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SiM

パンドラの箱を開き、全てを吐き出した彼らが手にしたものは?

PHOTO_SiM01今年4月にシングル『EViLS』をリリースし、全国47都道府県をまわる“EViLS TOUR 2013”を敢行。過酷なスケジュールの中で極限まで感覚と感性を研ぎ澄ませ、同ツアーファイナルシリーズ、そして幾多のフェスで爆発的な盛り上がりと底知れぬポテンシャルを見せつけたSiM。今やその存在がなくては現在の音楽シーンを語れないと言えるほどに大きく成長した彼らが、遂にアルバム『PANDORA』を完成させた。『EViLS』から連なる数々の符号が結実する今作は、SiMがタフな経験の中で手にしたもの、現在の全て、そして彼らが今後目指す未来への道標が刻まれている。

 

SiM  Interview #1

「“SiMのライブは1曲潰してでもしゃべる”みたいなのが、やっとこのツアーの終盤で決まったんですよ。結成から9年くらいかかった」

●ここ最近はSiMのライブを観る機会が多いんですが、ライブを観るたびに印象が違うんです。強烈に心に残っているのは“京都大作戦2013”なんですけど、1曲分潰すくらいの、心の叫びのようなMCが最初にあって。あそこまで感情的なMAHくんのMCは初めてだったんです。気持ちがほとばしっていて、溢れ出た感じというか。

MAH:はい。

●そして“EViLS TOUR 2013” FiNAL 2 MAN SHOW(2013/7/21@渋谷AX)でのONE OK ROCKとの2マン。あのときMAHくんはMCでたくさんしゃべっていましたけど、曲の説明然り、ライブの楽しみ方然り、観客との距離感が既存のロックスターとは違うというか。すごく歩み寄っていて、でも決して媚びるわけでもなくて、僕の主観ですけどあれが現時点のライブハウスでの正しい形のような気がしたんです。否定も肯定もしないけど、きちんとガイドラインを引くというスタンス。

MAH:47都道府県をまわる“EViLS TOUR 2013”は本当に過酷だったんですけど、大成功だったと思っていて。昔お客さんが全然いないときにやっていたライブハウスに再び行けたし、昔埋められなかったハコがソールドアウトしたり。初心を忘れないということと同時に、着実に成長したんだなって再確認できたんですけど、ライブのやり方に関しても、このツアーでようやく決まったような気がしているんです。“SiMのライブは1曲潰してでもしゃべる”みたいなのが、やっとこのツアーの終盤で決まったんですよ。結成から9年くらいかかったんですけど。

●ライブに関して、何かが見えた。

MAH:今までは“1曲でも多くやって、その間でしゃべる”というのを目標にしていたんですけど、このツアーから“1曲削ってでも思っていることをちゃんとしゃべる”ということをやり始めたんです。最初の方はしゃべり過ぎちゃったり、言わなくていいところまで言っちゃって失敗したこともあったんですけど、終盤からファイナルシリーズくらいにかけてはばっちりとハマるようになって。それが終盤でやっと見えて、フェスとかの30分くらいのセットでも、SiMのライブとしてメンバーの共通認識になった感じがありますね。

●このツアーが大きかったんですね。

MAH:バンドだから曲をやるべきなのかもしれないですけど、“曲をやるよりも、もしかしたらここはしゃべった方が伝わるんじゃないか?”みたいな試行錯誤があったんです。例えば“京都大作戦”に対する気持ちとか、源氏ノ舞台に立てた5年分の想いとかは、俺は1曲増やしても伝わんないと思うんですよ。そこはちゃんと言葉で伝えないといけないし、それを知ったうえで俺らのライブを30分観てほしかったから、最初にしゃべったんです。

●あれは震えました。

MAH:あれがなかったら、普通のSiMのライブで終わってたと思うんです。バンドマンだから音楽ですべてを伝えられたらいいんですけど、怒りとか悲しみ以外の感情って、なかなか伝えられないですよね。

●今までもそういう感情は、ブログやCDのブックレットで伝えようとはしてきましたよね。

MAH:そうなんですよ。それが今作のブックレットにも活きているんです。ライブのMC的なノリで、今作のブックレットは歌詞の間に俺の言葉を入れたんです。そのアイディアも今回のツアーをやってみて、“ライブと一緒だな”と思ったのがきっかけなんですよ。3曲やったら1回言葉が入る、みたいな。“せっかくCDなんだから、CDですべて表現しろよ”って思うかもしれないけど、歌詞の間に一言入れたっていいじゃねえかと。

