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泉沙世子

泉沙世子2万1字インタヴュー 1万人の中から選ばれた歌姫のすべて

数々のアーティストを輩出してきた老舗レコードメーカー・キングレコードが80周年を迎えた2012年、講談社とタッグを組んで新たな女性ボーカリストを発掘するためのオーディション“Dream Vocal Audition”を開催。応募総数・約10000組を超える中から選ばれた15組が出場した最終審査(ライブ審査 5/26@赤坂BLITZ)にて、今まで何度も挫折を味わってきたという泉沙世子は自らの心情を赤裸々に綴ったオリジナル曲「カス」を歌い、感情を爆発させたステージで会場の空気を一瞬で塗り替えた(泉はグランプリのDREAM VOCALIST Loved by with賞を受賞)。あの衝撃のライブから約半年、11/21にシングル『スクランブル』でデビューを飾る彼女に迫る2万1字インタヴュー。華々しくメジャーシーンに飛び立とうとする歌姫のすべてを赤裸々に訊いた。

 

INTERVIEW #1 記憶に残っている幼少期の想い出

「誰もが経験することかもしれないし、流していいことなのかもしれないですけど、“パリン!”というのがいくつかあった」

●泉さんは大阪生まれなんですよね?

泉:はい。6歳を過ぎたあたりまで大阪に住んでいました。

●その後、岡山に引っ越したとのことですが、それはご両親の仕事の都合で?

泉:そうですね。父親が市役所に勤めていて、母親は小学校の先生をしていたんです。

●ご両親共にお堅い仕事をされていたんですね。

泉:そうなんですよ。でも私が6歳になった頃に脱サラをして、岡山の蒜山高原というところでペンションを始めたんです。だから岡山に引っ越しました。

●ペンションで育ったんですか?

泉:そうですね。最初はログハウスのペンション一棟から始めて、今は…私は三姉妹の末っ子なんですけど…ペンションは次女が引き継いで、両親はコテージを経営しています。

●事業を拡げられたんですね(笑)。子供の頃の泉さんはどんな子だったんですか?

泉:すごく覚えてることがあるんですけど、保育所に通っていたときに“生きづらい”というと大袈裟すぎますけど(笑)、なんやろう、人間関係が難しいなぁと思っていた記憶があるんですよ。

●人間関係が難しいって、友達との?

泉:そうですね。別に友達がいなかったわけじゃないし、いじめられていたとかじゃなくて、友達はいたんですよ。

●でも生きづらかった。

泉:今もそうなんですけど、私は人見知りが激しいんです。Dream Vocal Auditionのとき、最終審査に残った15組の中で私が最年長だったということもあり、オーディション中にやっていたブログの印象もあって、オーディション直後は「明るい」「おもしろい」「姉御肌」みたいなキャラクターで見られてたんですよ…でも実際はまったく違うんです(笑)。

●そうだったんですか(笑)。

泉:まず姉御肌ではまったくないし。

●末っ子ですもんね。

泉:それにすごくネガティブだし、悩みやすいし。たぶん、私はネガティブで悩みやすいから歌を書くようになったと思うんです。

●そういう実感というか、自分の性格を保育所のころから認識していたんですか?

泉:そうですね。すごく覚えていることは他にもあって、慣れてきてクラスで仲の良い友達ができると、私は本来楽しいことが好きやから、お祭りにみんなで出かけたりしていたんです。そういうことってよくあるじゃないですか。「今度どこどこに遊びに行こうよ」とか「今度あのお祭りに行くときこういう服着て行こうよ」みたいな。

●はい、ありますね。

泉:そんな中で、その友達のことはすごく好きなんですけど、“きっと外でドッジボールとかして遊ぶのが好きじゃないから誘ったら悪いな”と思って誘わなかったことがあったんです。私は気を遣ったくらいのつもりだったんですけど、後で親から親に「うちの娘はさよこちゃんに仲間はずれにされた」と言われて。

●変な風に伝わったというか、誤解されたと。

泉:そこで心が「パリン!」となったんですよ。小学2〜3年生くらいのころだったんですけど。

●それはちょっとショックですね。自分では善意のつもりだったのに。

泉:もう1つは、メイクに目覚めた時期で「お祭りにみんなでお化粧して行こうや」と言っていたことがあったんです。でもその中の1人はメイクをやりたくなかったらしくて「私はほんまはやりたくなかったのに、さよちゃんがああいうこと言ったから無理矢理みんなに合わせられて。めっちゃ嫌や」と後で言っていたらしくて。そこでまた「パリン!」となって。

●なるほど。

泉:そういうことって誰もが経験することかもしれないし、流していいことなのかもしれないですけど、「パリン!」というのがいくつかあったんです。それはずっと覚えていて。

●後々まで覚えているようなことがちょくちょくあったんですね。子供ながらにショックだったと。

泉:そうですね。もう1つ覚えているのが、中学3年生のときに私はピアスを開けたんですね。それは、生徒手帳に「学校にピアスをして来てはいけない」と書いてあったので、“つけて行かなければ別に穴は開けてもいいのか”と思って開けたんです。

●はい。

泉:で、修学旅行で沖縄に行ったときに「今日はアクセサリーしてもいいよ」と先生が言ってくれたから、みんなネックレスとかブレスレットとかつけるわけですよ。そこで「あ、いいんか」と思って私がピアスをつけたら、私1人だけすごく怒られたんです。「お前なんでピアスの穴が開いてるねん」って。

●ハハハ(笑)。

泉:「穴は開けていいけどピアスをつけたらあかんと思ってました。穴も開けたらあかんのやったら、はっきりそう言ってもらえたら私は校則を守ります」と言ったんですけど、その先生もはっきりと定義が言えなかったみたいで「そんなこと考えたらわかるやろ」ってなんかうやむやにして怒られて。それがすごくショックだったんです。納得させてくれたらちゃんと従うのに、なんで悪いと決めつけて言うんやろうって。

●そういうことが多いというか、そういうことをずっと覚えてるんですね。

泉:そうなんですよ。だからすごく考えるようになりました。

●何を考えるようになったんですか?

