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吉田健児

刺々しい純粋性をまとった吉田健児の歌

PHOTO_吉田健児何のツテもなく7年前に大阪から上京し、音楽活動をスタートさせたシンガーソングライター・吉田健児。ライブハウスシーンをフィルターを通すことなく真っ直ぐに見つめる彼は、自分を飾ることなく、奇をてらうこともなく、そして悲観することもなく、ただ自分の歌だけを信じて駆け抜けてきた。そんな彼のフラットな姿勢はたくさんの人を巻き込み、その才能は多くのミュージシャンや関係者の琴線に触れた。西原誠(ex.GRAPEVINE)がプロデュースし、西川弘剛(GRAPEVINE)をゲストに迎えて制作された1stアルバム『forthemorningafter』は、吉田健児の果てしない純粋性と繊細さが結晶化した作品だ。

 

「地に足がついた曲というか、泥臭いようなもの、それでいて気を衒ったようなことじゃなくシンプルにキラリと光るような曲がいちばんかっこいいと思うんです」

●吉田さんは大阪出身なんですよね?

吉田:はい、枚方です。でも大阪では音楽をやっていなかったんです。僕は寝屋川高校やったんですけど、当時ウロウロしていた近くに寝屋川VINTAGEっていうライブハウスがあるらしくて。でもそれすらもまったく知らず。

●何していたんですか?

吉田:勉強していた感じです(笑)。

●賢い子だった?

吉田:たぶん賢いうちには入っていたと思うんですけど。父親が車で尾崎豊を流してて“いい曲だな”と思って。それでカラオケに行ったときに歌ってみたら“あれ? 僕歌える”と思って。それで高校を卒業したら音楽をやりたいと思っていたんですけど、「大学だけは保険で行ってくれ」と母が言うから大学に入ったんです。

●音楽をやりたいと思ったのは、なにか理由があるんですか?

吉田:“あ、なんかイケる”って勝手に思ったんですよね。まったく何の確信もないんですけど。

●根拠も確信も経験もないのに?

吉田:はい。

●すごいな。

吉田:そもそも今もヴォーカルにあまり興味がないんですけど。

●最初からツッコミどころが多すぎる(笑)。

吉田:僕の人生の唯一の自慢できる話があって。高校生のとき、近くにヴォーカルレッスンをやっている音楽教室があって、そこが募集していた体験レッスンに参加したんですよ。その日は偉い講師が来るからということで。そしたら生徒が10人くらい居て、講師の人にワンフレーズずつ歌うように言われたんです。

●はい。

吉田:それで歌ったら「君は帰っていいよ」と言われて。そう言われたのは僕だけだから「何でですか?」って訊いたら「君はいらんことをやらん方がいいよ。それでいい」と。

●ほう。

吉田:それが僕の中ですごく自信になったんです。今から考えたから単に怒っていたのかもしれないですけど(笑)、でもそれで勘違いしてしまって、未だに「腹式呼吸はやっておいた方がいい」とか言われるんですけど「ヴォーカリストとしての素養は一切身に付けない」という選択肢を選んでいるんです。自分がヴォーカリストのつもりもないし、ヴォーカルなんて下手な方がいいだろうっていうのが根底にあるので。

●シンガーソングライターじゃなかったっけ?

吉田:そうなんですけど、ヴォーカルは下手な方がいいなと。ヴォーカルで惹き付けたいとまったく思わなくて、僕の場合は曲で惹き付けたいんです。「ヴォーカルがいい」とか「歌が上手い」ってシンガーソングライターが言われたら終わりだと思うんですよ。

●なんかすごいな。

吉田:「いい曲だな」と言われたらいいんですけど。

●音楽を始めて7年くらいということですが、大学を卒業して上京したんですか?

