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中野テルヲ

尽きることなき探究心が生んだポスト・ポップ・ミュージックのマスターピース

OLYMPUS DIGITAL CAMERA今年で50歳という節目の年を迎える中野テルヲが、ニューアルバム『Deep Architecture』をリリースした。新曲はもちろんのこと、過去に在籍したP-MODELやLONG VACATION時代に提供した楽曲のセルフカバーや、ザ・スターリンの「ロマンチスト」という意表を突いたカバー曲も収録した今作。根幹にある音響派エレクトリック・ミュージックをベースにしながらも、様々な環境音を取り入れて構築されたサウンドは人間味のある温かさを感じさせる。さらに今回は中野自身がプレイするエレクトリック・ベースをフィーチャーし、かつてないほどのグルーヴも加わった。不思議と耳を捉えるキャッチーなメロディも健在! 長いキャリアで積み重ねてきた音楽的背景の豊穣さと尽きることなき探究心が生み出すディープな音像は、既存のジャンルには到底収まらない。未知なるポスト・ポップ・ミュージックの誕生だ。

 

 

 

●今作『Deep Architecture』のレコーディング中はスタジオの入っている建物が工事中だったということで、その音も入っているそうですね。

中野:ちょうどレコーディングを始めた時に、ウチのスタジオが入っているビルの外壁補修工事が始まったんですよ。工事のための足場をパイプで組む作業から始まったので、そのパイプを叩く音も今作には入っています。鉄パイプをカンカン叩く音や、コンクリートの打音検査のトントンという音にまみれながら今回の録音は進みました。

●レコーディング中にそういう外部の音が入るのは、気にならないんですか?

中野:私のプライベートスタジオは普通の雑居ビルの一室で、周りの音を遮断してマイクを立てて音を拾うような録音ブースもないんです。なので普段から、外部の音がガンガン入ってきちゃうんですよ。街道沿いなので車が通る音も入りますし、そういった環境音は全てありきで楽しもうじゃないかという感じですね。

●いっそ、周りの環境音も取り入れてしまおうと。

中野:スタジオで鳴っている空調のノイズなんて、もう当たり前になってきて。それだけ長い時間そのプライベートスタジオで過ごしているということなんですけど、空調ノイズのクセもわかってきたんです。だから逆にそのクセを活かして、録音にミックスしてみたりもして。

●空調ノイズのクセがわかるって(笑)。

中野:そういう外部からのノイズも使いつつ、今回は電気製品の発する音なんかも積極的に取り込みました。具体的に言うと電子レンジのモーター音やブザー音だったり、プリンターのヘッドが動く音やスキャナーの音、プロパンガスの火が点く音など…そんなものがたくさん入っています(笑)。

●M-8「ディープ・アーキテクチャ」の歌詞に出てくる単語は、そうやって利用したものの羅列でしょうか?

中野:そうなんです。あの曲にはそういう生活音に混じって、電子音も乗っかっているんですよね。そのバランスがとても良いなと思っています。

●歌詞の中に出てくる単語の羅列に、サインウェーヴなんかが出てくるのはそういうことなんですね。

中野:それらはもう全部、自分にとっての環境音なんですよ。

●その場で鳴っている全ての音を含んで、音楽だと。

中野:そうですね。そういうものを排除していくと、無音になっちゃいますから。

●だから今回もそういう感覚で、工事の騒音も逆に活かしてしまおうとなった。

中野:まあ、そんな中でレコーディングしているこっちが悪いんです(笑)。だから、その状況をこのアルバムを作るための演出だと考えて、良い音が来たらマイクで狙うようにしていましたね。無闇にノイズを取り入れているわけじゃなくて、良いところで鳴ったテイクを採用するような感じだったので、すごく時間がかかりました。

●工事作業中の人は演奏しているわけじゃないので、偶然性に左右されてしまいますからね(笑)。

中野:でもドリルの音とかも良いんですよ(笑)。あと、工事の人が夕方になると帰って行くんですけど、その後でこっそり鉄パイプを借りて自分でクリックを聴きながらトントンと4小節分叩いたりもして(笑)。それをまたスタジオに持って行って加工したりもしたので、インダストリアル音の宝庫でしたね。

●まさにインダストリアル(工業)・ノイズですね(笑)。カンカンという金属音が特徴的なM-3「Legs」は、その工事の音を使っているんでしょうか?

中野:この曲はビートがしっかりしているのでそういう音がとりわけ耳につくと思うんですけど、実は全曲でカンカン叩いているんですよ。とにかくカンカン・カンカン叩いています(笑)。

●M-1「Leonid」のガムランっぽい金属音もすごく印象的でした。

中野:あれはグロッケンシュピールですね。そういうシンセ類が出す音も自然とマッチしていて。シンセやシーケンスの音を1回オープンリールテープに録ってから使ったりもしているんです。単調なフレーズでもオープンリールテープやCDJに録ってから使ってやると、音に揺れが生まれたりして良いんですよ。今回は昭和30年代の真空管式オープンリールテープレコーダーでシーケンス音を録って、そのテープを手で早送りしたりとか急にストップしてみたりして遊んだりもしています。

