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アップル斎藤と愉快なヘラクレスたち

19歳のクソ男子どもがロックへの愛情とほとばしるエナジーを詰め込んだ衝撃的ミニアルバムでデビュー!!

 栃木県宇都宮市を中心に活動する4人組ロックンロール・パンクバンド、アップル斎藤と愉快なヘラクレスたち。

そのバンド名だけでも既にインパクトは強いが、同名の1stミニアルバムを聴けばさらなる衝撃が待ち構えている。
メンバー全員が19歳という若さならではの鮮烈なエナジーを放ちつつ、歴代のパンク/ロックンロールへの愛情と造詣も兼ね備えたサウンド。コアな音楽マニアにも訴求する音作りと、日本語を大切にした歌詞の絶妙なバランスは彼らの大きな魅力だ。

ハチャメチャながら特別なオーラを漂わせるライブも含め、今最も注目すべき大型新人がデビュー!

Interview

●アップル斎藤と愉快なヘラクレスたちは栃木県出身ということですが、同県の先輩にはKiNGONSがいたりとポップパンクのシーンが盛んなんですか?

わたーん:自分たちは、KiNGONSのVo.BeeBeeさんが前にやっていたTHE CiSTEMSというバンドにすごく影響を受けていて。初めてライブを観た時に音楽どうのこうのじゃなく、"ライブってすごいな!"と感じたんです。あの時に受けた衝撃を他の人にも与えたいという気持ちが、自分たちの中にありますね。

●THE CiSTEMSがバンドを始めたキッカケ?

わたーん:バンドを始めたのはそれ以前で、中学校の文化祭で先輩のバンドを観て"カッコ良いな"と思ったのがキッカケですね。初めはGOING STEADYや太陽族みたいな、青春パンクを聴いていました。

あると:僕もわたーんと同じ中学校だったので、そういう音楽を一緒に聴いていました。(OH-!NUKi以外の)3人は小学校からの幼なじみなんです。

●結成したのは2009年ということですが。

わたーん:高校生の頃ですね。最初はOH-!NUKi以外の3人と、今とは違うベースの4人組だったんです。前のベースが抜けるタイミングで、たまたまライブを観に来ていたOH-!NUKiを誘って今の4人になりました。

OH-!NUKi:入ると決まったのは1年くらい前で、まだ会って2回目くらいでした(笑)。初めて会ったのは東京までKiNGONSのライブを2人が観に来ていた時で、僕もちょうど観に行っていたんです。当時から僕だけ高円寺に住んでいたんですけど、その日の夜にいきなり2人が泊まりに来たんですよ。

●最初に会った時点で意気投合した?

わたーん:意気投合…したのかな? (笑)。最初に音を合わせた時から"良いな"という感覚はあって。

OH-!NUKi:単純にちょうどベースが抜けるタイミングで、僕がベースを弾けるからというのはあったんじゃないかな。僕は最初にライブを観た時に"うわっ! こういうのを自分もやりたかった"と思ったので、観ていて悔しくなったんです。

●自分がやりたいことを先にやられていたのが衝撃的だったと。しかも、バンド名も変だし(笑)。

OH-!NUKi:僕が初めてライブを観た時、アップル斎藤はドラムを叩かずに壁を叩いていたんです。

わたーん:ドラムなのに、俺のギターを投げたこともありましたね(笑)。

●そもそも"アップル斎藤と愉快なヘラクレスたち"というバンド名の由来とは?

わたーん:最初は、1回ライブをやって解散するつもりくらいのコピーバンドだったんですよ。そのバンドでコピーしていたのがビートルズだったので、リンゴ・スターの名前から"アップル"を思い付いて。ドラムの姓が斎藤なので、それをつなげて"アップル斎藤"にしたんです。

●"ヘラクレスたち"もビートルズから?