●“伝える”ということに於いて、このツアーでひとつ掴んだと。

MAH:しかも、バンドにとってかなり大きいものですね。

SIN:それに今回のツアーは、本数が多いのでしんどかったし辛かったんですけど、乗り越えられたことで大きな自信にもなったんです。それを踏まえて夏フェスとかにも出たんですけど、“誰にも負けねえ”っていう自信になってました。

●“誰にも負けねえ”というのは、フェスで観るSiMからめちゃくちゃ伝わってくるんですよね。僕は、フェスは異種格闘技の場だと思っているんですけど、SiMは毎回闘っていますよね。先輩も多い中で、ガチで闘っている。

MAH:負けたくないんです。フェスでしか会えないような人ばっかだから。フェスに出るような先輩たちは、ライブハウスでライブをしない人も多いじゃないですか。だからああいう場所でしか“コイツらヤベぇじゃん”って思わせられる機会がないんですよね。去年からフェスに出させてもらい始めたんですけど、去年は出ることで精一杯で何もできなかったんです。でも、今年はツアーをまわった直後っていうのもあって。

●洗練されたムキムキの、体脂肪率が10%以下みたいな状態で挑めたと。

MAH:そうそう(笑)。実際に先輩たちからも「ものすごく自信がついたね」と言ってもらって。BRAHMANのTOSHI-LOWさんとか「堂々としている感が去年とは全然違う」って言ってくれたんです。それが今に繋がっていると思います。

 

SiM  Interview #2

「俺のツボとかをみんなが理解してくれたんでしょうね。だから合宿ではセッションで“ここでこう行くでしょ”みたいなことが自然にできた」

●アルバム『PANDORA』の全体像は、いつくらいから描いていたんですか?

MAH:曲が出揃ったのは去年の10月…合宿に入ったときで。『EViLS』の収録曲と一緒にまとめて十数曲作ったんです。レコーディングは今年の1月にしたんですけど、その直前にシングルの振り分けを決めたのかな。「Same Sky」(『EViLS』収録)をどっちに入れるか、みたいな。そこでやっと曲が揃って“こんなアルバムになりそうだ”みたいな全体像が見えたんです。歌詞もほとんどできていたんですけど、必要に応じて直したりして。でもM-2「WHO’S NEXT」っていうリード曲に、ダブステップっぽい『風の谷のナウシカ』のメロディが入っているんですけど。

●“ラン ランララランランラン”というやつですね。

MAH:あのパートはレコーディング終了段階ではなかったんです。ミックスまでの間、ツアー中に無理やりスペースを作って入れたんです。

●ある程度の全体像は見えていたけど、ミックスが終わるまではどういうアルバムになるかわからなかった。

MAH:音楽的な話ですけど、ぶっちゃけ並べて聴いていても“どうなるんだろう?”みたいな感じだった。アルバムの流れもどうなるかわからなくて。とりあえず選手は揃ったけど、打順が組めないような感じで悩んでいたんです。7月に入ってマスタリングが終わって、ブックレットを作っていくときに話し合っていく中で、MC的な言葉を入れるアイディアが出てきたんです。メッセージ的に連なる3曲を並べていって、“これからこういう曲が始まります”というMC的な文章を入れることを思いついたときに、“やっと見えた!”って感じでしたね。

●でも曲順も含めて『EViLS』から繋がっていますよね。『PANDORA』を聴いてブックレットを読んだら、『EViLS』で伝えようとしていたこと、ここ1年くらいのライブで言ってきたこと、考えていること、歌いたいこと、鳴らしたい音が全部詰め込まれたアルバムだということがすごく伝わってきて、ストンと入ってきた。