●中野さんの音にアナログ的な温かみを感じるのは、そういう手法を使っているからなんでしょうね。

中野:自分はまだ80年代を引きずっていますから、聴くものもアナログっぽい録音のものが多くて。79年頃から80年代中盤くらいまでのものが好きなんですよ。たとえばPublic Image LtdとかThe Pop Group、The Flying Lizardsとか。パンクからポストパンクの時代のものに一番影響を受けています。だから、音の質感もその頃のものが好きでよく聴いていたので、染み付いているんでしょうね。

●実は、ルーツにはパンクがある。

中野:そうなんですよ。私のことをテクノだと思ってくれている人が多いんでしょうけど、根っこはそこですね。

●確かに、世の中の流行りに迎合したような音楽をやっていないという点ではパンク精神を感じます。

中野:そういうことはやらないですね。なるべくなら世間の流行りとは真逆のところをやっていたいとは思っています。

●M-7「ロマンチスト」(ザ・スターリン)をカバーされているのも、パンクがルーツにあるからなんですね。

中野:ザ・スターリンはライブも生で何度か観ていますし、今でもよく聴いているんですよ。この曲をカバーするとなると、ただそのままやるんじゃなくて、自分だったらレゲエやダブの要素を入れてみたいなというイメージがあって。パンクをレゲエ調にやるという手法は80年代にあったものなので、自分にとってカバーしやすいといえばしやすかったですね。最初から、8分音符の頭が一拍ないベースラインも自然と出てきました。

●今回は全曲でベースを弾いているんですよね。

中野:元々、私はベーシストなんですよ。P-MODEL時代もベーシストでしたし、SONIC SKYでもベースを担当していたんです。

●ただ、最近はその側面があまりフィーチャーされていなかった気がします。

中野:そうですね。90年代にLONG VACATIONを始めた時は、キーボードやシステム的なものだったりアレンジを担当していましたから。ソロ活動を始めた時も、ベースは弾いていなかったんです。ボーカリストの折茂昌美さんと一緒にやっているユニットがあって、そちらで久々にベースを弾いたんですよ。それがキッカケになっていますね。

●そこから今作にもつながったんでしょうか?

中野:それに加えて、ソロで出した会場限定の4曲入りシングルでベースを弾いたこともあって。ソロ音源にベースを入れたのはそれが初めてだったんですけど、その時にちょっとした録音の工夫の仕方も見つけたりして「これは使えるな」と思ったんです。それで今回は全曲で弾いてみようじゃないかということになりましたね。ベースを入れることで打ち込みにはないグルーヴが出せたり、他にない質感のアタック感が出せるんじゃないかと思ったんですよ。

●生音のベースが入っていることも、音の温かみにつながっているのかなと。

中野:生音だし、音が近くで聴こえる感じに作ったりもしているんです。ベースは切り貼りせずに頭から最後まで通して弾いて、何テイクも録った中から選んでいて。コピー&ペーストしていないグルーヴも、そういう印象を与えているのかもしれないですね。

●ベースの録り方にはどんな工夫をしたんですか?

中野:ラインで普通にピックアップを録った音に加えて、マイクで弦のあたりを狙って録ったスラップ音だったり指弾きの細かいニュアンスの音も混ぜています。そのマイクにも色んな環境音が自然と乗っちゃうんですが。

●耳を澄ませば、色んな音が聞こえてくるような…。

中野:「この場所でこんな音が鳴っているな」という感じで、何度も聴く度に発見があると思います。

●ライブでそれを再現するのは難しそうですが。

中野:前作〜前々作あたりはライブでやることを想定して作っていたんですが、今回の音源はライブでそのまま再現することを考えた作り方はしていなくて。録音だからできることを突き詰めてみようという感じでしたね。なので打ち込みの要素というよりも、宅録による多重録音の要素が良い意味で出ているかなと思います。

●アルバムタイトルの『Deep Architecture』というのは、そういったところから来ているんでしょうか?

中野:今回は最初から何となく音の構築とか構造(=Architecture)といった部分を出せていけたらなという思いがあったんですよ。そこに工事の音が入ってきたのは偶然なんですけど、それが拍車をかけることになりましたね。

●Architectureの“建築”という意味も偶然、加わったと。建物が工事中だったことが本当に良い方向で作用したわけですね。

中野:なので工事が終わって、足場が取り払われるのがちょっと寂しかったですよ(笑)。

●ハハハ(笑)。ちなみに今回のアーティスト写真で、中野さんが手に持たれているものは何なんですか?

中野:これは私が「シェルター」と呼んでいる避難梯子なんですよ。普段はベランダにあるんですけど、外壁の補修工事をするのでベランダにあるものを室内に入れなきゃいけなくて。それを持って写真を撮ってみたら、意外とアリだなと(笑)。

●避難梯子だったんですね。

中野:でも「シェルター」って呼ぶと、カッコ良いでしょ?(笑)。服装も今回は少しハードな印象にしてみたくて、黒いものにしてみました。

●この服装もインダストリアルっぽいですよね。

中野:インダストリアルですよ。前作(『Oscillator and Spaceship』)の時は音も柔らかいイメージだったので服装もベージュを基本にしたものだったんですけど、この音にはこういう服装かなと。金属の音とかもあって、ハードな質感がありますからね。

Interview:IMAI

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