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意地と誇りを胸に突き進む不屈のパンクバンドが新たなるステージの出発地点に立つ

PH_SA2015年11月に発表された、SAのメジャーデビューというニュースに驚いた人は多かったのではないだろうか。2002年に現メンバーになってから14年間、圧倒的なライブパフォーマンスを武器に国内外を問わず突っ走り続けてきた彼ら。昨年7/11には初の東京・日比谷野外大音楽堂ワンマンライブを成功に収め、その模様が映画化/公開されることも決定する中で今回、ベストアルバム『ハローグッドバイ』で遂にメジャーへと進出する。ここに至るまでの経緯から始まり、これから見据える未来についてもTAISEI(Vo.)に語ってもらったスペシャル・インタビュー。

 

「男っていうのは勝負をかけなきゃいけない時があると思っていて。失敗するかもしれないけど、やらなきゃ成功もない。それだったら賭けてみようと思ったし、その賭けには勝ったわけだから、そこで1つの勝負は着いたような気がする。だからこそ、次に行っても良いのかなと」

●まずはSAがメジャーデビューするということに驚いたんですが、自分たちではいつかそういうこともあると考えていたんでしょうか?

TAISEI:考えていなかったね。俺らが生きていく音楽シーンは、メジャーとは真逆のところにあるっていう発想でいたから。もちろん歳もあったし、そこじゃないところでのし上がってやろうっていう。意地とかじゃないんだけど、そっちの方がカッコ良いなっていう気がするし、そういう中で14年間突っ走ってきた気がしていて。でも去年に日比谷野外音楽堂(以下野音)でのライブを成功させて自分たちの中である程度の自信もついた時に、ちょうどそういう話が来て「これは良いタイミングなのかな」っていう感覚があったんだよね。

●野音を終えた後に、メジャーからのお誘いがあったんですね。

TAISEI:そう。よく「最初から全部、画を描いていたんじゃないか」って言われるけど、全然そんなことはなくて。ある意味、急展開だったね。でも来るもの拒まずみたいなところがあって、「メジャーなんて別にいいよ…」っていう気持ちは全然なかった。48歳っていう良い歳になって、新しいフィールドでもう一度やってみても良いのかなっていう時には来た気がするから。

●新しいフィールドでやることに惹かれた。

TAISEI:やれることが広げられるなっていう。単純に、より多くの人に聴いてもらえるツールができたのかなというのはあって。

●素直にそう思えたのは、やはり野音を成功させたことが大きいのでは?

TAISEI:それはデカかったと思う。ある意味、SAとして意地を張ってやってきたことに対して、1つ答えは出たのかなっていう。バンドとしても一区切りだったと思うから。もしかしたら(観客がたくさん)入らないかもしれないっていう中でも、男っていうのは勝負をかけなきゃいけない時があると思っていて。失敗するかもしれないけど、やらなきゃ成功もない。それだったら賭けてみようと思ったし、その賭けには勝ったわけだから、そこで1つの勝負は着いたような気がする。だからこそ、次に行っても良いのかなと。

●野音は1つの賭けでもあったんですね。

TAISEI:自分たちがやってきたことに対しての決着というか、答えを見たかった。ゴールしたかったんだよね。ゴールしたから、また次のゴールを目指せるのかなっていう。メジャーという形の中でやれば、「よりドデカいマラソン大会に出れるんじゃないの?」っていうくらいの感覚で。

●その決断を後押しした要因の1つには、野音に集まった大勢のコムレイズ(※SAのファン)の姿というのもあるんじゃないかなと思うんですが。

TAISEI:そこは大きかった。ずっと地べたを這ってやってきた14年間だったと思うし、絶対に手を抜かないライブをやってきたから。俺らは来てくれたヤツらを信頼したし、来てくれたヤツらは俺らを信用してくれたから、あそこまでやれたと思うんだよね。みんなが“SAのライブを絶対に成功させてやろう”っていう意気込みを持っていたというか、男気・女気をすごく感じられた1日だったな。

