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町あかり

バンドサウンドで生まれ変わった豊穣なる名曲たちの収穫祭!

平成生まれながら昭和の歌謡曲を愛する異能のシンガーソングライター、町あかり。全曲をカシオトーンとGarageBandだけで作り上げた前作『EXPO町あかり』から一転、ライブでのバックバンド“池尻ジャンクション”を従えてバンドサウンドで贈るニューアルバム『収穫祭!』が完成した。姫乃たま、ギャランティーク和恵など幅広いアーティストに提供してきた数々の楽曲をセルフカバーした今作は、予想の斜め上から攻めてくる名曲揃いだ。そんな名作の誕生を記念して、町あかり本人へのインタビューと、ロック漫筆家・安田謙一氏によるライナーノーツの2本立て特集が実現!

 

●今回のニューアルバム『収穫祭!』は、ライブでのバックバンド“池尻ジャンクション”を従えてのバンドサウンドとなったわけですが。

町:2016年頃から池尻ジャンクションと、数ヶ月に1回のペースでワンマンライブをやっていて。そのコンセプトとして、普段は私がオケで歌っているライブとは全然違う選曲にしたいっていうものがあったんです。そこで私が他の人や映画に提供した曲を生演奏でやってきたんですけど、今作はその池尻ジャンクションとのライブでやっている曲の中からピックアップして収録した感じですね。

●なるほど。収録曲の提供アーティストについて調べてみたんですが、濃厚なキャラクターの方が多いですよね…。

町:面白い人たちばかりですよね。ゲイの方もいれば、ニューハーフの方もいて…今気付きましたけど、そういうお友だちが多いんですね(笑)。

●何がキッカケで知り合うんですか?

町:チャマタソ。さん(※現・ボンバー☆チャマタソ。)が最初に私をイベントに誘って下さって、そこから広げて頂いたところはありますね。美広まりなちゃん(※現【秘密のオト女】ゴリな)も、チャマタソ。さんキッカケだった気がします。

●そもそもチャマタソ。さんとは何がキッカケで?

町:私がテレビか何かで紹介されているのを、チャマタソ。さんが見て“面白い”と思って下さったらしくて。それでイベントに誘って頂いたのが、最初じゃないかなって思います。そこからお互いのイベントに誘い合ったりして、チャマタソ。さんの周りにいる面白い人たちにも出会ったんですよ。そういう流れもあって、ある時に“曲を書いて欲しい”と言って頂いたんです。

●そういう経緯でM-6「ヒントがほしい」を提供されたわけですね。

町:この曲は「ヒントがほしい」っていうタイトルで元々、大まかに作ってあったものなんです。でもこのテーマは私が歌っても雰囲気が合わないなと思って、いったん保留になっていて。チャマタソ。さんに出会った時に“もしかして、この人なら合うんじゃないかな”と思ったので、そこからちゃんと作り直したものを歌ってもらいました。

●チャマタソ。さんのどういうところに合うと思ったんでしょうか?

町:ちょっとシャイな引っ込み思案で、乙女なところが合っているかなって思いました。

●逆に町さんは、自分には乙女な感じが合わないと思っている…?

町:いや、今回こうやって歌ってみた感じも、これはこれで良いと思うんですけど…そうですね(笑)。

●ハハハ(笑)。先ほどお名前が挙がった美広まりなさんに提供したM-11「激辛デスソースの人生」は、どういう経緯で?

町:美広まりなちゃんはずっとソロで活動してきた人なんですけど、その当時“秘密のオト女”っていうアイドルグループに入るかどうかですごく悩んでいて。“美広まりな”っていう名前も使えなくなるというところもあって、色々と悩んでいるっていうLINEがめちゃくちゃ来ていたんですよ。それを読んだ上で、心境を想像して書いた曲ですね。

●実際に当時やりとりしていた内容から、心境を想像して書いたと。

町:はい。“まりなちゃんはこう思っているんじゃないかな”とか、“こういう感じが共感できるんじゃないかな”ということを考えながら書きました。ソロを辞める前にイベントで共演することが決まっていたので、そこでのコラボ用に書いた曲ですね。

●「激辛デスソースの人生」というタイトルだけ聞くとちょっとフザけた内容を想像してしまいますが、すごくしっとりとした良い曲ですよね。

町:そう思われたくて、あえてそういう曲にしました。“激辛”や“デスソース”っていう言葉のイメージからはすごく遠い、しっとりした曲調にしたくて。

●タイトルからだと、すごくキツい人生を想像してしまうのですが…。

町:“キツい”っていうのは、悪いことじゃないと思っていて。辛くて辛くて涙が出る人生というのも良いんじゃないかなって思うんですよ。

●町さん自身がそういう考え方なんですか?

