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限りなく透明な果実

永久に色褪せることなきノスタルジックな崩壊と再生の物語

フクシマサトル(Vo./G.)を中心に、実弟のフクシマアキラ(Ba./Cho.)とニシカワユウスケ(Dr./Cho.)が加わり2011年初頭に結成された3ピースバンド、限りなく透明な果実。

その一見、不思議だがイメージを想起させるバンド名に惹き付けられる人も多いのだろう。エモーショナルなライブでも観る者を魅了し、手売りのデモ音源を瞬く間に完売。まだ結成して1年足らずにして密かな注目を集めつつある彼らが、1stミニアルバム『サナトリウム.end』をdiskunion限定でリリースする。

極めて前衛的でありながら、どこか懐かしくて、ポップで親しみやすい。
そんな他に類を見ない魅力を放つバンドの実体に迫るべく、中心人物のフクシマサトルに初のインタビューを行った。

Interview

●ご自身がブログに書かれていた"極めて前衛的でありながら、どこか懐かしくて、ポップで親しみやすい"という言葉通りの印象を、今回の1stミニアルバム『サナトリウム.end』から受けました。

サトル:それは今回の6曲全てにあてはまる言葉だと思います。今作は類を見ない作品だと思うし、リスナーに親しみを持って欲しいという願いを込めた作品でもあるから。"ノスタルジー"という言葉が今作で1つのキーワードになっているんですけど、それは俺の中である種の"救いの場所"みたいな感じになっていて。

●歌詞中に"校舎"(M-3「ノアの箱舟」)や"理科室"(M-6「サナトリウム」)といった学校を思わせる言葉が出てくるのも、その"ノスタルジー"に通じている?

サトル:そこは確実に通じていますね。"学校"っていうのは自分が本当に長い時間を過ごしてきた場所だし、人間の根幹を作る上でものすごく大きな存在だと思っていて。絶えずテーマからは離れないものだと思います。ただ、今作にはもっとそれ以前の、幼少期のノスタルジックさも詰め込んでいるつもりです。

●M-1「七星天道虫」は幼少時のイメージ?

サトル:そうですね。子供の頃によくテントウムシを捕まえて遊んでいたということもあったし。

●もっと遡れば"ノアの箱舟"というのも、人類の原初体験としての"ノスタルジー"だと言えますよね。

サトル:そういう部分もありますね。ここでは"全ての始まり"というイメージで使っていて。自分の中で、時間軸を超越したいという気持ちがあったんです。リスナーが今作の曲を聴いた時に、原初的なすごく古いことから未来のこと、そして今のことへと場面がどんどん飛んでいってしまうかもしれない。でもそれは時間軸という1つの次元で考えたら、全部一緒だと思うんです。そういうものも含めて、1つの表現したいことを今作でまとめ上げられたと思います。

●今作で表現したいイメージは最初から見えていた?

サトル:うーん、どうかな。イメージというよりコンセプトはあった。今回の制作にあたって自分のエゴイスティックな部分や感性みたいな部分を封印しようと思ったんです。今回のコンセプトとして、そういったものの封印がありながら『サナトリウム.end』に挑んだっていう感じかな。

●封印するに至ったキッカケとは?

サトル:1stデモCD『十字衛生軍』(2011年3月)を作り終えた時に、突然色んなものが小さく見えたんです。本当に突然、ハッとした感じで。本当はどれも小さなことなんじゃないかって。

●ものの見方が変わったというか。

サトル:うん。個人的なことはもちろん、この1年で日本でも大きな出来事や事故があったと思うんだけど、ふと宇宙規模で見たら同じようなことは昔からたくさん起きていて、それどころか数多の星が当たり前のようにどんどん生まれている。それを考えると1つ1つの出来事は必然でもあり、むしろ自分の想いや感情なんて、すごく小さい存在なんだなって思うようになったんです。

●1stデモを作ったことも、その変化に関連している?

サトル:うん、今回の『サナトリウム.end』の布石でもあり、これまでの考え方を変えるキッカケになった作品ですね。

●1stデモは結成されてから早い段階で発売されていましたよね。

サトル:そう。結成して3ヶ月経つか経たないかだった。3人で初めてスタジオに集まった日から、曲を作り始めたんです。っていうのも3月末には初ライブが決まっていたので、それまでにCDを出さないとって思って。だから、1stデモは超短期間で作った作品なんです。超短期間で制作した上に録音、MIX…っていう、いわゆるレコーディングと言われる全ての作業を自宅のパソコンでしたので、やっぱり今作やライブとは音の印象も結構違うと思います。でも、そういう状況下で、かつ初めての制作だったからこそ、このバンドのスタートとして相応しい産声を上げた大切な一枚になったと思います。

●曲作りは3人でしているんですか?

