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PLASTIC GIRL IN CLOSET × 中村航

ニューアルバム『eye cue rew see』発売記念 PLASTIC GIRL IN CLOSET × 中村航 SPECIAL TALK SESSION

PH_main北国特有の朴訥さと洗練されたサウンドを併せ持つ、岩手在住の3ピースバンド・PLASTIC GIRL IN CLOSET(以下プラガ)がニューアルバムを完成させた。『eye cue rew see(あいくるしい)』と題された本作では、男女ツインボーカルによる美しいハーモニーに加え、掛け合いの楽曲も数多く収録。最大の魅力である“轟音+美メロ”が高い次元で結実したような傑作の発売を記念して、彼らと縁が深いという作家・中村航氏との特別対談が実現した。かつてバンドもやっていたという中村氏の目に映る、プラガの魅力とは…?

 

●中村さんとプラガとの出会いは?

高橋:2009年に下北沢CLUB Queのイベントに僕らとクライフ(cruyff in the bedroom)が出た時、打ち上げでご一緒させて頂いたんです。

中村:元々、クライフの(ハタ)ユウスケさんとは知り合いで。そのイベントを観に行った時に、ユウスケさんから紹介してもらいました。最初に会った時に彼らはちょうど音源を作っている時期だったので、「出来上がったら聴かせて」とは言っていて。

高橋:それが2ndアルバム『cocoro』(2011年)のことで、コメントを書いて頂いたんですよ。次の3rdアルバム『ekubo』(2012年)でも、帯にコメントを頂いて。

中村:そんなに最近のライブハウスに行っているわけではないから色んなバンドに詳しいわけではないんだけど、何か“懐かしいな”って思ったんですよね。

●それは自分が昔聴いていた音楽に近いという意味での“懐かしさ”なのか、それともノスタルジックな感覚に陥るという意味でしょうか?

中村:両方なんですよね。“90年代前半くらいの音楽を聴いてきた若い人が作っているんだろうな”っていう感覚と、昔どこかで聴いたことがあるような感覚があって。“初めて聴くのに懐かしいと思うのはなぜなんだろうな?”と思ったんです。

高橋:実際、僕らのバンド名はそこがテーマになっていて。ちっちゃい頃に遊んでいた人形やオモチャが、大人になってからタンスの中から急に出てきた時のような気持ちになる音楽をやりたいなと思って付けたんです。コメントでもそこのところをすくって頂けたのは嬉しかったですね。

中村:たぶん(音楽を)やっている側は、色んな人から「懐かしい」とばかり言われると嫌な気持ちになるだろうなと思ったので、最初は言うのを控えようとは思ったんですよ。でも結局は書いちゃったんですけど(笑)、聴いていてそういう感覚になれる良いバンドですね。

●“懐かしい”と言うと古くさいようなイメージも出てしまいますからね。

高橋:90年代のサウンドをベースにしているので、実際に音から懐かしさを感じる部分もあると思うんですよ。でもやっぱり自分の根っこにある、“郷愁”を表現したいという欲求は外せないものだから。そういうものも含めて「懐かしい」と言ってくれている人が多いのかなと思うので、自分ではあまり気にしていなくて。90年代の音楽も好きだけど、その中でも今の音であろうとする気持ちはありますね。

●だからこそ懐かしさも感じさせつつ、他にはない独自の音になっているというか。

中村:北って、何かあると思うんですよ。家出した時は、とりあえず北に向かうものだったりもして(笑)。(プラガは)北に根を張って、録音したり作曲したりしているわけですけど、岩手といえばイーハトーブですからね。宮沢賢治が詩を書いていた土地というのもあって、北で何かを作ることに対する憧れみたいなものがあるんです。

高橋:僕らが岩手にずっといる理由は、制作に関して有利な点が多いからというのが一番大きいですね。レコーディングは全部、岩手の自分の家でやっているんですよ。家の周りが全て田んぼなので、いつ大音量を出してもOKなんです(笑)。

●自分たちの曲は、もし東京で活動していたとしたら生まれていないものだと思いますか?

