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ザ・マスミサイル

熱き男たちが地に足を着けて描く希望の先

結成12年、何度かのメンバーチェンジを経験しつつも、音楽シーンを走り続けてきたザ・マスミサイル。2004年のメジャーデビュー後、2枚のアルバムと4枚のシングルをリリースした後、2007年に自主レーベル・MASS RECORDSを設立。以後、自分たちの手で精力的な活動を重ねてきた彼らが、半年間の充電期間を経て再びメジャーシーンに戻ってきた。待望の新作は、真摯な姿勢から紡がれた濁りのない5つの歌が収録されたミニアルバム。決して冷めることのない熱き魂を持った男たちが、しっかりと地に足を着けて描く希望の先。もしかしたら世界は変わるかもしれない。

「目の前の人が変わったらその人が横の人を変えて、またその人が横の人を変えて…まわりまわってもしかしたら世界が変わるかもしれない」

●2012年の上半期は充電期間というか、ライブ活動をお休みされていたわけじゃないですか。何してたんですか?

高木:この充電期間は、実は今回の再デビューという話になる前から決めていたんですよ。

●あっ、そうなんですか。

高木:2011年くらいから。それまでMASS RECORDSを1人でずっと切り盛りしていたので、疲れもあったんです。で、例えば曲を作るペースが遅いだとか、オリジナルアルバムを2年間出せていないということを、口には出していなかったですけど“まあ忙しいからな”と心の中で言い訳していたというか、ちょっと自慰行為みたいなところが自分の中で見え隠れしていた1〜2年だったので、これは危ないなと。

●ふむふむ。

高木:だからアーティストとしてちゃんと制作するために、レーベルの仕事もマネジメントの仕事もしなくていい期間を半年くらい設けよう、という意味を込めて充電期間を準備していたら…休めなかったという(笑)。そもそもは旅をしたりして、曲を書こうとせずとも溢れてきてくれたらいいなと思っていたんです。これからも音楽を命がけで、第一線でやるためにもちょっと時間を置こうと。

●でも再デビューが決まったと。

高木:だからちょっと予定が変わりました(笑)。でもね、時間の使い方としては当初の目論見どおりだったんですよ。実際ライブもやらなかったし、制作というものにより比重を置いた半年間。というかそれしかしてなかったですね。朝からポエムを綴り、パソコンをタンタン叩いてミュージックを作り、それをスタジオに持って行って1人でニャンニャン歌い、そのまま飲みに行く…ということを毎日していました。だから毎日飲んでいました。芸の肥やしとして、いろんな人と会っていろんなことをしゃべりましたね。

●再デビューについてはどういう心境なんですか?

高木:心境ねぇ…これ、どうやって答えたら格好がつくのか、今探しているところなんですけどね。

●格好つけなくていいじゃないですか(笑)。

高木:じゃあ格好つけずに言っちゃいますけど、「再メジャーデビュー? うーん、そんなに…」みたいな。

●ハハハ(笑)。

高木:「珍事件もあるんだね」みたいな感じ。もちろんチャンスであることに間違いはないと思うんですよ。でも、基本的に楽曲を作ることは変わらないし、メンバーもこのタイミングでゴロッと変わったわけではないので、通過点といえば通過点なんです。集大成でもなんでもなく、今回の作品はそういう形で出しますよという。ライブもたぶんそんなに変わらない形でやっていくと思いますし、ワンマンがやれるところはやるし、ワンマンができないところでもなるべく細かくまわりたいと思ってるし。

●うんうん。

高木:何が変わるかといったら、お茶の間の人に届く可能性があるということ。どんなにがんばっても自分たちだけでできないことがあるということは認めていましたし、それに対して劣等感もなかったんです。だから、このタイミングで生まれた宝物(楽曲)を大切にして、待っていてくれている人やまだ出会っていない人たちに届けようっていうところに、プラスアルファが足されていく感じなんです。そういうことを冷静に見ている感じですね。「再メジャーデビュー! イエーイ!」とか言ってる場合じゃないですからね(笑)。

●やれることをやるということですよね。自分がやれることを信じているから、無理に背伸びしたり一喜一憂する必要もない。

高木:それが正解です。それを僕が言ったことにしておいてください。

●それはダメです。あなたは言葉を紡ぐ人ですから、自分の言葉で紡いでください。

高木:ハハハ(笑)。

●そしてこの度メジャー再デビュー作がリリースとなるわけですが、今作の6曲は充電期間に作ったんですか?