泉:“私が良かれと思ってやることによって相手はどう思うんだろう?”とか“私がやることによってこの人はどう動くだろう?”というようなことを考えるようになったんです。でも自分にとってはショックだったことだから、自然と考えすぎるようになってしまって。未だにですけど、人付き合いがあまり得意じゃないんです。

●何の悪気もなかったのに、自分の言動で人が傷ついたり怒ったりする経験があったから。

泉:そうですね。“それどういうつもり?”っていう感じで、人の行動の意図や、人が思っていることをすごく気にするようになりました。

INTERVIEW #2 三姉妹とウルフルズ

「強いところだけじゃなくて、弱さみたいなところを見たときに、すごく人間っぽい感じがした」

●末っ子は大人に囲まれて育つわけですから、自然と人の顔色を見るような気質になると思うんです。三姉妹の末っ子ということですが、2人のお姉さんたちとの関係はどうなんですか?

泉:姉とは3つずつ離れているんですけど、いちばん上のお姉ちゃんに対してはついこの間まで“もし血が繋がっていなかったらこの人とうまくやっていける自信がない”と思っていました(笑)。苦手だったんです。

●苦手だった?

泉:すごく細い話になるんですけど、もう私が上京した後、お父さんが糖尿病になったときがあって。それまでは甘いお菓子が好きでいっぱい食べていたんですけど、糖尿病になったから制限しなくちゃいけなくなったんです。だから、私は東京でめっちゃ美味しいお菓子を厳選して買って帰省したんです。

●たくさん食べられないから、めっちゃ美味しいお菓子を少しだけでも食べてもらおうと。

泉:そうそう。“めっちゃ美味しいお菓子を食べてもらってお茶をしながらお父さんとしゃべろう”と思って。そう思って実家に帰ったとき、いちばん上のお姉ちゃんも帰ってきていたんですけど、お姉ちゃんに「遊びに出かけようよ」と誘われて。

●はい。

泉:でも私はお父さんとお茶をするために帰省したくらいの勢いだったので、「ちょっと気が乗らへんからいいわ」と断ったんです。そしたらめっちゃ言われたんですよ。「なんで私が誘ってるのにそんなこと言うの? どうせ実家におっても何もせえへんくせに」って。私はそれがめっちゃ嫌だったんです。“なんでそんなこと言うんやろ?”って。

●なるほど。

泉:そういう感じでちょっとお姉ちゃんが苦手だったんです。でも最近になって、やっと深い部分まで話すようになったらだいぶ仲が良くなりました。

●何かきっかけがだったんですか?

泉:いちばん上のお姉ちゃんは結構気にせず人と接するタイプなんですけど、人に気を遣うタイプの友達を傷つけたことがあったらしくて、そういう話を半年ほど前にされたんです。さっき言ったように私は人が思っていることをすごく気にするから、その友達のことがよくわかるんですよ。

●ああ〜、なるほど。

泉:「あなたはあまり気にせずに人と接するけど、きっとその友達はこう思っていたんとちゃう? 私もそういう性格だから、あなたの行動をこう思うときもあるし」みたいなことを話して、やっと普通の関係になれました。

●真ん中のお姉さんとはどういう感じなんですか?

泉:真ん中のお姉ちゃんはすごく優しいですね。小さいときからよく面倒見てくれたし、今はペンションでシェフをしていて料理が好きなんですけど、私が上京してからも「ミートソース作ったから送るわ」とか「いちじくジャム作ったから送るわ」ってよく気にかけてくれて。すごく優しいです。

●お姉さんたちから影響は受けているんですか?

泉:いや、影響はあまり受けていないと思います。3人ともまったく別のタイプなんですよ。長女は国立の大学に行って、立派な旦那さんと結婚して今は娘が2人いるんです。次女は旦那さんがシチリアの人なんですけど、その旦那さんと2人でペンションをやっていて。2人が安定しているから、私はこんなに不安定なことをできるのかもしれないですけど(笑)。

●不安定って(笑)。音楽はいつくらいから聴くようになったんですか?

泉:もともとはいちばん上のお姉ちゃんが持っていた小室哲哉さんプロデュースのCDを聴いていたんですけど、自分で“ほんまにこの人たちのことが好き”と思って聴いたのは、高校2年生のときに出会ったウルフルズですね。でもウルフルズは私が知ってすぐに活動休止になったんです。だからリアルタイムで好きになったというわけではなくて、後からさかのぼってCDを聴くという感じだったんです。お姉ちゃんが持っていたCDをさかのぼって聴いていました。

●ウルフルズのどこにハマったんですか?