高橋:間違いなく、そうですね。自分も含めて、田舎の人が持っている“洒落たもの”への憧れというのはハンパじゃないんですよ(笑)。

津久井:あ〜、ありますね(笑)。

高橋:東京にいたら、たぶんこういうアルバムにはならないと思います。ちっちゃい頃からなんですけど、田舎に住んでいながら「田舎って良いなぁ」と思っていて(笑)。田舎でひん曲がっている僕の気持ちを歌詞に込めたのが、今回のM-4「TENNIS COURT」なんです。

中村:歌詞も不思議なんだよね。キラキラした言葉が出てくるんだけど、“この歌詞を書いた人はどういうものを見ているのかな?”と知りたくなるような感じがある。M-1「NEW VIEW」の歌詞に出てくる“( )”の部分も独特だなと。“( )”の部分では心の中を描いていて、他の部分は情景の描写になっているんだけど、それを男女のツインボーカルで歌い分けているのがまた不思議な感じがして良いんですよ。何かを見て色んなことを思っている女の子がいて、その姿を見ているもう1つ別の視点があるというか。

●今回の新作『eye cue rew see』では掛け合いの曲が多いですが、意図的なものなんですか?

高橋:前作の『A.Y.A』というアルバムでは(須貝)彩子をメインボーカルにして、わりとピコピコしたサウンドだったんですよ。今回もシンセの音は結構入っているんですけど、生っぽく弾いていて。前作は彩子のボーカルをメインにした企画盤くらいのイメージでやったので、その流れで今度は掛け合いの曲をやってみようかなという気持ちはありましたね。

中村:(今作は)メインボーカルが曲ごとに交代するような流れになっているよね?

高橋:…言われてみれば、確かにそうですね。

津久井:今、気付いたんだ(笑)。

●そこは意識していなかったと(笑)。

中村:彩子さんが歌う部分の歌詞はどういう気持ちで書いているの?

高橋:やっぱり僕は女の子の気持ちにはなれないので、完全に想像ですね。たとえばM-7「VAMPIRE」の“「 」”が付いている歌詞は女の子が喋っている感じなんです。でもこれも男の目線から見た、女の子のセリフなんですよね。頭の中で理想的な女の子が喋っている感じで、この“僕”はニタニタしているんですよ(笑)。

●彩子さんは歌詞に共感したりもする?

須貝:…歌詞が自分の想いと一致するということ自体、全然考えたこともなかったです。「理想の女の子の歌詞なんだな」と思うくらいで、基本的には無機質に歌うようにしているので。

高橋:僕自身もそうなんですけど、彩子にもウィスパーボイスで歌ってもらっているので、そういう意味では歌詞を意識させてはいないですね。でも実はリード曲のM-11「COLORS OF THE WORLD」は、作っている時点ではかなりコブシのきいたメロディにしているんですよ。でも彩子に歌ってもらう時はそのコブシを完璧に抜いた歌い方で、メロディをなぞってもらっていて。感情を込めて作るんですけど、それを作品にする時は全て抜いてしまうんです。

中村:だから(聴いていて)気持ち良いんだね。仕事しながら聴ける曲と聴けない曲というのがあって、感情が入りすぎているものはやっぱり聴けないんです。でもプラガはすごくメロディがハネていたとしても、何を歌っているかは聴いているだけではわからないのでずっと聴き続けられる。個人的には、そういう楽曲のほうが好きで。…全曲良いから、みんなも聴けばいいのになって思いますね。

高橋:ありがとうございます!

●確かに今作は特に粒ぞろいの楽曲が揃っている感じがします。

高橋:今回は田舎根性をかなり出しましたね(笑)。そろそろ30歳が見えてくる年齢になって、シングルみたいなフックのある曲を書こうという気持ちが薄くなってきて。それよりも自分がカッコ良いと思うものを作りたいという気持ちが強くなっているんです。でも今回はそこのバランスを上手く取って作った感じで…、かなり気合が入っています(笑)。

中村:ミュージシャンの人はアルバムを1枚1枚作っていくじゃないですか。同じようなテイストのものを再生産していく作家さんもいるんだけど、僕は1冊1冊で全然違うものだったりするんですよね。だから今までに本を20冊以上出してきて、ようやくアルバム2枚を作ったくらいの感覚というか。その中にはもちろんシングルカットされるような曲もあって、たとえば『100回泣くこと』や『デビクロくんの恋と魔法』とか『トリガール』はそういうものなのかなって。

●本1冊が1枚のアルバムというよりは、1曲という感覚に近い。

中村:そういう感じかもしれないなって。(プラガの)曲もバラエティに富んでいて、1曲1曲で全然違う感じがする。きっとクローゼットの中に色んなものがあるんでしょうね。楽曲の制作は全部、1人でやっているの?