サトル:まずはメンバー3人がスタジオで戯れている感じで、溢れ出る音をどんどん形にしていきます。そういう遊びに近いところから曲みたいなものができてくると、だんだんディープな感覚に陥っていくんです。で、とことん入り込んで3人の中でテーマみたいなものが見えてきたところで歌詞を書き始めて、形になっていく感じです。

●この3人で組んだのは、何か明白な思いがあった?

サトル: 前にやっていたバンドのメンバーが辞めて解散するとなった瞬間に、東京へ出てこのバンドをやろうと決めて。必然と言ってもいいくらい、自分の中では弟のアキラ(Ba./Cho.)とニシカワ(Dr.)と一緒にバンドを組もうって勝手に決めていました(笑)。まだ一度も3人でスタジオに入っていない段階だったけど、この3人で組めばすごいことになるっていう確信があったんです。

●自分たちの音楽で、リスナーを非現実的な世界に連れていく感覚もある?

サトル:ライブの演奏中はもっと異なる次元に、お客さんごと連れ去っていきたいという意識は常に持っています。でも音源では意図して、非現実的なことを表現しているわけじゃなくて。非現実と現実を両方合わせて表現して、その間を行ったり来たりする感覚だと思う。だから一見、抽象的と思われるような歌詞にも現実的な言葉が見え隠れしていたりする。

●非現実と現実の間を行き来するような表現だと。

サトル:その境目はすごく曖昧なものだと思う。言葉では非現実と現実という2つに区切られているけど、その中間も当然あるわけで。だから端と端を行き来しようという意識でやっているってことでもない。

●あえて前衛的なことをやろうという意識もない?

サトル:あえて入れようとしているわけではないですね。でも今の音楽を聴いていて、"古いな"と思ってしまう感覚が自分の中にはある。ただ新しいものを目指しているわけじゃないけど、その"古いな"と思う感覚をなるべく自分の作品には反映させたくないとは思っています。

●音楽というよりも、本や芸術からインスピレーションを受けているような気がしました。

サトル:昔っから本を読むことが好きなので。おそらく音楽以上に影響を受けている部分は大きいと思います。今回の作品は本で言うところの短篇集をイメージしていて、なおかつ6曲が様々な方面から絡みつくような作品に仕上げたつもりです。

●ジャケットの絵もご自身が原案を出しているそうですが、作品のテーマに沿ったものになっている?

サトル:うん、そうですね。今作は、大きな世界の始まりから終わりを象徴する絵にしたいなと思って。

●『サナトリウム.end』という作品タイトルも、終わりを象徴しているわけですね。

サトル:そこには理由があって、「サナトリウム」は自分の感性が肥大化してしまっていた時期の終盤にできた曲なんですよ。その時に"これで本当に終わりなんだ"という区切りを付ける気持ちになった一方で、すごく安らぎのある静かなイメージが自分の中に浮かんで。その感覚で今作自体を包括したいなという気持ちがあって、このタイトルにしました。

●自分の中のイメージを具現化した作品になった。

サトル:自分で何回も聴きこんでしまうような良い作品ですね。良く言うと"前衛的な"、悪く言うと"奇をてらった"作品になっているのかもしれないけど、全く飽きないんです。これはたぶん、聴いてくれる人にも伝わると思います。

●バンドとしては今も進化中でも、作品は色褪せない。

サトル:リアルタイムのバンド状況からしたら当然、数ヶ月前に作った作品というふうに位置付けられてしまうんですけど、絶対に何百回聴いても色褪せない。バンドとしてはこの1年という短い期間にものすごい化学反応を起こして、今の時点で既にとんでもないことになっていて。バンド自体の速度がものすごく速いので、どんどん切り開いていっています。

●次作のイメージも見えている?

サトル:うん。頭の中ではうわー! って大変なことになってきてる。とてもヤバい(笑)。もう、形にし始めているものもあるんだけど。現時点での俺らには垣根というものが存在しなくて、なおかつものすごい速さで広がっている。ビッグバンが起きた後で急速に宇宙が作られていくくらいのイメージで、世界観や音楽観、表現内容も広がっていくと思います。

●今作はビッグバンのように1つの終わりであり、新たな始まりにもなっている。

サトル:まさにそうだと思いますね。もう既に始まっています。

Interview:IMAI

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