泉:うーん、「ウルフルズが好き」と言うと、「パワフルですよね」とか「エネルギッシュなところが好きなんですか?」と言われることが多いんですよ。もちろんそういう曲も好きなんですけど、私はアルバムの中にちょこっと入っているような、めっちゃ弱気な曲が好きなんです。クヨクヨしているというか。

●ウルフルズはそういう曲もありますよね。

泉:それは私が目指している歌い手の形と重なるんですけど、私は元から強い人に「がんばれよ!」とか「できるって!」とか「信じていれば夢は叶うよ!」とか言われても、“そんなの信じても叶わない人もいるし”とか“向き不向きもあるし”と思ってしまうんですよ(笑)。

●わかるわかる(笑)。

泉:ウルフルズに「恋の涙」という曲があるんですけど、歌詞で“おいてかないで”とか“ひとりにしないで”というところがあるんです。それを聴いたときに、私の勝手な思い込みかもしれないですけど、すごくなんかこう…“あ、この人にも弱いところがあるんだな”と思って。強いところだけじゃなくて、弱さみたいなところを見たときに、すごく人間っぽい感じがしたんです。それでよりハマりました。

●なるほど。

泉:ウルフルズの活動休止後、トータス松本さんのソロのライブを観に行ったんですよ。そこで、トータスさんはウルフルズの曲をソロのライブで演っていいのかどうか悩んだりしたことをMCで言うんです。「これでいいのかな?」「ちょっと悩んだんやけどな」って。それが自分に言い聞かせているように見えたんです。「俺はこれでええねん」って。その姿に親近感を感じたというか。

●同じ人間というか。

泉:そうそう。本当にこっちの勝手な思い込みなんですけど、もしかしたらこの人だったら自分と同じ気持ちが存在するのかもしれない、という風に思えて。

INTERVIEW #3 歌手になる夢と大学中退

「“親友”か“知り合い”かだけで、“友達”という関係が上手く作れない。それが“生きづらい”という感情に繋がるのかな(笑)」

●泉さんはいつくらいから歌手になりたいと思っていたんですか?

泉:6歳のころから歌手になりたいと思っていたんですよ。

●かなり早い段階ですね。大阪から岡山に引っ越したくらいの時期ですね。

泉:歌手になりたいと思ったもともとのきっかけはSPEEDさんなんです。突発的に“悔しい!”と思ったんですよ。

●悔しかったのは、同年代の人が活躍している人を姿を見て、自分もそうなれる可能性があるということを現実的に実感したということ?

泉:そうですね。歳の近い人たちが活躍している姿を見て“私じゃない! 悔しい!”って。それで中学2年生のときに初めてオーディションを受けて、高校3年間は何十個もオーディションを受けました。

●そうだったんですね。

泉:割とどのオーディションも、5000人中の10人みたいな感じでいいところまではいくんですよ。でも最後の1人にはなれない。“それはなんでかな?”と考えたとき、審査で「あなたは何がしたいの?」と訊かれたら私は何も言えなかったんです。だからそのままオーディションを受け続けていてもダメだなと思ったので、高校卒業後はしばらくオーディションを受けるのをやめて、曲を作ったりライブをしていました。その辺から曲を自分で作り始めたんです。

●高校卒業後は上京したんですよね?

泉:そうですね。大学に行くために上京したんです。

●あ、大学に通っていたんですか。

泉:でも1年通って、1年休学して、その後退学しました。

●ボロボロじゃないですか(笑)。

泉:アハハハ(笑)。すごく馴染めなかったんです。別にイジメられていたわけじゃなくて、普通に通っていたんですけど馴染めなくて。私は歌をやりたいから高校卒業後に上京するということはずっと前から決めていたんです。でも「とりあえず大学くらい行っといて」と親に言われて。入学試験に分野優秀者自己推薦というのがある大学を受験したんです。

●分野優秀者自己推薦って何ですか?

泉:よくあるのはスピーチコンテストで賞を獲っただとか、国体に出たような人がそういう成績をもって面接に臨む、みたいな感じの枠なんです。

●一芸入学みたいな。

泉:そうそう。私は高校のときにオーディションをたくさん受けたので、“たぶん歌のコンテストなんて前例がないから誰もその程度がわからへんやろ”と思って(笑)、「こういうコンテストで何万人の中から最後の10人に残りました」とか「西日本大会で優勝しました」という経歴を書いて出したんです。

●確かにそうそうたる経歴ですよね(笑)。

泉:それにオーディションで何度も経験しているから、面接は他の人よりも慣れているんです。だから面接で「最近読んだ本は◯◯で…」みたいなことを言っていたら「受かった!」みたいな(笑)。

●ハハハ(笑)。

泉:大学は語学の学部だったんですよ。だから予習復習の量がものすごいんですよね。サボってても単位取れるとかじゃなくて。で、いちおう必死についていって単位は取れたんですけど、ずっと違和感を感じていました。クラスとか周りには違う種類の人間ばかりが居る、みたいな。

●なるほど。

泉:その大学のときの友達で、未だにすごく仲の良い男の子がいるんです。なんでも相談するし、信用もしているし。でもその子もロックバンドのヴォーカルをやっていて、音楽でプロを目指していて、就職もしていないんですよ。…後から考えたら、仲が良くなったのはタイプが似ていたからなんやなって(笑)。

●ハハハ(笑)。

泉:後の人は連絡も取ってないし。だからまったく学校に参加してなかったんですよ。それに成績の良くない人が大学に行って単位を取るためには友達が不可欠じゃないですか。別に友達がいなかったわけではないんですけど…。

●でも今は1人しか関係が続いていないんでしょ?

泉:いや、友達はいましたよ。最初は一緒にお昼ご飯を食べたりして。

●「最初は」って(笑)。

泉:最後の方はみんなで居ても「ちょっと図書室で寝てくる」と言って抜けたりして(笑)。難しかったですね。

●子供のころから“人間関係が難しい”という実感があり、それが大学のときも続いていたと。

泉:結局は感じ方だと思うんですけどね。別に誰とも付き合わないわけじゃなくて、話し相手はいるんです。でも、高校の友達で今も仲が良い人って、高校1年生のときに同じクラスだったのにあまりしゃべらなくて、3年生になってまた同じクラスになったときにやっとしゃべるようになった人たちなんです。すごく時間がかかるんですよ。疑い深いのかもしれないです。

●子供の頃の「パリン!」の経験が何度もあるから。

泉:そうそう。周りからしたら普通に過ごしているように見えていたと思うんですけど、勝手に友達がいないと思っていたんです。深い付き合いになる人がなかなかいないというか、中間が無いんですよね。“親友”か“知り合い”かだけで、“友達”という関係が上手く作れない。それが“生き辛づらい”という感情に繋がるのかな(笑)。

INTERVIEW #4 孤独との闘い

「“辞めなかった”というより“辞めることができなかった”という方が正しいかもしれないです」

●高校を卒業したころから曲を作り始めたとのことですが、最初からスムーズに作れたんですか?

