音楽メディア・フリーマガジン

アップル斎藤と愉快なヘラクレスたち

不確かな“何か”を信じて突っ走り続ける少年たち。そのどうしようもないエナジーをブチ込んだ超ド級ロッキンフルアルバム

PH_Appleセルフタイトルを冠した1stミニアルバムが「タワレコメン」に選ばれるなど、次代のホープとしてシーンに登場したのは2012年2月のこと。そこから2年半以上もの時を経て、アップル斎藤と愉快なヘラクレスたちが遂に1stフルアルバムをリリースする。『The Radical Boys』というタイトルの通り、まるで生き急いでいるかのように性急な進化を遂げてきた彼らはまだ20代前半にして、強靭なパンク〜ロックンロールのヴァイヴスを手に入れた。世代を超えて新鮮に響くサウンドは、普遍的なメロディと共にいつまでも色褪せない輝きを放っている。メンバー脱退や苦悩の日々も乗り越えて前進を続ける4人は、まだまだ底知れぬ可能性を秘めているのだ。

 

 

 

 

●正式な流通盤でいうと前作の1stミニアルバム(2012年2月)以来、2年半以上も空いてのリリースとなるわけですが…。

わたーん:その間に色々ありましたね…。まずメンバーが変わったんですよ。

●今年3月にヘラクレスOH-!NUKiくんが脱退したんですよね。“愉快なヘラクレスたち”なのに、ヘラクレスが辞めるという…。

わたーん:ヘラクレスが1人もいなくなっちゃって(笑)。

●しかも今日の取材は、アップル斎藤(Dr.)くんも欠席ですからね。ここにはアップル斎藤もヘラクレスも両方いない(笑)。

一同:ハハハ(笑)。

●OH-!NUKiくん脱退後の4月には新メンバーのゼウス手塚(Ba./Cho.)くんが加入したわけですが。

わたーん:小・中学校の同級生なんですよ。中学校ではコピーバンドを一緒にやっていたこともあったので誘ってみたら、すぐに「いいよ」という感じで加入してくれて。順調に新メンバーが見つかって良かったです。

●今作は新メンバーで録ったんですか?

わたーん:実は、録った時はまだ前のメンバーだったんですよ。録っている最中にOH-!NUKiが脱退するということになったので、すぐにはリリースできない感じになっちゃったんです。

●だからM-1「The Radical Boys」でメンバーの名前を呼んでいる時に、OH-!NUKiくんのところだけ“ピー音”が入っているんですね(笑)。

わたーん:そうなんですよ。既に録っちゃっていたのもあって、(レーベル社長の)コガさんが「“ピー”って入れたらカッコ良いんじゃない?」って(笑)。

●ハハハ(笑)。レコーディング自体は随分前に終わっていたと。

わたーん:しかも今回の収録曲を書いたのは、もう2年くらい前で…。その頃の俺は、自分で言うのも恥ずかしいくらいのクソッタレだったんですよ(笑)。

●クソッタレだったんだ(笑)。

わたーん:M-2「孤独人間」とかM-5「バカなのさ」みたいな感じで、自分を罵倒して何とか奮い立たせるというか。そういうことをしなきゃいけないくらいの状態だったんです。

●でも2年前といえば1stミニアルバムを出して「タワレコメン」にも選ばれたりと、バンドとしては順調な時期だったのでは…?

わたーん:そういうのは本当にありがたかったんですけどね…。当時はもう急に色んなことがあって、自分でもワケがわからない感じになっていたんです。軸が物理的な方向に偏りすぎていたというか、結果でしか満たされないようなところがあって…本当にダメでしたね。

●物理的な方向というのは、CDの売上枚数とかライブの動員といったこと?

わたーん:そうですね。そういうところに偏っちゃったことで、一番最初に抱いた衝撃みたいな部分を忘れちゃっていたところがあって。だからM-4「ねぇねぇBABY」は、一番最初に衝撃を受けた人に向けて書いたんです。そこを振り返ることで自分の過去にも本物の瞬間があったんだということを思い出して、原点に戻ろうとしているというか。

●最初に衝撃を受けた人というのは?