高木:そうですね。さっき言っていた充電期間のサイクルの中で生まれた曲を、メンバーやプロデューサーの西川さん(西川進)とやいのやいの言いながら選んでいきました。

●推し曲はM-1「何度も君に恋をする」ですが、これは具体的なことも含めて赤裸々に綴っているラブソングですよね。ラブソングというか、好きな女性に対する心情を出している曲。あけすけですよね。

高木:そうですね。あまり人に聞いてほしくないひとり言みたいな。

●めっちゃ大きな声で歌ってますけど。

高木:ハハハハ(笑)。歌である以上そうなってしまいますからね。でも、音楽を作った瞬間にいちばん「キター!」と思うのは、いちばんダサいところとか恥ずかしいところを歌えたときなんですよ。

●ああ〜。

高木:ステージで踊るにしても、歌うにしても、曲を作るにしても、ポエムを綴るにしても、みんないちばん恥ずかしいところを出して…自分たちも含めて「よくみんなやってるよね」と思いますよ。すごくないですか?

●すごいですよね。僕は自分のことをこんなに大きな声で歌えない。

高木:“恥ずかしい”と思っていた方が俺はいいと思ってるんです。最終的にはかっこいいと思ってやっているんですけど、「こんな恥ずかしいことないよね」という気持ちをどこかに残しておかないとダメだと思うんですよ。「何回経験していてもライブ前には緊張していないとダメだ」とよく言うのと同じように。

●なるほど。あと、M-6「たとえそれがフィッシュストーリーだったとしても」という曲がありますが、どういうスタンスで音楽をやろうとしているのかだったり、今のザ・マスミサイルの姿勢みたいなものがこの曲で宣言されているように思ったんです。

高木:“伝える”ということの歌ですもんね。でもこの曲、実は作っている途中でずっと止まっていたんですよ。

●あ、そうなんですか。

高木:最初の1コーラスだけの言葉とメロディが6〜7年前からあって。この歌は生死というか自ら命を断つことについて歌っているじゃないですか。当時から全体的なイメージはぼんやりとあったんですけど、なんか説得力もなくて、筆も進まず。そんな中、悲しい話なんですけど友達が自ら命を断ったんです。

●ああ〜。

高木:それは別に自分たちの所為でもなんでもないと思うんですけど、“なんでそのときに「死なないで」と言ってあげられへんかったんかな”という自責の念を込めて歌いたくて、そこでこの原曲を引っ張り出してきて。“言葉ひとつでその死が留まることは大いにある。だったらなんと言ってあげればよかったんだろう?”という想いを書き始めたんです。

●そうだったんですね。

高木:そんな中、伊坂幸太郎さん原作の『フィッシュストーリー』という映画をたまたま観たんですけど、これがめちゃめちゃ良くて。『フィッシュストーリー』は、1つのきっかけが何かに影響を及ぼし、またそれが次の何かに影響を及ぼし…もう輪廻ですよね…それがまわりまわって最終的には世界が救われるという話なんです。

●はい。

高木:僕は“音楽で世界は変わらない”と昔から思っていて、“ザ・ビートルズでさえできなかったんだから自分にできるわけねぇ。だからこそ目の前の人に歌いたい”という気持ちで12年やってきたんですけど、目の前の人が変わったらその人が横の人を変えて、またその人が横の人を変えて…まわりまわってもしかしたら世界が変わるかもしれない、と『フィッシュストーリー』が思わせてくれたんですよ。この曲を書いているときにそういうことがあって、そこから歌詞の世界を拡げていった感じですね。