MAH:もともと考えていた部分と、出たところ勝負だった部分の両方があって、それが最終的に綺麗にまとまったという感じですね。

●音楽的な部分だと、『EViLS』収録の「Blah Blah Blah」はSiMの今までの次元を越えたと僕は思っていて。レゲエとかパンクとかダブとか、いろんな要素を1曲に詰め込むのがSiMの音楽的なスタイルですが、「Blah Blah Blah」以前はいろんな要素を連続的にたくさん繋いでめまぐるしい展開を作り、それが独自のスタイルになっていたと思うんです。でも「Blah Blah Blah」は連続ではなくて地続きのグラデーションというか、ジャンルがマーブルのように混ざっていて、一見すると何色かわからないけど、でもSiMの色になっている。その「Blah Blah Blah」の経験が、今作のいろんな曲に影響している気がして。ジャンルの垣根が完全に取っ払われたイメージがある。

MAH:そういう自覚も意識もなかったんですけど、インタビューのたびにライターさんに同じことを言われるんです。「自然な流れで曲が変わっていく」って。「Blah Blah Blah」は合宿に入る前に俺が作って持ってきた曲なんですけど、アルバム収録曲の半分くらいは合宿中にみんなで作ったんです。例えばイントロのフレーズだけあって、そこから9割はセッションで作った曲とか。みんな手癖で、相談したわけじゃないけど「あ、やっぱそっち来た」みたいな感じ。

●バンドの個性になってるんですね。

MAH:この4人になってからは、基本的に俺が作った曲を3人にやってもらっていたんです。そうしていく中で、俺のツボとかをみんなが理解してくれたんでしょうね。だから合宿ではセッションで「ここでこう行くでしょ」みたいなことが自然にできた。

●みんなで作ったからこそ馴染んでいると。

MAH:そうですね。ライブ感もありつつ、その場で生まれたものなのでバンドに馴染むんでしょうね。アレンジも、パッと出たものを最終的に採用していることが多くて。細かい個々のフレーズはきっとメンバーそれぞれがいろいろ考えているけど、セッションで出てきたものをそのまま採用したりしていて、そういう部分が今までとは印象が違うところなのかな。

GODRi:俺らが今までやっていたことが、自然とバンドのクセになってるんでしょうね。

●なるほどね。

MAH:M-11「March of the Robots」って、別々のアイディアをくっつけたんだっけ?

SHOW-HATE:うん。「このリフ、かっけえから絶対使いたいんだよ」って頭につけて。

MAH:「March of the Robots」のイントロは思い切りRage Against the Machineを意識したリフなんですけど。

●あのリフはすごく新鮮でした。SiMのリフはもうちょっと湿度が高い印象なんですけど、「March of the Robots」のイントロはすごく乾いている。

MAH:俺たちはRage Against the Machineにもものすごく影響を受けているので、“こういうリフが俺たちは好きなんだ”っていうことも伝えたくて。結局それはイントロだけで、いきなりレゲエっぽくなるのもすげえ自然な流れなんですけど。

●4人が感覚をぶつけ合ったからこそ、自然な流れになっているんですね。

MAH:それにキーボードを導入したのもデカいですね。合宿で初めてキーボードを入れて4人でスタジオに入ったから、どんなことができるかがわからなかったんです。どこまでできるのか、どんな音が出せるのか。だからそこは完全にセッションですね。

●このメンバーで続けてきたことによって、感覚がどんどん研ぎすまされて、言わなくてもわかることが多くなってきて、クリエイティブな感覚を共有できるようになったんでしょうね。

MAH:だからセッションで作るといっても、4人で時間をかけることはないんです。それぞれが家に持って帰って、自分で仕上げる。曲の原型ができました、展開とコード進行が決まりました、っていうところからレコーディングまでは一切スタジオに入らないんです。

●あ、マジですか。

SHOW-HATE:みんな黙々と作って固めていって。

MAH:ひたすらベーシックなコードと展開だけ決まったスタジオ音源を聴きながら、それぞれがフレーズを考えて、レコーディングする。

SHOW-HATE:もちろん大事なイントロになる部分とかは「これはどう?」とか訊きますけど、サビの装飾とかベースラインとかは直前まで各々がやってます。

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SiM  Interview #3

「うちらが生きていて音楽をやっているのは、存在証明したいからだから、自分の思っていることだけはちゃんと音に乗せないと、意味がない」

●ベーシックなコードと展開が決まれば、後のフレーズやアレンジは各々が詰める、という話がありましたが、歌詞や歌メロは後から乗せるんですか?