町:う〜ん…、比較的そうですかね(笑)。そこまで強く思っているわけではないんですけど、この曲をまりなちゃんが歌うことで意味が生まれてくるんじゃないかなと思って。

●歌い手のことをイメージして、その人が歌うことの意味まで考えた上で曲を作っている。

町:そうですね。だから今回はセルフカバーみたいな感じで歌ったんですけど、自分には合わないなって思うものも正直あって(笑)。自分はその人の歌い方とかまで想像して書いているんだなっていうことに、後から気付きましたね。

●そのせいか今作は、曲によって別人かというくらい歌い方が違うなと思ったんです。

町:頑張って、ちょっとでもイメージに合わせようと工夫してみました。でもM-1「夜に起きるパトロン」は(原曲を)ギャランティーク和恵さんがすごく色っぽくて気怠い感じで歌っていたので、今回はあえてバンドの勢いある演奏に乗せて真逆な感じの歌い方にしてみたんです。そういう歌い方もアリかなと思って。その結果、バリエーションに富んだものになっているかなとは思います。

●ギャランティーク和恵さんはソロ活動と並行して、ミッツ・マングローブさん、メイリー・ムーさんとの女装歌謡ユニット“星屑スキャット”もやられている方ですよね。元々お知り合いだったんですか?

町:和恵さんは“Snack 夜間飛行”っていうお店を新宿ゴールデン街でやられているんですけど、そこで誰かが私の名前を出して下さって、みんなで曲を聴く会みたいになった時に“この子、面白い”となったらしくて。元々、和恵さんに関しては私が高校生の頃からファンで、ファンレターを送ったりするくらい大好きだったんです。その当時から“私の歌を聴いて下さい”みたいな感じで、自分のデモテープを送っていたくらいなんですよ。

●自分のデモテープを送りつけていたと(笑)。

町:“私、こんなに好きなんです”みたいな感じで(笑)。和恵さんがそれを覚えて下さっていたみたいで“この歌声、あの子じゃない?”みたいになったらしいんです。それもあってイベントにお誘い頂いて、出演したところからずっと仲良くさせて頂いています。

●憧れの人に自分の曲を歌ってもらえるって、すごく良いですね。

町:そうなんですよ! イベントで共演させて頂く時に“曲を書かせてもらえませんか”と訊いたら、“いいわよ”と言って頂いて。そこから作った感じですね。

●歌詞の内容も、ギャランティーク和恵さんを想像して書いている?

町:私は基本的にタイトルから先に決めるんです。内容もアレンジも何も考えずに、“こういうタイトルの曲があったら面白いな”って浮かんだものを日頃からメモしていて。この曲は、その中で“こういうちょっと怪しいタイトルで作ったら、和恵さんに合うんじゃないかな”っていうところからでしたね。和恵さんを想定した歌詞ではないんですけど、“ちょっとお洒落で怪しい感じにしたいな”と思って書き始めました。

●そういうイメージがあったんですね。町さんといえば「もぐらたたきのような人」の印象が強いのでもっと明るい曲がメインかと思いきや、今回はしっとりとした曲や大人っぽい雰囲気の曲が多くて、意外でした。

町:結果的にそうなりましたね。そもそも池尻ジャンクションっていうバンド自体が、しっとりした曲や繊細な曲を多めにやる方向でやっていて。もう1つやっているガールズバンドのほうは“元気・シンプル・楽しい”みたいなものをテーマにしているので、その対極にしたかったんです。だから、今作もそうなっている感じですね。

●バンドの方向性的にもそちら寄りだったと。M-10「やさしい麦茶」はブルートリップ.というアイドルグループに提供した曲だそうですが、こちらも優しく聴かせる曲ですよね。

町:アイドルのイベントって、しっとりした曲があんまりないんですよ。そういう中でアゲアゲの曲ばかりじゃなくて、スローで優しい曲があったら珍しいんじゃないかなと思って。「やさしい麦茶」は、そういう個人的な想いもあって作った曲ですね。

●なるほど。今作の中でもM-9「大丈夫よ」は特に切ない感じというか…。

町:これも元々、提供用に作ったものなんですよ。

●あ、そうなんですね。クレジットには特に何も記載はないですが。

町:M-3「電球を替えてくれた人」もそうなんですけど、実はこの2曲は大竹しのぶさんの作品コンペに参加するために書いたものなんですよ。だから、本当は大竹さんに歌って欲しかったんです。でも(採用されずに)使い道がなくなってしまったので、自分で歌おうと思って。

●元々は、大竹しのぶさんが歌うことを想定して書いた曲だった。

町:頑張って自分で歌ってみたんですけど、“こうじゃないんだよな…”と思っていて。私の想定していた深さとか大人っぽさは、出せていない気がしますね。“こんなにも大竹しのぶさんを想定して書いていたんだな”って自分で思いました。自分で作ったのに、自分に合っていないっていう不思議な状態になっています(笑)。

