、私にとってすごく大事な曲なので、いつかメジャーデビューしたらシングルで春に出したい、と思っていたんです。

●メジャーデビューが決まっていない段階から?
南壽:あ、そうですね。

●そこまで考えてたのか(笑)。
南壽:別にしたたかに考えていたわけではないんですけど(笑)、季節感がすごく大事だし、いろんな息吹を感じることができる瞬間に聴いてもらいたいっていう想いが強くて。だからずいぶん前に書いた曲なんですけど、今までCDには入れなかったんです。

●M-2「狼にベルガモット」は?
南壽:それは「どんぐりと花の空」よりは後ですけど、でもかなり前に作りました。

●いつもですけど、南壽さんは作った時系列と作品に収録する時系列が全然別なんですね。
南壽:あ〜、そうですね。私は出している順番というより、作った順番が身体に入っているので全然自然なんです。前に作った曲でも、それをライブで歌ったりレコーディングしたときの記憶とかも全部残っていくので、新しい思い出として始まっていく。「どんぐりと花の空」はライブでもずっと歌っているんですけど、「狼にベルガモット」はファイナルのBLITZで初めて歌ったので、私の中ではまたちょっと感覚が違うんです。

●「どんぐりと花の空」は、南壽さんが今まで大切にしてきた“原風景”や“切なさ”、忘れたくない気持ちとか、いろんなものが詰まっていますよね。
南壽:この曲も妄想の世界ではあるんですけど、泣きながら書き上げたんです。

●え? 泣きながら?
南壽:完全な妄想にもかかわらず、気持ちが入り過ぎて(笑)。この物語の世界に入り込み過ぎちゃったんです。

●セルフ感動ですね。妄想なのにそこに気持ちを投影して泣いてしまうという。そういう妄想はどうやって膨らませるんですか?
南壽:映像で浮かぶんですよね。最初はメロディを思いついたんですけど、その後に。もともとは、山の曲を書きたいと思っていたんです。空を書きたいなとか、海を書きたいとか、そういうアイディアのうちの1つとして。それでこの曲のメロディが浮かんだときに“あ、山の曲が書ける”と思って。そしたら歌詞に出てくる少年と少女の映像が出てきたっていう感じですね。

●なるほど。
南壽:この曲はさっきおっしゃってくださったように“忘れたくない気持ち”とかを詰め込んだ大切な曲で。ここから始まったような気がしますね。

●「狼にベルガモット」はどういう経緯で収録しようと?
南壽:「どんぐりと花の空」はかなりマイペースな曲なので、割と正反対のタイプの曲を選んだんです。

●この曲からは“大人の女性”を感じたんですよね。それは今までの南壽さんからは感じなかったものなので、ちょっとびっくりして。
南壽:これは大学に入って初めてライブハウスに行ってみて、それまではすごく怖い場所だと思っていたんですけど、実際はみんな優しくていい場所で。でも、それまでは地上の世界でしか生きてこなかったので“地下を見た!”っていうちょっとした衝撃があって。

●地下を見た(笑)。
南壽:今まで知らなかった夜の世界を知った瞬間というか。その体験をして、夜な夜ないろんなライブハウスでいろんなバンドが演奏してるんだ、ということに感銘を受けたというか。

●リアリティのある原体験が元になっていると。
南壽:そうですね。ライブハウスのステージとフロアってちょっとした段差しかないじゃないですか。ファンの人はすごく熱狂的になっていて、すごくおもしろいなと思ったんです。遠くからそれを見ていて、この1つの箱の中で起きていることを曲にしたい、という願望が出てきたんです。

●この曲では“あいしてる”と歌っているじゃないですか。それもびっくりしたんです。
南壽:あ、これも自分の個人的な言葉だったら絶対に歌えないんです。

●前のインタビューでも言ってましたよね。自分の個人的な感情は赤裸々に出せないけど、物語の主人公の立場で歌ったら言えるという(笑)。
南壽:はい(笑)。敢えて熱狂的な人たちの気持ちを受け取って、叶わぬ恋を大袈裟に表現したというか。でも地上に出たら、熱を冷ますかのような風が吹いていて、また日常に戻っていく。そういうことを書きたいなと思ったんです。だから大袈裟ですけど“あいしてる”という言葉を敢えて使ったんです。

