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Scars Borough

心にくっきりと刻み込まれる音の記憶

PHOTO_SB活動を重ねるごとに大きな進化を遂げ、作品ごとに様々な景色を描いてきたScars Boroughが、7/16にアルバム『音紋』をリリースした。自身4枚目となる同作は、2008年の結成から現在までの6年間と、メンバー個々の人生が詰め込まれた名盤。ツアーを目前に控えた今月号では、同バンドのフロントマン・Kyokoのソロインタビューを敢行。彼らがどのような想いで音を鳴らしているのか、彼らがなぜ音楽に、そしてバンドにこだわり続けているのか。ヴォーカリストとして、表現者として、そして人間として貪欲に成長し続けるKyokoの核心をじっくりと訊いた。

 

 

「“愛”というテーマは全曲にありますね。それが普段自分が生きている証拠だと思っているので。人に対して愛情がなかったら、私はステージに立てない」

●Scars Boroughは、作品ごとに音楽的な部分をすごく大きく変化させてきたというか、そのときに“いい”という判断で自らを進歩させてきましたよね。だから“次はどう来るのかな”と想像していたんですけど、今回の4thアルバム『音紋』は3rdアルバム『Nineteen Percent』の流れを汲んでいて。

Kyoko:そうですね。

●ということは、前作で自分たちのオリジナリティが確立したという実感があったんでしょうか?

Kyoko:うん。サウンド面でいうとまず打ち込みですよね。打ち込みは元から“やってみたい”という気持ちはあったんですけど、最初の頃はまだまだバンドとしても人間的にも固まっていない気がしていたんです。ウチって結成してからの年数も浅いし、誰よりも早くしっかりしたバンドになりたいがために追求していたんだけど、打ち込みはその後の段階というイメージがあったんです。それよりもまずはお互いが求めた“ロック”というものをひとつにする作業からバンドがスタートして。

●まずはバンドの土台を固めようと。

Kyoko:その中から進化していこうって。色んな作品を重ねて活動を続けていく中で、バンドは徐々にお互いを分かり始めた状態になっていったんです。『Nineteen Percent』は特に「ここからスタート」というと大袈裟ですけど、しっかりお互いにキャッチしているような手応えがあったんですよ。だからやっと打ち込みができるというか、同期をやってみようということで作った作品で。例えば本郷のギターは、どれだけ打ち込みを入れても勝てるという確信を得ていたから、それならもっと打ち込み感を出してしまおうっていう。更に今回は“熱さが欲しい”という想いはまったくなかったんですよ。熱量の高いロックンロールっていうよりも、真逆な方を狙っている感じ。

●ちょっと語弊があるかもわかりませんが、平熱感がある。

Kyoko:そうそう。演奏で熱さを表現するというよりも、気持ちがあればいいんじゃないかなと思って。盛り上がったりとか、パーティーソングみたいなものは今は必要ない。メッセージとしては最終的にはものすごくポジティブなものにたどり着くような内容になっているんだけど、今作のテーマは“リアリティ”だったんです。

●あ、なるほど。リアリティのあるもの。

Kyoko:もっともっと残るもの…ドアを開けたら忘れちゃうような、その日だけのものではないものがすごく欲しくて。

●“リアリティ”というテーマは、どういうところから出てきたんですか?

Kyoko:例えば「頑張っていこうぜ!」とか言うけど、人間は何かがあるから頑張っていこうとするわけじゃないですか。だから単に「頑張ろう」って言うだけだとリアリティがない気がするんです。失恋で落ち込んでいるときに「何とかなるよ!」と言われたって、何ともならないからネガティブになっているわけで。ネガティブなものが絶対にあるからポジティブになるので、そのネガティブなものも含めて歌いたかった。ネガティブなものをちゃんと伝えて、最終的にはポジティブなものに繋がりますよっていうことを伝えたい。世の中にはポジティブなことばかり歌っている音楽が多いと思うんです。でもそんなの、そのときだけのものになって忘れちゃいますよね。マイナスをマイナスということで堂々と言えるものが、リアリティがある気がしたんです。だから今回の制作は全然楽しくなかったです。