●ハハハ(笑)。

町:本当はこういう内容の歌は一番、苦手というか。女の人が悲しい目に遭う歌は嫌なんです。逆に女の人がちょっと強気でいたり、優位にいる歌のほうが楽しいから。元々は大竹さんが歌うとすごく良いだろうなと思って書いた曲なので、自分で歌うとちょっと明るくなりすぎちゃうんですよね。

●想像していた雰囲気は上手く出せていない。

町:私の新曲として作っていたら、絶対にこういうものは書けていないと思うんです。やっぱり大竹さんの存在があって、舞台や映画やドラマを見させて頂いた上で私が感じたことを書いた歌だから。自分用に書いていたらできなかった曲という意味では、幅を広げて頂いて感謝しています。

●逆にこういう機会がないと、チャレンジしなかったタイプの曲というか。

町:そうですね。明るい歌や楽しい歌ばかり作っちゃうので、そういうモデルになって下さる方がいるのはありがたいことです。それは今回の全曲を通して、そう思いました。

●M-8「乗り換えがチャンスです」も特にクレジットはないですが、誰かのために書いた曲だったりする?

町:これは2年前に出した『あかりの恩返し』(メジャー2ndアルバム/2016年)というアルバム用に書いていた曲で。そのアルバムは“もし、憧れの歌手の皆様から楽曲制作を依頼されたら”というテーマで作ったものだったんです。勝手に誰かに提供することを妄想して書いた中の1曲で、これは石野真子さんに書いた曲ですね。

●元々、誰かを想定して書くのが好きなんですね。

町:そっちのほうが楽しいし、気が楽ですね。自分が歌う新曲って、なんかプレッシャーがあるというか…。でも“自分では歌わない”って思うと気が楽になって何でも書けちゃうし、大胆なものも書けるんです。

●自分以外の人の気持ちになって歌うことで、“変身”もできるのでは?

町:“違う人になれる”っていうのが、すごく好きで。それは、私が70〜80年代の歌謡曲が好きな理由でもあるんです。その曲を歌うことで、その曲の人になれるのが面白いから歌っている気もします。

●誰かを想定して作る曲と、自分が歌うために作る曲は完全に別物?

町:全く別ですね。でも人にばかり書いていると、自分のためにも書きたくなってきて。やっぱり人に合わせて書いていると、そこに合わないテーマとかはどんどん残っていってしまうんですよ。その中にも“このテーマは面白いから、本当は書きたいんだよな…”というものもあるんです。“人にばかり書いていたら疲れてきた。自分に書くのは楽しいな。でも自分に書くのも疲れてきたし、今度は人に書こう”みたいなサイクルがあるというか。“疲れたら、こっち”みたいなことができて、気分転換が常にできるので良いなって思います。

●両方あるから、バランスが良いのかもしれないですね。そして自分のためだけではなく、誰かを想定して書くことで表現の幅も広がるのかなと。

町:本当にそうですね。すごく広げてもらっています。今回のアルバムは、幅を広げて頂いたみなさんへの“感謝祭”的な意味合いもあって。“こんなに収穫できました。神様ありがとう!”みたいな感謝を込めてやるのが、“収穫祭”だと思うから。“実りが多い1年で良かった”という意味で、『収穫祭!』っていうタイトルにしました。

●リリース後に4会場でライブサーキットを開催するわけですが、そこでも収穫した成果を見せられるわけですよね。

町:今作に収録した曲だけじゃなく、新旧織り交ぜてやりたいなと思っていて。4会場それぞれのセットリストに、今作の収録曲を散りばめているんです。セットリストはホームページ上で公開しているので、それを見て“この会場ではこの曲が聴けるんだ”と思って来て頂ければと思います。でも“この曲が聴けるから、ここに行こう”じゃなくて、どこも違うから毎回来てもらえたら嬉しいですね(笑)。

Interview:IMAI
Assistant:Shunya

 


 

■ロック漫筆家・安田謙一によるライナーノーツ
「彼女がバンドで歌ったら」

シンガー&ソングライター、町あかり。15年のメジャー・デビュー盤『ア、町あかり』にはじまり、16年には「もし、憧れの歌手から楽曲依頼を受けたら…」をコンセプトとした『あかりの恩返し』、17年にはカシオトーンと、PCソフトのガレージバンドを駆使しての自作トラックを採用した『EXPO町あかり』と、1年に1枚のペースでアルバムを発表している。ユニークな彼女のオリジナル曲が毎年毎年、着実に音盤化されている。それだけで世の中捨てたもんじゃないと思う。

