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THE PINBALLS

欠くことのできない4つのピースが生み出すロックンロールの奇跡

AP_PINSTHE PINBALLSが自身にとって初となる、フルアルバムを完成させた。これまでに3枚のミニアルバムを発表してきた彼らにとっては満を持してのリリースであり、集大成とも言える今作。荒々しくもタイトなガレージロックサウンドに、独自の世界観を持った歌詞と魅力的なメロディが重なるスタイルは唯一無二の域にまで達しようとしている。THE WHOやローリング・ストーンズに代表されるブリティッシュ・インヴェイジョンをルーツに始まったバンドが、他の誰でもない存在になったことを高らかに宣言するような、まさにセルフタイトルにふさわしいロックンロールアルバムだ。

 

●今回は初のフルアルバムということで、制作にかける想いも一際に強かったのでは?

古川:初めてフルアルバムが出せるということで、やっぱりテンションが上がっちゃいましたね(笑)。時間がない中でも、すごく楽しく作れたと思います。

●時間がなかったんですか?

古川:常に働きながらバンドを続けている状態なので、時間はなかったですね。しかも僕は曲を作るのが遅いので、メンバーに渡すのもギリギリになってしまうんですよ。でもみんながすごく頑張って、曲を渡してから2〜3日でアレンジを仕上げてくれて。短期決戦ですごく熱いものを仕上げてくれたおかげで、最近作った曲もレコーディングに何とか間に合ったんです。時間がない中で、良い緊張感を持ってやれました。

●曲のストックはなかった?

古川:M-12「まぬけなドンキー」は前からあったんですけど、G.中屋(智裕)があんまり気に入っていなくて。「すごく良い曲なんだけど、バンドとしてのアプローチが見えない」と言っていたんですよ。バンドの色に合わないということで、これまでは入れられなかった曲なんです。

●中屋くんが気に入っていないので、これまで収録されていなかったと。

古川:僕は大好きな曲だったんですけど、中屋の言っていることもよくわかるから。本人に言ったら怒るかもしれないけど、あいつのことは自分の“分身”みたいに思っているんです。

●分身?

古川:ずっと一緒にやってきたのもあるし、あいつは僕の中にある“ちゃんとした部分”みたいな感じで捉えていて。逆に自分自身は…、このバンドのダメな部分というか(笑)。

●ハハハ(笑)。でもその両方があって、バンドが成り立っているわけですよね。

古川:中屋はすごく男気のあるロックな人間なので、逆に自分は安心してチャラチャラした感じで遊び心も出せるんです。僕は色んなものを取り入れたいので「まぬけなドンキー」みたいなバンドっぽくない言葉も使うし、「こういう曲もやりたいよ」ってワガママを言ったりもする。でも中屋はバンドの見え方もちゃんと気にしていて。バンドとして1本筋を通すという観点から「良い曲だけど、バンドでやるのはなかなか難しいな」ということで、今までレコーディングできていなかったんですよ。

●それを今回は無事に収録できたと。

古川:自分の中では一番気に入っていた曲だったので、今回はフルアルバムだから絶対に入れたかったんです。みんなにも「何とかしようよ」と言って、アレンジも考え直しましたね。

●「まぬけなドンキー」も特徴的ですが、M-1「カルタゴ滅ぶべし」やM-6「農園の婚礼」のようなヨーロッパ的なイメージを想起させるタイトルも多いですよね。

古川:単純に言葉として好きなんです。特にその2曲は、その言葉が気に入って曲を作り始めたくらいで。「カルタゴ滅ぶべし」は昔からある言い回しなんですけど、この言葉が好きすぎて1人でずっとつぶやいていたくらいなんですよ(笑)。

●独り言で「カルタゴ滅ぶべし」って…(笑)。

古川:女の子がアイドルに夢中になるように、僕は好きな言葉に出会うとすぐ夢中になっちゃうんですよ。古代ローマでは演説の最後に締めくくりとして必ず言っていた言葉らしいんですけど、それを言うと聴衆がみんな一気に盛り上がるっていう。その様子を想像すると、ゾクゾクっとするんですよね。

