音楽メディア・フリーマガジン

Nothing’s Carved In Stone

進むべき道を希望の光で照らすマイルストーン

PHOTO_NCIS_mainシーンの荒波に揉まれてきた猛者が集い、類まれなるアンサンブルと高い音楽性、強固な意志を持って結成以来めまぐるしいスピードで成長してきたNothing's Carved In Stone。2013年6月にリリースしたアルバム『REVOLT』の制作過程で内面を見つめ直し、同作ツアーで数々の奇跡を作り出してきた彼らが、待望のアルバム『Strangers In Heaven』を完成させた。すべてから解き放たれ、誰も見たことのない景色を目の前に描き出す今作は、見ず知らずの者たちの心を繋ぎ止め、進むべき道を希望の光で照らすマイルストーンとなる。

 

 

INTERVIEW #1
「拓がいちばん変わったのはアルバム『Silver Sun』のタイミングなんです。あのツアーから、あからさまに変わった」

●ここ最近のトピックでいうと、少し前ですけど主催イベント“Hand In Hand”が4月にありましたよね。札幌の対バンはcinema staffで、東京がDragon Ash、大阪がthe telephones。

生形:今回の“Hand In Hand”はやっぱり三者三様だったよね。

村松:うん。ホントそうだった。

生形:Dragon Ashはガチで勝負に来ましたっていう感じだったし、the telephonesはすごくフレンドリーな感じで。cinema staffはちゃんと絡むのがすごく久しぶりだったから「お願いします!」みたいな感じで挑んだんです。

●自分たちのテンションとしては、“Hand In Hand”は他のライブとは違いますか?

村松:違いますね。やっぱり自分たち主催のイベントだから準備する期間が長いじゃないですか。そういう意味では、想いが募りやすいというか。

●なるほど。確かに。

生形:だから責任は重いよね。出てもらうバンドにも楽しんでもらいたいし、そういう意味で良くも悪くもプレッシャーみたいなものもあるし。

●AXのとき、拓さんは「楽屋でDragon Ashのセットリスト見たらヤバいと思った」と言ってましたよね。

村松:セットリストもそうだったし、とにかくライブが素晴らしかったんですよ。普段聴けないような曲も聴けたし、「ワンマンライブか!」っていうくらいの贅沢なボリュームで。あのとき思ったのは…やっぱりKjすごいなっていうこと。

●ヴォーカリストとして?

村松:そうですね。ライブはもちろんですけど、楽屋に居るときから…1人のときから常にKjで、ステージの上に立っているときと同じで。俺はちゃんと関わったのがAXが初めてだったんですけど、まずそれに感動しました。Kjすごいなっていう。

●なるほど。

村松:“みんなからリスペクトされるだけのことはあるな”と思ったし、“こういうことなんだな”って。だから大好きになりました。

●いい経験だったんですね。ここ最近のライブの手応えはどうですか?

村松:“Hand In Hand”以降はそれほどコンスタントにライブをしていないんですけど、演奏のクオリティとか、ライブ当日までのメンタルの持って行き方とか、そういう部分は確実に数年前より上がってきていて、今はいい状態を保つことができている感じがありますね。もちろんまだまだ先があるんですけど。

生形:うん、いい感じだよね。でも最近はデカいイベントに出演させてもらうことが多くて、小さいハコではあまりやれていないから、ツアーに向けてどうか? と考えたらまだなんとも言えないですけどね。ツアーの準備はこれから。でもライブ自体はすごく楽しくやれています。

●最近は連載で拓さんと話すことが多かったので、この機会に生形さんにお訊きしたいことがあったんです。ここ1〜2年の流れとして、ヴォーカリスト・村松 拓はどんどん自由になってきているというか、ステージで伸び伸びと自分を出すようになって、それが頼もしさにも繋がっていると感じるんです。拓さんの変化は、生形さんから見てどう感じているんですか?

