音楽メディア・フリーマガジン

THE LOCAL ART

矛盾も理不尽も連れて夜空をこえていく強靭な言葉と音

TLA A写メインバンド史上最も激しいアルバムとなった前作『MUSIC』で、リスナーに衝撃を与えたTHE LOCAL ART。約1年半の時を経て、その衝撃すら上回る激烈なニューアルバムを彼らが完成させた。『人間失格』という刺激的なタイトルのとおり、音だけでなく言葉もさらに激しさを増している。だが、それは他人を一方的に攻め立てるだけの言葉ではなく、Vo./Dr.岡田が自らの醜い部分や弱い部分と真摯に向き合った結果から生み出されたものだ。それゆえに今作は聴く者の心を鼓舞し、前へと進む力を与えてくれる。矛盾を感じながらも、何が起きても人は生きていくしかない。人間失格な人でも昇る陽を拝む権利はある。単なる前向きな歌とは決定的に違う境地から放たれる、強靭な言葉と音に打ちひしがれろ。紛れもない、最高傑作。

「文句って人は傷つけるけど、自分は傷つかない。“そういや攻撃ばっかりしていて、自分のことは何も言っていないな”と思って。今までの曲ではそこまで向き合えていなかったので、“自分のこういうところが本当は嫌なんだ”っていう誰にも触れられたくなかった部分を今回は言いたかった」

●今回はあえて今までよりもリリース期間を空けたということですが。

岡田:初めて1年半くらい空けましたね。今までは年に1枚くらいのペースで、定期的に作品をリリースしていたんです。でも前作『MUSIC』は自分たちでも“すごいものを作った”という自信があったので、それを超えるにはいつもどおりじゃダメだなと。だったら今回はとにかく曲をいっぱい作りまくって、その中から10曲を選ぼうと決めたんですよ。最初に“全曲うるさいものにしよう”とコンセプトを決めたんですけど、それを決めるまでにも時間がかかりましたね。ここで焦ってもしょうがないからゆっくり作って、本当にすごい1枚を作ろうという認識がメンバー間ではありました。

●前作を超えるためにあえて時間をかけて、たくさん作った曲の中から選りすぐったと。

岡田:いつも曲は多めに作るんですけど、今回はその何倍も作った中から選んだんです。だから自分は好きなのに、収録されなかった曲もあって。今までは入れたい曲は全部入れていたんですけど、それが入れられないというのは生まれて初めてでしたね。

●それくらいクオリティの高い楽曲が出揃っていた。ちなみに、今作に向けた曲作りはいつ頃から?

岡田:アルバムに向けてというわけじゃなく、曲作り自体は日常的にしているんですよ。1日に何曲とか自分の中で決めて作るようにしているので、仕事でどんなに疲れて帰ってきても必ず何かはやるようにしていて。

●音楽が生活と分かちがたくあるんですね。

岡田:忙しくて時間がない時もあるんですけど、常に音楽に触れていたいというか。触れていたいから、意識的にそうやって決めているのかもしれない。ファンの人たちはやっぱり新しい曲を聴きたいだろうし、みんなが待ってくれているから自分も曲を毎日作って精度を上げていきたいと思う。そこの関係でしかないのかな。

●待ってくれている人たちがいるから日々、曲を作る。

岡田:音楽って、普通は生活の片隅にあるものだと思うんです。だから、困った時や疲れている時に自分たちの音楽を聴いて、“明日も頑張ろう”と思ってくれたらいいなと。別に、いつも聴いていてほしいわけじゃない。そういう気持ちになれたので、とにかく今は“良い曲を作って、感動してもらいたい”と思っていますね。