MAH:歌メロだけは結構先に決めるんですよ。なるべく早く仮歌を入れて、メロディを共有して。

SHOW-HATE:たぶん、そういうやり方ができるようになったのは、歌詞をみんなが読むようになったからかなと思います。イメージがみんなで共有できているから、ズレたことをすることが少なくなった。それが大きいかもしれない。

●それは感じました。展開が移り変わっていくけど、大サビ的なパートは結構どの曲にもあると思うんです。で、そのパートで核心を歌っていることが多い。例えばM-10「Keep it Burnin'」の“俺の知る限り愛ってのは儚い炎みたいなもので 与えることを決めた頃にはもう消えてしまっている”という部分は、この曲に於けるひとつの真理だと思うんです。歌詞の内容とサウンドと展開が、全部リンクしていると思って。

SHOW-HATE:できることなら、サントラ並な感じにしたいですよね。映像が見えるような音楽にしたいから、しれっとそういう風な感じになっているんだと思います。俺が歌詞をめっちゃ気にするようになったのは、『SEEDS OF HOPE』(2012年10月)からなんですよ。「KiLLiNG ME」を作った辺りから。その頃に、個人的に音楽を作ってみようと思って歌詞を書いたことがあったんですけど、“ヴォーカルのイメージってめっちゃ大事だわ!”ということに気付いて。“伝えたいことをバンッ! と書かないといけないんだ”と気付いたときに、“もっと歌詞にちゃんと歩み寄った方がいい”と思ったんです。それから歌詞をちゃんと読ませてもらうようになって。

●SINくんはどうですか?

SIN:自分的には歌詞を音でも伝えていきたいっていう気持ちがあるんです。やっぱりリンクしてると“おぉ! この人わかってるなぁ!”ってアガるじゃないですか。その“わかってる感”を出したい。歌詞カードを読ませるためっていうのもありますし。

●GODRiくんはどうですか?

GODRi:わかりやすく言うと、「March of the Robots」とかは歌詞の全体を見て、泥臭くやりたいと考えたんです。この曲は人間のことを歌っていますけど、“型にはまらず自由に生きよう”みたいな演奏スタイル。曲それぞれで、全体的な歌詞のイメージと合うようにアプローチを変えていこうというのは常にありますね。

SHOW-HATE:俺この曲めっちゃいいと思う。

●歌詞を書いているのはMAHくんだけど、4人とも表現しようとしているから、バンドがひとつの方向に進むようになっているんでしょうね。

SIN:うちらは“演奏家”というよりかは“音楽家”を目指していて。難しいことをやっていますけど、ちゃんと意味があってやっている。

MAH:そこがたぶん観ていて“面白い”と思ってもらえるところだと思うんですよね。

SHOW-HATE:そうだね。

●難しいことをしたいわけじゃなくて、表現したいことがあって、それを表現するためには難しいことをせざるを得ないというか。

MAH:大抵は歌う奴が表現したいことがあって、そのバックで楽器を鳴らしてっていう感じですけど、曲を作る段階で歌詞が共有されているから。表現したいことを、俺は歌で表現して、ギターはギターで、ベースはベースで、ドラムはドラムで表現する。

●方法が違うだけだと。

MAH:たぶんそういう感覚ですね。でもその違いは大きいと思います。

SHOW-HATE:ちゃんとアーティストでありたいから、表現していきたいなと。メッセージ性ってそういうところでしょうし。うちらが生きていて音楽をやっているのは、存在証明したいからだから、自分の思っていることだけはちゃんと音に乗せないと、意味がないと思うから。そこはSiMの強みにできるところなんじゃないかなって。

●「自分の思っていることだけはちゃんと音に乗せる」ということに関連していると思うんですが、“自分の心に正直になるということ”は、今作の大きなテーマになっていると感じたんです。“自分の本心ではどう思っているのかすら気付こうとしない”という世間の風潮というかムードみたいなものが、歌詞の共通項になっているというか。それはM-12「Dreaming Dreams」、M-13「Upside Down」というアルバムの締め括りに繋がっている感じがして。「Upside Down」の歌詞は、震える思いがしたんですよね。この曲はもはや「SiM」という曲名でいいと思う。