●あ、全然楽しくなかったんですか(笑)。

Kyoko:むしろ苦しかった(笑)。

●アルバム前半の曲はそういう曲が多いというか、“怒り”みたいな感情が出ていますよね。現実を直視して、怒りの感情を込めた先のポジティブを歌っている。

Kyoko:作詞は怒りの中でたったひと言だけのポジティブな光を見つける作業だったんです。

●さっき「平熱感がある」と言いましたけど、サビでバッと盛り上がる感じじゃなくて、トラックは淡々としたものが多いですよね。

Kyoko:メロディとメッセージっていうものをどれだけ伝えられるか…だから制作の段階から「楽曲はとにかくシンプルにしよう」と言っていて。『Nineteen Percent』の方が勢いもあるし、そこでの差別化としても、今作は歌を前に出していこうという想いがあったんです。

●なるほど。

Kyoko:音楽的だったりグルーヴとして盛り上がるんじゃなくて、心から盛り上がるというか、溢れ出すものが本当に熱のあるものだと思うので。ワイワイするというよりも、それを持ち帰ったときに込み上がるものがあるようにしたい。それは、ライブでひと言でもいいから、ちゃんと伝わっているかどうかだと思うんです。「楽しかったね」じゃなくていいから「あれはどういう意味なんだろう」って悩んでほしい。

●より伝えたいと思うようになったんですね。

Kyoko:伝えたいです。

●だからアルバムタイトルが『音紋』なんですね。指紋みたいに、人の心に音紋を残すような。

Kyoko:そうなんです。それも“Scars Boroughって漢字使ったことないでしょ”的な感じから思いついたタイトルなんですけど。

●響かせたい/伝えたいという想いが、Kyokoさんの中ではどんどん強くなっているんですか?

Kyoko:なってますね、確実に。いろんな経験をしていくと、本当の意味で伝えたいものがなんとなく見えてくるんですよね。そのときはそのときの伝えたいものがあるんですけど、外に出ていろんな人と接したりとか、いろんなことを見て、聞いて、感じるもの…音楽の努力は練習だけでいいと思うので、他の部分で経験を積んでいくと、過去の自分を振り返って“あのとき伝えたかったことってこんなに薄っぺらかったんだ”って思うんですよ。やっぱり。

●気づきがあると。

Kyoko:よくそれで自信があったなっていう(笑)。私はそれが可愛くてしょうがないんですけど、“アホやな”と思いながら、どんどん大人になっていってもやっぱり伝えたいことは一緒なんですよね。ライブでのMCってすごく苦手なんですけど、何で苦手かって言うと、いろんなことを伝えるのが下手だから私は歌を歌っているわけなんです。とにかくステージに立って伝えたいことを表現する。それがいちばん自分の中では集中できるものなのかな。

●ありのままを出せるものが歌であり、ライブであると。

Kyoko:『音紋』は特にそれがありますね。

●その“伝えたい”という部分で印象的だったのが、M-7「affection」とM-9「しずく」、M-11「white puddle」の3つの曲。この3曲は全部愛情のことを歌っていますよね。例えば「しずく」では“愛って どんな感情なの”という歌詞があって、「white puddle」の最後には“いとしさ(愛しさ)って 昨日まで 切なさと 同じだって 知らなかったよ”というフレーズがある。Kyokoさんの“愛”に対してのひとつの答えみたいなものが、この3つで描かれているのがすごくいいなと思って。“切なさ”って一般的にはネガティブな感情じゃないですか。でも“切なくなるのは愛があるからこそ”という解釈をすれば、切なさ自体も愛おしくなる。この3つの曲を聴いて歌詞を読むと、そういう“伝えたいこと”がスッと入ってくる。

Kyoko:男と女っていうのもそうだし、人間関係すべてもそうなんですけど、最後に残るのって結局愛だと思うんですね。いい恋愛をしていると、ダメなものも美しく見えたりするじゃないですか。だからたくさん恋愛をするべきだと思うんです。もちろん長く恋愛をするのも立派です、いい恋愛をしている証拠ですから。でもいい恋愛をたくさんして、その中でリアリティになる言葉を探す方がいいと私は思っています。