わたーん:ビートルズが"カブトムシ"という意味なので、そこからヘラクレスオオカブトが思い浮かんで。その2つを組み合わせて、"アップル斎藤と愉快なヘラクレスたち"とフザけて付けちゃいました(笑)。

●フザけて付けたんだ(笑)。バンド名を見ると普通はアップル斎藤が中心人物だと思いますが、今日の取材にも彼1人だけ来ていませんね…。

わたーん:完全にフザけて付けただけで…。「アップル斎藤って誰なの?」って訊かれた時に、ドラムだったらビックリしてもらえるかなっていうだけなんです(笑)。

●パートの"地獄へのおくりびと"というのは?

わたーん:当時、『おくりびと』という映画が流行っていて…それだけです(笑)。

●あるとくんのパートには"ロマンスの神様とありますが…。

あると:それも変なノリで付けただけですね(笑)。"地獄へのおくりびと"と"ロマンスの神様"が同じバンド内にいるのは愉快じゃないですか。

●あ、だから"愉快な"ヘラクレスたちということ?

あると:いや、そういうわけでは…。

一同:(笑)。

わたーん:"愉快な仲間たち"的な感じで付けた気がします。

●これまで活動してきた中でも、愉快な仲間同士がぶつかったりすることはなかったんですか?

わたーん:ぶつかることはないんですけど、解散の危機みたいなものはあって。アップル斎藤と前にいたベースが2人とも辞めると言い出した時はヤバかったですね。その時に話しあって、アップル斎藤にはヘルプ的な感じでとりあえず続けてもらうことになったんですけど。

●バンド名的にはメインのはずなのに、一時的にサポートメンバーになっていたと(笑)。そこから正式メンバーとして戻ってきたキッカケは?

わたーん:続けていく内にまた徐々にヤル気が出てきたのと、今回のリリースが決まったこともキッカケにはなったと思います。

あると:僕ら3人は本気でバンドをやりたいと思っていたけど、それぞれに仕事もしながらの活動で。その当時、アップル斎藤は仕事を選んだんです。でも今は彼もバンドに対して本気になったというか。僕自身もやっていく内に、徐々に自分の中で"このバンドをずっと続けていきたい"という気持ちが芽生えてきたんですよね。

OH-!NUKi:僕もそういう気持ちでやりたかったけど、なかなか本気になれるバンドに出会えていなかった時にちょうど出会ったんですよ。

●そして、アップル斎藤も本気になったと。もし彼が抜けていたら、バンド名はどうなっていたんでしょうね?

わたーん:実際、"そうなったらどうしよう?"という話し合いまでしていましたね。

OH-!NUKi:ドラム募集の貼り紙までしていて。結局、もし抜けても実は背後霊的にいるという設定で、名前を変えずにおこうという話にはなったんですけど(笑)。やっぱりアップル斎藤がいないと、フロントのメンバーも引き立たないんですよ。

●アップル斎藤は引き立て役!?

OH-!NUKi:…まぁ、そうですね(笑)。

一同:(笑)。

●彼はどんな人なんですか?

OH-!NUKi:一度ハマったことを一途にやるタイプですね。陰で努力するというか。

わたーん:高校3年生になるまで、彼がドラムをやっていることを誰も知らなかったくらいですからね。叩いている姿を観たらメチャクチャ上手かったので、ビックリしました。

あると:もしアップル斎藤を逃してしまったら、他にこんな上手いドラマーはいないんじゃないかと思います。

●でも本人はドラムをやっていることすら、最初は隠していた。

わたーん:彼は自分のことをあまり話さないんです。

OH-!NUKi:メンバーから見ても、謎の存在ですね。いまだに"あ、そうだったんだ"みたいなことがたまにあります。海外のポップパンクバンドについてもすごく詳しいんですけど、どこでそういうものを知るのか全然わからないんですよ。

あると:"ポップパンクなら、アップル斎藤に任せろ"っていうくらいですね。

●今のサウンドはポップパンク的な要素が強いですが、最初からこういう音がやりたかったんですか?

わたーん:とりあえず「型にハマらずに、自由にやろう」というところから始めましたね。「自由に作曲して、自由にライブして」という感じで。

あると:結成して2~3カ月後にはオリジナル曲もやっていました。最初の頃は、もっとロックンロール的な曲調が多くて。

●昔のロックンロールもルーツになっている?