●聴いた人が“頑張ろう”と思えるのは、今作の歌詞が単に不平不満を吐き出しているわけじゃなくて、その先を歌っているからだと思うんです。

岡田:前作では自分の不満や怒りを直接的に歌った曲が多かったんですけど、それは全部そこで言い切っちゃったんですよ。なので今回は愚痴や文句で終わらない、その先を歌いたいと思っていて。今までとは違うことをやろうとしていたので歌詞を書くのにすごく時間がかかったけど、全く質の違うものになっている気がします。

●歌詞の表現方法を追求したんですね。

岡田:言い方次第で、表現はだいぶ変わるんだなと思いました。本当に言いたいことを上手く他人に伝えられる手段に、今回の歌詞はなっているんじゃないかな。嫌なことも多いけど、結局はここまで生きてきているわけだから。“何が起きてもやるしかないし、今までもやってきたじゃん”ということが今回は言いたかったので、そういう曲が今回は多いですね。

●今まで生きてきた実感に基づいているというか。

岡田:今回の曲は、自分に対して歌っているものがほとんどですからね。やっぱり誰でも嫌なことは全部、人のせいにしたくなるんですよ。でも結局、矛盾というものは人間が生み出していることだし、人間自体が矛盾していると気付けたので。“矛盾していてもいいじゃん。俺もお前も矛盾しているけど、それでいいんだよ”ということが今回は言いたかったんです。

●それは前作で他人や社会に対する不満を言い切ったからこそ、気付けたことなんじゃないですか?

岡田:間違いなく、そうですね。メジャーとの契約が切れてから相当イライラしていたので、それも全部言い切ってスッキリして(笑)。全部なくなったことで、そういうふうに思えるようになったのかもしれないです。ずっと闘っていてもいいと思うし、“共存しろ”とか言いたくもない。だけど、“結局、1人では生きていけないな”ということがわかったので。インディーズになって、自分1人だけじゃダメだし、メンバーもいなきゃダメ、スタッフもいなきゃダメだということにやっと気付けたというか。1人よがりなことを叫んでいてもダメだし、色んなことを考えた時にまた言いたいことが増えてきました。

●ただ吐き捨てるだけじゃなく、ちゃんと前向きな方向を向いた歌詞だと思います。

岡田:僕は前向きな曲がすごく嫌いなんですよ。ただ単に“頑張れ”とか“明日は来る”とかみんな歌っているけど、そんなに簡単なことじゃない。その“簡単じゃなさ”を今回は出したかったんです。“応援ソング”と言われたらそうなんですけど、簡単には言いたくないからそれをどう伝えるかというところですごく試行錯誤しましたね。どの曲も大まかな歌詞はすぐにできるんですけど、そこからの練り込みが大変でした。

●曲作りはどうだったんですか?

岡田:曲もいつもよりは時間がかかりましたね。元々、うるさい曲を書くのが得意じゃないんですよ。激しい曲もやりたいんですけど、そこに特化した人間ではないからすごく苦労して。

●そもそも、なぜ激しい曲だけにしようと?

岡田:今までの作品にはバラードも入れていたんですけど、1回くらい“0か100か”みたいなことをしてもいいんじゃないかなって。みんなが嫌がるくらい、強烈なものを作りたいと思ったんです。その結果、今までで一番うるさい作品ができましたね(笑)。でも歌詞は前作ほどトゲトゲしくないし、バランスはすごく気にしました。

●今作の歌詞もトガってはいるけど、前作とは方向性が違う。

岡田:前作の歌詞は“俺が俺が!”という感じだったんですけど、今作の歌詞では自分の触れられたくないすごく弱い部分とかを全部言ってしまいたかったんですよ。『人間失格』というタイトルも、自分のことを言っていて。みんなが思っていることを全部言ってしまったら、人間関係が崩壊すると思うんです。自分にとっても家族であろうが誰であろうが絶対に言いたくないことなんだけど、それを言ってしまわなければこの先には行けない気がしたので“もう全部さらけ出してしまえ”と。言いたくないことを今回で全部言ってしまいました。