●Kyokoさん、いっぱい恋愛したんですね(笑)。

Kyoko:はい(笑)。これからもガンガンしていきますよ。恋愛は大事です。

●ハハハ(笑)。Kyokoさんの中には“愛”というテーマが根本的にあるんですね。

Kyoko:“愛”というテーマは全曲にありますね。それが普段自分が生きている証拠だと思っているので。人に対して愛情がなかったら、私はステージに立てない。

●そういう自覚があって、それが音楽にも繋がっている。

Kyoko:絶対にそうです。それ以外はないです。最後に残るのは絶対にそこですから。こんな人生ですけど、絶対に最後には助けられたり助けたりで救われているんですよ。それは、自分がちゃんと向き合っているからだと思うんですね。例えばお金がなかったりとか、悪さをしたりとか、人が嫌がって離れていくようなことをしても必ず誰かに救われる人っていうのは、その人自体が愛の塊だからだと思うんです。人と接するときにちゃんと向き合っているかどうか。

●うんうん。

Kyoko:向き合っていなければ、私はステージでお客さんと向き合うことができない気がするんですね。ひとりの人と向き合えなかったら、みんなとも向き合えない。最悪な状態になっても救ってくれたりとか、もちろんこっちからも何があっても絶対に裏切らないとか。みんなが去っていっても「大丈夫だよ」と言える自信があるんです。もちろん一対一で深く知り合っている人じゃないと無理ですけど。私、いい人にはなれないんですよ。いろんな人にいい顔をするのは無理。

●八方美人にはなれない。

Kyoko:だけど一対一で向き合うことはできる。

●それが最初におっしゃっていた“リアリティ”に通じていますね。

Kyoko:そうかもしれない。すごく自然なことなので、自分でもよくわからないときもありますけど(笑)。愛っていちばん“何だろう?”って考えるし、答えられないことだと思うので。本能ですね。そういう育てられ方をしたからなのかもしれないけど、そうやって今まで生きてきたので。

●いいですね。歌詞がどんどん味わい深くなっている感じがします。リアリティを歌詞に詰め込んでいるからこそ、より自分の内面が出やすくなると思うんです。だから伝わりやすくなってる。

Kyoko:そういう意味では、今作は心を結構開きましたからね。そう思うと、今がいちばん楽しい。

●制作は楽しくなかったけど、今がいちばん楽しい。

Kyoko:本当にそう。「制作が楽しい」って言ってみたい(笑)。でもそれもリアリティに繋がるから、「制作が楽しい」と言えないと自信がつかないですよね。自信があるからこそ言えることだと思うから。

●確かにそうでしょうね。

Kyoko:でもそういうことも本音で言っていきたいんです。やっぱり大人になると止まっちゃうので。

●止まっちゃうっていうのは?

Kyoko:いろんなことを頑張ろうとしなくなるから。“もう十分だ”って思った段階で、その人の成長は終わっちゃうと思うんです。足りないものって絶対に死ぬまであると思うから、そこを追求していきたいんです。だから足りないことは正直に言うべきだと思うし、認めないとダメだなって。女性も男性も、努力している人ってすごくかっこいいじゃないですか。野望がある人には人として惚れる。いいものは全部取り入れたいと思うし、その人が言った一言で立ち直れることだってあるし。そういうものを持っている人はかっこいいと思います。

●そういう生き方をしようと思ったら、常に自分を顧みないとダメなんでしょうね。人間は楽な方に行ってしまうので。

Kyoko:でも楽な方に行ってもいいんですよ。気付いているか気付いていないかだけなんです。気付かないのは、周りに気付いてくれる人がいないから。誰かが気付いてくれたら、それを言ってくれますからね。

●それが愛か。なるほど。

Kyoko:説教するとかじゃなくて、ただの一言で気付いたりすることもたくさんあると思うんですよね。“そっか、そんな風に思ったことなかった”と思ったら、また違った見方ができるので、私にとっては喜びになるんです。

●いいですね、常に全力でかっこいいと思います。

Kyoko:これからもギリギリの全力でいきます。

interview:Takeshi.Yamanaka
assistant:森下恭子

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