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蟲ふるう夜に

未完成でも不安定でもいい。「愛すべきわたし」を愛して生きようと彼らは歌う

蟲ふるう夜に_アー写サウンドプロデューサーにBiSや中川翔子を手がける松隈ケンタを迎えた3rdフルアルバム『第二章 蟲の声』で話題を呼んだ4人組バンド、蟲ふるう夜に。同作収録の「一緒に逃げよう」では“あまりにも心潰れそうなときは 一緒に逃げよう”と、自分と世界とのかかわり合いに問題を抱える“中二病”のリスナーに歌いかけて注目を集めた。そして「自分の短所すらも愛して一歩踏み出そう」というメッセージを明確に打ち出した2014年、新作ミニアルバム『わたしが愛すべきわたしへ』を6/4にリリースする。自分を愛せなかったVo.蟻自身が「未完成な自分を愛していいんだよ」と歌う今作は、より多くの人々に届く可能性を持った進化と開放の1枚だ。

「闇の中にいた蟻がそこを抜け出して、闇の中にいる人を救い出すような歌に変わっていったんです。それと一緒にバンドも変わった感じですね」

 

●今回のミニアルバム『わたしが愛すべきわたしへ』はジャケットが蟻さんのアップ写真ということで、そこにまずインパクトを受けました。

蟻:今まではずっと顔を半分隠していたんですけど、前髪を切ったんです。今回は「コンプレックスを克服して自分を愛してみよう」という内容だったから顔を見せようということで前髪を切ってしまったら、もうジャケットも顔のアップでいってしまえ! となって(笑)。

●これまでのジャケットを並べてみると、イメージが全然違いますよね。

慎乃介:絵だったり(1stフルアルバム『僕たちは今、命の上を歩いている』)、暗い感じだったり(2ndフルアルバム『第一章 蟲の音』)、顔が半分隠れていたり(3rdフルアルバム『第二章 蟲の声』)…。

蟻:だんだん明らかにされていっている。絵から始まり、影で隠れて、顔面半分、そして顔面! みたいな(笑)。

●ハハハ(笑)。2014年は「自分の短所すら愛して一歩踏み出そう」というメッセージを打ち出していたわけですが、それは今作にもつながっている?

蟻:そこはありました。M-1「ホウセキミライ」がまず先に仕上がっていたので、「一歩開けた“蟲ふるう夜に”を出したいね」とはみんなで言っていて。

●「ホウセキミライ」は特に顕著ですが、楽曲的にもすごくポップになりましたよね。

郁己:今年1/1に配信シングル(『ホウセキミライ』『最果ての近い星』)を出して、その時に(イメージが)ガラッと変わったんですよ。

蟻:実は今までも明るい曲はあったんですけど、1月のシングルは“光と闇”というテーマで両極端な“蟲ふるう夜に”を見てもらおうと思って出したんです。闇の部分は元々根強くある中で、光の部分がよりキラキラ輝いてきたというか。闇を使って闘ってきたけど、光の武器もだんだん強くなってきたんじゃないかなって。

●1月のシングルから変わってきたと。

蟻:特に今年に入ってからは、徐々にもがきながらという感じでしたね。

郁己:それを作り始めた去年の10月頃から、ちょっとずつ蟻に心境の変化があって。闇の中にいた蟻がそこを抜け出して、闇の中にいる人を救い出すような歌に変わっていったんです。それと一緒にバンドも変わったという感じですね。

●蟻さんの心境が変わってきたのはなぜ?

蟻:人との出会いとか、本との出会いが大きかったですね。人を救いたい、自分が苦しくても。そんな想いで歌を歌ってきたけど、一番、人に助けられていたのは「私」だって気付かせてもらったんです。

郁己:周りから見ていても、明らかに変わっていくのがわかって。蟻につられて俺らもポジティブな部分が表に出てくるようになったんです。

●男子メンバーも、以前はネガティブだった?

蟻:もうネガティブの塊ですよ。郁己はライブでミスしたら散歩に出て行っちゃうし、慎乃介はトイレから楽屋に戻ってきたら「今、俺の悪口を言っていただろう?」って毎回聞いてくるし。

●ひどい被害妄想ですね(笑)。春輝さんは?

春輝:僕は自分のことをグーで殴ったりします。「全部、自分が悪いんだ」と思っちゃうクセがあって…。

蟻:他人のせいなことも全部、自分のせいにしますからね(笑)。

●自分を責めるという点では、ミスをして散歩に出て行く郁己さんと似ている?