生形:拓が変わってきたっていうのはもちろん俺も思いますよ。でも俺はずーっと一緒に居るから、劇的な変化という風には感じていなくて。拓がいちばん変わったのはアルバム『Silver Sun』(2012年8月リリース)のタイミングなんです。あのツアーから、あからさまに変わったんです。

●へぇ〜。

生形:あのツアーで“あ、変わった!”と思って。自分が立とうとする位置が明確になったんじゃないかと思うんですけど、だから今もそこに向かっているところなんでしょうね。実は、いちばん変化を感じたのは『Silver Sun』のタイミングだったんですよね。

●なるほど。過去のインタビューでもおっしゃっていましたけど、アルバム『Silver Sun』は1枚目の感覚に近いという実感があったんですよね。

2人:そうそう。

生形:俺らはそこまで気にしていなかったんですけど、『Silver Sun』からメジャーに移籍したということもあるし、あと未だに覚えてるけど『Silver Sun』ができたときに“すごいアルバムができた”と俺は思ったんです。その前のアルバム…『echo』(2011年6月)から一段階どころじゃなくて何段階も先に進むことができたという手応えがあった。あのタイミングはいろんな実感がありましたね。だから区切りだったのかな。

●今回のアルバム『Strangers In Heaven』はいつ頃から取り掛かり始めたんですか?

生形:みんなで音を出し始めたのは2月頭くらいかな。前のシングル『ツバメクリムゾン』のツアーが1月にあったので、どうしても2月からしか取り掛かれなかったんです。もちろんそれまでに各々がネタを暖めつつですけど、今回も最初からアルバムの全体像はなくて、1曲1曲作っていこうという感じでスタートして。

●アルバムの全体像が見えるきっかけになった曲はあったんですか?

生形:いちばん最初にできたM-3「Brotherhood」ですね。この曲は俺がデモを持ってきて、みんなに聴いてもらったら「これがいい」ということになって。そしたらもう、すぐに完成したんです。

●メンバーでイメージを共有しやすかったということ?

生形:そうですね。アレンジはほぼ1日でできた。

●「Brotherhood」はすごく新しいですよね。爽やかだし、明るい光を感じる。今までの楽曲でも光を感じることはあったんですけど、それは暗闇の中で見える光というニュアンスに近くて。でも「Brotherhood」は太陽の光というか、自然光のような明るさの感覚がある。ものすごく新鮮でした。

生形:きっと、やっている方も新鮮だったんですよ。だからすぐにアイディアも出てきたし。この曲は、ギターのカッティングの曲が作りたいと思ったのが最初だったんです。それでイントロのカッティングができたんですけど、そこからパッと1日くらいでデモを作って。リズムが気持ちいい曲が作りたかった。

村松:真一がデモを持ってきたとき、めちゃくちゃ反応が良かったよね。宅録みたいな感じで真一が作ってきたものをみんなの前で流すんです。その中にいくつか美味しいネタがあったんだけど、いちばん反応が良かったのが「Brotherhood」。ピンときたっていうか、新しかったですね。ギターの音色も新鮮だったし、その場で「あーしようこーしよう」と話し合って、すぐにスタジオに移動してアレンジを詰めたっていう。本当に早かったよね。

生形:うん。

●Nothing's Carved In Stoneの魅力のひとつは、本来は同時に存在し得ない異物同士を組み合わせて作り出す心地良さだと僕は感じていて。例えば有機的なものと無機的なものの組み合わせだったり、流れるようなメロディと複雑に絡み合ったリズムの組み合わせだったり。それが今作は、異物1つ1つの親和性がすごく高いという気がしたんです。「Brotherhood」はそう感じる象徴の楽曲だったんですけど、4人の音が今まで以上に親密なイメージなんですよね。同じフレーズを鳴らしているわけじゃないんだけど、距離が近いというか。

生形:イメージの共有はすごくするんですよ。俺たちは曲を作る前に「この曲はこうしよう」っていう会話をすごくしているんだけど、年々お互いの理解の度合いが強くなってきていると思います。