泉:いや、最初はテンプレートみたいになってました。「カス」は特に関西弁やし、普段しゃべっている言葉の歌ですけど、作り始めたころは“重い感情を歌に出していいのかな?”と思っていたんですよ。言ってみれば「あなたと私が幸せになりました」みたいな方向に持っていくのが正解やと思っていたんです。

●ポップソングの定形というか。

泉:「カス」にしても今回のシングル曲「スクランブル」にしても、最終的には前向きの歌と言えるかもしれないですけど、やっぱりマイナスな要素もすごく多く含んでいるじゃないですか。

●はい。一度聴けばすぐにわかります。

泉:そういうマイナスな要素を出していいのか? とも思っていたし、出すこと自体が恥ずかしいという気持ちもあったし。でもどこかで“この自分じゃないような言葉を崩せないかな?”と思っていたんですけど、たぶん「カス」を作ったときは、オーディションやコンテストが上手く行きそうで行かないということを繰り返していたんですよ。大人の人に何か言われても素直に信じられなくなっていて。

●何を言われたんですか?

泉:例えばメジャーで活躍されている方が「君の声をすごく気に入ったから俺がメジャーシーンに連れていってやる」と言われても「はいはい。そういう言葉は何度も聞いたよ。どうせ話が流れるんでしょ?」みたいな気持ちになっていて。もう感情が喜ばなくなっていたんですよ。感情がずっと低空飛行というか、何かいいことを言われても「いやいや、またそんなこと言って(笑)」という状態がずっと続いていて。

●相手も悪気があったわけじゃないけど、素直に人の言うことを信じられなくなっていたと。

泉:そうですね。低空飛行だから一喜一憂はないですけど、やっぱり蓄積されるじゃないですか。周りが信用できない気持ちにもなるし、どんどん自信もなくなっていくし。だけど辞めて他のことをやる自信もなかったんですよ。劣等感がすごく多いんやと思います。

●劣等感というと?

泉:大学にしても、語学の学部だったから“英語はできて当然”みたいな基準があったんです。英語をできる子が人間として優れている…それは周りがそういう基準を持っていたわけじゃなくて、劣等感があったから私自身が勝手にそう思っていただけなんですけど、だから大学がすごくしんどかったんだと思うんです。

●うんうん。

泉:私は何かが欠けていても別の魅力がすごくあるような興味深い人に会いたいと思っているし、自分もそうなりたいと思っていて。そういう意味では、私の場合はすごく偏っているのかもしれないです。歌のためなら色々と我慢できるしがんばれるけど、好きじゃないことは本当に嫌だしできないんです。それが劣等感として大きくて。でも、そのたったひとつの歌もうまくいっていなくて。だから“なんてダメなんだろう”という気持ちがずっと続いて。ひとり暮らしの家に帰るのが嫌で。

●え? ひとり暮らしの家に帰るのが嫌だったんですか?

泉:嫌でした。かと言って、人と会ったりするパワーもないんですよ。

●そもそも人見知りだし。

泉:そう(笑)。だから「カス」の歌詞に“酔っぱらいだらけのこの駅前も ひとりよりマシ”とあるんですけど、新宿の駅前で何をするわけでもないんですけど、ひとりで立ってました(笑)。

●え?

泉:当然そんなところにひとりで立っていると変な人も声をかけてきますよね。そういう人をひたすら無視しながら(笑)。あと、お弁当とかを買ってきて、道で食べてました。

●は? 道?

泉:ガードレールとかに座ってオリジンのお弁当を食べてました。

●ハハハ(笑)。それって本当にすごくどうしようもない時期ですね。

泉:実家暮らしの人が「ひとりの時間欲しいし」とか言ったとしても、壁の向こうとか床の下には家族がいるわけじゃないですか。でもひとり暮らしって「ひとりで居たい」というわけじゃなくて強制的にひとりの空間になるわけですよ。隣の部屋をノックしたら変な顔されるだろうし。だからひとり暮らしの家に帰って、仕切られた空間でひとりになるのが嫌だったんです。

●“孤独”というものを実感するのがひとり暮らしの家だったと。

泉:そうそう。本当にそうです。そんな気持ちをヒシヒシと感じるくらいなら、駅前の仕切られてないところに居たほうがマシだなと。

●駅前とかでひとりで居るのはどういう心境なんですか?

泉:視界に人が入っていて欲しいんです。やっぱり家でひとりで居るとバンバン感じるじゃないですか。ひとりで東京にわざわざ出てきているのに何もできていないっていう。

●まさにカスだと。

泉:そういうことをバンバン感じるので、人が居るところに居たかったんです。

●そこで諦めることは考えなかったんですか?

泉:うーん、諦めて何ができるとも思えないというか。勉強ができる人ってすごいと思うんですよ。選択肢が増えるわけですから。一部の天才の人を除いて、“勉強ができる”というのはその努力ができることだと思うんです。それって本当にすごいなと思います。

●自分は好きなものにしか努力できないから?

