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LIGHT BRINGER

果てなき進化の旅路でまた生み出された新たなる金字塔

PH_LB_mainシーンを代表する若手メタル・バンドとして一際の存在感を放つLIGHT BRINGERが、約1年半ぶりとなる新作アルバム『monument』を完成させた。新体制になってから初のアルバムだった前作『Scenes of Infinity』(2013年5月)では、バンドとしての急成長を見せつけた彼ら。メタリックなサウンドの強度はそのままに、よりドラマティックさと色鮮やかさを増した今作の楽曲群はプログレッシヴ・ロック的な匂いをも漂わせている。ファンタジックな歌詞の世界観は、圧倒的な歌唱力と演奏のダイナミズムによって表現されることであたかもリスナーを夢幻の物語の中へと誘っていくかのよう。自らの最高到達点を次々と更新していくような果てなき旅の途中で生み出された新たな一枚は、他に類のない“金字塔”と呼ぶにふさわしい。

 

「やっぱり更新していかないと、成長できないと思っているから。今の自分ができることを、ここに全て詰め込んでいるという感覚はあって。“歌”という面でも、このアルバムを今一番気に入っているのは間違いないですね。自分の中では新作を出す度に、それが最高傑作になるんですよ」

●前作『Scenes of Infinity』から約1年半ぶりの新作となりますが、当初はもう少し早めに出す予定だったそうですね。

Fuki:最初はちょうど前作から1年後になる今年の5月頃に出したいなと考えていたんですよ。だから6月にツアーも組んでいたんですけど、曲が間に合わなかったりして予定通りにリリースできなくなって。そこで急遽、M-6「ICARUS」とM-9「陽炎」の2曲入りシングルを5月に出すことになったんです。その評判がすごく良くて、アルバムへの期待も高まっていたので、なるべく早めに出そうとはしたんですけど…。

●結局、11月にリリースすることになったと(笑)。

Fuki:でも時間をかけて曲をじっくり作っていっただけのことはあって、好きな曲の多さで言うと前作よりも今回の『monument』のほうが気に入っているんです。

●時間をかけたことで、曲の完成度も上がった。

Fuki:元々は5月にアルバムを出すつもりだったので、候補曲の原型みたいなものはそれよりも前からあったんです。でも完成度を高めようと思うと、アレンジとかも練らなきゃいけないし…というところで間に合わなくなった感じですね(笑)。

●これまではHibiki(Ba.)くんがメインソングライターだったところから、今回はMao(Key.)くんの曲がメインになっているわけですが。

Fuki:今回、Hibikiが作曲に関わっているのは「ICARUS」とM-8「monument」だけですね。5月に出そうとしていた時点から、Maoくんは候補曲をたくさん出してくれていたんですよ。それがすごく良かったというのもあって、結果的にこうなったという感じです。

●これまで以上にキーボードが立っていて、プログレッシヴ・ロック色も感じられるのはMaoくんがメインで作ったからなのかなと…。

Fuki:今回はMaoくんが1人で作曲からアレンジまで完結させた曲がほとんどなんですよ。だから意識せずとも、彼の色が出ているというか。本人はむしろLIGHT BRINGERらしさはどういうものかと考えた上で、ベースをフィーチャーしたり各パートのソロを入れたりというのも意識的にやったと思うんです。でもキーボーディスト感は、きっとにじみ出ているんでしょうね(笑)。

●曲によってはストリングスが入っていたり、色んな音を取り入れているのもキーボーディストならではというか。それによって、彩り鮮やかになった気がします。

Fuki:色んな音色が入っていますよね。Maoくんのそういうセンスは、私も本当に良いなと思っていて。ライブの入場曲もMaoくんが作っているんですけど、ユーロビート的な4つ打ちの曲とかも作れちゃう人なんですよ。メタル・キーボーディストではない視点での音色の選び方だったり、そういうところのエッセンスが今回はかなり入っているかもしれない。

●実際、M-1「旅途」なんかはライブの入場曲にも使えそうですよね。

Fuki:「これ、ライブでも流すんでしょう?」って訊いたら、Maoくんも「うん」と言っていました(笑)。

●予想通りだった(笑)。ちなみに、この曲名は何と読むんですか?

Fuki:「たびじ」ですね。当て字なんですけど、“旅している道の途中”というイメージです。

●M-2「Clockwork Journey」には“旅に出よう”という歌詞があって、「monument」には“時計仕掛けの旅は ここで途切れている”という歌詞があるので、この2曲はつながっているのかなと思ったんですが。

Fuki:自分の中では、最初からこの2曲の歌詞をリンクして書いているつもりではあって。聴いた人にわかってもらえるか不安だったんですけど、ちゃんと気付いてもらえていたのでホッとしました(笑)。

●最初からリンクさせるつもりで、この2曲は書いたんですね。

Fuki:曲名については歌詞を書いている私が元々ほとんど考えているんですけど、今回の「monument」に限っては最初にHibikiがモチーフを出してきたんですよ。「monument」では「Clockwork Journey」と同じメロディを引用していたりもするということを先に聞いていたので、この2曲はそれぞれに物語の最初と最後を飾る曲であるというイメージはあって。どちらも似たモチーフを用いているから、この2曲のストーリー性をつなげようというのはデモの段階から決めて歌詞を書いていきました。

●どんなストーリー性を持たせているんですか?

