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後藤まりこ

色あせない衝動、爆発。

2010年12月、突然ミドリの解散を発表して我々の前から姿を消した後藤まりこ。

ギリギリの緊張感の上で奇跡的に成立させるミドリのライブと音楽は観る者の心を捉えて離さなかったが、
「無理心中したいわけじゃない。僕の投身自殺や。見といてほしい」
と告げたその終わり方も衝撃的だった。

その後、 “ARABAKI ROCK FEST.11”にCOMBO PIANO-1のシークレットゲストとして出演を果たした彼女は、ミドリ解散からちょうど1年後となる2011年12月、主催イベントにて“後藤まりこ” として復活し、待望のソロデビューアルバム『299792458』を完成させた。

ステージの上でくるくると舞い、まるで女神のように微笑んだかと思えばいきなり衝動を爆発させるその音楽は、少しだけ大人になった後藤まりこのありのままの姿が投影されている。

INTERVIEW #1

「なくても生きていけるもん。でも“好きなもんであることには変わらへんねんな”って思った。だから“好きなものの側にいたいねんな”って」

●2010年12月30日のミドリ解散から約半年後、昨年の春くらいにUSTREAMで「歌うつもりはなかったけど、また歌いたい気持ちが現れていて、バンドでやりたいねん」というような発言がありましたよね。

後藤:どうしようって思っていて。

●ミドリを解散して、なんとなくモヤモヤとしていたんですか?

後藤:あった。

●それはどういうモヤモヤですか?

後藤:辞めた瞬間とか何日後かは「おっしゃー! 夏休みが始まったぞー!」みたいな感じやってんけど、日が進むにつれて、自分のやっていた中の大きい一部がごそっとなくなってしまって…虚無感って言うんかな? だから、“うーん…”って思って。でもそれがミドリに対してなのか音楽への気持ちなのかっていう判断がつかへんかって、去年の1~3月くらいは思考が停止した。

●思考が停止していたんですか?

後藤:脳が麻痺してしまってん。音楽がしたいのか、ミドリがしたいのか。どっちなのかが判断できへんかってん。ミドリじゃないっていうのはわかっていてんけど、バンドをもう1回やるっていうのも違う気がするし、どうしようと思って。歩いていたら曲もできるし。

●鼻歌的な感じで。

後藤:そやから悩んだ。

●それは“やるか? やらないか?”という二択の悩みというより、やらないつもりだったけど音楽をやりたいという気持ちが出てきたから悩んだんでしょうか?

後藤:そう。このまま、なんもせえへんままでおろうかなって思っていたけど、よく考えたら今まで自分のけっこう大きな一部分やって。それがスコーンと一気になくなったやんか。すごく贅沢な悩みではあるんやけど、なくなってみたらなくなってみたでわかることがあって。でもそれがミドリに対してなんか音楽に対してなんかが、ほんまにわからんかった。それが、3月くらいにある人に相談することができて、“音楽をしてもええのかなあ?”って思ってて。それで東日本大震災があって“ARABAKI ROCK FEST.11”が8月になったから、「COMBOPIANO-1のゲストで何曲か参加して」って言われて「やりたいです」って僕も言うて。そこから“やっぱりええな。音楽は楽しいな”って思って。

●ゲストでの出演が決まって、また音楽熱が沸々と?

後藤:せやねん。たぶんCOMBOPIANO-1とスタジオに入っていなかったら、気の迷いじゃないけど、もっと迷わずに辞められていたというか、こんなに早く活動を再開することはなかったかもしれへん。もうちょっと時間がかかったかも。すごいタイミングやった。

●具体的に、後藤まりこのソロをバンドという形態でやろうという形が見えてきたのはいつくらいなんですか?

後藤:それはミドリのときのレコード会社の担当に、「映画『モテキ』のトリビュートアルバム(2011年9月リリースのV.A.『モテキ的音楽のススメ COVERS FOR MTK LOVERS盤』)を出すからYOU、1曲入れちゃう?」みたいな軽いノリで誘われたから「ME、入れちゃう!」みたいな(笑)。それでやってみたら“楽しいねえ”となって、みんな忙しい中時間を割いていろいろやってくれて。そうこうしているうちに“ARABAKI ROCK FEST.11”もやって、“ライブしたいなあ”と思ってん。

●ライブ熱も出てきたと。

後藤:せやねん! どんどん曲もできるし。

●“ARABAKI ROCK FEST.11”は後藤まりことして初めてのライブだったんですよね。どうでしたか?