泉:そうですね。だから歌を辞めるとは一瞬も思ったことがないです。どんなに“もう無理かも?”という状況になっても、辞めるのもなんか怖いし、10年やってきたことが無駄になるような気もするし、むかつくしというのもあって。だから“辞めなかった”というより“辞めることができなかった”という方が正しいかもしれないです。

●そんな状況の中で「カス」が生まれたんですね。

泉:そうですね。「カス」は“曲を作ろう”と思っていたわけじゃなくて、気を紛らわせるためにピアノを弾いてて、そのコードに合わせて歌ったというか、しゃべったような感じでできたんです。どうしようもないから吐き出そうというか、出てきた。溢れ出た。

●「最初の頃に作った曲はテンプレートみたいになっていた」とさっきおっしゃいましたが、「カス」みたいな曲は珍しかったんですか?

泉:そうですね。割と可愛らしい恋愛の曲が多かったです。

●ライブはしていたんですよね?

泉:していました。吉祥寺STAR PINE'S CAFEとか、下北沢のライブバーで定期的に。でもライブも、オーディションに受かるようになりたくて、“そのためには何が必要なのかな?”と考えて始めたんです。

●作詞作曲もできなくちゃいけない、ライブもできなくちゃいけない、と。

泉:そうですね。いちばん最初にやったライブは弾き語りだったんですけど、すっごく楽しかったんです。まだその頃は気持ちが落ちていなくて、“すごく歌が好きな私が作れるようになった。これは無敵かも!”くらいの自信に満ち溢れてました(笑)。「ちょっと聴いて! これ私が作ったのよ!」みたいな(笑)。

●気持ちの浮き沈みが激しいですね(笑)。そこから挫折などを経験して気持ちも落ちていき、次第に自分の感情やネガティブな気持ちが歌に出るようになったと。

泉:そうですね。

●ということは、泉さんが作る音楽はかなり変わってきたんですね。

泉:そうですね。恋愛で悩んだことを歌詞にしたりもしましたけど、夢に対してとか生き方に対してとか、毎日に対して感じる不安とか焦りとかは、当初は歌にしていなかったです。

INTERVIEW #5 自分が救われるための音楽

「誰かの背中を押すというより、何かのきっかけになって認めてもらえたり、求めてもらえたら私が救われる」

●「カス」だけではなくて、デビューシングル曲「スクランブル」もカップリングの「飛行機雲」も、不安や焦りを歌っていますよね。作る曲がそういう風に変化したのはなぜなんでしょうか?

泉:やっぱり、それは実際に私がそう感じたからだ思います。年を追うごとにというか、全然うまくいかなくて、別にないんですけど期限が迫っているような気持ちにもなってくるし、そうなると焦りも出てくるし。自分が作った曲を歌っていると、ときにはコテンパンに言われることもあるんですよ。

●どんなことを言われたんですか?

泉:「今の君じゃあ誰も拾ってくれないからオーディションなんて受けない方がいいよ」とか「何がしたいの? まったく伝わらない」とか(笑)。

●ハハハ(笑)。

泉:そういうことはこれからも言われると思うんですけど、でも16歳で「私、歌が好きなんです」と言う子にはきっとそんなこと言わないじゃないですか。そういうことを言われて、今まで感じたことがない“腹が立つ”という気持ちを感じたりとか、“悔しいから見返したい”という気持ちも出てきたし。そういう感情を感じる機会が、続けているとポツポツと増えた(笑)。

●だからそれが音楽になった(笑)。

泉:そうです(笑)。

●泉さんはどうやって曲を作っているんですか?

泉:「スクランブル」で言うと、軸になっている気持ちは「カス」と同じなんですよ。でもその象徴というかテーマが“スクランブル交差点”になっている曲で。そういうことが色んな場所であって、ふと“今こういう気持ちになったけど、この気持ちは何を見てどういう感じで湧いてきているんやろ?”と考えたりするんです。

●はい。

泉:例えば夜景を見たりすると、光のひとつひとつは窓で、窓の1個1個が部屋なわけじゃないですか。その部屋には机がダーッと並んでいて、そこで色んな人が働いたり残業したりしていて。そういうことを考えると、パッと夜景を見渡しただけで“いったい何人の人がこの時間に働いているんだろう?”という気持ちになるんです。そこで“私もがんばろう”と思うのか、“こんなにみんながんばってるから私では勝てない”と焦るのか。そういうことを考えて、メモをして、それが曲になったりします。

●意図的にそうやって作るんですか?

泉:いや、大体はフッと出てきたものを無くならないうちに書き留めておきたいし、それをちゃんと形に残したいという気持ちがあるので、絵を見た感覚に近いというか、“こういうものを見たときにこういう風に感じた”ということをメモするんです。そういう風に思ったことはやっぱり形にしたいという気持ちが出てきます。

●その気持ちみたいなものを音楽にしていく?

泉:そうですね。

●ということは、メロディと歌詞の内容は結構リンクしているんですか?

泉:歌詞の中でも“この言葉が言いたい”というものがあって。例えばアクセントの位置を変えると違う言葉に聴こえたり、間抜けに聴こえることってあるじゃないですか。

●ありますね。

泉:だから伝えたい言葉を優先させてメロディを作るというか。詞に合わせる感じですね。

●泉さんが音楽にしたいと思う“気持ち”は、具体的にはどういうものなんですか? 日常生活で何かを見て何かを感じたとしても、音楽になる場合とならない場合が当然あるわけですよね?