●ということは、今までの視点とは違うんですね。

高木:違うんです。以前は“世界は変わらない”と思っていたんですけど、今は“世界は変るかもしれない”という希望と確信の間で揺れ動いているというか。だから“目の前の人を変える”というところは変わらず、その可能性はどこにでも落ちてるんだっていうことをちょっとでもこの歌からわかってほしいですね。僕が感じたあの感覚を知ってほしい。

●その変化はすごくいいことですよね。あと、この曲で“どんなに言葉を選ばなくとも 本気かどうかが全てなのかもしれない”という歌詞がありますけど、これはライブに対する姿勢というか、ライブバンドだからこその価値観のような気がしたんです。

高木:そうですね。ライブをやり続けている人たちはみんなそう思っているでしょうね。ザ・マスミサイルを組む前の大学生のときとかは、ひたすら「がんばれ!」「がんばれ!」「もっと来いよ!」と言ってましたし、それをパンクだと勘違いしていたところもあって。下手クソだったということもあるんですけど、「もっと来いよ!」とかやっても誰も何もやってくれないんです。そこでまず意識が変わったんです。

●というと?

高木:“誰かに何かを言おうとしても何も伝わらないから、自分の歌だけ歌ってみよう”みたいな。それで作ったのが「教科書」ですからね。あんなもんひとり言の歌ですから。

●ハハハ(笑)。

高木:そしたら「実は俺もそう思ってた」「私もそう思ってた」って言われて。「なんや、お前ら一緒やんけ!」って、スパーンと何かがハジけた瞬間だったんです。だから自分が歌いたいことを一生懸命、本当に真摯に歌っていれば伝わるんだっていうのはその頃から実感としてありました。「もっと来いよ!」とかダサいことを早い段階でやっといてよかったです(笑)。

●ハハハ(笑)。ところで歌詞を見ていて思ったんですが、今作は“夢”がひとつのキーワードになっていますよね。

高木:あ、言われてみればそうですね。今気づいた。歌詞にも結構出てきますね。

●しかも、今作で描かれているのは荒唐無稽な“夢”ではなくて、地に足が着いた“夢”というか。ザ・マスミサイルは10年以上のキャリアがあるし、「2回目のメジャーデビューを冷静に見ている」とおっしゃっていましたけど、でもしっかりと“夢”を持ち続けて音楽をやっている。そういった今のバンドの心境が表れているのがいいなと。

高木:確かにそうですね。はい。

●そこで訊きたかったんですけど、よっくんが音楽を続けている理由は何なんですか?

高木:もちろんずっと音楽を続けていくつもりなんですけど、一方で常に破壊願望があるんですよ。すごくパラドックス的なんですけど、“世の中がなくなれば音楽も辞めるのにな”って思ったりする。

●世の中がなくなったら音楽を辞めるもクソもないですけどね(笑)。

高木:そうそう(笑)。そういう破壊願望があるんですけど、でもぶっ壊れないからやるしかないよねっていう。音楽をやるにあたって、強迫観念も使命感もないんです。「ファンに支えられる」という言葉はあまり好きではないんですが、でも影響がゼロだった12年間ではないと思うし。その“支えられている”という感覚というか、無責任に辞められねぇなっていう意識はずーっとあります。

●そうなんですね。

高木:それと、僕は最近「自尊心をくすぐられる」という言葉をプラスの意味で使うんですよ。生きていく上でのモチベーションになる、大事な感覚だと思っていて。音楽で人の人生を変えても一銭の金にもならないですけど、例えば伝わったことによってその人の何かが変わるだとか、10年後の人生に影響が出るだとか…そういうことにすごく自尊心をくすぐられるんです。そんな仕事は他にないですよね。だからすごく愛おしいですし、その感覚を味わい続けていきたいんです。

interview:Takeshi.Yamanaka

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