後藤:めちゃくちゃ緊張した。ほんまに“緊張した”っていうのがいちばん大きいかもしれない。

●なぜそんなに緊張したんでしょう?

後藤:うーん…気負い? ミドリではない自分であんなに大きな会場、たくさんの人の前でライブをやるのは初めてで、「デストローイ!!」とか言わへんし“大丈夫なんかな?”と思った。

●ミドリのときとの比較になってしまうんですが、“後藤まりこ”名義での後藤さんの音楽やステージは、こうやって会って話したりしているときの感じに近いと思うんですよね。

後藤:普通やからな。

●そう、普通な感じ。その普通な感じで表現することへの戸惑いや迷いはなかったんですか?

後藤:僕は別に表現しているつもりはないねん。僕は何を表現したいとかはなくて、ただ音楽がしたくて、結果論としてこういう音楽になった。

●そうなんですか。

後藤:“別にどういう音楽がしたい”とか“どう聴いてほしい”っていうのはマジでないねんけど、たぶんそう聴こえたりそう見えたりするのは悪いことではないから、嬉しい。

●ミドリのときにもそうおっしゃっていましたけど、意識はしていないんですね。

後藤:たぶん、まったくゼロっていうわけではないと思う。無意識の中の意識というものを僕は信用できへんから、多少は意識しているとは思うけど、そんなにギンギンには…。

●「作るで!」という感じではないと。

後藤:そういう感じでは全然ない。だって、そんなものは嘘もんやん。なんというか、親しき中にも礼儀ありみたいな感じで、普通に。

●なるほど。ところでバンドメンバーもすごく豪華ですが、一体どうやって集まったんですか?

後藤:千住くん(Dr.千住宗臣)はCOMBOPIANO-1のときに出会って、AxSxEさん(G.)はミドリのときにミックスしてもらっていて、りぼんちゃん(Ba.仲俣りぼんちゃん和宏はハジメ(ex.ミドリ Key.)が紹介してくれて、シュンちゃん(Key.渡辺シュンスケ)はAxSxEさんが「いいキーボードがいる」って思い出してマネージャーさんに電話してくれた。

●バンド形態でやりたいと考えたときに、メンバーやライブのイメージはあったんですか?

後藤:何も考えてへんかったけど、ドラムの位置はライブやったら下手。普通にドラムが後ろにいる形やと、不安でできへんくて。

●最初は普通の位置でやったんですか?

後藤:やった。渋谷O-EAST(2011/12/27@渋谷O-EAST “Don't Disturb Me!!”)のときも、リハはそういう位置でやったんやけど、「無理や! やっぱり千住くんはこっちに来て!」って言って、来てもらった。

●不安だったんですか?

後藤:不安やった! 不安で不安でチビリそうやった!

●チビリそうだったのか。

後藤:ほんまにただの慣れってことなんやと思う。麦茶しか飲んだことがなかったのに、急に緑茶に変わったらビビった感じ。

●やっていけば別に問題なく慣れるだろうと。

後藤:そうやとは思うんやけど、ミドリのときにずっと下手にドラムがいたから、それに慣れすぎていて。それにピアノの音も好きやし、どっしりしたベースも。あと、シュンちゃんもAxSxEさんも、コードがすごくロマンチックで、僕の好きな位置のコードを押さえてくれるから大好き!

●人の繋がりの中で、音楽的にリスペクトできるメンバーを集めることができたと。

後藤:うん。

●その渋谷 O-EASTでは、篠原ともえさんと女王蜂という対バンだったじゃないですか。3組ともすごくよかったんですよね。3組とも“女性”というものをバンド形態で、でも全然違うベクトルで表現していると感じたんです。篠原さんは正直アウェイな場所だったと思うけど、ライブが終わる頃にはみんなが篠原さんを大好きになっていて。あのパワーはすごかった。

後藤:ほんまに大好きになった!

