音楽メディア・フリーマガジン

KIDS

5年半の歴史を噛み締め、よりいっそう信念を固めた彼らに死角はない

KIDS“『LとL』発売記念ワンマンライブ”
2012/3/7@OSAKA MUSE

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見渡す限りの人、人、人。ソールドアウトで超満員となったOSAKA MUSEには、制服を着た女子高生やスーツ姿のサラリーマン、果てはメンバーと親子ほど歳の離れたように見える主婦らしき人までいる。そわそわと話をしていたり、お酒を飲みかわしていたりと様子は様々だが、誰もが同じようにKIDSの登場を心待ちにしていた。

幕が開くと、待ってましたと言わんばかりに前に押しかけるファン達。Dr./Cho.片貝、G./Cho.植田、Ba./Cho.藤村、Vo./G.奥野の順に現れ、4人がステージの中央で手を重ね気合いを入れるとそれぞれの位置に着く。そして「遊ぼうぜ!」と、奥野の一言と共にKIDSのライブが始まった。1曲目は同日にリリースされた1stメジャーミニアルバム『LとL』のM-1「それなら僕は」。植田がハンドクラップを促せば、オーディエンスはすぐさま反応し手を叩き始め、サビに入ると手をあげてジャンプする。メンバー同士は演奏中も事あるごとに顔を見合わせ、視線が合うたびに微笑み合う。互いが互いを尊重し、信頼しあっているのがまっすぐに伝わって来た。

「みんな、今日は来てくれて本当にありがとう!」。3曲目の「光へ」が終わりMCに入ると、奥野はまっさきにファンへの感謝を告げた。植田は「本当にありがとう」と言った後、「次の曲で最後だけど」とちょっとしたボケをかます。するとどこからか「金返せー!」と冗談まじりの声が上がり、植田も笑いながら「お金の話はするなー!」と叫び返す。友達同士の会話みたいなこの距離感がなんとも心地良い。「次は少しゆっくりな曲をやります」と言って始まった4曲目は「Liar」。“桜風が今吹きました 君を連れていくんでしょ?”…彼の歌声はどこまでも優しく、ものやわらかな表情をしているのに、瞳の奥からはどこか感傷的な切なさを感じて目が離せなくなる。まるで涙を流している姿が見えた気がしたのだ。
KIDSの楽曲はメロディや歌詞といった“歌”要素に大きな力があるが、この曲では特に“歌”の力に強く惹き込まれた。それはきっと、4人の感情が常に共有されているからだと思う。ポジティブなエネルギーに溢れている曲では誰もが顔を見合わせて笑顔になり、「Liar」のような曲では全員が顔をふせ、感情を音に込めて放つ。空気感はもちろん、立ち居振る舞いすらもリンクするほど、彼らは同じ方向を向いているのだ。

そんな一面を魅せてくれた後は「ライブで遊べるように」と持ってきた新曲「ミラーボール」。先ほどまでの雰囲気とはうって変わった独特なディスコビートに、自然と体が揺れ始める。ここでまたメンバーがハンドクラップを呼びかけたが、初めて聴く人も多いのだろう、なかなか手が挙がらない。そこでフロントにいる奥野が「左右のオットコ前が見本を見せるから!」と言って、植田と藤村が手を叩き出す。するとひとり、またひとりと少しずつ手が上がり始め、ついには600本以上もの腕が天に向け生え揃い、大きなグルーヴを生み出した。2度目のMC以降は懐かしい曲が続き、イントロが鳴った瞬間ファンからは感嘆の声が漏れる。「Maybe it…」ではオーディエンスがシンガロングし、「流星群」では盛大なoiコール。昔の曲でもこれほどの盛り上がりを見せるのは、長い年月をKIDSと共に過ごして来た仲間が数多く集っている証拠だ。そして奥野の「たくさんの人に支えられてここまで来れたから、メジャーデビューしても変わらないってことを伝えたいと思った」という発言から、彼らがその仲間たちをどれほど大切に思っているかが伝わって来る。

ライブはいよいよ終盤戦。開放感を感じるサウンドが印象的な「心」の次は「HONEY」。アウトロでは心地良いギターが鳴り響き…他パートの演奏が終わった後もずっと鳴り続ける。「おーい、曲終わってんで」とメンバーが呼びかけるが、おかまいなしに弾き続ける植田。藤村が顔を覗き込み「寝てる」とつぶやくと会場からまた笑いがこぼれ、ついには奥野がボリュームノブを締めて音量を0にする。そして再びゆっくりと解放すると…植田が「愛してるよ」のイントロを弾き始めた! “愛してるよ”という歌詞に合わせて、メンバーとファンは何度も何度も愛を伝え合い、喜びを分かち合った。

ライブ中、4人は「ありがとう」という言葉で、支えてきてくれた人たちに謝意を表していた。それはきっと、結成から5年半、いくつもの出会いがあり別れがあり、それでも進み続けて来れたのは、自分たちを愛してくれている人たちのおかげだということを誰よりもわかっているからだ。彼らは言った。「ここがゴールじゃなくて、僕らは今日からがスタートです。これからもよろしくお願いします」と。2006年、奈良で産声をあげた子どもたちは、これからもさらに成長を続け突き進んでいくだろう。5年半の歴史を振り返り噛み締めて、よりいっそう信念を固めた彼らに死角はない。

TEXT:森下恭子/PHOTO:Takashi Tsuchihashi

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