音楽メディア・フリーマガジン

THE SLUT BANKS

彼らが描く未来は毒々しくて美しい

PHOTO_TSB1996年に結成、ソリッドかつ激しいサウンドと哀愁感のある歌を武器に駆け続けてきたTHE SLUT BANKS。2012年、約12年ぶりとなる待望のフルアルバム『チクロ』、そして立て続けにミニアルバム『ドクロ』をリリースし、全国各地のライブハウスで夜な夜な暴れてきた彼らが、待望のフルアルバム『ロマンス』をリリースする。オーディエンスを熱狂させる激しいライブチューンはもちろんのこと、彼らの人間性を生々しく感じさせる歌や情感豊かなメロディが今まで以上に際立った今作は、キャリアの中で培った彼らのオリジナリティの結晶と言える。

 

 

「将来の見通しは暗いけど、そんな中で何か夢を与えたいと思ったんです。
大袈裟に言えば“夢を持ってもらえる日本にしていこう!”みたいな」

●6/18に12曲入りのフルアルバム『ロマンス』がリリースとなりますね。前作『ドクロ』からはやや期間が空きましたが、どういう作品にしようと思っていたんですか?

DUCK-LEE:「次はそろそろ」みたいな計画もなく「次のネタがないな…。どうしようかな」みたいな感じだったんだよね。夏前にツアーをしたいからその逆算でスケジュールを決めていって。

STONE STMAC:制作は2月…雪が降っているころに始まって。プロ野球が始まったくらいに終わったとか、そんな感じ。

●THE SLUT BANKSはDUCK-LEEさんが曲を作ってきてそれをバンドで合わせる、という制作スタイルですが、サウンド的なイメージはあったんですか?

DUCK-LEE:「ウギャー!」みたいなものはちょっとやめようかなと意識をしていて。もうちょっと分かりやすい感じ。

●今作のタイトルもそうですし、ジャケットもそうですし、音源を聴いてもそう感じました。今までの2作とはちょっと肌触りが違う。キャッチーさや聴きやすさが前に出てきているというか、

DUCK-LEE:そうそう、POPなものにしようかなって。

●あとは感情的というか、叙情的にもなっている。

DUCK-LEE:自然にこうなっちゃったんですよ。同じようなことばっかりやっていてもダメじゃないですか。それは博打ではないというか、ロックじゃないから。それまでと違うものをやって「じゃあ、これでどうだ? これでどうだ?」って驚かせたいんです。それで「あ、当たっちゃった!」みたいなのを狙っているだけなんですけどね。常に模索しています。まだ当たってないから(笑)。

●自分たちが持っている中で、違うカードを切ったというか。

DUCK-LEE:そう。みんなの資質も含めて、意外にもこういうところはもともと持っているんです。TUSKは消して歌えない歌い手じゃないし、ギタリスト2人もハードロックとかメタルとかパンクど真ん中じゃないから。

●はい。

DUCK-LEE:ドラムも今回は城戸くん(KiD-HIROSHI / unkie)に手伝ってもらったんだけど、すごく上手いんだよね。幅のあるリズムが出てくる。アレンジで彼の力も大きく手助けしてっていう感じで、幅が広がったんじゃないかな。

STONE STMAC:僕自身はDUCK-LEEの持ってきた曲を聴いて、ルーツっていうか、子供の頃に聴いていたキャッチーなテイストが多めだなと思ったんです。それはもちろん自分の中にもある部分だったりするので、今までは意図して出していなかった部分もあったんだけど、今回は全く考えずに思ったようにやったんです。

●そうだったんですね。

DUCK-LEE:俺、思うけど、詞も含めて自分が作ってきた曲もそうなんだけど、かなりドメスティックなバンドだなっていう。それがもしかしたら、だんだん自分の目指しているオリジナリティになっているのかもしれない。音楽を何十年もやっているけど、洋楽に憧れて“THE ROLLING STONESとかAerosmithみたいになりたい”とずっと思っていたけど、この年になってあまりそういうことがない感じが出てきた。

●自分の中から出てきたものだけを純粋に形にしたものがオリジナリティだと。

DUCK-LEE:かなりそういう感じはする。別に意識しなくて、気付いたら「あれ?」みたいな。自分で思ったのは、音ができて聴いたときに「これがもしかしたらオリジナリティってことではないか」っていう。もちろん曲だけじゃなくて歌詞も含めて。歌詞もありきで曲の展開も…。

●なるほど。

DUCK-LEE:Guns N' Rosesでもないし、メロコアでもなく、完全にドメスティックな音のような。日本人ならではの、日本人ロックっぽい…日本といっても演歌では決してないけど、そういうものを昇華した後の音っていうか。

●改めて自分たちの個性を発見するというか。ちなみに今作の中では1曲、TUSKさんが作曲されたものがあるんですよね。M-08「No.lc41」。

TUSK:もともとは俺が1人で弾き語りで作ってきたものだったんです。

●この曲、TUSKさんの歌がすごく感情豊かですよね。良い感情か悪い感情かは別にして、振り絞っている感じがすごくしたんですよね。THE SLUT BANKSというバンドとTUSKさん個人が一緒になりつつあるというか、自分を出すようになったのかなって。

TUSK:ハハハハ(笑)。そんな大げさなことではないと思いますけど(笑)。

DUCK-LEE:でもなんか、俺のメロデイラインではないっていう感じがすごくある。

TUSK:あ、そうですかね?