●あの日のイベントはすごく印象に残っているんですけど、後藤さんはどうでした?

後藤:あの日全体としてみたら、みんな嫌な顔はしないし、みんな最後まで帰らなかったと思うし、それがすごくよかった。予想はちゃんと裏切られていて、期待にはちゃんと応えられていて、熱量もちゃんと持って接することができて、スタートできたと思うし。支えてくれた女王蜂と篠原さんは“すごいなあ”って思うから、もっとがんばらないとあかんねん(笑)。

●プレッシャーもかかった?

後藤:かかる! ほんまに。女王蜂は音が大きかった~。

●大きかったですね(笑)。あの日もやっぱり緊張したんですか?

後藤:した! 最初は特に緊張した。

●でも、そこで感じたものは、やっぱりいいものでしたか?

後藤:よかった! すごくよかった! ライブができて、普通に音楽ができてよかった。

●やっぱり自分には音楽が必要だと感じたということ?

後藤:言葉にしたらすごく気持ちの悪い奴みたいやけど…。

●そんなことはないと思いますけど(笑)。

後藤:だって(音楽は)なくても生きていけるもん。でも“好きなもんであることには変わらへんねんな”って思った。だから“好きなものの側にいたいねんな”って。我慢することはきっと嫌いなんやろうし。

●楽曲はあの前後からYouTubeにアップしていましたよね。

後藤:アップした曲はiPhoneで適当に録ったやつやったから、ちゃんと録ったのは今年の2月に入ってからです。

●原曲はそこそこ揃っていたんですよね?

後藤:ぎょうさんあった。

●曲の作り方は今までと違うんですか?

後藤:違う。今まではミドリのメンバーがいて、みんなでリフを弾いたり、モチーフをいじくり回したりしていたんやけど、今は完全に僕が歌を歌ったり、踊ったりしていて。

●ん? 踊る?

後藤:踊るっていうか、身体の動き。 “しゅぱー!”っていうところは“しゅぱー!”ってしてもらって(と言いながら踊る)。音楽用語がわからへんから「ここは“ふふふふん♪”っていうメロディがあって、そこは“しゅぱー!”ってして」って言ったらしてくれるねん。

●鼻歌みたいな感じで原曲があって、それをバンドメンバーとスタジオに入ったときに歌って、「しゅぱー!」とか言いながら形にしていくということ?

後藤:うん、最初はほんまに鼻歌。“しゅぱー!”っていうのがない鼻歌だけの場合もちゃんと曲にしてくれるし。

●後藤さんのイメージするものをこのメンバーが具現化してくれていると。

後藤:そう。その人たちのフィルターをちゃんと通って。すごくいい。

INTERVIEW #2

「光を超えるものがあったら、世界のバランスが狂ってしまうと思うねんけど、バランスの崩れるところを見てみたいようで見たくなくて、ちょっと怖いねん」

●特徴的なアルバムタイトルのことを訊きたいんですが、『299792458』で“後藤まりこ”と読むタイトル…この数字が意味するところは、真空中の光の速度(m/s)なんですよね。なぜこのタイトルに?

後藤:何個かあった候補を何人かに訊いたら「これがいい」って言われたからっていうのが正直なところなんですけど…。

●ハハハ(笑)。まずM-9「299792458_TOKYO-U」があったんでしょうか?

後藤:ちゃう。それはいちばん最後にできた曲。ほんまはもっと違うタイトルもあってんけど、みんなこれがええって言うたから“ほな、これがええんかな”って思ったし。なんかよくない?

●いや、すごくいいと思います。僕がそうなんですけど、いろいろ深読みするし。記号みたいなものだけど、なにか意味が含まれているような気もする。

後藤:意味が含まれていないと言うと嘘になるかな。

●意味がないのであればランダムな数字の羅列でいいですからね。この数字が真空中の光の速度だとわかったとき、なんだか“わっ!”と思ったんです。どの曲と関係性があるかはちょっとわからないんですけど…。

後藤:全部。

●あ、全部なんですか。なんとなくロマンチックな感じもありますよね。

後藤:どうなんやろう? でも、すごく怖いし、見たらあかんもののような気もするし、でも見たいし…僕はこの数字にそういう感じの意味を持っていて。光ってすごくいいイメージだけど、僕はすごく悪いイメージも持っているんです。光があったら、絶対に影もあるから。

