2008年に結成し、神戸ART HOUSEを拠点に活動を続けてきたfolca。2011年6月に拠点を東京に移し、たくさんの経験を経て成長を遂げてきた彼らが、アルカラが主催するくだけねこレコーズ第一弾アーティストとして1stフルアルバム『GLAMOROUS』をリリースする。個性的なバンドが集う社会で健康的かつ誠実に成長してきた彼らの歪な輝きを放つ才能は、何かの原石であることは間違いない。それがダイヤモンドかガラス球かは別にして、その異彩な存在感は一度観ただけで強烈なトラウマを我々の心に刻み込む。
●2008年結成ということですが、もともとは別のバンドをやっていたんですよね?
山下:はい。僕らは神戸ART HOUSEに出ていた2つのバンドが元になっているんです。僕と為川が同じバンドで、藤田と元ドラムがもう1つのバンド。その2バンドは同時期に解散したんです。でも僕はバンドを続けたくて一緒にやるメンバーを探していたんですけど、当時ART HOUSEのブッキングをやっていたアルカラの太佑さん(稲村)が「お前ら一緒にやったらどうや」と。
●ホームがART HOUSEだったんですね。
山下:そうです。僕らは10年以上ART HOUSEで過ごしたんです。為川と藤田なんて高校の頃からART HOUSEに出入りしていて。
藤田:ずーっとART HOUSEにお世話になっていました。
山下:要するに僕らは人生の教科書がART HOUSEなんですよ。それが正解かどうかはまだわからないんですけど(笑)。
●バンドの先生がART HOUSE店長の西本さんと太佑さん…濃いですね(笑)。ART HOUSEでは具体的に何を学んだんですか?
山下:お酒の飲み方です。
●音楽関係ないね(笑)。
為川:まずはそこから。
藤田:お酒の飲み方と、先輩後輩との繋がり。同世代のバンドの熱さ…そういうことを最初に教わりました。
山下:打ち上げで「お前ら音楽の話するな」と言われますからね。
為川:諸先輩方に「いちばんしょうもない」って言われます(笑)。
●ハハハ(笑)。
山下:そこがなぜ最初にくるかというと、やっぱり人ありきだからだと理解しているんです。誠実に人と向き合えと。
●ところで、初の全国流通音源となる今作を聴いて思ったんですけど、かなり奥深い音楽をやっていますよね。単なるロックではなくて、艶っぽさや湿度を感じる。
山下:それはルーツがバラバラだからだと思うんです。僕ら、3人とも曲も詞も書けるんですよ。僕はもともと昔の歌謡曲が好きで。井上陽水さんや玉置浩二さんやTHE YELLOW MONKEYとか。
●ああ〜。それは今作を聴けばよくわかる。
山下:影がある感じというか。ハードなものも聴くんですけど、やっぱり男の色気とか哀愁が好きなんですよね。
●ゲイなんですか?
山下:自分の可能性を広げるために、とりあえず「現時点では違う」と言っておきます。
●今後はわからないと。藤田さんと為川さんのルーツは?
藤田:僕は完全にメロコアからなんです。でもART HOUSEでいろんなバンドと出会って、だんだんジャンルを気にしなくなりましたね。
為川:僕はもともとヴィジュアル系ですね。XやLUNA SEAから影響を受けてバンドを始めて、ART HOUSEに出入りするようになってからいろんなバンドと出会い、雑食になりました。ミクスチャーとかも通りつつ、OUTASIGHT(西本氏のバンド)やアルカラと出会って、“ギターロックってもっとおとなしいと思ってた”と衝撃を受けて。そういうところから色んな影響を受けてます。
●でもそんなにお世話になったART HOUSEを後にして、2011年6月になんのツテもなく上京したらしいですね。
山下:はい。なんのツテもありませんでした。folcaを結成した当時からいつか東京に行くっていうのはぼんやり思っていて。
為川:神戸にいたときから月1くらいで渋谷O-Crestには出させてもらっていたので、上京したらO-Crestを拠点に活動しようということで。
山下:別に神戸に居たら成長できないというわけではないんですけど、そういう場に身を置いた方が成長できるんじゃないかと思って。占い師さんにどこに住んだらいいかを訊いて引っ越しました。
●は?