●共通言語がどんどん増えている。

生形:そう。逆に、それをやらないとまとまらないことも増えてきていて。

村松:だから決まった瞬間にすごいスピードで形になるよね。

生形:うん。そうだよね。

●言ってみれば、4人はそれぞれ普段違う言語を使っているけど、曲を作る前にイメージの翻訳というか確認作業をしたらハマると。

生形:そうですね。そこを探すのは大変な作業ではあるんです。でも「Brotherhood」なんかは、俺が作ってきたデモの段階でみんなが共有できたっていうか。そういう曲も稀にあるんですよね。逆に今作でいうとすごく大変だったのはM-7「雪渓にて」とか。

●え? マジですか? 「雪渓にて」は弾き語りから作ったようなイメージがあったから、全然複雑な印象がないんですけど…。

生形:「雪渓にて」は1回できたのに全部壊して、もう1回作ったんです。弾き語りから作ったんですけど、最初は全然普通っていうかよくあるバンドサウンドの曲になっちゃって。

●そういう経緯があったんですね。ちょっと意外。

村松:「弾き語りで曲作ろうよ」という話をどこかでしたんだよね。バンドがそういうモードになったときがあって、「それが新しいNothing's Carved In Stoneの正解なんじゃないか」と思ったんだけど、結果違ったという(笑)。

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INTERVIEW #2
「色々と見えなくなっちゃって、アイディアに困窮したり、お互いの魅力がわからなくなってしまったり…それでも一緒にバンドをやれるということがわかったというか、希望になった」

●全体的に感じることは、今作は今まで以上に歌に焦点が当たっているような印象を受けたんです。「歌に焦点が当たっている」といっても、バンドサウンドが下がっていることは一切ないんですけど。

生形:うーん…歌に焦点を当てるというより、やっぱり歌が自然と出てきているんじゃないですかね。俺はそういう気がします。ずっと今までこのバンドをやってきて、どんどんヴォーカリストの色が出てきているのかなって。

●なるほど。そういうことか。

生形:それについて、つい最近すごく思うことがあったんです。こないだメンバーでSPITZのライブを観に行ったんですけど、草野さんの歌の音量が予想してたよりずっと小さかったんですよ。やっぱりバンドサウンドなんです。だけど歌がメインになっている。それは音量のバランスじゃないなって。

村松:うんうん。

●ほう。

生形:草野さんの声で歌うと、音量が大きかろうが小さかろうがSPITZになる。これはすごいなと思って。

村松:バンド感がものすごかったよね。J-POPの括りというより、すごくロックでバンドサウンドだった。もちろんすごく素敵なメロディだし歌詞なんですけど。

生形:歌がちゃんと真ん中にあって、だけど出している音はすごくロックになっている。“やっぱりバンドってこうだよな”って思ったんです。誰の音が大きいとか小さいとかじゃなくて。ビートルズもそれぞれの色が思いっきり出てるじゃないですか。ストーンズなんて歌がめっちゃ小さいし。

●それをNothing's Carved In Stoneに当てはめてみると、4人の中での認識がそうなっていったということ?

生形:うん。でも実はそれも『Silver Sun』のときから始まったと俺は思っているんです。歌の色が出てきているというか。

●なるほど。確かに今作は、歌に寄せたギターアレンジをしているとか、歌を際立たせるために音を抜いているとかはしていないのに…。

生形:歌が出てきている。

●そうそう。だから単純に音楽的な部分ではなくて、4人の関係性とか今までのバンドの歩み自体が音に表れているのかな。

生形:うん、そういうことかなって俺は思ってます。今回も歌がデカいわけではないから。逆に「歌がデカいから下げてくれ」ってエンジニアさんにお願いした曲もあったよね。

村松:うん。「やめてくれ」って言ってた(笑)。

●ハハハ(笑)。例えばM-9「(as if it's)A Warning」のベースにギターが絡んでいくイントロを聴いたとき、“ここにどうやって歌を乗せるんだろう?”とびっくりしたんです。でも歌が予想もつかない感じでズバッとハマっている。相変わらず違和感のあるもの同士を組み合わせて気持よく聴かせるのがうまいなと。

生形:今作の中でいちばんウチっぽいですよね。俺らにしかできない。

村松:「(as if it's)A Warning」は最初にひなっち(日向)がベースのフレーズだけを持ってきたんです。それでスタジオに入ったらオニィ(大喜多)がすぐにあのフレーズを叩き始めて。

生形:そこにギター入れて。早かったよね。

●歌のメロディは差し込んでいくような感じで進行していきますけど、どうやって歌を乗せようと思ったんですか?