吉田:そうですね。卒業してちょっと経ってから。何のツテもなく上京したんですけど、今もベースを弾いているやつとすぐに繋がって、彼が全部用意して、ライブハウスとかも全部教えてくれたんです。だから1ヶ月経たずにいきなり準備ができて。ただ僕はド素人だから、いきなり渋谷La.mamaでライブをすることになったんですけど、アンプのセッティングも全部わからないし、リハのときもギターのやつにセッティングしてもらって「音が出ない」とか言ってて。そういうことを重ねているうちに、徐々に覚えていった感じですね。

●ほう。

吉田:たぶん周りからすると“早すぎる”と思われているんでしょうけど、1年経たないうちにいろんな人と出会って、業界関係者から声かけられたり、どんどんライブが決まっていったり。ビギナーズラックが続いたんですよね。

●サポートメンバーにも恵まれたし、出会いにも恵まれたと。

吉田:ちょっとおもしろかったみたいなんですよね。“何だコイツ?”って。

●シーンのこと何も知らないけど、歌に対する自信だけはあるやつが出てきたと。

吉田:いちばん敷居が高いライブハウスが下北沢CLUB Queってところだってミュージシャンが口をそろえて言うから、CLUB Queに1人で行って店長っぽい人に「ちょっと出してくれ」と言ったら「オーディションがある」と言われて。でも僕は「オーディションとかやりたくないから、これを聴いてもしよかったら電話してください」と言って、デモテープを置いて帰ったんです。“何でライブハウスでオーディションせなあかんねん”と思ってたので(笑)。

●ハハハ(笑)。

吉田:“どうせあかんやろ”と思っていて。でも2週間後くらいに店長が電話をくれて「オーディションなしで出ていい」と言われて。そこから毎月ですね。しかもスペシャルなライブばかり。そこで集中的に慣らしてもらったんです。

●プロの人たちのライブを間近で観て刺激を受けたと。

吉田:というか、僕は控え室にいて全然観なかったですけど(笑)。

●観てないんかい(笑)。

吉田:それで「みんな控え室で慣れ合いみたいになっているけど、吉田みたいにそんなにヘコヘコ挨拶しないくらいがちょうどいい」と店長に褒められたんですよ。僕もそれを真に受けて、あまり挨拶とかしなかったんです。みんながペコペコする有名な人とかにも、ちょっとだけは挨拶するけどあまりしていなかったら、「さすがに挨拶しろ」と怒られて。そこから心を入れ替えたんです。

●ハハハ(笑)。ある意味、めちゃくちゃ純粋なのかもしれない。

吉田:後に店長が「普通はいきなり“◯◯さんと対バンさせてください”とか身の程を知らないやつばかりだけど、吉田は“誰がいいかわかんないです”と言ったからおもしろいと思った」と言っていたんですけど、僕は本当に何もわかってないだけだったんです(笑)。別に誰が有名とかも全然知らないし、だから単純に「何でもいいです」って。無知だっただけの話なんですけど、それをちょっと美化されたようで。

●でも無知を隠そうとしていなかったのが良かったのでは?

吉田:そうですね。別にライブハウスシーンを知らなくてもいいだろうっていう考えがあったから(笑)。僕の母親とかが知っているくらいが有名な人だと思っていたし、ここら辺で誰と当たりたいとかも特にないし。それをそのまま言っただけの話なんですけど、そこからかなり肝煎りみたいな感じで応援してくれて。その繋がりで今回のアルバムをプロデュースしてくれた西原さん(GRAPEVINE)とも繋がったんです。

●話を訊いていたらなんとなく伝わってきたんですが、M-1「ハダカ」で歌っているように、吉田さんという人は表層的なものや芯がないもの、飾られているものや薄っぺらいもの…そういうものにツバを吐いている姿勢があるというか。

吉田:確かにその通りで(笑)。

●でもツバを吐いているだけじゃなくて、一方でM-4「シルシ」のように愛のある曲も書いている。だから何か信用ができるんですよね。正直さが音楽に出ているというか。

吉田:僕が心掛けているのは、曲の中では嘘を吐かないということで。日頃嘘なんてナンボでもついていいから、曲の中では正直にいようと。

●日頃は嘘ついてるんですか?