●ただ、妄想の主人公の気持ちを歌っているという設定があるにせよ、そういう気持ちを歌う南壽さんの生々しい感じは迫るものがあるんですよね。実体験ではない物語の登場人物に乗り移っているというか。
南壽:ああ〜。

●南壽さんはそれがすごくおもしろくて。おそらく南壽さんは「狼にベルガモット」で歌っているような情熱的な女性ではないと思うんです。でもこの歌では、そういう恋心を抱いている大人の女性が歌っているように聴こえる。演じているわけではないですよね?
南壽:演じているつもりはないです。う〜ん、難しいですね。なり切るという意味では演じているのかもしれないですけど、それは演技だとは思っていなくて。風景を思い浮かべながら歌う、っていうのはどの曲も変わらないんです。

●こないだのBLITZでも「かれーのうた」という、子供が居る母親の気持ちを綴った曲を歌っていましたが、あれもびっくりして。
南壽:子供居ないのに(笑)。

●そうそう。でもすごく母性を感じる歌で。“この人は何なんだ?”とびっくりしたんです。
南壽:もちろんそれは、自分が子供だったという体験があって、親が居て…という体験があるので、そこから膨らませたものでもあって。でも気持ちが入りすぎて、歌っているときは子供が居ることになってるんです(笑)。

●“歌は心の表れ”という自覚がある人が、実体験のない歌をまるで自分のことのように豊かに歌う…イタコか!
南壽:フフフ(笑)。
Interview:Takeshi.Yamanaka

LIVE REPORT

南壽あさ子 47都道府県 Tour2013-2014 “Nostalgia” ONE MAN(FINAL)
2014/2/14@赤坂BLITZ

10年に1度の大雪に見舞われた2/14。雪がしんしんと降り積もる中、南壽あさ子が「無事に辿り着いてくださってどうもありがとうございます」と頭を下げてライブが始まった。

雪が降り積もった後は、街が静寂に包まれる。雪は音を吸収するというが、南壽のライブはそんな雪の日に似た静寂の中に、透き通った声でぽつりぽつりとメロディを描いていくようだ。柔らかくて暖かくて冷たい、声。「冬の旅人」「例え話」と、音を出しているのは歌と鍵盤のみなのに、BLITZの広くて高い空間が南壽あさ子で埋め尽くされていく。いつまでも感じていたいその歌に、観客がどっぷり魅了されていくのが気配でわかる。

子供が居る母親の気持ちを綴ったという「かれーのうた」では、まるで本当に愛する我が子が居るかのような母性を感じさせ、「狼にベルガモット」では今までの彼女からは感じなかった大人の女性を感じさせる。歌によってまるで別人かのように表情を変えていく。まったく底が見えない歌い手だ。

そして「星のもぐる海」「わたしのノスタルジア」では、岡山で出会ったというダンサー・土屋望がステージに登場。南壽の歌が具現化したような彼の表現に、観客は息を呑んで食い入るように熱中する。

ライブ中盤からはバンドメンバーが加わり、「パノラマライン」や「杏子屋娘」、「月夜ガラス」といった表情豊かなプリミティブな表現で楽しませ、更にストリングスとクラリネットが加わって「回遊魚の原風景」「うろこ雲とソーダ水槽」「わたしのノスタルジア」と、幻想的かつ広い世界観の中を泳ぐように歌い切った。

47都道府県ツアーを経て、彼女は一回りも二回りも大きく見えた。広いステージで、バンドメンバーとストリングス陣の真ん中で、まったく動じずに自分の時間の流し方で堂々と歌いきった。終演後、観客は惜しみない拍手を南壽に贈り、南壽は感極まって涙した。このツアーとこのワンマンの経験は、きっと彼女にとってかけがえのない思い出になるだろう。そして、まだまだ底が見えない不思議な魅力を持った歌手・南壽あさ子がこれから歌っていくであろう曲に、少なからず影響を与えるに違いない。
TEXT:Takeshi.Yamanaka

LIVE_南壽11

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