●なるほど。

後藤:“そんなに早いんか!”って思ったけど、今はそれを超えようとしている物質も発見されていたし…あれは誤差だったっていう話もあるけど。

●観測の誤差だったみたいですね(※2011年9月にニュートリノが光速よりも速いという実験結果が発表されたが、後に実験不備だったという発表がなされた)。

後藤:でもあれはまだ僕の中ではちゃんと判断が付いていなくて、なんとも言われへんから、今はそれを勉強中やねんけど…そういうわからなさ加減。ほんまに光を超えるものがあったら、世界のバランスが狂ってしまうと思うねんけど、バランスの崩れるところを見てみたいようで見たくなくて、ちょっと怖いねん。

●科学とか物理、そういうものに興味があるんですか?

後藤:うーん…好きやで。“わあ~!”と思うし、数字の羅列とか記号がすごく好き。

●円周率の3.14とか?

後藤:それはあんまり惹かれへんなあ…。

●難しいな(笑)。

後藤:何が好きなんやろう…。あ、サラスの公式(行列式)! 入れ替えられるやつ! あれを眺めているのが好きやねん! (紙に数式を書きながら)こういうのが好き!

●いちおう僕は理数系だったんですけど、数式が好きという感覚はないかな(笑)。

後藤:何の記号が好き?

●記号? うーん、φ(ファイ)かなあ。シータってどういう記号でしたっけ?

後藤:シータはθ! (紙に書きながら)

●僕の場合は、記号というか名前の響きが好きなんですよね。シータとかイプシロンとか。

後藤:ふーん。Aの上に丸が付くやつって何ていう名前やったっけ? これは長さとか距離を表す記号やったっけ? あれ? 大きさ? 中卒やからわからへんわー。悲しいなあ。(※おそらく「Å:オングストローム」のこと)

●…本当に記号が好きなんですね(笑)。

後藤:好き。よくない?

●なんとなくわかる気もしますけど(笑)、最近好きになったんですか?

後藤:いや、前から好きやったけど、表立って言うもんじゃなかったから。

●確かに表立って言うことではない(笑)。

後藤:あ、あとこういうのも好きやで! 構造式(紙に書きながら)。

●物質の構造式ですか。アミノ酸とかの式ですね。

後藤:そうです!

●…ていうか、何の話でしたっけ?

後藤:わからん(笑)。でもいいと思う!

INTERVIEW #3

「もちろん音楽もそうで、大事って気付けた自分もいて、大事なものとはやっぱり離れたくない」

●ところで最初に渋谷 O-EASTでライブを観たとき、すごく印象に残った曲があったんです。それはM-5「ゆうびんやさん」なんですが、さっき「素の後藤さんが出ている」と言いましたけど、この曲がいちばん顕著だなと。ミドリの後藤さんからは女性というよりも少年っぽさ…少年性を強く感じていたんですよね。でもこの曲では女性らしさを感じた。

後藤:これはお風呂でできてん。

●お風呂で?

後藤:スーパー銭湯でできた。前々から好きやと思う人がいてんけど、結婚しているし噛み殺さないとあかんと思って、噛み殺しているときにできた。

●そうなんですね…めっちゃ“素”じゃないですか!

後藤:うん。でも誰にも言ってへんし、いいかなと。

●自分の中だけで想っていたと。

後藤:それだけで完結させるつもりやった。

●噛み殺している気持ちが表れていると。恋愛感情的なものは、この曲以外にも音楽に表れている気がするんですが。

後藤:そうかも。

●そういうものは、ミドリのときと比べて大きくなっている?

後藤:ミドリのときは「自分のことを見て」って言っている曲ばかりやってんけど、今はそうじゃない気がする。見てほしいし、愛してほしいけど、僕はもっと愛したい。♪愛されるよりも 愛したい 真剣で~(KinKi Kids「愛されるより 愛したい」を歌い出す)みたいな。ミドリのときは逆で「愛してよー!」みたいな感じやってん。

●相手のことはあまり関係なかったのか(笑)。その変化は何なんでしょうか? 人間的な成長?

