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遠藤舞

OKAMOTO'Sのバンドグルーヴとの融合が彼女の新たな扉を開ける

MaiEndo_main遠藤舞の3rdシングル『Baby Love』は、OKAMOTO'Sとのコラボレーション作! アイドルグループ“アイドリング!!!”のリーダーとしても活躍していた彼女だが、当時からその抜群の歌唱力は高く評価されていた。昨年7月にソロデビュー後は1作目でBase Ball Bear、2作目で赤い公園という、いずれも個性的なバンドとのコラボレーション作を発表。その“バンドコラボ”の第3弾が今作となる。遠藤舞自身による軽快なピアノ演奏とOKAMOTO'Sの生み出すバンドグルーヴが融合した表題曲は、彼女にとって新たな可能性の扉を開くものと言えるだろう。尾崎豊の「Forget-me-not」カバーでは父親との共演も果たすなど、聴きどころ満載の作品だ。

 

 

 

●ソロデビュー以降はバンドとのコラボレーションを重ねてきたわけですが、遠藤さん自身は元からバンドサウンドが好きだったんですか?

遠藤:高校生くらいの頃から、聴いている音楽はバンドのものが多かったですね。ライブハウスに行ったりまではしていなくて、音源で聴いているだけでしたけど。

●自分でバンドがやりたい気持ちもあった?

遠藤:楽器を弾くことに対する憧れはすごくありましたね。初めてバンドっぽいものに触れたのが中学生の時で、当時所属していた吹奏楽部でジャズをやることになったんですよ。そこで東京キューバンボーイズとコラボして、一緒に演奏するということになって。元々はフルートをやっていたんですけど、その時にベースを担当することになったんです。

●ベースを弾いた経験は?

遠藤:全然なかったんですけど、「やります!」と言いました(笑)。本番まで2ヶ月しかない中で、最初は持ち方もわからないところからでしたね。でも1人で練習してみても全然弾けないので先生に相談したら、東京キューバンボーイズのベーシストの方が1日だけ来てくれることになって。そこで基礎的なことを全て教えてもらったんですよ。

●1日だけとは言え、プロに教えてもらったと。

遠藤:1日だけなので、必死で覚えようと頑張って。かなり練習して無事に本番も終えられたので、「追い込まれると、人間って強いな」と思いましたね(笑)。それが初めてバンドらしい楽器に触れた瞬間でした。その時にベースを持っている自分の姿を鏡で見て、カッコ良いなと思ったんですよ。そういうところから“バンドをやりたいな”と、漠然と思うようにはなりました。

●これまでの作品でピアノを自分で弾かれていたりするのは、元々やっていたからなんですよね?

遠藤:でも専門的に習っていたわけではなくて、独学みたいな感じですね。今回もOKAMOTO'SとコラボしたM-1「Baby Love」では、自分で弾いています。

●演奏にも参加することで、コラボ感も増すのでは?

遠藤:一緒に参加している感じが出るので、楽しいですね。でも1作目(『Today is The Day』)の時は、ピアノのレコーディングがすごく大変で…。私は元々ピアノを耳コピで弾いてきたというのもあって、譜面を見ながら弾くのがすごく苦手なんですよ。1作目に収録の「Lily」はアレンジを別の方に考えてもらったんですけど、自分で弾こうとしたら錯乱状態になっちゃって…(笑)。

●錯乱状態って(笑)。

遠藤:すごく素敵なアレンジをしてもらったにも関わらず、譜面を見ながらリズムに合わせて弾くとなると全然思うようにいかなかったんです。そこで“ダメだ!”となって、精神が崩壊したんですよ(笑)。その日は帰って家で練習してから、翌日やってみたら弾けたんですけど…本当に苦労しました。

●それくらい譜面を見ながら弾くのが苦手だと。

遠藤:2作目では譜面を作らず、その場で思うままにアレンジしながら弾いてみたら楽しくできて。自分のやりたいようにできるから融通も効くし、決まりきったものをレールに沿ってやるよりもそっちのほうが自分には向いているのかもしれないなと思いました。そこからピアノに関しては、やりたいようにやろうとなったんです。

●今回はどうしたんですか?