●そうさせてくれるような言葉を選んでいると。

古川:ロマンのある言葉がすごく好きなんです。僕にとって“言葉”はアイドルなので、表面的なキレイごとのほうが良いんですよ。身近な感じで楽しませてくれるものよりは、憧れられるものというか。夢を見れる言葉が好きですね。

●なるほど。そう考えると今までのタイトルも納得できますね。M-8「プリンキピア」も日常では聞かない言葉だと思うのですが。

古川:これも最初は言葉自体がカッコ良いと思ったんです。(17世紀にアイザック・)ニュートンが書いた本のタイトルなんですけど、インターネットで色々と検索していると古くてボロボロになった当時の本が出てきて。何百年も前に書かれた本をこうやって後世の今も画像で見ることができるということに、すごくロマンを感じたんですよ。

●それがキッカケで曲名にもなった?

古川:“リンゴの木からリンゴが落ちるのを見て万有引力を思いついた”というエピソードもカッコ良いなと思っていて。リンゴが落ちたのを見て、何か真理を知るというのが話としてカッコ良いなと。この曲は真理を知りたがっている人の歌なので、「プリンキピア」というタイトルがピッタリだなと思ってつけました。音楽をやっている上でも、一番すごい曲やレコードを作りたいとなったら“ひらめき”が必要なんですよね。そのインスピレーションみたいなもののことを歌っているので、このタイトルにしちゃおうと思ったんです。

●M-3「冬のハンター」はどんなイメージで?

古川:ティム・バートン監督の『ビッグ・フィッシュ』という映画の中で、見たものを全て大げさに伝える嘘つきな人が出てくるんです。僕は嘘つきがすごく好きなんですよね。現実離れした言葉というのも、嘘みたいなものじゃないですか? 音楽を作る上では大げさに言うべきだし、絶対にファンタジーであるべきだと思うんですよ。

●それをできるのが音楽の良さでもある。

古川:M-10「fall of the magic kingdom」でも歌っているように、この現実世界って魔法のない世界だと思うんです。だけど見方を変えてみれば、建物ばかりのコンクリートジャングルの中を人が獲物を探して彷徨っているようにも取れるわけで。感じ方によっては渋谷や新宿が荒涼とした砂漠やジャングルにも思える。そういう場所を駆けずりまわって獲物を探しているハンターたちに栄光あれという意味で、このタイトルをつけました。

●そういうことだったんですね。

古川:僕は本当につまらない人生を送ってきたので、頭の中だけでも楽しいことを考えていたいなと思っていて。そうすることで、ちょっとは人生を楽しく生きていけるんです。それって、すごく前向きで良いことなんじゃないかなと。自分が持っている習慣の中で唯一これだけは良いのかなと感じているので、これからも良い感じで嘘をついていきたいなと思っています。

●音楽ってファンタジーを生み出せるからこそ感動するんだと思うんですよね。

古川:だからライブでも観ている人が現実の出来事じゃないと思えるくらいに素敵なものを見せたいですよね。まだまだ力は足りないんですけど、夢のような世界を見せたいんですよ。そのために音楽をやるべきだと思うから。そこを目指して頑張ります。

●アルバムタイトルを『THE PINBALLS』にしたのはどういう経緯で?

古川:初めてのフルアルバムなんですけど、通算ではこれが(ミニアルバムを入れると)4枚目のアルバムなんですよね。これまでのタイトルには全て数字を入れていたので、今回は“4”だなと。最初は12曲で四季を表すような流れにして、『4 Seasons』にしようと思っていて。1曲目から順番に“1月・2月・3月…”と重なるイメージにしようという構想から作っていきました。

●12曲で四季を表している。

古川:順番で言うと、冬〜春〜夏〜秋という流れになっていて。「fall of the magic kingdom」は“魔法の王国の没落”と“魔法の王国の秋”という2つの意味をかけたダブルミーニングにしているんです。