後藤:成長って言うの?

●わからないけど…経験?

後藤:“大切”とか“大事”とかあるやん? 恋愛には好き嫌いってあるけど、恋愛以外にも好きとか嫌い、大事でそばに置きたいものとかあるやんか。もちろん音楽もそうで、大事って気付けた自分もいて、大事なものとはやっぱり離れたくない。でも、ミドリのときはわかっていなかったから「欲しい欲しい」ばかりを言っているだけで。

●きっと“後藤まりこ”という1人の人間が、以前と比べてそう変化しているということなんですね。

後藤:うん。でも僕の根本はたぶん変わっていないと思うねんけど、どうやろう?

●根本の部分は変わっていないと思いますよ。ただ、さっき言ったように女性の印象が以前よりも増えている気がするし、見え方も全然違っている気がするんです。もちろんめちゃめちゃ激しいときは激しくて、尖ったように聴こえるけど、以前よりも自然な気がする。

後藤:以前は、ミドリの後藤まりこさんを意識しすぎていたとは思う。

●人に知られるほど、年月を重ねるほど、そういう風になっていってしまうんでしょうね。

後藤:自分でしがらみを作ってしまっていたのかも。

●ちなみに今ライブでできる曲はどれくらいあるんですか?

後藤:13曲くらい。

●既にライブで披露されている「sound of me」(※今作には未収録)もいいですよね。

後藤:僕も好き!

●激しいけど、愛情を感じるというか。

後藤:ラブリーな感じやろ?

●うん、激しいけどね(笑)。先ほど「別に表現しているつもりはない」とおっしゃっていたじゃないですか。体の動きでメンバーに伝える“もの”というのは、気持ちなんですか?

後藤:音楽用語がわからないから。他のメンバーの方が経験もあるし、わかっているし、僕の使う音楽用語だと子供っぽすぎて…。

●イメージでしかないということ?

後藤:うん。「しゅわーってして!」とか「ふんわりしたい」とか。

●それは、音楽に感情を込めるということではないんですか?

後藤:わからへん。でも、M-3「M@HφU☆少女。。」は、シュンちゃんかAxSxEさんがチャリーンって弾いたコードがすごくよくて「それ、いい!」って言ったら「これもどう?」って次々に弾いてくれたから、それに番号を付けていって、“1 → 3 → 4 → 2 → 2 → 3 → 4”みたいに配置して、「これにメロを付けて歌う!!」って言った。

●「M@HφU☆少女。。」はメンバーとのコラボということか。

後藤:全部そうやといえばそうやねん。M-4「うーちゃん」は、シュンちゃんが初めてスタジオへ来たときに、みんな知らんのに「僕、歌うわ」って歌い出したら、真っ先にシュンちゃんが弾き出してん。それがめちゃくちゃよくて。そのとき、AxSxEさんはめちゃくちゃ酔っ払って来ていて、話しにならへんくらい弾かへんかってんけど、楽しかったからよかったねっていう会合やった。

●でも、そこで曲が生まれたんですね。

後藤:「うーちゃん」はメロがそのときに全部あってん。

●曲によってケースバイケースなんですね。

後藤:最初にメロがなかったのは、コードから作った「M@HφU☆少女。。」とM-6「ドローン」のサビのところくらいかな。

●今作を聴いた全体的なイメージとしては…それはAxSxEさんや渡辺シュンスケさんのコード感も影響しているとは思うんですが…けっこう激しい音楽だけどすごく透明感があると思うんです。透明だったり遠くまで届く感じだったり。それはサウンドから受ける場合もあれば、後藤さんの歌やメロディから受ける場合もあるんですけど。

後藤:キラキラしているやろ?

●そうなんですよ。こういう感じは、このメンバーだから出せるんですかね?