泉:そうですね。それはすごく大きく心が動いたものではなくて。「スクランブル」もそうなんですけど、例えばスクランブル交差点を歩いているたくさんの人の中に“もう死にたい”と思っている人はきっと居ないだろうけど、“明日どうしよう?”と思っている人は絶対に居ると思うんです。

●そうですね。

泉:もしくは、別に踊りながら歩いているわけじゃないですけど、“これからデートで楽しみ”と思っている人も居るだろうし。そういう感じで、表面にブワッと出ているわけじゃないけど、実は裏にあるような感情を音楽にしたいと思うんです。

●なるほど。

泉:自分の場合も“ちょっと幸せやな”と思ったこととか、友達と話しているけど実は空っぽな感じとか。そういうものを曲にしたいと思う気持ちが強いですね。

●なぜそういう気持ちを曲にしたいんでしょう?

泉:言えるほどでもない気持ちってたくさんあると思うんです。人に相談して解決するようなことではなかったり、言うのが恥ずかしいことだったり、表に出しづらいこと。

●わざわざ言うほどでもないというか。

泉:そうそう。「私、なんか気持ちが空っぽなんだけどどうしたらいい?」とか「飲み会に来ても虚しいんだけどどうしたらいい?」とか言われても「知らんわ!」って感じじゃないですか(笑)。

●そうですね。

泉:でもそういう気持ちは絶対誰にでもあると思うんです。それは解決できることではないかもしれないけど、実際はみんな隠しているだけで、“この人もこの人もこの人も毎日100%満足して生きているわけじゃないよ”ということだけでもわかったら、なんかちょっと安心してホッとするじゃないですか。そういう意味で元気が出る音楽を作りたいんです。

●なるほど。

泉:「大丈夫やって! がんばれよ!」と無責任に言うんじゃなくて、「私はこう思っています」とみんながみんな出せるわけじゃないので、たまたま歌詞を書いて歌わせて貰える立場になった私がそれを出すことによって、元気になって貰えるようになればいいなと。「一緒やん」って言う感じというか。

●うんうん。

泉:あまり強くは言いたくないんですよ。がんばるべきなのか、もしくはがんばらないべきなのかもわからへんし、人に決めつけられたくもないだろうし。ちょっと動けばいいかなって。聴いてくれている人の感情をちょっと動かして、そこからどう動くかはその人の自由。元気が出て前に進んでいく人も居れば、“自分があかんのや”と気づいてヘコむことによって前に進む人も居るじゃないですか。だから必ずしもポジティブにさせてっていうのは私には違うかなと思うし、そもそも私がそんなことできるんかよ? っていう話やし(笑)。

●ポジティブが正解というわけではないですからね。

泉:だから自分がハッと気づいたような瞬間を歌にすることによって、自分が気づいた瞬間を誰かにも感じてもらえたら。

●きっかけになればいいと。

泉:うん、きっかけですね。小さいことでいいんです。

●そういう音楽を作りたいし、歌いたい。

泉:そうですね。もともとオーディションを受け始めた頃は、「意気込みを聞かせてください」って言われたら「少しでも多くの人を感動させられるように」と言ってたんですよ。

●それこそテンプレートみたいなことですよね。

泉:そうなんですよ(笑)。そもそも私は素直に受け取るようなタイプではないので、逆に私がそう言われたら「感動させられるって何様やねん。そんなこと言われたら感動してやらんぞ」って思うかもしれない。自分がそういう人間であるから、音楽ではそこまで言いたくないなというのがあって。

●うんうん。

泉:でも、完璧に自分に向けての歌を歌うなら、別に歌手にならなくてもいいじゃないですか。部屋でひとりで歌っといたらいいし。やっぱりそこは認められたいからやと思うんですよね。相手が居るからこそ成り立つというか、叶う夢であって、自分ひとりで歌いたいと思っているわけではないんですよね。

●はい。

泉:だから本当に極端に言えばすごく自己中心的な考えなのかもしれないですけど、誰かの背中を押すというより、何かのきっかけになって認めてもらえたり、求めてもらえたら私が救われるというか。

●ああ〜。

泉:結局、「人のために」「誰かのために」とかは“そんなん嘘や!”と思っちゃうんです。

●私が救われる、認められるということは、孤独じゃなくなるということですもんね。

泉:そうですね。もう孤独がダメです(笑)。

●アハハハハハ(笑)。「自分のため」って言い切れるところがいいですね。

INTERVIEW #6 「カス」でグランプリ受賞

「中途半端にやるよりも、“うわ〜、この女めっちゃうるさそうやわ”と思われるくらいに振り切った方が後悔せえへんかなと思って」

●今までに何曲くらい作っているんですか?

泉:60曲くらいです。

●ネガティブ思考のものは多いんですか?

泉:多いです(笑)。恋愛の歌でもやっぱりネガティブなものが多いし。基本的に…すごくネガティブですね。

●それは音楽だけじゃなくて普段の思考から?

泉:もちろん。絶対に最悪な展開を想定してしまうというか。

●例えば新しい彼氏ができて楽しいときでも、別れることを想定してしまうというか?

泉:ああ〜、そうですね。“別れるんちゃうか?”とビクビクしているわけではないんですけど、信用するまでに時間がかかるんです。「と言ってもさ〜」みたいな気持ちが常にあるというか。

●さっきの大人の話と同じですね。

泉:そうですね。でも別にその人たちも私を騙そうを思ってそう言ったわけじゃないと思うんです。結局、世の中には思っても上手くいかないことがいっぱいあるんやなっていうことが20歳前後の頃にちょっとわかったんです。

●ネガティブな感情を歌うことによって、気持ちは晴れるんですか?