わたーん:自分でも過去を振り返りすぎたかなと思うんですけど…、ジャッキー・チェンなんですよ(笑)。

●あ、バンドじゃないんだ(笑)。

わたーん:本当に自分が一番最初に衝撃を受けたのは、ジャッキー・チェンなんです。

●その出会いの衝撃を歌ったと。曲自体は2年前にあったということは、その時点で既に次のヴィジョンが見えていた?

わたーん:そこまで具体的には考えていなかったんですけど、とにかく焦っていたんですよ。焦りながら急いで曲を書いたら、こんな感じになっちゃって…(笑)。

●だから、アルバムタイトルも“急進的な”という意味の“Radical”を使っている?

わたーん:タイトルは“生き急いでいる少年たち”という意味で、自分は捉えていて。言ってしまえば自分たちは“茨の道”に足を踏み入れたわけで、不確かな“何か”を信じて生き急ぐように(バンド活動を)やっているわけじゃないですか。改めて“そういう世界で自分たちは生きていくんだ”っていうことですね。アルバム全体を見ても、そうやって意気込んでいる感じが出ていると思うんですよ。

●あるとくんも当時、焦っている気持ちはあった?

あると:どうだろう…? でも何も変わっていないような状況は確かにあって、それをどうにかしないといけないとは思っていましたね。変えたくても変えられないという、もどかしい気持ちは自分もあったかもしれないです。

●自分たちが置かれている状況に対して、もどかしい気持ちがあったと。

わたーん:でも自分の場合はバンドとしてというよりも、個人的にただ1人で落ち込んでいただけなんです。脱退してから気付いたんですけど、OH-!NUKiは本当に頑張ってくれていたんだなって。俺が1人で落ち込んでいて、バラバラになってしまいそうなメンバーを何とかまとめようとしてくれていたんだなと気付きました。…だから、悪いことをしたなって(笑)。

あると:当時はとにかく何かやろうという感じで、先々のことまでは考えていなかったですね。

●そういうところから、わたーんくんの精神状況が好転するキッカケは何かあったんですか?

わたーん:1回、自分のダメなところを認めたっていうか。結局はプライドが高かったんだと思います。でも自分の非を認めたら、色々と見えてくるようになって…というところからですね。曲を書いていく中で、(歌詞を)文字にすることで気付くところもあったりして。

●ブログには「自分を客観的に見られるようになった」ということを書いてありましたね。

わたーん:前よりはできるようになりました。基本的に自分のことしか考えていないんですよ(笑)。他人のことはよくわからないというのもあって。

●今は精神的にも良い状況にある?

わたーん:前とは違う意味での、自信というのが出てきて。前はすぐに崩れ去るような自信というか、自分よりも強いヤツが現れたら「もうダメだ…」みたいな感じだったんです。でも今はもっと勘違いに近いくらいの自信を持つようになりましたね。良い意味での“勘違い”ができるようになったんですよ。自分の中にブレない軸みたいなものができました。

●今作の歌詞は、そういう状況になる前のものなんですよね?

わたーん:そうですね。M-8「俺の話を聞いてくれ」なんて、本当に一番初期くらいに作った曲なんです。

●この曲の歌詞に出てくる“ゆうた”って誰なんですか?

わたーん:これは…地元の中学校の先輩ですね(笑)。

●そんな具体的なモデルがいるんだ(笑)。地元のことをブログでも書いていましたが、何もないところだからこそ自分で何かを考えて創造するという方向に行けたわけですよね。

わたーん:それは本当にありますね。遊ぶと言っても何もなかったので、自分で考えるしかなかった。音楽を始めたのも、上河内だったからかなと思うんですよ。中学校の頃は元々ELLEGARDENとかを聴いていたんですけど、友だちの兄貴に初期パンクとかを好きな人がいて。その弟を通してラモーンズとかを教えてもらって聴いたのがキッカケで、そういう音楽にハマっていったんです。それが音楽を掘り下げていく入口でしたね。