遠藤:「Baby Love」は、アレンジャーさんが考えてくれたものを耳コピで弾いています。すごく忠実に再現できてはいないかもしれないけど、ニュアンスで弾くという意味では耳コピのほうがやりやすいので楽しくできましたね。

●耳コピのほうがやりやすいんですね。

遠藤:やっぱり直感的にやりたいから。私は頭の中で構成した音を指でアウトプットしているだけなんですけど、たまに自分のイメージとは違う音が出ることがあって。そういう不協和音がオシャレに感じたりもするので、そこはあえて残しておきますね。小指1本が隣にズレるだけで音の響きも全然変わってくるから、奇跡的なものがたまにできたりするんですよ。ミスで生まれたものがすごくキレイだったりするのが、すごく楽しいんです。

●そういう意味では、バンドとコラボすることでも予想外の化学反応を楽しめているわけですよね。

遠藤:毎回、曲調も全然違いますからね。そこは色んなバンドの方から楽曲を提供して頂いていることの面白さでもあって。もちろん曲を作る人によってテイストが全然変わってくるから、「前作と全然違うね」と言ってもらえるのも楽しいんですよ。

●自分の中でも、色んなタイプの曲をやりたい気持ちがある?

遠藤:実は何か1つ「これ!」という強いこだわりはあまり持っていないんです。好みは多少ありますけど、「これは絶対に嫌だ!」みたいなものはなくて。それよりもマルチに色んな方向性でやれるほうが、自分自身も他人も飽きないから良いのかなと(笑)。何か1つの方向性に特化して才能がある人なら良いんでしょうけど、私はそうじゃないから。手広く攻めていったほうが、引き出しも増えるので良いのかもしれない。

●実際、これまでにコラボしてきた3バンドは全然タイプが違うわけですからね。

遠藤:そうですよね。でもそれぞれが自分たちらしいカラーの曲を提供してくれているから、その曲だけでもそのバンドの一員に加われたような気持ちになれるのがうれしいんですよ。

●曲ごとに歌い方も全然違う表情を見せていますが、それは楽曲に導かれている部分もある?

遠藤:「こういう歌だよ」という明確な意思を持って作って下さる方もいらっしゃるので、それには歌い手として沿いたいなというところがあって。相手が提示してくれたものと全然違うものを出してしまうのは、失礼だと思うんです。作り手のニーズにある程度沿ったものをやっていくのも、一緒に作品を作っていくという意味では大事な作業だから。(作曲者が)どういう意思で作ったのかなと自分の中で想像して、色を付けていくことは必要かなと思っています。

●本人に楽曲の意図を確認したりはしない?

遠藤:そこは逆に、答え合わせはしないほうが良いと思っていて。きっと答え合わせをしたらガチガチなものになっちゃうし、途中で自分が違うなと思った時にも「作った人はこう言っているから変えられないな」とか思っちゃうのは嫌だから。歌う時に柔軟性を持ってやりたいというのはあるんですよ。

●作曲者の意図を汲み取ろうとはしつつ、自分の解釈で歌うことで“遠藤舞”の曲になるというか。

遠藤:そっちのほうが絶対に面白いと思うんですよね。たとえば今回も「こういうふうに歌って」というものが最初からガチガチに決まっているのなら、(オカモト)ショウくんが自分で歌ったほうが合うだろうから。それだとせっかくOKAMOTO'Sと遠藤舞がコラボした意味というのも薄れちゃうし、そこはやっぱり自分のアイデンティティを曲に対して示したほうが化学反応が起きるというか。2つの違うものが合わさった時の面白さというものも出るような気がしています。

●最初に「Baby Love」を聴いた時は、どんなイメージが浮かんだんでしょうか?

遠藤:すごく“陽”なイメージだなと思いました。火と水で言えば“火”というか、熱い印象だった。でも私自身は反対側の人間なんですよ。陰と陽で言えば、“陰”のほうで。自分とは反対のイメージの曲が来たから、「さあ、どうしよう?」となったんです。でもこの曲に添い遂げるように歌うことができたら、きっと自分の中で別の引き出しが1つ増えるだろうなと思っていたので歌入れは楽しみでしたね。

●明るいイメージがあったんですね。

遠藤:あと、すごく夏っぽい曲だなって思いました。夏に歌ったら絶対に盛り上がるだろうし、そういう曲が自分のレパートリーに加わったのはすごくうれしいですね。

●お話を聴いていると、音をイメージや感覚で捉えている感じがします。

遠藤:曲を初めて聴いた時に自分の中で、すぐ色が付いちゃうんですよね。今回の「Baby Love」では赤が浮かんだので、アーティスト写真もそのイメージで撮ってもらって。私の中でこの曲は“赤”のイメージなんです。

●この曲はOKAMOTO'Sとのコラボということで、レコーディングも一緒にやったんですか?

