音楽メディア・フリーマガジン

矢沢洋子

彼女は今、別世界へと進化を遂げる

YOKO矢沢洋子、その新作ミニアルバムは少なからぬ驚きと共に受け入れられるだろう。
オープニングを飾るタイトル曲「Bad Cat」のイントロから、大胆に取り入れられたエレクトロニックなデジタル音。ここ数年で世界的ブームを巻き起こしているEDM的なモダンな響きと、今再び注目を集めつつある80年代後半〜90年代のJ-POP的なノスタルジックな響きの両方をそのサウンドは感じさせる。
日本だけでなくアジアにまで及ぶ精力的なライブ活動で鍛え上げた、ダイナミックなバンド感を詰め込んだミニアルバム『ROUTE 405』をリリースしたのは昨年10月のことだ。矢沢洋子&THE PLASMARSとして作り上げたその前作から、約1年の時を経て発表される新作で見せつける音像の変化。まず、そこに驚きを受けるリスナーは多いのではないか。
もちろん聴き進めてみれば、ライブで培われてきたバンド感は確実に今作でも活かされ、サウンドの血肉となっていることは伝わってくる。そして、音像の変化以上に大きな“進化”にも気付くだろう。明白なる進化を遂げたもの、それは矢沢洋子自身の“歌”だ。淡々としたクールな佇まいで歌っていたかと思えば突如、内に秘めた激情を解放するかのように言葉を吐き出す。
まさに“Bad Cat”のように、小生意気でコケティッシュな悪女の表情。続くM-2「スパイダーウェブ」では大人の色香を漂わせる切なげな歌声で胸を打ち、M-3「DON'T GET ME WRONG(カバー)」ではL.A.育ちならではのネイティブな英語を耳触りよく響かせ、M-4「Breakaway(カバー)」では気っぷのいい姉御的な快活さで引っ張り、ラストのM-5「蒼き希望」ではスケールの大きさを感じさせる伸びやかな歌唱を聴かせる。
全ての楽曲で別人かのごとく違う表情を見せる、歌における表現力の進化。それこそが、第2の驚きだ。本人も憧れを公言するジョーン・ジェットやスージー・クアトロのように、男性に負けないカッコ良さを持ちながらも女性ならではのキュートさやセクシーさも兼ね備えたヴォーカリストたち。矢沢洋子自身もそんな伝説的シンガーたちに並ぼうという意欲と可能性を見て取らずにはいられない。
最後にして最大の…と世には報じられるであろう驚きは、今作のプロデューサーについてであることは間違いない。矢沢洋子の実父であり、日本におけるロックンロールの象徴とも言える矢沢永吉が、自身初の外部アーティストのプロデュースを手がけたのが今作なのだ。史上初にして驚天動地の試みがもたらした結果は、ここまで書き連ねてきた文章を見てもらえれば伝わるだろう。
2013年11月13日、矢沢洋子のニューミニアルバム『Bad Cat』が世に放たれる。何よりもその音が、彼女が果たした別世界的な進化の衝撃を雄弁に語ることだろう。新作を手に入れたなら何度も繰り返し聴きつつ、次号で本人の口から遂に語られる最新インタビューを心待ちにしていて欲しい。

TEXT:IMAI

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