吉田:やっぱり嫌われたら僕も気にするし、ほどほどには嘘というかお世辞を言ったりしているんですけど(笑)、曲の中ではハッタリとかは言いたくないんです。

●そういう意味では、「ハダカ」で歌っている価値観は、ライブハウスの価値観に近い気がするんですよね。ライブハウスでは飾ったり背伸びしたりするよりも、さらけ出したり純度が高いものが伝わるというか。

吉田:僕はたぶんフォークが根にあるんだろうなっていう気がしているんです。僕がいちばん好きなのは、フォークとロックの間のど真ん中っていうところなんですよね。

●それは精神性も含めて?

吉田:そうですね。だから楽曲を書く際にギター1本で成立しない曲はダメだという想いがあるから、どんなにロックな曲でもギター1本でできる範疇でやりたいと思っているんです。地に足がついた曲というか、泥臭いようなもの、それでいて気を衒ったようなことじゃなくシンプルにキラリと光るような曲がいちばんかっこいいと思うんです。ちょっと土の匂いがあるというか、泥臭いというか。

●土の匂いとか、体温とか、人間くささというか。

吉田:“クールから遠ざかりたい”という感じ(笑)。スタイリッシュとかは当てはまらない。

●なるほど。

吉田:あと僕の中身が結構女性っぽいみたいで、M-6「ベガ」とかもそうなんですけど、歌詞を書いたら女性っぽい目線になっていたりするんですよね。

●寂しがり屋?

吉田:思いっきりそうですね。変態レベルで寂しがり屋です。僕自身が完全に過保護に育ったので、ものすごく可愛がられていたんですよ。僕が望めば何でも買ってもらっていて、買ってもらえなかったら親に「ケチ!」とずっと言っていたらしいので(笑)。

●うわ! 親は怒らなかったんですか?

吉田:店に並んで買ってくれたりしていました。こんな子どもは絶対嫌ですね(笑)。

●そういう親だからこんな大人になっちゃったのか(笑)。

吉田:だから僕のウィークポイントとして自己中でワガママがすごいところ。ただ、繊細的なメンタルっていうのもあって。常に守ってきてもらったので、そういう部分も全部音楽に出てるんじゃないかなと。

●確かに言われてみればそういう側面が曲に出ていますね。

吉田:そうだと思います。

●今作は西原さんにプロデュースしていただいたということですが、どうでした?

吉田:西原さんに言われたことは、半分くらいしか聞かないんですよ。もちろん信頼もしているし、キャリア的にもすごい人ですけど、でも全部聞いてもダメだし。だから半分くらい無視していました。

●無視していたって(苦笑)。

吉田:M-3「ロックンロールなんてジョークだ」も「最後にこういうメロディを入れたらいいんじゃないか?」と言われましたけど「いいっすね、でもやらないっす」みたいな。こないだ聞いたんですけど、GRAPEVINEもプロデューサーの根岸さんの言うこと全然聞かなかったらしいですし。

●ハハハ(笑)。

吉田:全然路線が違うんですけど、“あの人のロックはかっこいい”というリスペクトがあるし、ニール・ヤングが好きっていう共通点もあるんです。他の人の言うことは100パーセント聞かないですけど、あの人の言うことは半分は聞くっていう感じですね。

●なるほど。きっと計算はしていないと思いますけど、刺々しいほどの純粋性を持っているからこそ、周りの人を巻き込むんでしょうね。

吉田:それQueの店長にも言われたんですよ。「今までやったこと無いけど、お前にはメッセージ書いたる」って言ってくれて、僕のフライヤーにメッセージを書いてくれることになったんです。「ひと言だけでいいですよ」って言ってたら「1週間だけ待ってくれ」と言われたんですけど、1ヶ月経っても来なくて。

●はい。

吉田:それで「いつになりますか?」って訊いたら「ちょっと待て」と言って出してくれたのが、A4にびっしり書かれた文章だったんです。「ここから好きなところを使えばいいから」って、僕のことをすげぇ書いてくれてるんですよ。

●ほう。

吉田:そこで使わせてもらったのが「こいつには人を巻き込んでいく力がある。気にしていて下さい」という文章だったんです。さっき言ったように僕はワガママだし、それが“人を巻き込む力”なのかどうかはわからないですけどね。

interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子

 

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