一同:アハハハ(笑)。

●この曲では、以前のインタビューでも話してくれたSiMの歩みそのものを歌っているじゃないですか。それが作品として、音楽として形になっている。

SIN:俺たちがんばったなぁ(遠い目)。

MAH:曲順を決めるとき、「Dreaming Dreams」と「Upside Down」のどっちで終わるかをすごく迷ったんですよ。“これが夢を持って生きるってことなんだろう”と歌っている曲で終わるのと、“自分の人生を生きるんだ”という曲で終わるのと。近い言葉なんですけど、でも今は夢を持って生きることに悩みはないから「Upside Down」を選んだんです。

●なるほど。

MAH:「Dreaming Dreams」は、まだちょっと迷いがあるんです。それを踏まえた上で、心を決めて自分に正直に生きた結果が「Upside Down」。要はSiMの成り立ちを書いたこの歌を、夢を追いかけようとしている子とか、「追いかける」と口では言っているけど何もできていない子とかが聴いたときに、何か思ってくれればいいなという感じもあるし。俺らはもう9年やってきて、一応苦労もして…まあ不幸自慢をしてもしょうがないんですけど…事実としてこんなことを経て、今はこんな気持ちでやっているっていうのを曲にすれば、CDを買った人には絶対に目に入るじゃないですか。曲とリンクしたときに、自分で書いた歌詞だけどすごく泣きそうになっちゃいましたね。俺はこの曲、すごく好きです。

●想像ですけど、これはたぶん今後のSiMの生き方にも影響を与える曲でもあると思ったんです。いいですね。この曲がアルバムの最後で、なんか嬉しかった。

SHOW-HATE:本当にそうですよね。自分の人生を生きなきゃダメですよ、絶対。

MAH:たぶん、今後大きな曲になるんだろうなと思うんです。大事な曲っていうか。

GODRi:この曲をライブでやるたびに、初心に戻れたりするんじゃないかなと思います。

一同:あ〜。

MAH:そうだね、本当に。

 

SiM  Interview #4

「なぜ人はグラスを大事に置くかと考えると、それはグラスが壊れてしまうからですよね。グラスの存在が永遠じゃないってわかっているから大切に扱う」

●ところで、MAHくんが書く歌詞の説得力はすごく不思議な感覚があるんです。それは相反するもの…例えばM-8「We're All Alone」で“人間はひとりぼっちだ”ということを歌っていますが、“同じ人間なんだから仲良くしようぜ”とか、逆に“人間は永遠に人とはわかりあえないんだ”という言葉は、誰もが子どものころからよく耳にしてきたと思うんです。でもMAHくんのメッセージはそのどちらにも帰結しないというか、相反するものを同時に受け入れようとしている。それが説得力に繋がっているような気がするんです。一見矛盾しているように見えるかもしれないけど、それがMAHくんらしさのような気がして。

MAH:AXのときもMCでしゃべったんですけど、お互いを理解し尽くせるわけでは絶対にないから、敢えて線を引くべきだと思うんです。ここから先は立ち入らせないし、相手の線も踏み越えない。普通の考えからすると「冷たい」と言われるようなことだと思うんです。“ゼロの距離でハグする方が絶対いい”と思うけど、でもそうじゃなくて、ハグしようとしたら嫌がる人もたくさん居る。俺は、限りなく近いけど一歩引いている段階だったらたくさんの人と繋がれる気がしていて。「線を引く」って言うと冷たく感じるかもしれないけど、逆に言えばひとりでも多くの人と関わっていく方法だと思うんです。

●ああ〜。

MAH:だから、俺は逆に線を引くことがむしろ温かいことなんじゃないかと思っていて。ハグできる人を探そうとしたら、ハグできない人の方が絶対に多いから、多くの人を切り捨てることになっちゃうし。

●もともとそういう考え方なんですか?