●M-11「DeeDee RAMONE」は、まさにそういうルーツが見える曲というか。

わたーん:そうですね。“1・2・3・4!!”(のカウント)からドンッ! と始まるトキメキというか。これもかなり初期に作った曲なんですけど、今回はSpecialThanksのMisakiちゃんに歌ってもらったことで本当に良い感じになりました。

●改めて今作収録曲の歌詞だけを読んでみると、そんなに悪い精神状況だったとは思えないものもあるんですが。

わたーん:でもそれは無理矢理だったんですよ。自分を奮い立たせるために無理矢理、前向きな感じで書いたっていう感じですね。

●無理矢理にでもそういう歌詞を書いたことで、状態も良くなっていったのでは?

わたーん:書いたことよりも、歌ったことでそういう効果があったというか。やっぱり(言葉を)口に出すって良いですね。

あると:無理矢理にでも“今が楽しい!”となれるのは良いなと思います。

●そういう中でだんだん良い状態になってきた?

わたーん:たとえばみんなは“0(ゼロ)”から始まっているとしたら、自分は“-100”とか“-200”くらいから始まっているんじゃないかって思うんです。だから今は、やっと“0”に近づいてきたかなっていう状態で…。

●まだマイナスなんですね。

わたーん:…自分、クソだなって思います(笑)。

●ハハハ(笑)。

わたーん:だから、そういう作業をしていかなきゃいけないというか。普通の人は考えなくても良いようなことを、自分はやっていかないとダメなんだなということに気付いて。自分が元々立っていた場所がそういう位置で、昔はそれを自分で受け入れていなかったっていうだけなんですよね。

●ちなみに今作のレコーディング自体はかなり前に終わっていたわけですが、そこからリリースまではどういう期間だったんでしょうか?

わたーん:とにかくメンバーが抜けたというのが大きくて。OH-!NUKiって、ライブでは俺と同じくらい前に出ていたんですよ。だから急にいなくなって、ライブの形も変わることになったんです。OH-!NUKiがいた頃は結構ポップな路線だったと思うんですよね。

●確かに1stミニアルバムのジャケットも今と比べると、かなりポップなイメージですよね。

わたーん:そういうポップさの要になっていたのがOH-!NUKiだったので、抜けた状況で“どうすれば良い?”となったんです。今回の音源はポップというよりもクールな方向になっていたから、逆にOH-!NUKiがいた頃はこれをライブでどうやるかというのをまだ形にできていなかったんですよ。脱退した後に改めてこれをどういう形でやっていくかというのを考えた時に、俺がもっと前に出るというのが理想型なのかなと思って。今もまだ手探りで模索しているような状態ではあるんですけど、ちょっとずつ見えてきたかなっていう…。そういう作業をしていた期間でしたね。

●今作はM-3「I wanna be I wanna be」とM-6「I 脳 センチメント ME」がリード曲になっているわけですが、バンドのクールな面とポップな面をそれぞれ象徴しているのかなと。

わたーん:対極的な2曲というか。そうしたほうが面白いかなと思ったんです。俺らはジャンル的に凝り固まっているわけでもないし、色んな面を持っているんだということも見せたかった。やっぱり色んな曲をやりたいんですよ。

●今作を作り終えたことで見えたものもあるのでは?

わたーん:初期は本当に衝動だけでやっていたと思うんです。でもちょっとずつ衝動だけではないものも出せるようになってきているというのが、今作を作ったことで見えましたね。でも自分では今作もまだ未熟だと思っているんですよ。テーマに対して1つの方向からしか見れていない感じがする。もっと色んな方向から見た上で1つの作品にできたら、もっと良いものになるんだろうなとは思っていて。そこはこれから修行ですね。

●まだ過程だからこそ、伸びしろも感じられる。

わたーん:そうですね。自分の中でも、可能性は感じています。

あると:“もっと行ける!”っていうのは、今作を作ってみて感じました。ずっとそう思える感じでいたいですね。

Interview:IMAI

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