2018年の新作『収穫祭!』は、バンド、池尻ジャンクションを従えてのアルバムとなる。1曲目「夜に起きるパトロン」は、彼女がギャランティーク和恵に提供した曲。グッとギアチェンジして新しいフェイズに突入していくような感覚に酔う。続く「ナンタラカンタラっていう人」もファンキーなグルーヴを活かした強力なナンバーで、日ごろ、ナンタラカンタラって言いがちな私には耳が痛い。そして3曲目「電球を替えてくれた人」。これは大がつく名曲。この冒頭3曲で、アルバム『収穫祭!』の充実ぶりは確信に変わる。

全12曲の中、この「電球を替えてくれた人」、「ぽんぽん」(2013年公開の中村祐太郎監督による同名映画の主題歌)、「バーヨコハマ」(姫乃たまへの提供曲。『もしもし、今日はどうだった』収録)、「ヒントがほしい」(ボンバー☆チャマタソ。への提供曲、「大丈夫よ」、「やさしい麦茶」(ブルートリップ.への提供曲)、「激辛デスソースの人生」とスロウな曲が目立つ。一言でバラードとはくくり切れない、それぞれ個性の強い曲ばかりだ。

バンド、池尻ジャンクションとの出逢いは、思いがけず、町あかりの歌唱のエモーショナルな特性を大きく引き出しているように思える。エモいったら、ありゃしない。池尻ジャンクションは目黒にある音楽学校、メーザー・ハウス(最寄りの駅はもちろん、東急田園都市線の池尻大橋!)の卒業生で構成されていて、17年1月15日の渋谷7thFLOORを皮切りに、これまでに数回のライヴを行っている。では、池尻ジャンクションの結成に至る経緯を町さんにインタビューしてみよう。

「14年から女性メンバーのみの“町あかりガールズバンド”を組んでライブを行っていまして、そちらはとにかく“明るい! 楽しい! シンプルな演奏!”というテーマでやってきました。その一方で、スタッフの豊岡さんと“ガルバンと正反対な、繊細な演奏ができるバンドも作りたいね”という話になり、“楽器 ジャズ 学校”みたいな検索をかけて(笑)、そこから豊岡さんの勘でいきなり“メーザーハウス”に電話して…。そのとき対応してくださったメーザーの方が町あかりの楽曲をとても気に入ってくださり、とっても熱心にメーザー卒のミュージシャンを集めてくださったんです。そこで顔合わせなどがあって…、今の池尻ジャンクションが出来ました。」

最初に彼女からこの話を聞いたとき、その強引さと実行力に爆笑してしまった。しみじみと町あかりの音楽の強さを感じてしまうエピソードなので、あえて紹介いたしました。

「バンドはドラム、ベース、ギター2名、キーボード、コーラスの計6名の構成で、みんな楽器が大好きな“楽器小僧”という感じです。楽器や機材にめちゃこだわっていたりして、“使えたらなんでもいいや”というタイプの私にとっては超・衝撃です。普段自分のバンドで活動している方もいれば、サポートメインで活動している方、作曲アレンジャー業が実はメイン、という方もいます。とにかくみなさん、即興でなんでも出来ちゃうので本当に尊敬しています。編曲は基本的に全曲、町あかり作のデモ音源(オケ付き)が元にあります。リハをしていくなかで、バンドの皆さんがアイディアを出し合って固めたり、整えたり、膨らませてくれました。」

町さん自身にとって自家製トラックとバンド・サウンドとの違いはどんなところにあるのでしょうか。

「“あのチープなオケが良いよね”と言われることも多いのですが、それは意図してやったものではなく偶然そうなっただけなので、“別にあのオケがあってこそ、じゃないもん。どんなバック演奏だって私の歌はおもしろいもん。”みたいな気持ちはありました(笑)。だから打ち込みオケもある一方で、バンドで演奏してもらえるのは、自分の曲の幅が広がるようで嬉しいです。打ち込みのオケは、ジェットエンジンの船に1人で乗っているような感じ。バンドは、全員で手漕ぎボートをせっせと漕いでいるみたいな気持ちになります。めちゃ必死です。ジュリーの井上堯之バンドみたいな感じでみんなでいろんなところを周るの、とっても憧れます。打ち込みオケもあり、ガールズバンドもあり、池尻ジャンクションもあり、いろんな形で曲をお届けしたいのでこの池尻ジャンクションも、ケンカせず仲良く(笑)、末長く続けて発展させていきたいです。」

作詞家で、作曲家で、編曲家で、トラックメイカーで、ソロ歌手で、バンドのヴォーカリストで(…以下、延々)。またひとつ、町あかりの顔が増えた。
これがほんとの、How Many いい顔、である。君にはまったく、である。

安田謙一(ロック漫筆家)
https://twitter.com/yasudaida

 

 

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