●自分の嫌な部分や醜い部分をさらけ出した。

岡田:M-4「憧れのシンガー」やM-8「人間失格」は特にそうで、自分が現状で思ったことや感じたこと、“これを言ったら嫌だな”ということを全て曲にしてしまったんです。文句って人は傷つけるけど、自分は傷つかない。“そういや攻撃ばっかりしていて、自分のことは何も言っていないな”と思って。今までの曲ではそこまで向き合えていなかったので、“自分のこういうところが本当は嫌なんだ”っていう誰にも触れられたくなかった部分を今回は言いたかった。

●かと言って、ただの自虐ではなく、それを言うことで前に進もうとしている。

岡田:まさにそのとおりで、そういう部分を出してこそ前に進めるというか。結局は死にたくないし、生きたいわけだから。そういうところを歌いたかったですね。最初は『人間失格』というタイトルじゃなかったんですよ。

●あ、違ったんですね。

岡田:最初は“光”とか“生命線”みたいな、もっと前向きな言葉だったんです。でもこういう“自分は本当にダメなんだ”という感じのタイトルの作品に、M-1「夜空をこえて」やM-2「夕暮れ」みたいな曲が入っていることに自分はグッときたから、これでいこうと思いました。

●タイトル曲「人間失格」の歌詞は、今作で言いたいことを集約していたりする?

岡田:そこまで意識したわけではないですけど、これが自分の一番言いたくないことですね。僕は嫌いなやつが死んだら、心の中で笑いますから。

●でもほとんどの人がそうだと思うんですよ。前作くらいから、そういう本当は誰もが思っているけど口には出さないことを歌った歌詞が増えた気がします。

岡田:“謎のタブー”ですね(笑)。そういう言葉って、やっぱり突き刺さるんですよ。前作では音楽業界内で嫌だと思うことを歌ったんですけど、聴いている人がみんな音楽業界にいるわけじゃない。今回はもっと身近で嫌なことを探そうと思って、日常から色々と注意して見ていましたね。M-9「最終電車」なんかもそういう中から生まれた曲なんです。終電に乗っていて、窓ガラスに映った自分の顔がムカついたっていう(笑)。

●ハハハ(笑)。

岡田:世の中や自分の矛盾を常に探しているんです。“これ、嫌だな”と思ったら、“でもそれは自分がこう思っているから嫌なんでしょ?”っていうふうに考えるようにしていて。それを日々、書き留めるようにしています。

●でもタブーとされていることを歌うのは、すごく勇気がいりますよね? それによって、周りに嫌われてしまう恐れもあるわけで。

岡田:結局、みんな嫌われたくないから。嫌われないような発言を続けている内に、角がないような生き物になっていっちゃう。でもやっぱりトガッた部分があるからこそ、引き立つ部分もあって。これだけ平坦で、角のない人間や音楽がメチャクチャ増えている中で、僕は“これ、嫌だ”って言われるものを作りたいと思ったんですよ。でもたぶんこれが好きな人はいるはずだし、今までTHE LOCAL ARTを応援してきてくれた人たちはきっと“良い”と言ってくれると思うから。

●その信頼感があるから今作のような表現もできた。

岡田:ファンのおかげで、言えたのかもしれないですね。メジャーの時から音楽的に変わっても、ずっと付いてきてくれている人たちがいる。これだけメチャクチャなことをやっても、みんなは聴いてくれているから。それが“じゃあ、俺も自分の嫌なところを全部言うよ”っていう自信につながったのかもしれない。今回は自分っていうものがすごくたくさん出たアルバムだと思います。

●毎回こうして最高傑作を更新していっているわけですが、では次はどうなるのかという…。

岡田:これより激しいのを作りたいと思っています。年々みんな穏やかになっていくけど、自分たちは違うと思うんですよ。だから、どんどんやるしかない。気持ち悪いことをすごく激しく…この路線のまま、しばらくはいきたいですね。

Interview:IMAI

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