音楽メディア・フリーマガジン

中ノ森 文子

『Get the glory』で得た感覚。新たな挑戦から導き出したシンプルな答え。

main_I7Y3106re2008年の中ノ森BAND解散後、ソロでの活動を開始した中ノ森文子。アルバム『Follow me!!』や配信限定シングル『READ MEEEE!!!!』のリリースなど、自身の音楽活動にとどまらず、タレント、役者、モデルとしても活動の場を広げている。そんな世代/性別を越えて幅広い層から支持を集めている彼女がアニメ「テンカイナイト」の主題歌を含めたシングル『Get the glory』を6月11日にリリース。打ち出された楽曲やMV、アーティスト写真からは中ノ森文子の新たなイメージ像が伺え、これからさらなる進化が期待できる内容となっている。その作品が作られる中で導き出された言葉は、自身の中に埋もれた疑問に対する答えでもあった。

 

 

 

年を重ねるたびにいろんなものを見失ったり、昔の感情を忘れてしまったりする。
この曲と出会って、そのいろんな置き忘れてきたものを、もう一度拾いに行っている感じ。

●2013年に前作『READ MEEEE!!!!』がリリースされて、今作『Get the glory』が完成するまでの間で、中ノ森さん自身の活動に何か変化はありましたか?

中ノ森:自分を磨くために、いろんな事に挑戦させてもらいました。自分自身の活動というよりは、もっと音楽を知るためにDTMソフトを買ったりして、アレンジだったり、楽曲のクオリティーを高めるための勉強をしたりしていましたね。

●昔から宅録的なことはやっていた?

中ノ森:最初はGarageBandを使っていたんですよ。ここ何年かはLogicにシフトして作っているんですけど。それを使っているうちに今度は他のソフトウェアが欲しくなったりするじゃないですか。そんな感じでいろいろ買い足したりしていましたね。なので『READ MEEEE!!!!』の時よりも、もっと音楽に関して取り組むための知識だったり、深みだったり、そういうものが加わってきました。そういう意味ではプロモーション活動とか自分自身が稼働することは少なかったんですけど、音楽に対していろんな角度から取り組んで勉強をしていました。

●そういう取り組みの中で自分を磨き上げていく感覚があったと。

中ノ森:自分は気分の良い時とかに鼻歌を歌って、それを録ってからの作業が苦手なんですよね。いろんな曲を聴いて、自分の中に取り入れたいものがあったりするので、相手に伝えるためにそれを上手く表現したいんですけど、その作業が一番大変なんです。そういうところでリズムだったり、構成にしても「ここでブレイクを入れて、ここにキメを入れてやってみよう」みたいになかなかピタッと組み立てれない。そういうパズルのピースを頭のなかで揃えるまでにけっこう時間が掛かりますね。でも、自分で作りこんでいくことは嫌いではないので元々オタク気質みたいなところがあるんだと思います。

●今までは感覚で作る部分が大きかった?

中ノ森:私はほぼ100%感覚人間なんですけど、アレンジだったり、組み立て作業はやっぱり感覚だけじゃどうにもならないなっていうところがあったんです。それで、元々いろんな曲を聴いたりすることは好きなので、そういう引き出しも増やしつつ、今後も曲を作る時にそれを自分の中で飲み込んでフィルターを通して出せたら良いなと思ったんですよね。最近は素敵だなと思う人のライブに行くようにもしています。

●最近はブルーノ・マーズ、ジョン・メイヤーのライブに行かれたそうで。

中ノ森:そうなんですよ。すごく良かったです。

●敬愛されているのがシンディーローパーでしたよね。

中ノ森:そうですね。シンディーローパーは私がまだ小さい頃に兄が車の中でずっと聴いていたんですよ。それで「あ、すごいな。この人、変わった声だな」と小さいながらに思っていたんです。兄の掛けていた音楽が自分の中のルーツになっているっていうところはあるかも知れないですね。

●聴く音楽は洋楽が多い?

中ノ森:洋楽が主ですけど、美空ひばりさんとかも大好きですね。

●そうなんですね。カラオケで歌われるのは演歌が多いとか。

中ノ森:演歌は周りの方たちの年齢層をみて、ちょいちょい歌ってみたりします(笑)。自分より若い子がいたらケイティ・ペリーとかブルーノ・マーズも歌いますね。

●中ノ森さん的に今ホットなアーティストはいますか?

中ノ森:私はなんだかんだでブルーノ・マーズですね。パフォーマンスだったりライブのアレンジ、構成や組み立て方とか、彼はギミックが多いんです。その曲のイントロが始まって、最初は何の曲か分からないけど、歌が始まったらバッチリその曲が分かるし、一緒に歌えるというか。

●構成が凝っていると。

中ノ森:聴いていて飽きないし、アレンジが変わっているからといって曲が分からない訳でもない。そういう意味でハッと驚く仕掛けが沢山あるし、「〇〇をやってくれよ!」と言われなくても勝手にお客さんがノッているっていうライブの組み立て方をするんです。ライブを観ていて楽しいから勝手に体がノッてくるっていう。煽られて反応するんじゃなくて、お客さんから煽るような感じのステージができるアーテイストがすごく好きなんです。