高橋:作詞・作曲・録音まで1人でやっています。

津久井:作り込まれたものをもらって、僕らはそれを自分の解釈で演奏する感じなんです。

高橋:曲のイメージに沿うって、なかなかできないことだと思うんですよ。音楽をやっている人って、“自分はこうだ!”みたいな人が多いから。でもこのバンドを長く続けられているのは、この2人がそれをしてくれているからだろうなと思っていて。

中村:文句を言わずにやるってこと?

高橋:いや、そうじゃなくて(笑)。…2人とも僕の作る曲が好き、っていうのは大きいでしょうね。

津久井:それはすごくあります。

須貝:その時の自分が好きな曲とかを汲んで作曲してくれたりするのも大きいですね。こっちから「こういう曲がやりたい」とリクエストすることもあるんです。アルバムを作る時は毎回最初にそういう話をしますね。

●中村さんの作品に、自分たちの楽曲が通じるものを感じたりもする?

高橋:大変恐縮なんですけど、すごく親和性があると思っていて…。

中村:そう言ってもらえると嬉しいですね。

高橋:「COLORS OF THE WORLD」では“この時代を”とか“この支配の中”という歌詞が出てくるんですけど、何をしてもどうにもならない大きな流れの中で抗うということをテーマに今までも僕は歌詞を書いてきて。特に中村さんの最新作『小森谷くんが決めたこと』を読んでいて、それに通じるものを感じましたね。

中村:テーマ的なところだよね。主人公の幼稚園時代から描いていて、その子が「ホジキン病」という癌の一種にかかって(余命2ヶ月と言われながらも)闘病生活を続ける中で生還するという話なんですよ。ちょうど(東日本大)震災の時に話が終わるんですけど、死の床から生還した人が震災を経験して、抗えない大きなものに思いを馳せつつ物語はいったん幕を閉じるという。

●実在の人物の話を元に書かれた作品なんですよね。

高橋:(主人公は)実際に会うと、どんな人なんですか?

中村:最近も会ったんだけど、優しい感じがしたね。やっぱり彼は“生還した人”なんだなと思った。

高橋:作品で読んだだけだと、ダメな人みたいな感じがしますよね(笑)。

中村:修学旅行でパンツを落とした話とかね(笑)。あれってまるで“あるある話”みたいに語られるけど、実際にそんなヤツが身近にいたかっていうといないわけで。でも300人くらいいたらその中で1人くらいはいるかもしれないし、もしかしたら自分の代わりに彼がパンツを落としてくれたんじゃないかなって思うんです。若いミュージシャンを見て「良いな」と思うのも、自分ができなかったことを代わりにやってくれているような感覚がどこかにあるからなんですよ。

●そういう感覚をプラガに対しても抱いている?

中村:やりたいことや憧れていることって、色々あるじゃないですか。もしかしたら自分だって、ずっと岐阜にいたかもしれない。自分で選択したこともあるし、選択せずにこうなってしまったこともあるんだけど、その“if”を叶えてくれているような人たちを見るとすごく嬉しい。最近では憧れよりも、感謝の気持ちすら芽生えているんですよ。だから自分にできることがあるんだったら、ライナーノーツくらいいくらでも書くし(笑)。自分も高校生の頃からバンドをやってはいたけど、何か“届かなかったもの”という感じがしますね。

Interview:IMAI

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■中村航プロフィール
岐阜県大垣市出身。芝浦工業大学工学部卒業。2002年『リレキショ』で第39回文藝賞を受賞し、デビューする。『夏休み』で芥川賞候補になり、『ぐるぐるまわるすべり台』では第26回野間文芸新人賞を受賞。その他、著書に『100回泣くこと』『絶対、最強の恋のうた』など。絵本・児童文学も発表している。

中村航・公式サイト
http://www.nakamurakou.com/

 

 

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