村松:説明するのは難しいんですけど、ウチが持っているエレクトロっぽさもある楽曲だから、的確にメロディを入れていけばいいなと。俺的には流れるようなメロディを作ろうというアプローチなんですけど、今までやったことがないような音感とか、今までにないメロディを作ることを意識して。それにオケにすごく勢いがあったので、その勢いをちょっとスカすメロディの方が曲としては勢いを増すかなと思って。

●「曲が完成するまでが早かった」という発言が何度かありましたが、前アルバム『REVOLT』は制作前にメンバーで話し合って、メンタル面も含めて根本的なところに向き合ったという苦労がありましたよね。それに比べれば今作はスムーズだったんでしょうか?

生形:そうですね。もちろん細かい部分には時間をかけているんですけど、やっぱり「Brotherhood」が最初にできたことが大きかったと思います。間違いなく新しいものが最初にできて、それによって気が楽になったわけじゃないけど、4人がより自由になれたのかな。

村松:今作を作っているときは『REVOLT』との対比という発想はまったくなかったんですけど、さっき真一も言ったように俺も『Silver Sun』は“すげえアルバムができた”という手応えがあって。その後、『REVOLT』ではそれまで踏み込んでいなかった部分…どろどろした陰の部分…をわかりやすく表現することができたと思っていて。だから『REVOLT』が完成したとき、バンドとしての幅が広がったと感じたんです。それによってこれから先が少し楽になるというか、あまり縛られずにできるんじゃないかなって。

●はい。

村松:そういう経緯が今作に影響している部分が大きいと思う。歌詞に関してもそうなんですけど、『REVOLT』は俺にとっての“希望”になったんです。内にこもって、すごく辛いというか行き詰まっている状態から制作をスタートさせて。そういう状態でも4人で集まって、アルバムを完成させることができて。要するに、そういう状態でもバンドをやることができるということがわかったんですよ。

●ああ〜。

村松:色々と見えなくなっちゃって、アイディアに困窮したり、お互いの魅力がわからなくなってしまったり…そういうことがいっぱいあったけど、それでも一緒にバンドをやれるということがわかったというか、希望になったんですよね。

●うんうん。

村松:『REVOLT』でそこを乗り越えたから、今回はあまり考えなかったんです。それぞれがやりたいことを持ち寄った。例えば“これから先どうやってバンドをやっていけばいいのか?”とか“こうじゃなきゃいけないんじゃないか?”みたいな、すごく小さいところで悩む必要がなくなったというか。それぞれがお互いを信頼して、「やりたいことがあるんでしょ? じゃあそれをやろうよ」っていう。やってみたら「あ、楽しいね」っていう。

生形:うん。前回があったからだよね。

●その話に関連するかもしれないんですけど、今作はフィジカルな楽曲が多いと思うんです。例えばM-11「キマイラの夜」はシューゲイザーのようなアプローチですけど、そういう曲であっても聴いたときに思考や感覚が反応する前にまず身体が動く感覚がある。

生形:そこはいちばん大事にしました。無意識でもなんでも聴いた人をノセたいと思った。知らないうちにリズムを取っちゃうっていう。そこはすごく意識しましたね。

●そこを意識するというのは、具体的にはどういう作業になるんですか?