●みんなが一丸となって野音を成功させた。

TAISEI:7/11は“SAの野音のライブ”だったんだけど、来たヤツらにとっても“自分たちの野音”だったと思うんだよね。SAというものを介して、自分の生きてきた人生の中で「俺はまだやれるぜ」っていうところを確認したかったんじゃないかなって。そういう1日になったんじゃないかと思う。

●それぞれの人生を重ねられたというか。

TAISEI:このメンバーになって2枚目の作品から日本語の歌詞になって…まあ英語の歌詞も含めてなんだけど、意味としてはずっと同じことを歌っているんだよね。それが「俺らは絶対上に行こうぜ」っていうことで、今は辛いかもしれないけど、「絶対行ける」っていう自己暗示をかけるというか。そういう歌を俺らはずっと歌ってきたし、それに賛同してくれるコムレイズが全国にいたっていうことだと思うんだよね。その言葉をずっと彼らが胸に抱いていたからこそ、野音でみんなが「SAが野音やったんだから、俺にできないわけがない」っていうふうに自分に返したんじゃないかなと思う。

●その場にいた人たちにとっても、人生における1つのキッカケになったのかもしれない。

TAISEI:なったんじゃないかなと思うね。過去を振り返ることもあっただろうし、これからの未来を見ることもあっただろうなって。そこは音楽をやっていて良かったなと思うよ。自分たちの作ったものが、人の人生の1ページに何かを刻み込んだというか。そういうことができたのは、音楽をやっていて良かったなと思う。何度も挫折しそうになりながら突っ走ってきたけど、「やっと音楽家になれたんだな」と思ったね。

●“音楽家”になれたという実感が得られた。

TAISEI:音楽をちゃんと作って人の心に届けるっていうことを少なからずやれたっていうのは、パンクがどうだとかロックがどうしたじゃなくて、自分は音楽家になったんだなって。それを本当の意味で確認できたから、歌を歌ってきて良かったと思うし、音楽をやってきて良かったなとも思えた。

●実際、今回のベストアルバム『ハローグッドバイ』を聴かせて頂いた時も、単に“パンク”というものには収まらない“SAの音楽”になっていると思ったんです。

TAISEI:前回のツアーあたりから「ジャンルはSAだ」って、コムレイズの前で言い続けてきたんだよね。「パンクとかロックとかどうでもいい、俺らは俺らだからさ」っていうツッパリもあるんだけど、実は最初にこの4人で始めた時にまず「パンクロックっていうカテゴリやジャンルとか楽曲のスタイルに囚われないようにやろうぜ」っていうことを酒を飲みながら毎日ディスカッションしていて。

●最初からパンクという枠には囚われないように話し合っていた。

TAISEI:なぜそうしたかといえば、イメージがやっぱり強いから。たとえばNAOKIは元々パンクの何々というバンドにいたとか、SAは伝説のパンクバンドだとか言われたりしたけど、そこに留まるのだけはまっぴらゴメンだと思っていたんだよね。それは14年前からずっと考えていたことだし、「こんなサウンドも、こんな切り口も、こんなワードも」っていう挑戦は随分前から続けてきたバンドで。ある意味で間口の広いバンドだったからこそ今回の作品を聴いてもらっても、みんなが想像するいわゆる“パンクロック”っていうものより幅が広いだろうし、それは俺らの財産だなと思っている。

●そういう幅広い楽曲がある中で、今回のベストアルバムの収録曲を選ぶ基準は何だったんですか?

TAISEI:まず今回なぜベストアルバムなのかという話をすると、日本国内では一度もまだ出したことがなかったというのが第一にあって。色んなところでライブをやる機会が増えたことでSAを新たに知った人たちが、この14年間で何枚もCDを出している中で「どれを買えば良いんですか?」ってなるんだよね。やっぱり最初は「とりあえずベスト盤だな」ってなるだろうと考えたら、セレクトとしてはライブで鉄板の曲を集めたものにしようと。“これぞSA”みたいな曲を選ぶのが一番良いのかなっていう。

●収録曲の中で4曲は再録されているわけですが、これはどういう理由から?