●冬から始まるんですね。

古川:1月から始まるので自然とそうなるというのもあるんですけど、自分の中では冬から始まってまた冬に戻っていくのが自然な感じがして。冬って寂しい季節でもあるけど、新年なのでスタートしていく感じもあると思うんですよ。普通はみんな新年を迎えて“決意を新たに頑張らなきゃな”と思うんでしょうけど、どちらかというと自分は“去年1年、本当に頑張れたんだろうか…?”という暗い感じでスタートするので(笑)。

●1年を振り返って反省してしまう(笑)。

古川:だからすごく暗い曲なんですけど、1月は寒い冬の季節なので一番低いところから始めようと思って。そこから温かくなるにつれて優しい歌になっていって、その後は切ない感じになっていくんです。12月はクリスマスもあってキラキラしているイメージなので、最後は僕の大好きな曲にしようということで「まぬけなドンキー」に。エンディングを優しい曲にして、そしてまた一番寒い冬に戻るっていう流れですね。自然と1〜12という数字にもピッタリ合ったので、バッチリだなと思いました。

●でも最終的にはセルフタイトルになったのは…?

古川:最初は『4 Seasons』か『4』だなと思っていたんですけど、数字が入っているタイトルって僕の中で『ten bear(s)』とか『ONE EYED WILLY』みたいな響きじゃないとイヤなんですよ。“10匹の熊”とか“宇宙船上の100年(『100 years on spaceship』)”みたいに雰囲気があって、神聖さを持っている数字が欲しいんですよね。『4 Seasons』だと“四季”という意味で、単に数字としての意味しか持っていないから。確かにそういうテーマで作ったのでバッチリなんですけど、タイトルにはしたくないなと。

●そこで別のタイトルを考えたわけですね。

古川:だから、それはもう裏テーマにしようと。初めてのフルアルバムだし、改めて4人の力が1つになってできたものなので、『THE PINBALLS』というバンド名をつけることによって、“4”という数字もついてくるなと思ったんです。もう余計なことは言いたくないし、自分が今まで決めたルールも壊したかった。タイトルに数字を入れるのが好きでこれまでは続けていたけど、やめても良いんだなって。本当に自分の好きなタイトルをつければ良いわけで。すごく“決意”的な意味合いを持って、このタイトルをつけました。

●メンバーへの想いもタイトルにこめられている。

古川:さっき中屋の話もしましたけど、他の2人も本当に大事なんですよね。Ba.森下(拓貴)は一番しっかりしていてスケジュールの管理もきっちりやってくれるし、僕が心折れて「もうバンドをやめたいよ」と言っている時もずっと話を聞いて元気づけてくれたりして。Dr.石原(天)は他の3人がアレンジについて言い争っている時に、「俺はどっちも良いと思うよ〜」とか言ってくれるのが本当に助かるんですよ。

●場を和ませてくれるというか。

古川:もしかして本当はわざとやっているんじゃないかと思うくらい、そういう役割を担ってくれているんです。

●1人1人が欠くことのできない役割を担っているし、同じメンバーでずっと一緒にやれているからこその関係性なんでしょうね。

古川:音楽以外のところが大きいというか。人間性としてウチらはこの4人が良くて、それぞれがちゃんと役割を果たしているんだなと最近は特に感じています。何とか良い音楽を作れるまではこの4人で続けていきたいですね。

●今回も良い作品が作れた自信はあるのでは?

古川:すごく良い作品ができたと思います。ミックスが終わった後でM-11「樫の木島の夜の唄」を聴いた時に、“音楽をやっていて良かった”と思えたんですよね。メンバーもスタッフも本当に時間がない中で頑張ってくれたので、ありがたいなと。本当に正直で嘘のないものができたので、明日死んでも良いと思えるくらい悔いはないんです。“これで売れなかったらやめちゃおうかな?”とか考えてしまうんですけど、本当に良いアルバムなんだからライブに来てくれた1人1人の人に一生懸命伝えていきたい。お客さんが0人になってしまうまでは、自分からはギブアップしないで頑張っていきたいですね。

Interview:IMAI

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