生形:うーん、いろんな要素が絡んでくると思うんですよ。歌にもリズムがあるし、ギターもリズム楽器とも言えるだろうから。それに最近、ビートの楽しさとか奥深さを研究するっていうか、いろんな音楽を聴くよもうになってきたんです。ジャンルの特定はしないけど音楽って…メロディの心地良さとか壮大さとかあるけど、やっぱりノレるものがいちばんだなと思うんです。特にバンドでやる上では。

●うん。確かに。

生形:そういうことを考えつつ作ったアルバムだから、さっき言われたようにフィジカルなものになったのかもしれない。

●リズム楽器だけじゃなくて、歌のメロディが持っているリズムだったり、歌詞の言葉が持つリズムだったり、ギターが奏でるリズムだったり…そういったいろんなリズムが全部合わさったときの心地良さみたいな。

村松:リズム隊の血の部分っていうか、昔から通ってきたものも濃く出ていて。作っていてすごくおもしろかったんですけど、“踊らせよう”という視点だけで考えれば、もっとファンクとかソウルっぽい方向に行くこともできたと思うんですけど、このバンドはそっちには行かないんですよね。

生形:リズム隊の2人はそもそもが“踊らせよう”と思っているタイプだけど、ファンクやソウルだけじゃなくて、ひなっちはニューウェーブもガンガン通ってるし、オニィもサンタナとか南米の感じとかロック寄りの音楽がルーツだったりして。で、俺はあまりそこを通っていないから、だからこういう音楽になったのかなって思いますね。俺たちならではっていうか。

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INTERVIEW #3
「オーディエンスのこととかも考えるし、俺の周りに居る人のことも想うし、居なくなっちゃった人のことも想うし。そういうことをすごくリアルに想って書きました」

●今作の歌詞ですけど、すごく伝わりやすくなった気がします。

村松:あ、そうですか?

●うん。僕自身が連載を通じて拓さんと近くなり過ぎている感はありますけど(笑)、あの連載では拓さんの内面がかなり出ているじゃないですか。加えて、読者からのメールは僕が受け付けているので見させていただいているんですけど、お客さんがNothing's Carved In Stoneに対してどういう想いを持っているか、少なからず理解している部分があって。

生形:確かにそうですね。

●そういう部分を踏まえて今作の歌詞を見たら…もう泣くでしょ。

村松:アハハハハハ(笑)。

●今までの歌詞と見比べてみたわけではないんですが、今までの歌詞は自分やバンドの内面と向き合う印象が強かったんです。でも今作は、すごく歌いかけている。メッセージ性というと語弊がありますけど、対象が見えるからこそ伝わる度合いが強いというか。例えば今作は“愛”を具体的に歌っているわけじゃないけど、でも“愛”という行為は1人では成り立たないですよね。そういう意味での“愛”を歌詞から感じる。

村松:うんうん。

●ちなみに生形さんは今回、どの曲の歌詞を書いたんですか?

生形:M-2「Shimmer Song」とM-5「Crying Skull」です。

●あっ、マジか! やっぱりバンドなんだな…。

村松:ん? どういうことですか?

●いや、「Shimmer Song」も「Crying Skull」も、拓さんの内面を歌っていると思っていたんです。それも、すごく心の核に近い部分。でも拓さんというか、バンドの核を歌っているんでしょうね。「Shimmer Song」の最後のくだり…“誰だってそうだろう 孤独な夜を越え/夢見て傷ついて でも前を見る”とか、めっちゃグッとなるもん。

生形:ちょっと恥ずかしいところですよね。本音っていうか。

●うんうん。

生形:そういうところを歌わないとダメかなと最近思ってて。自分が出すと“青臭いな”と照れくさくなるような部分こそ、歌詞にしてみようかなと。

●そういうのいいですね。拓さんはどういう感覚で歌詞を書いたんですか?

村松:今作でやりたかったことの1つは…2人で歌詞を書いていることを活かすっていうか。

●ほう。

村松:前回で悩んだのは、2人で書いているからこそいろんなものが見えるようになる反面、一貫性みたいなものは生まれないというところなんです。

●ああ〜、確かに。

村松:だけどもちろんいい部分もあって、2人で歌詞を書くと、言葉が持っているイメージとかリズムがまったく違うんです。音楽的な部分で言葉を捉えたとき、俺たちはまったくタイプが違う作詞家なんですよね。特に、生まれてくる言葉のイメージと音との連結具合がいちばん違う。たぶん磨いてきた言葉のイメージとか、言葉の洗練させ方が違うんでしょうけど、それはしゃべることと繋がっているから、ものすごくパーソナルな部分だと思うんですよね。だからこそ、2人で書いていることをもっと活かすべきだなと。そういう意味で、今回は俺自身が感じている言葉のリズムとかをもっと素直に出そうと意識して。

●なるほど。2人で書くことによって、表現の幅が出る。

村松:それともう1つ、俺は歌詞について確信していることがあるんです。

●確信?