後藤:他の人やったらもっと別の音楽になったかも。

●さっき「シュンちゃんもAxSxEさんもコードがすごくロマンチック」という発言がありましたけど、メンバーからの影響で、後藤さんが生み出す音楽に発展というか広がりが出てくるんじゃないかという気がしているんですが。

後藤:出てくると思う。

●ライブも、メンバーからすごく刺激を受けているように見えるし。

後藤:すっごく受ける。

●自由過ぎますもんね。

後藤:ほんまに自由過ぎるよな! あの人たち、ライブ前に飲み過ぎやねん(笑)。

●曲も途中で全然違う方向に行ったりするじゃないですか。それでもちゃんと戻ってくる。

後藤:みんな大人やから。

●最後はちゃんと片付けるんですね(笑)。

後藤:僕がどうなっても大丈夫。誰かがどうなっても大丈夫。もし誰かがどうなったとしても、絶対に戻ってきてくれるし。

●後藤さんも、自由にのびのびとやれている感じ?

後藤:自由っていう言葉が似合わないくらい自由。普通。

●普通。

後藤:うん。ただの人。

●“自由”よりも“普通”という方がしっくりきますか?

後藤:“自由”だと、絶対に“自由”とは逆の“不自由”っていう言葉が出てくるわけやん? でも、そういうわけではないから、普通。

●それとM-8「あたしの衝動」という曲がありますが、ミドリの解散から、またこうやって音楽を始めている後藤さんの想いがこの曲に綴られているような印象を受けたんです。

後藤:そう言ってくれるのはすごく嬉しい。歌録りが終わってから、ちゃんと歌詞を紙に書いてから受ける実感もあったし。できてみると、すごくいい曲やなと。

INTERVIEW #4

「それが“普通”だと思う。“安心”とは違うのは、きっと“安心”の裏には“不安”があるからやと思うし」

●作品は想像していたものになりましたか?

後藤:僕はもうちょっとチープなものを想像していたから、“あんなにいろんな音をいれていいんや”と思った。フルートとかを入れるのは初めてやったから、すごくよかった! 「あたしの衝動」の最後は、チューブラーベルも鳴っているんやけど、全部AxSxEさんが考えてくれたやつで、僕はそんなこと思い付きもしなくて。

●AxSxEさんのアイディアだったんですね。

後藤:チューブラーベルとかの楽器を入れるとか、誰を呼んでくるかとか…すごいわ、あの戌年。

●ライブとはまた違ったアレンジメントで、想像していた以上に曲がよくなった?

後藤:よくなったと思う。あと、ちゃんと自分でコーラスを考えた。初めてちゃんといっぱい重ねた。

●ミドリのときは?

後藤:あれはハジメが重ねたりしてて。『shinsekai』(ミドリ / 2010年5月リリースのアルバム)も僕は重ねていなかったから、重ねるのは今回が初めてかも。今まではやろうと思わへんかった。

●それが今回はなぜやろうと思ったんですか?

後藤:わからへん。

●重ねた方がいいと思った?

後藤:うん。

●ライブではヴォーカルエフェクターを持っていますけど、そういうことも影響しているんでしょうか?

後藤:どうなのかな? 曲として、もっと分厚いほうがいいと思ったから重ねたんだと思う。

●そのコーラスの話に関連するかもしれないんですけど、今作にはいろんなテンションの歌がありますよね。歌い手として、これは自然なんですか?

後藤:不自然に見える?

●見えない。

後藤:うん、じゃあ自然!

●ハハハ(笑)。何も考えずに普通に歌っているんですか?

後藤:ひょいひょーいって歌って、みんながそれを紡いでくれて、「ありがとう」って言ってOKみたいな。

●自然ですね(笑)。それと、ライブはまだ10回もしていないですよね。僕は3回観ているんですけど、観るたびにどんどんライブが変わっていくというか、自由度が増してるように感じたんです。そういう実感はありますよね?

後藤:あるかも(笑)。みんな仲良くなっていっているもん。

●ライブはやっぱり楽しい?

後藤:楽しい。すっごく楽しい。

●音源通りではなくて遊びも多い気がするし、それが許されるというか、それが受け入れられるメンバーなんでしょうね。

後藤:もちろん。

●ライブをやっていて、新たにメンバーについて発見したことはありますか?

