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三柴理

筋肉少女帯の独特極まりない心的世界にピアノ一台で挑んだ恐るべき怪作

187_三柴_A筋肉少女帯や特撮、THE金鶴などでの活動で知られる、日本ロック界最強のピアニスト、三柴理。筋肉少女帯のメジャーデビュー25周年を記念したアイテムの1つとして、その他に類を見ない極めて独創的なロック・チューンをピアノ・ソロ曲へと昇華させたアルバムを発表した。高い演奏技術はもちろん録音環境にもとことんこだわったという今作はロックの凶悪性だけでなく、クラシックが持つ真の恐ろしさをも垣間見せてくれる。

 

 

 

 

 

●今回、筋肉少女帯の曲をピアノ・ソロでアレンジするという企画をやるに至った経緯とは?

三柴:去年のことなんですけど、大槻(ケンヂ)くんから「来年、筋肉少女帯が25周年だから、エディもソロでもやったら?」と言われて。彼は僕が以前に発表したQueenのカバー集(FREDDIE MERCURY TRIBUTE『LOVE OF MY LIFE』)をすごく気に入ってくれて、ライブの入退場時に流してくれたりもしているんですよ。そこで「筋少のカバーをやったら?」という話になりました。

●選曲はどんな基準だったんですか?

三柴:THUNDER YOU POISON VIPERという僕と内田(雄一郎)と長谷川浩二というドラマーの3人でやっているセッションバンドがあるんですけど、そこで内田の曲をやってみた時に「僕は内田の曲が好きだな」と思って。そこで今回は内田の曲を中心に考えて、僕がメンバーだった頃の『仏陀L』や『SISTER STRAWBERRY』の中から選びました。最後のM-6「Guru」だけは、大槻くんがソロで元々やっていた曲を筋少でもやるようになったもので。編曲は僕だったので、それも入れることにしたんです。シングル曲とか、そういうことはあまり考えずに、選曲していますね(笑)。

●アレンジの際はどういう点を意識されましたか?

三柴:大槻くんが書く歌詞は人間のダークな部分を表していたりして、すごく独特なんですよ。歌詞がないピアノ・ソロでどうやって、そのドロドロ感を表せるかということは考えましたね。しかも独特な節回しなので、音符にできないような叫びとかもあるんです。そういうものも全部ピアノで表しているので、それが面白いかなと思います。

●そういったところまで含めて、基本的には原曲に忠実にピアノ・アレンジしている?

三柴:全く変えていないと言ってもいいですね。ギター、ベース、ドラムの演奏をほぼ完コピしたものをどうやって10本の指だけで弾くかということは、編曲の時に苦労しましたが。原曲を録音した当時に内田が「こういうベースを入れようよ」と言ったことなんかも思い出しながら編曲したんですよ。だから、今回は本当に思い入れの強い曲ばかりなんです。

●当時のエピソードも覚えているものなんですね。

三柴:わりと僕は“過去のことは忘れて、今が一番楽しい”というタイプなんですけど、曲を弾いていると思い出すというか。音楽自体がものを言ってくる感じなので、それをどうやって聴いている人にも伝わるように表そうかなとは考えましたね。筋肉少女帯というバンドはああいう歌詞やルックスのせいもあって、サブカル的な扱いをずっと受けてきたんです。僕がメンバーだった当時は床屋でどんなバンドをやっているのか訊かれて「筋肉少女帯です」と答えると、プッと笑われたりもして(笑)。そういう劣等感もあって、「ちゃんとした楽曲なんだよ」というところはいつか見せたいなと思っていたんですよ。

●そういう思いも今作には込められている。

三柴:今回は特に自分がやっていた曲なので、主観的なものもあって。「こういう感じでみんなに聴いて欲しいんだよ」という演奏がしたかったし、ただのカバーをやるのとは違う醍醐味がありましたね。ピアノ・ソロになることで、原曲のドロドロとしたダークな歌詞が苦手で普段はメジャーな曲ばかり聴いているような人にも聴けるようなサウンドになっているので、もうちょっと幅広い層の人たちに聴いて欲しいなというところもあります。

●聴きやすさという点では、音質の良さにもこだわられたのでは?

三柴:今回はものすごく良いピアノを選んで、録音する場所も良いところを選んで、録音にも凝ったんです。すごく広いスタジオにマイクを6本立てて、24bit/96kHzで録ったので、SACDにしても良いようなデータになっています。マイクの位置にもすごくこだわっていて。僕はTHE金鶴というユニットもやっているんですけど、そのメンバーと一緒にどこを狙ったら良い音が録れるかというのを試行錯誤しました。音決めに3時間くらいかけてから、録り始めましたね。

●今回は1発録りなんですよね?

三柴:今は録音したものの上から音を重ねたり貼り付けたり色んなことを駆使できる世の中ですけど、そういうことは一切していなくて。ものすごく練習して、ものすごい集中力で弾きましたね。

●体力的にも精神的にも消耗しそうですが…。

三柴:そうなんですよ。だからそこに最高の体調を持っていくように意識しつつ、1日6時間と決めて録って。もうダメだと思ったら、その日は帰るという形でしたね。2日間で録ったんですけど、1〜4曲目を1日目に録って、残りの5〜6曲目を2日目に録りました。

●ピアノは何を使われたんですか?

三柴:いつもはベーゼンドルファーというのを使っているんですが、そのまろやかでクラシカルな音だと「ただのクラシックになっちゃったね」とロックを聴き慣れた人に思われるのが嫌だなと。だから今回は、スタインウェイのフルコンサートグランドを使いました。ベーゼンドルファーの低音は温かいまあるい音がするんですけど、スタインウェイのほうはギンッっていう音がするんです。なので、凶悪なロックを表すにはちょうどいいなと思って。

●凶悪なんですね(笑)。

三柴:ロックって、デスメタルとかブラストビートとか恐いものはいっぱいあるじゃないですか。でも本当におっかないのは、クラシックなんです。クラシックを聴いていると、本当の人間の怖さみたいなものをものすごく感じる。僕はクラシックをずっと学んできた人間だからそういうおっかなさも表現できるかな? と思うので、そこにもこだわって編曲しましたね。ピアノ1発録りにしたのも、それによって気迫とかも伝わるかなと思ったからで。だから夜に1人で聴くと、ちょっとおっかないんじゃないかな(笑)。今回は個人的な思い入れも含めて、念がこもった作品になったと思います。

●自分がやりたかった音が実現できている?

三柴:『Pianism』という名がつく作品においては、全てそうなっているんですよ。今回も本当にうれしいものができあがりました。(製品盤は)マスタリング後にもらったCD-Rよりも音が断然良くなっているので、本当にヘヴィロテして聴いていますね。

Interview:IMAI

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