泉:うーん、私はきっと“認められたい”とか“求められたい”という気持ちが強いんですよ。だから代わりがきかない存在になりたいし、「君が無理ならあの人にやってもらうわ」じゃなくて、もう「絶対に泉沙世子じゃないとダメだ」という風になりたい気持ちがすごく強いんです。

●ああ〜。

泉:そうならないと不安なんです。なってみないと実際はわからないですけど、“自分の代わりが居るんじゃないか?”と思うことがすごく怖い。

●なるほど。

泉:だからネガティブな感情を歌にすることによって、もし人に求められるようになったのであれば、まわりまわって私のネガティブな気持ちは晴れると思います。だから吐き出して晴れるというより、それを認めてもらうことによって晴れるような気持ちですね。

●それに“代わりがきかない存在になりたい”という気持ちは、自分のありのままを表現することに繋がるんでしょうね。

泉:そうですね。やっぱり会話だと、最初から自分をさらけ出すのはすごく難しいじゃないですか。

●はい。このインタビューでも最初はそう感じてるだろうなと思ってました(笑)。

泉:アハハ(笑)。そういう意味で、私は日々の生活だけだと不安なんですよ。しゃべって私の何かを気に入ってくれたとしても、どこかで「いや、私のこと知らんやん!」って。

●「私、結構ドロドロしてるんやで」と。

泉:そうそう(笑)。日々の生活だけだとそう思うと思うんです。でもそれが、歌なら出せるし、受け取る方もダイレクトに「私はこんな性格でこういうことを思っているんです」と言われるより、歌で間接的に知る方がいくらか軽いというか(笑)。

●そうか。だから泉さんにとっての歌は、自分のことを認めてもらう手段のひとつだと。

泉:そうですね。

●人前で歌うときはどういう感覚なんですか?

泉:1対1で夜の8時くらいに飲み始めて、夜中の2時くらいのテンションってあるじゃないですか。

●え? それどういうテンションですか?

泉:盛り上がりすぎて終電もなくなったけど「まあいいか」となって、2時くらいのめっちゃ真剣な雰囲気というか。見た目のテンションはウワーッ! となってないけど、内心めっちゃ燃えていて訥々と語り合っているというか。

●わかりますけど…どんな例えや(笑)。

泉:ライブではああいうテンションで歌いたいんです。装飾のない、お腹の底からの本音だけを「私はこうでさ…こうでさ」みたいにポツポツと出している感じというか。

●泉さんは最初に「人見知り」とか「人がどう思っているか気にする」とおっしゃっていましたけど、そういうコミュニケーションのフィルターみたいなものを全部取り払って、芯にある想いをそのままの形で出すというか。

泉:そうですね。そういう感じで歌いたいです。100人居たとしても1対1で歌いたいです。もし見えるのであれば、ハッキリと目を見て歌いたいんです。100人居て、100人を虜にするって絶対に無理だと思うんですよ。

●あっ、そうなんですか。全員に届けるのは無理だと思っている?

泉:うん、それは私には無理やと思いますね。フワッと一体感を作るのはできるかもしれないんですけど、本当にドーンとハマるのは難しいし。私自身もリアルな気持ちを書いているので、「そんな経験ないしわからへん」とか「俺はそんなことで悩まへん」という人も居ると思うので…やっぱり全員じゃなくても、ちゃんと深く1人1人に届けることを丁寧にやっていきたいと思うんです。

●なるほど。でもね、泉さんがDream Vocal Auditionの最終審査で歌った「カス」ですが、僕の勝手な思い込みかもしれないですけど、あのときの会場の空気からすると、みんなに伝わっていたと思うんです。でもきっと、全員が「カス」で歌っているような経験をしたわけではないですよね。

泉:確かに(笑)。

●泉さんが「カス」を歌ったときに会場の空気がガラッと変わったのは、泉さんの気迫というかむき出しにした感情の熱量や純度や濃度が高かったからだと僕は思うんです。そういう意味では、100人に届くようなことは有り得るような気がするんですけど。

泉:ああ〜、そうだったら嬉しいですけどね。ありがとうございます(笑)。

●15人のうちオリジナル曲を歌ったのは泉さんを入れて2人だけだったし、あんな華やかなステージで「カス」を歌うのはかなり思い切ったことだと思うんですが。

泉:既成曲の方が多かったじゃないですか。私も既成曲を歌うことも考えたんですよ。

●あっ、そういう選択肢もあったんですか。

泉:ありました。やっぱりオジリナル曲だと耳馴染みがなさ過ぎるし。三次審査のときからずっと何を歌うか考えていたんですけど、最終審査がオケなのか生バンドなのかもわからなかったので、もしオケになって持参するとなったら、絶対に既成曲に負けるだろうなと思って。派手さがないし。

●そんなこと考えていたんですね。

泉:オリジナルの他の曲ということも考えていたんですよ。周りの人からも「(「カス」は)アクが強すぎるんじゃない」とか「オーディションなんだから色が付いてないものを出した方がいいよ」とか言われたんですよ。でも、自分の色を出さずに落とされたら“本当はこうやったのに”って後から絶対に思うやろうなと思ったんです。

●はい。

泉:自分にとってはいちばん素で、自己紹介しているというか日記を見せるくらいの歌詞が「カス」なので、これを聴いて落とされたら“縁がなかったんやわ”と思えるかなと。

●開き直ったというか腹をくくったというか。

泉:居直りました(笑)。

●歌っている感じも居直っていたというか、どう見られていようが関係ないという感じはしました。

泉:フフフ(笑)。

●心で叫んでいたというか、ビリビリきた。僕は三次審査も取材で入っていて、三次審査の泉さんも観ているんですよ。でも最終審査とは全然印象が違っていて。

泉:正直に言うと、三次審査のときは“どう見られるか”を考えたりしていましたね。でも最終審査で「カス」を歌っているときは、ここでちょっと観ている人に媚を売るようにしたとしても、そもそも「カス」はアクが強いし、もうええか! みたいな。

●ハハハ(笑)。

泉:中途半端にやるよりも、“うわ〜、この女めっちゃうるさそうやわ”と思われるくらいに振り切った方が後悔せえへんかなと思って。

INTERVIEW #7 泉沙世子という音楽のカタチ

「それがないと歌ができなくなるような気もしていて。焦りとか悩みみたいな感情は、私は悪いものだとは思っていない」

●今回のデビューは6歳のときからの夢が叶ったというか、今現時点も夢の途中だと思うんですが、今はどういう心境なんですか?