DUCK-LEE:コード進行とかね。こういうコード進行、俺は書かないから。

TUSK:ああ〜。震災のことがきっかけになった歌で、歌っているとあの日のことを思い出したりするんです。だから、きちんとアルバムとして残すんだったらこの曲は是非入れてもらいたいなって。

●今作は『ロマンス』というタイトルですけど、例え甘いことを歌ったとしても、THE SLUT BANKSの場合は必ず毒がありますよね。生々しさというか。その象徴がM-9「狂気色」と「血痕ロマンス」。

DUCK-LEE:三島由紀夫とか美輪明宏の匂いが(笑)。

●谷崎潤一郎的な(笑)。

STONE STMAC:紙一重な感じ。ありますね。

●そういうところに、TUSKさんの人柄というか、背景みたいなものなんとなく見えるんです。どんな背景かは分かりませんけど、生々しさが伝わってきて、いいなと。

TUSK:やっぱり曲とのバランスかな。特に作詞の方法は今までと変わってないんですよ。別に曲にも寄り過ぎず作っていくっていう。そこで“毒もなくさず”って感じかな。だからもしかしたら、無意識的に毒を入れることは心がけているのかもね。

●ただ単に甘いだけじゃリアルじゃないというか。

TUSK:そうそうそう。それじゃつまらないなって自分で思ったりして書いている。そこにリンクして、ワイドショーとかでみる事件とかいろいろあるじゃないですか。そういうのを自分の中でリンクさせながら書いているんです。常日頃「俺はこんなメッセージがあるんだ!」っていうものは全くなくて。何か面白いことを書けないかなって感じではありますけど、でもそこに自分なりの価値観や物の見方みたいなものを入れてはいますね。

●それに、ギターもすごく感情的なフレーズが多いと思うんです。ギターは歌詞にリンクさせたりするんですか?

STONE STMAC:けっこうあります。他のメンバーには「え?」って言われるかもしれないけど。

DUCK-LEE:そんな感情なんてあったのかよ(笑)。

●ハハハ(笑)。けっこう艶っぽいギターだと思いますよ。

STONE STMAC:キラキラした感じとか、歌詞の内容とリンクさせて夜空を描くようにギターを弾いたり。別に大層なものじゃないと思うんですけど、今作は自分の中ではすごく進歩したなっていう実感があるんです。曲とリンクしてるというか、詞とリンクしているというか。あと、全体的に今回はギターソロが多いんですよね。そういうところでは自分の引き出しを全部開けて、出したいものを全部出せたなって感じはありますね。

●なるほど。

STONE STMAC:僕は性格的にも、あまり曲からはみ出したプレイはできないんですよ。そもそもそういうバンドじゃないし。でも今回はいいバランスで自分も出せて、いい落とし所に持っていけたんじゃないかな。

●あと、TUSKさんの歌詞で聞きたいところがあるんですが、M-6「人には事情があるもんさ」には“なにもかもが美しい”というフレーズがあったり、M-12「消えちまえ」では“ひとりっきりが美しいだなんて思わない”というフレーズがあって。その“美しい”という感覚は、今作のタイトルや、愛と一緒に毒も描くTUSKさんの感性が表れていると思うんです。今作で書いている“美しい”について、ちょっと詳しく訊きたかったんですが。

TUSK:例えば「人には事情があるもんさ」の1番ではまさに浮浪者のことを書いていて、何かを希望にしているわけじゃないけど、生きていくことを“よし”としている生き方というか。

DUCK-LEE:これ、すごい詞だよね(笑)。“小指の消えたおっさんが言う”という始まりなんて最高だよね(笑)。

●こういうところから、毒も孕んだ愛だと思ったんですよね。リアリティを感じる。

TUSK:描きたかった心境的には、悟りというか仙人みたいな域ですよ。日本の今の状況、福島もそう、そういうことも全部含めて“全て美しいんだ”って受け入れる。

●物事を悲観的に考えるんじゃなくて、受け入れれば美しく見えるという。

TUSK:“そう受け入れてやっていこう”みたいなメッセージかもしれないな。やっぱりみんな、いろいろと人には事情があるじゃないですか。でもその事情を受け入れて、美しいと思えた方がいいというか。

●さっきDUCK-LEEさんが「ドメスティックなバンドだ」とおっしゃいましたけど、M-7「少年たちよ」にはシンプルなサウンドの中に強いメッセージが込められていると感じたんです。リズムはすごく淡々としているんだけど、それによって曲に奥行きが出ているというか。

DUCK-LEE:サビとかでしょ? 普通のルート弾きでリズム刻むだけ。そういうものがいいのかなと思ったんだよね。

●この曲はメッセージ性が高いですよね。投げかけているというか、問いかけているというか。もちろんTHE SLUT BANKSらしさはあるんですけど、他の曲と比べてもここまでハッキリとしたメッセージはないなと。

TUSK:うん。世知辛い世の中ですけど、夢や希望を忘れずにっていうメッセージを込めて。こんな放射能ばっかりある日本で、子供育てたりしている人とかは特に将来の見通しは暗いけど、そんな中で何か夢を与えたいと思ったんです。大袈裟に言えば「夢を持ってもらえる日本にしていこう!」みたいな。

DUCK-LEE:煮詰まった感もすごくあるしね。

TUSK:でも前向きに生きていきたい、生きてもらいたいってことですよね。

Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:馬渡司

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