藤田:O-Crestを拠点にする場合、どっちの方角に住めばいいかを訊いたんです。風水ですね。
●はあ。ちなみに上京するときは神戸に彼女を置いてきたんですか?
山下:置いてきました。置いてきて、「いつか迎えに来るぞ」みたいな話をしていたんです。
●かっこいい!
山下:でもやっぱり遠距離だと続かなくて別れました。
●かっこいわるい!
山下:でも結果的にそうなってよかったと思います。自分の甘さにも気づけた。人の幸せを歌う前に、自分自身の幸せを大切にしろっていうメッセージだと受け取ったんです。“よっしゃ、俺がんばるぞ!”と思いました。“東京には可愛い子いっぱいいるから負けないぞ!”と。
●東京で可愛い彼女見つけたんですか?
山下:いや、まだです。僕、ハードルが高いっていうか、好きなタイプがかなり厳しいんですよ。
●え? どういうことですか?
山下:まずはエロくなくちゃいけなくて、そこに加えて芸術に理解がある人。芸術って、言ってみれば自己の内面との対峙じゃないですか。そういうところに理解があって、そういう話ができる人じゃないと長続きしないんです。精神世界の話っていうか、スピリチュアルな話もできないとダメ。
●結構ヤバいな(笑)。でもそういう嗜好性はM-3「paraphilia」に色濃くでていますよね。
山下:あ、そうですね。
●「paraphilia」の歌詞はどエロっていうか、破滅的なエロスが描かれている。一般的な人から見たら「どエロ」と思われる内容かもしれないけど、見方を変えれば究極の愛の形とも言える。
山下:そうなんですよ。精神的な繋がりがないと、いくらセックスしても表面的な繋がりでしかないんですよね。
●すごい発言してますけど、山下さんのそういう考え方は歌詞にすごく出ている。
山下:そっちの方が自分を発揮できるんです。恋愛というのは魂と魂のぶつかり合いだと思って生きてきたので、それをそのまま歌詞にしようと。でも、それを芸術の域にまで高めないと「ただのエロい兄ちゃん」で終わるんですよね。
●確かに。ろくでなし子さん(※自分の女性器をモチーフにした作品を作る芸術家/わいせつ電磁的記録頒布罪の疑いで逮捕された)と同じになると。
山下:そうそう。見た人を“美しいな”と思わせるのが本当の芸術だと思うんですよ。そこまで突き詰めて初めて人と共有できる。やっとこのタイミングで、自分自身納得できる表現ができるようになったという実感があったから作品に入れたんです。
●真面目に話してますけど、「paraphilia」はいきなり“汗ばむ首筋 舌を這わす”というどエロな歌詞で始まるんですけどね。
山下:魂と魂のぶつかり合いです。
●あと今作を聴いて思ったんですけど、folcaは女性視点の歌詞が多いですよね。
山下:あ、そうですか?
●うん。M-5「Layer」、M-7「太陽と月のダンス」、M-9「stand by me」の3曲がそうですよね。ゲイでネコなんですか?