泉:うーん、今は「夢が叶ったね」と言ってくれる人もすごく多いんですけど、まったくまだまだそういう風には思えなくて。

●不安ということ?

泉:不安も当然ありますけど、ピーンと張っているものが全然途切れていないというか。デビューがゴールじゃなくて、もちろんデビューはしたかったですけど、むしろもっともっともっと先のところに行きたかったのに意外と10年もかかってびっくりした! みたいな。

●ハハハ(笑)。

泉:だからまだ全然なんですよ。全然叶ってないし、本当に全然なんです。

●まあ確かにグランプリ獲ったらみんなは「おめでとう」と言うでしょうね。

泉:すごく不思議な感じもしますね。「おめでとう」と言われるのは嬉しいし、そう言うのもすごくわかるんです。「よかったね」「これでもうスターだね」とか友達に言われたりもするんですけど、やっぱりここで終わったらいちばん嫌だから。

●ほう。

泉:ちゃんとっていうか。…でもどうなったら満足するんでしょうね? 自分でもよくわからへん。

●でも今日の話からすると、ずっと満足しないんでしょうね。さっき泉さんは「認められたい」「求められたい」「代わりのきかない存在になりたい」とおっしゃっていましたけど、それってゴールを決めることができないような気もするんです。

泉:そうなんですよ(笑)。だからずっとこうなのかな? とも思いますし。

●今後も色々と腹が立ったり不安や葛藤を感じて、それを歌っていくという(笑)。

泉:だからこういう取材で「10年後は何をしていると思う?」とか「やっぱりずっと歌を歌い続けていたいですか?」って訊かれたりして、「こういう歌を歌いたいです」と答えたりするんです。でも正直に言うと、何がどうなってもずっと焦ってるような気がしているんです(笑)。

●ハハハハハ(笑)。

泉:焦り続けて、不安を持ち続けて“認められたい!”とか“求められたい!”って思いながら私は死んでいくんかなと(笑)。

●死んでいくって(笑)。

泉:でもそれがないと歌ができなくなるような気もしていて。焦りとか悩みみたいな感情は、私は悪いものだとは思っていないんです。人によってとか時によってはすごくしんどいものになりますけど、向上心があったらそういう気持ちも同時に出てくると思うし。

●うんうん。

泉:だからそこは何がどうなっても薄まらずにいたいですね。だから今後も、もっともっとそういうことで焦ったり悩んだりすると思うんです。メジャーデビューした人もそういう話をよくしているじゃないですか。みんなが口を揃えて「デビューしてからが大変だよ」って言うし。色んな人からよく聞く話って、後になって“あっ、みんなが言っていたのはこれか!”とわかることが多いじゃないですか。

●多いですね。

泉:だからみんな言っているし、「メジャーデビューしてからが大変だよ」といっぱい言われて、もう自分ではわかっているつもりですけど、でも絶対に“想像していたよりめっちゃ大変なんやけど。だからみんなあんなに言ってたんか!”って後からわかるんかなと今は思ってます。

●なるほど。

泉:どれだけ想定しても、それを超えてくるのかなと思います。

●でもそれが泉さんのやりたかったことですもんね。

泉:そうですね。だから今は幸せですよ。他のことやったら絶対に嫌だけど(笑)。

●他のことというのは?

泉:歌以外…自分の好きじゃないことというか。他のことで悩んだり焦ったりプレッシャーを感じたりするのが本当に嫌なんです。

●泉さんから音楽を取ったらどうなるんですか?

泉:え? 音楽が無くなったら? うーん…想定してないですね。10年追い続けてきたと言いましたけど、でもまだ24歳ですし、想定していないというか、音楽以外の生き方をまったく考えてないです。

●なるほど。

泉:でも“音楽”といっても、もっともっと専門的に音を追求する人はたくさん居ると思うんです。私はそういうタイプとはまったく違うので。今は音楽として出てはいるけれど、例えばしゃべることとか文章を書くことも好きなんです。今は音楽を“歌”としてやっているけれど、私は考えることがすごく好きで、“旅行する”とか“散歩する”とか“人を見る”とか“本を読む”とか“興味を持ったことを調べる”とか、そういう考えること全般がすごく好きなんです。それが音楽になっているだけというか。

●音楽に依存しているわけではなくて、自己表現の方法の1つとして今いちばん身近にあるものが音楽だと。

泉:うん、たぶんそうだと思います。本当に専門的に音を追求している人ってすごくかっこいいと思うんですよ。身近に居る人でも、例えばライブをサポートしていただいたりしているギタリストやキーボーディストの方を見て、“同じ音楽をやっているとしても自分とはまったく種類が違うな”って思うんです。その人たちは音の重なりを聴いていて、CDを聴くときも歌詞じゃなくてどういう音が重なっているかに注意を払っていたりするじゃないですか。

●うん、そうですね。

泉:でも私の場合はそうじゃなくて、文にたまたま音が付いた、みたいな感覚というか。だから“いつか書きたい”という気持ちもどこかにありますね。別に小説が書きたいとかいう話じゃないし、誰が読みたいと思うんねん! って思うんですけど(笑)、“私はこう感じてこう考えた”ということを書きたいし、今はそれを歌にしているんです。

●それが泉沙世子の自己表現であり、歌なんですね。

泉:そうですね。

interview:Takeshi.Yamanaka