村松:もうね、思っていることは俺たち2人、ほぼ一緒なんです。俺と真一では生活もまったく違うし、当然別の人間だから生きてきた環境も背景も違う。でも6年間ずーっと1つのことを求めて一緒に居て、バンドじゃないときでも一緒に居るから、否が応でも影響され合うんですよね。“この人のこういう部分に乗っかりたい”と思ったことなんて何度もあったから、考え方がすごく似てくるんですよね。

●お互いリスペクトがあるからこそ影響を与え合うと。いい関係だな。

村松:だからそこは信頼していて。それに真一の方が歌詞を書く曲は少ないから、絶対に大切な想いを凝縮してくるっていうのはわかっていたんです。だから俺は、今回はアルバムを通して2人で1つのものを表現することを意識したんです。切り口を変えた色付けをしようかなと。もちろんそれだけじゃないですけど。

●確かに拓さんの歌詞は韻を踏んだりとか、表現としての幅が広いですね。

村松:そうそう。M-10「Midnight Train」の“NORAINU”みたいな言葉遊びだったり。そういう遊びの部分ってちょっとイロモノだから、芯がないとできないんですよ。そこはすごく真一を頼って。

●なるほど。

村松:あと、やっぱり対象者は今までより強いかもしれないですね。オーディエンスとか…やっぱりそうだな。さっきおっしゃったように、今回歌詞を書くときは俺の中に対象者がすごく居たんですよ。オーディエンスのこととかも考えるし、俺の周りに居る人のことも想うし、居なくなっちゃった人のことも想うし。そういうことをすごくリアルに想って書きました。

●拓さんの連載について、読者の人たちがたくさんメールを送ってくれると言ったじゃないですか。そういうメールでは、みなさんすごく心の奥底の気持ちを伝えてくれたり、Nothing's Carved In Stoneに力をもらったことを書いてくれていたりしていて。

村松:はい。そうですよね。

●それって本当にすごいことだと思うんです。会ったこともない人が、音を通して力を得て、その人の人生が変わったりもしている。ウチの連載なんてきっとほんの一部で、バンドが大きくなればなるほど、そういう人の気持ちに触れる機会がどんどん増えてきたと思うんですよね。そう考えたら、歌詞の対象者が強くなるのは当然のことかなと。

村松:今までずっと言ってきましたけど、自分のリアルを歌詞にしたり、自分が好きなものを表現にするべきだと思うんですよ。でもお客さんの存在がどんどんリアルになればなるほど思うのは、俺らのやっている向こう側にたくさんの人が居ることはすごく嬉しいし、やりたかったことなんだけど、だからといって「聴いてくれる人のために歌う」というのは言っちゃいけないことだと思うんです。その気持ちは前よりも強くなりました。

●ふむふむ。

村松:「聴いてくれる人たちのために書きました」とか言っちゃいけない。オーディエンスも、1人1人がそれぞれが必死に生きていて、楽しいときも悲しいときもあって。そんなこと、俺たちには絶対にわかるわけがないじゃないですか。俺たちがやっているのは音楽だし、瞬間的にしか繋がれない。音楽って辛いときの支えになることもあるけど、そうじゃないときもあるし。いつでもその人のために俺たちが音楽を鳴らせるわけじゃないし…そういうことを思うのは、それだけ俺が“聴いてくれる人が居る”ということを考えているということなんですけど、でもなんか、言っちゃいけないなって本当に最近は思うかな。「あなたのために歌います」とか「あなたのために書きました」ではない。