MAH:いや、もちろん最初は“仲良しがいちばんいいでしょ”って思っていて。でもこれって自分も疲れるし、相手も疲れるだろうなって。一見冷めた見方だけど、それによって俺は多くの人と笑顔で関われるようになったし、人を嫌いになることも少なくなった。「We're All Alone」も“ひとりぼっちだ”って言うんですけど、それは全員が理解し合わなきゃいけないことで。最終的には個人であって、どんなに仲が良くても、どんなに連れ添っていても、線は引かなきゃいけなくて。そういう意味で“ひとりぼっち”っていうことなんです。

●うんうん。

MAH:だからこそ、そこを越えて付き合えるような誰かを探せるわけで。それはとても大事な、温かいことだと思うんです。最近MCでもしゃべるんですけど、俺は「“永遠”なんてものはない」と言い切るんですね。例えば壊れないとわかっているガラスのコップがあったら、シンクに放り投げるじゃないですか。壊れないからいいんですけど、グラスは粗雑に扱われて可哀想じゃないですか。逆に、なぜ人はグラスを大事に置くかと考えると、それはグラスが壊れてしまうからですよね。グラスの存在が永遠じゃないってわかっているから大切に扱う。それは人間関係も一緒で「永遠なんてないよ」って言い切ることは、冷たく寂しく聞こえるかもしれないけど「逆に永遠がないからこそいろんなことを大切にできるでしょ」と。だったら永遠がない方が、人間にとってはいいんじゃない? っていう、ちょっとひねくれた考え方をするようになっちゃいました(笑)。

●他の曲でも、そういう逆の発想は多いですよね。一般的にネガティブでダメとされている考えを、逆からポジティブに捉えている。

SHOW-HATE:そっちの方が俺はリアルだと思うんです。言っちゃえば、光の中にずっと居たらそれが光だということもわかんない。闇から光を見ているからこそ、それが光だってわかるわけで。闇をちゃんとわかったうえじゃないと、ちゃんとした光は見えてこないから。だからMAHの歌詞は“すごくリアルだな”という感じがする。何事にも正反対のものが付き物じゃないですか。自分の考えにしろ、自分と反対のものがあるからこそそういう考えになるわけで。そういう風に、ちゃんと反対のものを見ようとしないと、今の自分が見えて来ないと思うんです。だから、俺はすごく歌詞が好きなんですよね。

MAH:さっきの夢の話にも繋がるんですけど、結局、弱い人ほど他人を受け入れられないと思うんです。自分の考えに絶対的な自信がないから、違う意見が来たときに自分の考えが崩れてしまうのが恐くて、遮断したり、人の意見を叩き潰そうとしたりとか。でも絶対的な自信があれば、何を言われたって関係ないし、正解がわかっているから。

●はい。

MAH:今年の3/11に、震災から2年経って、黙祷するかしないかでTwitterですごく話題になっていて。「ニュースでやっていたから急に“黙祷しよう”とか言い出すやつはクソだ」みたいなことを書いている人がいて、俺はちょっと意味がわからなくて。逆に「ニュースを観なくても、自然に覚えておくべきだ」とか言うコメントもあったんですけど、別にそんなのどうでもいいじゃねえかって。きっかけはどうあれ、例えば忘れていたけど友達に「今日は3/11だね」と言われて思い出した奴と、前日から気合いを入れて黙祷しようとしていた奴とは、全然差はないと俺は思うんです。想いを馳せることが大事なわけで、きっかけは何でもいい。そこで「明日は3/11だ」と言っていた奴が怒ってるんですよ。“そんな軽い気持ちで黙祷するんじゃねえよ”って。それに何か違和感を感じたんです。人は人でいいでしょ。自分がちゃんとやっていれば、自分が正しいと思っていれば、何をやっていたって関係ねえじゃん。自分を馬鹿にされたなら怒るのもわかるけど、そうでもないのに「ニュースで気付いた」と言っているやつをディスってて。しかも、震災で亡くなった人たちへの愛情がなぜか他人への怒りに変わっていて。それってものすごく惨めだし、悲しいことじゃないですか。

●本末転倒ですね。

MAH:そういう考えになるのは不安だからなのかなって。“不安”という言い方が正しいのかはわかんないですけど。

●今MAHくんが言っていることは、“現実をそのまま受け止めよう”というだけのことの気がする。

MAH:あ、そうですね。理想論を追い過ぎてしまっているのに違和感があるのか。もっと現実的に、割り切れるところは割り切れば、もっとお互いに傷つけずに済むのにってところかもしれない。

●さっきのTwitterの例でいうと、どっちも現実には祈っているわけですからね。

MAH:そうですね。実際問題、いろんな人が居て、いろんな生活をしているから考え方も違うし、それをそのまま受け入れればいいんじゃないかなって。いつの頃からか、そういう考え方になりました。

interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:森下恭子

 

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