後藤:全員ちゃんと僕のことを見てくれている。見ていないようで、見てくれている。

●それは観ていてすごく感じる。

後藤:ほんまに僕のやりたいことをいちばんに考えてくれているっていうのが、ちょっとびっくりする。バンドって、自分のやりたいことがいちばんやんか。

●ああ~。

後藤:でも、バンド形式やけどバンドじゃないやん。僕は今までほとんどバンドしかやったことがなかったから、僕のやりたいことを自分フィルターにちゃんと通した上でアウトプットしてくれる人がいて、痒い所に手が届く。なんて素敵。

●ミドリのときはライブを観ているとすごくハラハラしたんですよ。でもそれは悪いことではなくて、すごくハラハラしたライブが僕の中ではすごくいいライブに思えたんです。毎回新記録を更新するような熱量があるというか(笑)。

後藤:うん。

●片や、後藤まりことしてのライブを3回観て感じたのは、悪い意味での“ハラハラ感”がないんですよね。それは“安心”とはまた違うんだけど。何が起こるかわからないという部分はミドリと一緒なんですけど、それはすごくいい意味でのアドリブ性というか。後藤まりこのライブを観た人の話を聞くと、みんなそういう印象を受けているような気がするんです。

後藤:それっていいこと?

●すごくいいことだと思いますよ。

後藤:よかった。僕の言葉で言うと、それが“普通”だと思う。“安心”とは違うのは、きっと“安心”の裏には“不安”があるからやと思うし。そういう表裏一体のものではない“何か”を今は上手くできていると思う。裏表も何もなくて、すごくいいと思う。

●本来、音楽ってそういうものかもしれない。

後藤:そうやねん。でも音楽をやっていたら、絶対に自我とかが出てきたりするやん? でも、普通に音楽は音楽としてあるのが綺麗な形だなと思えて。嬉しい。

●健康的というか。ミドリは消耗している感じがあって、それはそれで好きだったけど、今はすごく健康的に感じますね。

後藤:うん、健康的。

INTERVIEW #5

「もう今年は言われたものは全部やろうって決めていたから“やります”って言ったら決まった」

●ところで今作のリリース後、ロックミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』に出るんですよね。森山未來さんとの共演ということですが、これはどういう経緯で決まったんですか?

後藤:ミドリのときのレコード会社のスタッフから連絡があって「『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』っていう映画知ってる?」って訊かれて、「知らん」って言ってん。

●知らんかったんか(笑)。

後藤:「森山未來くんと大根さん(大根仁/演出)がロックミュージカルをやるねんけど、もし興味があったらしてみない?」って言われて、僕はちょっと意味がわからへんかってん。

●え?

後藤:何人かの候補の中の1人なのかどうかも、映画のことも何もわからなかったから、「まず映画を観ます」と言って。僕は映画を観るまでにすごく時間がかかるんですけど。

●それはなぜ?

後藤:DVD再生したら2時間動かれへんやん。だから気持ち的に“今日はやめておこう”とやり過ごして、1週間くらい放っておくタイプやねん。

●腰が重いんですね(笑)。

後藤:TSUTAYAでビデオを借りても、1本も観ずに返すことが余裕であるねん。

●2時間じっとしていられないんですか?

後藤:無理無理!

●小学生のときに先生から「落ち着きのない子」と言われるタイプですね。

後藤:そう! あかんねん。しゃべってるからまだいいけど、今も限界やもん。

●えっ? 「今も」って今も?

後藤:映画やと、一点を見つめる作業やん。

●というか「今も限界」って、限界を超えたらどうなるんですか?

後藤:もう横になりたい!

●どうぞ横になってください(笑)。

後藤:あ、ほんまに?

●全然いいですよ。
(※以降、後藤まりこ寝転んでインタビューを受ける)

●…で、映画の話ですが。

後藤:寝転んでいたら我慢できることもあるけど、目が悪いからものすごく近づかないと見えへんねん。

●メガネは?

後藤:見えすぎるから嫌いやねん。

●どっちやねん!

後藤:邪魔やし、嫌やねん。

●子供か(笑)。結局『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』は観たんですか?

後藤:観た。でも、誰がどの役をやるか聞いていなかったし、森山未來くんと2人でやるのも知らなかったから、「女王蜂のアヴちゃんとかN'夙川BOYSのリンダdadaとかの方がいいんとちゃいますか?」っていうメールを返しておいた。「頭の隅に候補として挙げてもらえたのはありがたいと思いますが、僕には自信がないです」って。

●それが、なぜやることに?