遠藤:演奏の録音現場には立ち会っていましたね。私もOKAMOTO'Sのメンバーと同じブースに入って、歌いました。その時点で私はまだ仮歌で後から録り直したんですけど、彼らの演奏は2〜3回だけであっという間に録れちゃったんですよ。技量があるからこそという感じで、すごいなって思いましたね。

●この曲とM-2「Be the one」以降では、ガラッと雰囲気が変わる気がします。

遠藤:曲調は全然違いますね。いつもの感じに近いのは、2曲目以降かもしれない。「Be the one」は一般の女の子たちと一緒にコーラスをやっていて、その記念的な意味を持つ作品でもあるんですよ。クラウドファンディングの企画でスタジオに来てくれた20人の女の子たちと一緒にやりましょうというものがあって、その時に録ったのがこの曲なんです。

●こういうタイプの曲調のほうが、実際に歌いやすかったりもする?

遠藤:何も作らずに、素直に歌うことができるのはこういう曲のほうですね。

●歌詞の世界観も異なりますが、歌う時は曲ごとに感情移入していたりするんでしょうか?

遠藤:感情移入はそんなにしないです。私はどちらかと言うと、歌詞よりもメロディを重視しているんですよ。音やメロディに合わせて歌うほうが単純に好きなので、歌詞にはあまり左右されないですね。

●M-3「Forget-me-not」は尾崎豊さんのカバーですが、この曲を選んだ理由は?

遠藤:これは父が好きな曲ですね。うちの父親が“尾崎”世代なんですよ。昔から父がよく聴いていたので、私の中でも子どもの頃から馴染みのある曲なんです。

●だから、お父さんがピアノを弾くことになった?

遠藤:私から「弾きなよ」と言って。せっかくだから今回は2人でやってみようと思ったんです。アレンジも父と話し合いながら考えていったのが良かったですね。

●自分の中でアレンジのイメージはあったんですか?

遠藤:シンプルなほうが良いなと思ったので、ピアノはあくまでも伴奏という形で目立たないようにしました。後半の盛り上がっていくところではオクターヴ(奏法)を使って、伴奏も一緒に盛り上がっているような感じにしたんですけど、あくまでも歌に寄り添っている感じを重視しましたね。

●レコーディングはスムーズだったんでしょうか?

遠藤:父のピアノはすごく苦戦していましたね。本人も“まさかこんなに時間がかかるとは…”という感じで、ヘコんでいて(笑)。それによって私の歌入れは深夜になっちゃったんですけど、父も先に帰らず見守っていてくれたんです。レコーディングが終わった後は2人で“やっと終わった〜!”という感じで、家に帰ってから「本当に今日は頑張ったよ」と言って父の肩を叩きましたね(笑)。

●お父さんにとっては、初めてのレコーディングだったりもするのでは?

遠藤:初レコーディングなので、アガっちゃっていたんでしょうね。私も初めてピアノのレコーディングをした時は相当苦戦しちゃったし、気持ちはわかります。「50歳でCDデビューしちゃったよ」と言っていました(笑)。

●お父さんとの作業は楽しかった?

遠藤:譜面を書く作業とかを一緒にできたのは良かったですね。親子だから全く遠慮なく意見を言い合えるんですよ。せっかく苦労して考えたものを翌日に弾いてみたら「やっぱりダサくない?」と父が言い出して、もう1回考え直したりしたり…というのも何やかんや楽しみながらできたから。色々と試行錯誤しながらできたのはすごく良かったです。

●作品を重ねるごとに新たな挑戦をして、幅を広げられているんでしょうね。

遠藤:色んな方から曲を提供して頂くことで、それに沿って広げられているというか。初めてのことが多いから、すごく刺激になっていますね。これからも引き続き、バンドとのコラボができたらうれしいなと思っています。

Interview:IMAI

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