●なるほど。

村松:だから思ったことをそのまま書けばいいという結論になるんですけど、ただ、俺たちにとってオーディエンスがものすごく大切な存在になっているという事実は間違いなくあるし、すごく支えになっています。でも、それ以上でもそれ以下にもなっちゃいけないと思うんですよね。

●それ以上でもそれ以下でもなく、事実をしっかりと受け入れるというか。

村松:俺たちは俺たちにしか鳴らせない音楽を鳴らすけど、それがCDになって誰かの手元に届いたら、その人の生活に寄り添ってその人のものになりますよね。音楽はすごく近いものになるっていうか。

●そうですね。

村松:だからオーディエンスについては、“聴いてくれる人が居る”という事実を受け止めることなんだと思うんです。別に突き放しているわけじゃなくて、オーディエンスのことはナメちゃいけないっていうか、同じ人間だから絶対に騙せないですよね。「あなたのために生きてます」なんて言えないし。でも例えば「雪渓にて」とかではオーディエンスのことを書いているんです。

●「雪渓にて」に出てくる“ウサギ”のことですね。目を真っ赤にして飛び跳ねているという。

村松:はい。ライブハウスに集まってきて、俺たちと一緒に楽しんでいる仲間みたいなイメージで“ウサギ”という言葉にしたんです。だから突き放しているわけじゃなくて、今回はオーディエンスのことを書きたくて書いたんです。でも難しいんですよ。あまり考えると、オーディエンスに対する想いが強くなりすぎちゃうんです。

●確かにそうでしょうね。アーティストとオーディエンスの関係性ってものすごいことだと思うんです。さっき生形さんがおっしゃっていましたけど、心の核にある想いを音楽に乗せて発して、そこに対してオーディエンスは心の核にある想いで反応する。そんなこと、普通に生活していたらめったにないことだと思うんです。

村松:そうでしょうね。そこに関しては、さっき言ったようにいろんな想いがごっちゃになっていると思います。ただ、すごく嬉しい。本当に。ものすごくピュアなものを出して、それに共感してくれる。要するにそれって俺たちを肯定してくれて、信じてくれているってことだから。それだけで俺たちには“絆”みたいなものと感じていますね。

生形:手を抜いたら伝わるわけないじゃないですか。歌詞は俺、日本語で書くのは「Shimmer Song」が3〜4曲目なんですよ。だからすごく考えたし、理解してもらえたら嬉しいし、でも書いてる時自分で何回も読み返したりすると、“あれ? これは俺、自分に対して歌っていることなのかな?”とも思ったりして。自分を勇気づけるために。

●ああ〜。

生形:いろんなことを考えますよね。だから歌詞っておもしろい。俺は若い頃から、いまだにたくさんの音楽に助けられてきてるから、やっぱり自分が書いた歌詞とか自分のバンドが出した曲がそういうことなったら、それほど嬉しいことはないですよね。

●生形さんはNothing's Carved In Stone以前に歌詞を書いたことがあったんでしたっけ?

生形:いや、ないです。このバンドが初めてです。書いていなかったけど、考えていることはずっと変わってないと思うんですよね。自分がずっと想ってきたことを歌詞にしていて。でも、やっぱり初めて歌詞を書いたときは恥ずかしかったですね。最初は英語だったけど、恥ずかしかった。

●今は?

生形:今はもっと自分の本音を出すべきだと思ってるから…もっと恥ずかしいです。

一同:アハハハハハ(笑)。

生形:恥ずかしいし、“こんな本音を書いてみんながどう捉えるんだろう?”とか不安になったりしますね。“「クサいこと言いやがって」と思われたらどうしよう?”とか。それを怖がってちゃダメだと思ってるんだけど。

●さっき「手を抜いたら伝わるわけがない」とおっしゃっていたように、気持ちが入っているかどうかはわかりますよ。ライブバンドは特に。パブリックなイメージでは生形さんはクールな印象ですけど、心の中で想っていることを知れたらグッとくるなぁ。

生形:それはギターも同じなんですよね。

村松:うん。そうだよね。

生形:歌詞を書くようになってよりそう思いました。歌詞もギターも一緒だなって。

interview:Takeshi.Yamanaka

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