郁己:俺は自分を責めるというよりも、そういうライブの後で人に会いたくないんです。演奏でミスしていたりして自分の中ではあんまり良くない時も、他人は「良かったよ!」とか言ってくれるじゃないですか。それがもう全部、嘘に聞こえちゃって…。

蟻:ドラムをほめられると、ヘコんじゃうんですよ。

慎乃介:でもけなされても、ヘコむよね?

春輝:めんどくさ…。

●皆さんのネガティブさはよく伝わりました(笑)。

郁己:でも今はそういうところも変わりつつあって。M-2「わたしが愛すべきわたしへ」を聴いてから「未完成でもいいんじゃないか」という気持ちが自分の中に芽生えて、楽になれたところがあって。自分たちが作った作品に、自分自身が救われるという奇妙な初体験でしたね。

●「わたしが愛すべきわたしへ」の歌詞に救われたと。

郁己:“未完成な自分”を“愛していいんだよ”という言葉が、すごく胸に響いたんですよね。アルバムタイトルでもありリード曲にもなっているんですけど、このアルバム全体でもそういうことが多かったりして。蟻と同じように俺も元々、自分のことがあんまり好きじゃなかったんですよ。それについてバシッと言ってくれた気分だったので、俺は本当に救われたんです。

春輝:僕も“未完成な自分”を“愛していいんだよ”というのを聞いて、そうだよなと思って。メンバーが4人いる中で「自分のことが嫌い」と言うヤツが1人でもいたら、その時点で1つになれていないし、歌も届くわけがない。そんな歌が誰かを助けられるわけがないから、今は自分自身も本当に変わろうとしている段階というか。蟻も「大丈夫だよ」とすごく言ってくれるので、それに励まされて「俺もやろう!」となっています。

蟻:フフフ(笑)。メンバーを見ていても、やっぱり前とは違うんですよ。気持ちって、音にも出るんでしょうね。

●その結果が今作の音にも出ている?

蟻:そうですね。ただ、今作に関しては打ち込みがかなり入っていて。今まですごく生音にこだわっていたバンドが電子音を入れるって、結構な覚悟と勇気がいるんですよ。そこでも頑なな自分たちを崩していったんです。郁己は最初「そんなにカチッとしたドラムがいいなら、俺なんかいらないんじゃないの? 打ち込みだけでいいんじゃない?」と言い出したりもしたんですけど。

郁己:打ち込みのほうが正確だし、技術的にも上手いわけじゃないですか。そういう音楽を作っていくのなら、自分はいらないんじゃないかと悩んで。まさに今作を作っている最中に悩んで、作っている最中に解決したという感じだったんです。「未完成でもいいんじゃない」と思えるようになったことで、また1つ上に行けた気がしているから。アルバムは本当に自分たちの成長記録だなと思います。前と比べて曲も音も全然違うけど、それは心境の変化で変わっていくものなんですよね。

●制作しながら、自分自身も成長できた。

蟻:「正確さを極めようとするんじゃなくて、自分らしさを突き詰めればいいんだって気付いた」と言っていたのがすごく印象的で。それでメンバーも全員、安心した部分が大きかったですね。

●蟻さんの歌詞で気付かされることも多い?

郁己:メンバーの歌詞で心境が変わるって、周りから見たら気持ち悪いかもしれないですけどね(笑)。そういう想いがあるからこそ、届けられるというか。ドラムで歌っているわけじゃないんですけど、そこは音を通じて伝わる部分かなと思います。

●ちゃんと蟻さんの歌詞をじっくり読んで理解してから、届けようとしているからこそというか。

郁己:それが実は…ドラム・ベース・ギターの後に歌という順番でレコーディングしていくんですけど、歌を録る当日まで歌詞はできていなかったりするという…。

蟻:レコーディングの直前までは、スランプに陥りやすいんです。「わたしが愛すべきわたしへ」もレコーディング前日に「歌詞を全部書き直させて欲しい」と言って。そこまでずっと思いつめていたんですけど、最後の一言でどうしても決め手に欠ける部分があったんです。でも前日になって急にバーっと言葉が浮かんできて、15分くらいで一気に書き上げました。

●では楽器の録音時にメンバーは歌詞を知らない?

郁己:内容はわかるんですけど、細かい部分までは知らないですね。

蟻:仮の歌詞はあって、内容はそこからあんまり変わらないんです。「こういう内容を歌うよ」というのは、あらかじめメンバーとも共有していますね。

●歌詞がギリギリになるのは、それくらいタイトなスケジュールで制作しているということ?