わたーん:自分が好きな音楽を聴いている内に、もっと知りたくなって。そこからどんどんさかのぼっていく感じで、聴く音楽の幅も広がっていったんです。初期はもっと3コード主体でM-1「Hey!Ho!アップル」やM-4「回したレコード止まらない」、M-8「ロックンロール」みたいな曲調が多かったですね。

●「Hey!Ho!アップル」は、バンドのテーマ的な感じなのかなと思ったんですが。

わたーん:最初の頃に、ライブの1曲目に勢いよくやれる曲が欲しいなと思って作った曲ですね。

●バンド結成当初に作った曲も入っていると。

あると:M-6「怪獣大戦争」が今作で一番古くて、結成してすぐに作った曲なんです。

●この曲名はゴジラシリーズの同名映画『怪獣大戦争』(1965年)から?

あると:いや…、単に"怪獣が出てきた! やっつけろ!"…みたいな(笑)。

●あるとくんの妄想を歌詞に書いただけだと(笑)。60年代の音楽だけじゃなくて、カルチャーも好きなのかと思ったんですけど。

あると:僕は詳しくないですけど、わたーんはそのあたりも好きだと思います。

OH-!NUKi:映画の話はよく一緒にしているよね。

●映画からインスピレーションを受けた歌詞もある?

あると:M-5「Hello Goodbye」は、僕が好きな映画の『魔法にかけられて』(2007年)を観た時のイメージからですね。お姫様と王子様が出会った時に「運命だ!」と思うんですけど、本当は違ったという内容なんです。おとぎ話のようなイメージで書いてみました。

●あるとくんとわたーんくんの2人は、歌詞のタッチも違う気がします。

わたーん:確かに違いますね。あるとの歌詞は、自分には書けないようなものが多いので好きなんです。僕の歌詞は半径5メートル以内のことを歌ったものが多くて。自分の周りにあることだけで精一杯なので、そういうことしか今は曲にできないんです。

●わたーんくんが歌詞を書く上で意識していることは何かある?

わたーん:伝わりやすさは意識しています。あんまりベタな言葉を使いすぎると、聴く前からリスナーが拒否しちゃって逆に伝わりにくいと思うんです。なので、自分なりの言葉を工夫して書くようにはしていますね。

●M-9「ルール」は今作の中でも特にメッセージ性が強い曲だと思いました。

わたーん:レコーディングの直前まで歌詞が完成していなくて、この曲はすごく時間がかかりましたね。"やり方"や"あり方"をテーマに"これが自分たちのやり方なんだ。それを誰も否定できない"ということを歌にしました。

●サウンドもフォーク調でちょっと異色ですね。

わたーん:この曲はまず書きたい歌詞の内容があって、それに合わせて曲を作った感じですね。じっくり聴かせる曲をアルバムの最後に持ってきたいとは思っていたんです。"これが俺たちのやり方だ"っていう歌で、全体をまとめた感じというか。

●結成してから今までで固めてきた自分たちの"やり方"を象徴している。

わたーん:でもまだ「固まった」とは言いたくなくて。やりたいことはまだまだいっぱいあるし、現段階での自分たちの"やり方"という感じですね。

●現段階での自分たちが今作には詰まっているのでは?

わたーん:今やれることを全力でやろうという感じで、今の自分たちができることを全部詰め込んだ作品です。すごく勢いのある曲が揃ったし、聴いた人がライブに来たくなるような作品になったと思います。

あると:初期衝動も詰まっているけど、色んな曲調があるので聴いていて飽きない作品ですね。

OH-!NUKi:10代ならではのエネルギッシュな感じだけじゃなくて、他の部分も含めてバランスよく1枚に詰め込めたんじゃないかな。

●ライブもイメージしやすい選曲になっていますね。

わたーん:実際のライブでメインにやっている曲が多いんです。ライブで衝撃を残したいという気持ちがあるので、"1stアルバムらしい"勢いがよく出ている曲を選びました。

●リリース後には初のツアーも予定されています。

わたーん:初めてなので、今から楽しみでしょうがないんです。日本全国のライブハウスをまわろうと思っているので、もし近くに来た時はぜひ遊びに来て欲しいです。よろしくお願いします!

Interview:IMAI

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