山下:現時点では違います。女性には男性にない強さがあると思うんです。腕力では絶対に男の人には負けるけど、自分の家庭や子供を守ったりする部分で、すごく強いと思うんですよね。外見は美しいけど、その奥にある強さが魅力的だと思うし、勝てないなって思うんです。だから女性の言葉で歌うことで、その強さを借りることができるっていうか。
●女性という性に対する憧れというか、尊敬の念があると。
山下:そうですね。女性の言葉には日本的な情緒があるし。エロい対象ではありますけど、尊敬しています。あと女装の趣味はないです。
●女装の趣味はないけど、エロい女性を尊敬していると。サウンド的にはロックを基調としつつ、グラムロックを彷彿させる湿度と、間を大切にしている独特のグルーヴが特徴ですよね。
山下:でも昔はもっと爆音だったんですよ。歌が聴こえないくらい。
為川:ひたすら音を詰め込む感じで、音が太り過ぎるくらいの時期はありました(笑)。
山下:やっぱり東京に遠征するようになってから、だんだん洗練されてきたというか。東京で洗練されたバンドとも出会ったりして、対バンから受けた影響も大きいです。僕ら、対バンはちゃんと観るバンドなので。
●対バンを観ないバンドもいっぱい居るけど、folcaはちゃんと対バンも観ると。
山下:はい。folcaはフロアの最前線で観ます。そこでいろんなことに気づいて、自分のバンドに還元させていったというか。“ロックという割にはみんな頭使ってるぞ”と思いました。
●対バンのライブをちゃんと観る、というのもART HOUSEで教わってきた姿勢なんですね。
山下:そうですね。だからART HOUSEがfolcaのルーツなんです。
●作品タイトルを『GLAMOROUS』にしたのは、サウンドや歌詞からなんとなく伝わってくるんですけど、どういう理由だったんですか?
山下:まずグラマラスっていうと“おっぱい”とか女性の身体を想像するじゃないですか。そういう部分に加えて、あと人間って表裏一体だと思うんです。欲望と愛とか、卑怯な部分と誠実な部分、楽しい日もあれば苦しい日もあるし、最高なときも死にたいと思うときもある。でもそれをちゃんと噛み砕いて消化したら、時には苦いかもしれないけど、全部自分の栄養になると思うんです。肉体になっていく。
●はい。
山下:“健全な肉体に健全な精神は宿る”という言葉があるように、ちゃんと日々を消化していくことで魅力的な人間になりましょうよっていう。そういう意味で、人間としてグラマラス=豊かになりましょうと。
●他の男と寝ているであろう神戸の元彼女も全部folcaの栄養になっていると。
山下:そうです。噛み砕いて消化しています。
●その話を聞いて思ったんですけど、色んな人を演じたり場面を描いている楽曲が多い中で、M-8「Gradient」という曲は、folcaの心境がはっきりと表れている楽曲ですね。
山下:そうですね。だいたいの楽曲は誰か主人公がいるんですけど、「Gradient」は自分の内面が出ていますね。いろんな主人公でいる中で、この曲は自分を主人公にして書いたんです。自分自身をさらけ出せば出すほど、人と繋がれると思うんですよね。その状況が理想だし、バンドがだんだんそうなってきていて。
●セックスもそうですよね。
山下:間違いなくそうです。音楽が好きな理由や、ライブが好きな理由ってそこなんですよ。そういう意味で、自己紹介も兼ねてこの曲では自分自身をさらけ出したいなと。
●リリース後はツアーがありますが、folcaが考える理想のライブはどういうものですか?
山下:うーん、通じ合えることですかね。その場にいる全員…スタッフも、ライブを観ていないバンドマンも含めて。
●ロビーでタバコ喫っているバンドマンも?
山下:はい。対バンのライブを観ずにお客さんとしゃべってるバンドマンも含めて、それも認めることができる器がないとダメだと思うんです。やっぱりひとりよがりは嫌いなので。
●ステージでオナニーはしたくないと。
山下:やっぱりセックスなので。いちばん激しいコミュニケーションだと思うので、僕たち演奏者が身も心もさらけ出して、それにつられてお客さんも自由になって心から楽しめるライブが理想ですね。本物であるためには、人の心のドアを開けるようなものじゃないと“音楽”と呼んじゃダメだと思うんです。結局は、みんなをハッピーにしないとダメだと思うんです。ひとりよがりだとただのオナニーじゃないですか。それほど恥ずかしいことはない。
●このツアーはセックス(※註:ライブのことです)しまくると。
山下:そうですね。だから日本各地でやりまくり(※註:ライブのことです)ます。
interview:Takeshi.Yamanaka