TAISEI:それは昔録った作品から、今までの時間を経て育っているというところが大きくて。昔の録音もそれはそれで勢いがあって良いんだけど、今の4人がこの歳で奏でることで昔の曲たちがどう育っているかを確認したかった。あとはちゃんと今の音でやりたいなというのがあって、4曲は録り直しをしたっていうのはあるね。他の曲に関しては作品自体に力が元々あったから、そのままで良いんじゃないかなっていう。

●冒頭の新曲2曲の歌詞は、野音やメジャーデビューを経た今の心境を映し出しているように感じました。

TAISEI:単純だから、そういうところがすぐ出ちゃうんだよね(笑)。「勝って兜の緒を締めよ」じゃないけど、「もう1回、腹を据えて行くぞ」っていうのもあって。

●M-1「START ALL OVER AGAIN!」の“ビッと張ってこうぜ!”という歌い出しは、自分自身にも発破をかける感じなのかなと。

TAISEI:歌詞はだいたい自分に言っているものが多いよね。でも自分がそうだと思った歌詞は、人が聴いても「そうだよな」って言ってくれるだろうなと思っていて。俺の作詞っていうのは人に向けて歌うというよりも、自分で納得したいという気持ちのほうが強いのかもしれない。

●そもそも自分が納得していないと、他人も納得するわけがないですよね。

TAISEI:そういうことだよね。でも歌詞については、全部を納得してもらわなくても良いと考えていて。1ワードや1フレーズだけでも「そうだよな」って思えて、自分の境遇や心情にバチンと来る歌詞っていうのが俺自身も好きだから。そういう歌詞であれば良いのかなと思うんだよね。

●M-2「新しい歩幅」のほうは“別れ”を歌いつつも、新しい始まりを示すような曲になっていますが。

TAISEI:“別れ”っていうのは、人生48年も生きてきたら何度も経験してきたわけで。「ごめんな! 申し訳ない」っていう気持ちもあるけども、やっぱり「自分は行かなきゃいけないんだよね」っていう。カッコつけた言い方をすれば、男のダンディズムじゃないけど、“さすらい”なんでしょうね。さすらっていきたいなと思う。

●別れはありつつも、前に進むのをやめることはできない。

TAISEI:別れは多いけど、逆にこれから先でどれだけの人間と出会えるかは皆目見当もつかなくて。でも出会えるならより多くの人と出会いたいし、色んなヤツらと会話したいし、俺らの音楽を聴かせたいし、共感して欲しいんだよね。それが音楽家としては至極当然な話じゃないのかなって思う。

●歳を取ると“俺はこれで良いんだ”っていう諦めの境地みたいなところに辿り着いたりもするわけですが、そういう部分は全くないわけですね。

TAISEI:全然諦めてないね。“俺はこれで良いんだ”ってなるには、あと20〜30年かかるんじゃない(笑)。まだまだ坂道の途中だから。

●今作の『ハローグッドバイ』というタイトルも、そういう心境が表れているのでは?

TAISEI:総括して、そういう言葉で言えたら良いのかなと。たとえばタイトルが「まだまだ行くぜ!」を英語にしたようなものだったら何となくつまらないなと思うし、「今の俺たちの立ち位置ってそういうところだよね」って。ハローもあるし、グッドバイもあるだろうっていう。

●まだ坂道の途中にいて、これからも坂を登り続ける意志の表れなのかなと。

TAISEI:坂道をずっと走ってきたんだけど、“長ぇな、この坂!”っていう感覚はあって。これから先もまだ長いんだろうけど、だったら「途中でゴールテープを用意しようぜ」っていう。坂の途中でいったんゴールを切るっていうのが良いのかなと思ったんだよね。もっと坂の上にはゴールテープがまたあって、その先にはすごく良い景色があるんだろうなっていう。そんな気がするな。

Interview:IMAI
Assistant:森下恭子

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