●観客が自然と盛り上がっているような。

中ノ森:「お前ら、ノッてくれるか!! 」っていうライブはけっこう多いじゃないですか。そういうステージを観ていて、お客さんが一緒にやってくれるのはもちろんパフォーマンスとしてありだと思うんです。自分もお客さんに応えてもらって、そこで安堵感を得る部分があったんですよ。でもそれでお客さんがやってくれない、乗ってくれないから不安だなっていうのは「なにか違うな」と思って。

●違和感を感じたんですね。

中ノ森:今は全く発想が逆で、ステージ側がディズニーランドみたいに、それを観ていたら何か楽しいとか、ワクワクしたり笑顔になったり。ステージをやっている側とお客さんとの間の見えないパワーっていう部分があると思うんです。煽られて応えるのは、変な話煽っているので当たり前じゃないですか。それも大事なんだけれどもそこだけじゃないなって、自分もいろんなライブに行ってワイワイやるけど、その心理として逆にならないようにしたいって思います。

●ライブに対する受け止め方が変わった?

中ノ森:年を重ねるごとに白黒がはっきりしてきたのかもしれないです。本当に自分は何が好きなんだろうっていうのが分からなかったものが「私、このアーテイストが好きなんだ」とか「この人のこういうところが好きなんだ」とか、アーティストだけに関わらず、どんどん良い意味で「これが好き」って言えるものがちゃんと確立されてきたというか。なのでたぶんライブの楽しみ方ひとつとっても変わってきたのかなと思います。

●今回の「Get the glory」の音源、MVで感じたんですけど、歌い方もパフォーマンスも自分の一番強い部分をシンプルに押し出しているような印象を感じたんです。

中ノ森:「テンカイナイト」は「みんなで力を合わせて向かっていくんだ!!」みたいな、「Get the glory」の歌詞の内容のようなアニメなんですよね。今回はそれに合わせた楽曲っていうところがまずあったんです。なので、この曲に関しては、どちらかと言うと自分をそのままというよりは、表現者としてこの曲をどういう風に表現していくかっていうところがテーマだったんです。

●テーマがあった上でどう表現するかと。

中ノ森:でもこの曲を歌うこと、レコーディングをして形になることが私にとってすごく大きいなと思っていて。年を重ねるたびにいろんなものを見失ったり、昔の感情を忘れてしまったりする。でも、潜在的にその感情は残っていて、ふとした時に「あれ? 私、こんな人間じゃなかったんだけどな」とか「もっと楽しいことを素直に楽しめていたな」って思い出すんです。この曲と出会って、そのいろんな置き忘れてきたものを、もう一度拾いに行っている感じというか。

●取り戻す感覚なんですね。

中ノ森:昔って、恥ずかしいだのそんな頭もなかったじゃないですか。ただ必死に前を向いて走り続けていた、あの時を思い出したいなっていうところがありました。実はああいうMVの動きって、今までのどのMVでもしたことがないんですよ。今回は表現者として本当に真っ直ぐ、形にする気持ちを恐れずにただがむしゃらに進んでいたあの時の自分を拾いに行くために、どういうふうに表現をしたいって思った時に形になったのがあのMVでした。

●アニメという作品に寄せることで、自分の良さを再確認するというか。

中ノ森:私はそういうことが多いんです。レコーディングをしていても、スタッフさんでディレクターさんが1人違ったりすると、自分から出てくるものもあるんだけれども、引き出してもらうものがすごく多いんです。今回は自分自身も忘れていた疑問を潜在的に感じていたところ、歌の表現やいろんなことで、また新たな自分と遭遇しました。そういう意味では表現者ではあるんだけど、そんな自分が一番この曲に救われているというか、引き出してもらえている。

●引き出されて気付くというか。

中ノ森:本当はいつも行動が先にあるっていうのがいいんですけど、どうしても行動を起こすことが怖かったり面倒くさかったりとか、ダメだったらどうしようとか思ってしまう。大人になればなるほど、そういうストップが掛かっちゃうというか。そういうところが生活をしていく上で怠りがちだなって、自分でも思うんですよ。この曲は「まずは行動しなければ」っていう、メッセージが凄くシンプルなので、私よりも大人の人や年下の人が聴いても何か感じてもらえるのかなって思います。

●“大事なのはそうディレクション”の部分とかはディレクションがあってアクションすることが成功に繋がることを理解していないと書けない歌詞だったりしますよね。

中ノ森:方法がブレていると、アクションを起こしても空回りする。チェーンがないけど自転車を漕いでいる人みたいな。進まないっていう(笑)。

●今の中ノ森さんが成長した上で自分を省みているというか。

中ノ森:たぶんこれは、永遠のテーマなんだと思います。大人になればなるほど、そこが一番大事なのに、そこに目をつぶって生きようとか。そういうところは私の中ではあったりもするので、そこが一番シンプルなんだけど、一番できないというか。例えば毎朝雑巾がけをするとか、シンプルなんだけど、なかなかできない。そういうことと一緒で、本当は行動することが大事だし、今回はこの曲を歌ったりすることで、もう1回取り戻して真摯に進めたらなと。

●これからの展望としては何かありますか?

中ノ森:まだ今回の音源は発売もされていないので、特に心境的には変わらないです。沢山の人に聴いていただきたいので、そういう意味ではプロモーションでいろんな所に行ったりしたい。まずはそういうところに集中できればなと思います。

Interview:馬渡司

  • new_umbro
  • banner-umbloi•ÒW—pj