蟻:そんなことはないです。実は今回も1年くらい前から作り始めているので…。私は歌詞にすごく時間がかかるんです。ペンを握っていない時も頭のどこかで常に歌詞のことを考えているんですけど、なぜかレコーディング前日にならないとできないんですよね。

●普段は頭の中に蓄積しているものがギリギリまで追い詰められると、一気に出てくるというか。

蟻:爆発するんですかね…?

慎乃介:じゃあ、毎回追い詰めればいいんじゃない?

●ハハハ(笑)。1枚1枚作品を重ねるごとに進化を感じているのでは?

慎乃介:それはすごく感じています。正直、過去に出した作品は自己満足的な要素が多いというのを自分の中で感じていて。過去の曲を今ライブでやるとなっても、その時の気持ちのままじゃできないんですよね。でも今回のアルバムは色んな人に幅広く届けられるようなものになっているので、そういう部分が昔の曲をやる時にも出てくるんですよ。今の気持ちで新たにやれるというか。そこはとても変わりましたね。

●心境の変化が昔の曲を演奏する時にも反映されている。

慎乃介:そうですね。あと、人間的にも明るくなりました。

蟻:明るくはないと思う。

郁己:よりアホになったよね。

慎乃介:そういうこと? 俺はそれを“明るくなった”と思っていたんだけど、そうなのかな…。うん、アホです。

一同:ハハハ(笑)。

●蟲ふるう夜には“爆裂中二病バンド”と評されたりもしますが、今の歌詞はそれだけではない気がします。

郁己:でも中二病って、内に秘めているものだと思うんですよ。だから、たまに見え隠れはするよね?

蟻:フフフ(笑)。ヒネくれている部分はやっぱりあるんですよね。

●確かに歌詞に関しても、何回も聴いている内に気付くことや発見が多いんですよね。

蟻:何か発見した時の特別感とかは面白いと思います。ヒネくれている人が好きな音楽というか。

郁己:みんな、ヒネくれているんじゃない? 俺らが聴いていても誰にでも当てはまる歌詞だと思うし…って、たぶんメンバー全員がヒネくれているんだろうね(笑)。

●ヒネくれてはいるけど、“届けたい”という気持ちも今まで以上に強くなっているのでは?

蟻:ライブって、それしかないんじゃないかなと気付いたんですよね。そこを疎かにして演奏ばかり上手くなっても意味ないなと気付いて。だから最近は“届ける”っていうことしか、メンバーの中にはないと思います。

●ライブに向かう意識も変わってきた?

春輝:客席に向かって指をさす仕草1つとっても、全然違うと思うんですよ。本当に“あなた”に向けている感じがあって。そこは今までと比べて、意識が大きく変わりましたね。

蟻:そういうのって、目に出るんですよね。「みんなに届け!」という言葉でも適当に言っているのと、実際にお客さんを見つめながら言うのとでは全然違う。そういう話をメンバーともずっとしていて。スタジオでの練習の時は、私に向かってやってもらうんです(笑)。

慎乃介:最初は恥ずかしいんだけど、届けたいんだったらそんなことは言っていられないから。

●本気で向き合うというか。

郁己:「絶対にベストな状態でステージに上がれるように」とは思っています。蟲ふるう夜にはニコ生の番組を半年くらい前から毎日放送しているんですけど、ある時に俺から視聴者に向かって「ライブに来る前は何をやっているの?」と訊いてみたんですよ。みんなどこかで遊んでからライブに来るのかなと思っていたら、全然そんなことはなくて。家から直行でライブハウスに向かうし、その途中でも音源を聴き込んで準備をしてくるんだと。そこで、本当にみんなは100%の気持ちでライブを楽しみに来ているんだということに気付かされたんです。

●そういうお客さんの本気に、自分たちもライブで応えなければいけない。

蟻:私もその放送を見ていたんですけど、「蟲ふるう夜にの音楽を聴きたい」という気持ちを万全にしてライブに来てくれているんだっていうことに改めて気付かされて。私たちが準備運動をして、万全の状態でライブに挑むのなんて当たり前なんですよね。

郁己:前から思ってはいたけど、ますます「簡単な気持ちではライブできないな」という意識が高まって。「絶対に万全な状態を作る」ということは常に意識しているので、そういう部分でも著しく変わったんじゃないかな。

Interview:IMAI

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