後藤:そのときに未來くんがやっていたお芝居を観に行くことになったんですけど、それがめっちゃくちゃよかった。手塚治虫の漫画をすごい世界観で表現している『テヅカ TeZukA』っていうお芝居やってんけど、セリフが10個もないのに全部伝わってきた。映像と音とダンス。

●ダンス?

後藤:ダンスのことはよくわからへんけど、テレビで観るようなダンスではなかったし、超かっこよかった。“わー! すごい! この人が森山未來なんや!”って思って“超いい!”と思って。楽屋に挨拶に行ったら「よろしくお願いします」って言ってくれて、「よろしくお願いしますでいいんですか?」って訊いたら「違うんですか?」って言われて。もう今年は言われたものは全部やろうって決めていたから「やります」って言ったら決まった。

●というか、今年は何でもやろうと決めているんですか?

後藤:うん。やるって決めたからやることにした。たぶんミドリのときだったらやっていないと思う。

●それはなぜ?

後藤:気持ちに余裕もなかったと思うし。

●でも、今ならやれるのではなかろうかと。

後藤:うん。全部できる。

●全部できる?
後藤:言われたものは全部できる。

●絶賛なんでもできる?

後藤:絶賛なんでも受付中!

●どんと来いと(笑)。

後藤:それを計る何かはあるかもしれへんけど。365日ライブをするとかは、物理的にメンバーのスケジュールが合わへんから無理やけど。

●稽古にはもう入っているんですか?

後藤:まだ。

●一体どういう感じになるんでしょうか。演じる?

後藤:「演じなくていい」って言われた。ライブやねんて。

●ライブなんですか。

後藤:バンドのメンバーがいて、バンドをするねんて。だから曲を覚えるように言われた。スガシカオさんが日本語で書いてくれた歌を歌う。たぶんセリフもあると思うけど、どういう演出をするのかは、全然知らんからわからへん。

●楽しみですね。

後藤:僕も楽しみやけど、怖くもある。

●とは言ってもあの“後藤まりこ”ですよ(笑)。そんなに不安はないんじゃないですか?

後藤:「ない」というのは嘘になるかも。1日2回しの公演なんてやったことがないから、ちょっと不安。

●今年は何でもやるとのことですが、“何ごとも経験だ”とか“自分のためになる”と思ってそう決めたんですか?

後藤:そういう風に考えたことは今まで1回もなかったけど、言われてみるとそうかもしれないと思う。自分の中では何も考えてへんかった。

●さっき「ステージ上でも普通だ」とおっしゃいましたけど、後藤まりこというミュージシャンは“女性”というものを上手く表現していると感じるんですね。これは僕の勝手な偏見かもしれないけど、“ロックバンド”と“女性”というものは親和性が低くて、“女性らしさ”を表現するのはなかなか難しいように感じているんです。場合によってはアイドルに見えるようなこともあったりして、すごく不自然に映る。でも後藤まりこはロックでバンド形態で、尚且つ自然な女性らしさもあるから、たまにドキッとしてしまうというか(笑)。

後藤:それは、見たらあかんものを見てしまった感じではなくて?

●そうじゃなくて、目が離せない感じというか。アイドルを見るのと全然違う。

後藤:アイドルええやん! キラキラしているやん! ももいろクローバーZは?

●ももいろクローバーZは自然ですよね。全然詳しくないですけど、「メンバーが一生懸命がんばっているのが好き」とみんなが言うのはわかる気がします。高校野球を観ている感じというか。

後藤:ああ~、わかる!

●高校野球を観ると絶対泣いてしまいますもん。

後藤:僕もやねん! ももクロは女子が全力で最高にがんばっているやんか! めっちゃかっこいい。ももクロは女性らしさが出ていると思う?

●女性らしさというか、“年齢なりの少女らしさ”は出ていると思います。“アイドルらしさ”ではなく。

後藤:なるほど。

●話を戻すと、後藤まりこはロックだけど自然な女性らしい魅力もあって、今後舞台などもありますし、目が離せないということです。
後藤:ありがとうございます。

Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:Hirase.M
Photo:朝岡英輔