Fuki:曲を聴いた時にどんなモチーフが合うだろうかと考えてみたら、「Clockwork Journey」にはスチームパンクの世界観が合うんじゃないかと思って(※スチームパンク=SFのサブジャンルの1つ。蒸気機関が広く使われている設定で、ヴィクトリア朝のイギリスや西部開拓時代のアメリカを舞台とすることが多い)。私の中にある物語としては、洞窟の中で生まれた少年がそこから抜け出すためにレトロフューチャーなテクノロジーを使って、タイムマシーンを作るんです。そして過去に戻って、自分の未来を変えていくっていう世界観をイメージして書いた歌詞ですね。

●「monument」は?

Fuki:こっちは一転して、現代の私たちが「Clockwork Journey」の主人公を未来の視点から見た時にどう思っているかということを書いています。時代が違うので、登場人物は全く違うんですけどね。

●同じ世界の過去と未来という意味では、つながっている。

Fuki:私はタイムリープものが好きなんですよ。『バタフライ・エフェクト』という映画や、それを元にした『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』というゲームも大好きで。そういうものからイメージして書いたのが「Clockwork Journey」なんです。

●映画やゲームが元になっていたりするんですね。

Fuki:M-4「Dicer」も、私の大好きな映画の『ジュマンジ』が元になっていて。その映画は、ダイスを振って出た目のマスに書かれているのと同じことが現実に起こってしまうという不思議なボードゲームのお話なんです。ファンタジーで冒険もので、最後はハッピーエンドでちょっと涙もあり…っていう本当に大好きな要素が詰まった映画なんですよ。

●その映画をこの曲のモチーフにしようと思った理由とは?

Fuki:この曲はJaY(G.)くんとMaoくんの共作なんですけど、なぜかデモの仮タイトルが「JFK(ジョン・F・ケネディ)」だったんです(笑)。

●なぜにJFK…(笑)。

Fuki:アメリカンな感じにしたかったらしいんですけど、確かにデモを聴いた時点でちょっとしゃらくさい感じがしたんですよ(笑)。そういう歌い方にしたいなと思った時に、あの映画がモチーフとして合うんじゃないかと思って当てはめた感じですね。

●歌詞の世界観に合わせて、歌い方も変えている?

Fuki:そうですね。その歌詞もそもそもは曲に合わせて書いたものなので、結果的に歌い方は歌詞にも曲にも合っているというのが自分の理想なんです。それが今回はどの曲でも成功しているなと思います。

●歌詞はファンタジックなものが多いですよね。

Fuki:私は基本的にファンタジーというか、フィクションしか書かないタイプなんです。今回も曲のイメージに合わせて歌詞を書こうとしたら、ファンタジックなモチーフに合うものが多かったので結果的にそうなりましたね。

●M-3「Gothel」もファンタジックな歌詞ですが、これは何がモチーフに?

Fuki:これはグリム童話の『ラプンツェル』をモチーフにしています。Gothel(ゴーテル)はそこに出てくる魔女の名前で。歌詞中の“lass dein Haar herunter”というのはドイツ語で“髪を下ろして”という意味で、ゴーテルの決めゼリフみたいな言葉ですね。この曲は歌い方も禍々しい(まがまがしい)感じを出したいと思って、意識して歌いました。

●魔女みたいな感じということ?

Fuki:そうです! どうやったら“魔女”感が出るかなと思ったんですけど(笑)、上手くいったと思います。

●「ICARUS」は、ギリシャ神話のイカロスの話がモチーフでしょうか?

Fuki:そうなんですけど、この曲はどちらかというと現実の自分たちをイカロスにたとえているような感じなんですよ。

●イカロスについての神話そのものを歌っているわけではない。

Fuki:ギリシャ神話のイカロスは蝋で固めた羽で空を飛ぶんだけど、調子に乗って太陽に近付きすぎて蝋が溶けて落ちちゃうっていう話で。父親に高く飛びすぎないように言われていたのにそれを守らないで死んじゃうっていう、愚かな者のたとえとして“イカロス”はよく使われているんですよ。でもこの曲での解釈としては、失敗を顧みずに自分の限界を超えて挑戦した勇敢な者のたとえとして“イカロス”という言葉を使いたくて。

●“神よりも賢しく 誰よりも烈しく”というフレーズもアグレッシヴな曲調に合っている感じがします。

Fuki:最初にデモを聴いた時点で、この曲は勇ましい歌い方が絶対に似合うと思ったんです。そういう感じで歌うのは勇ましい歌詞がふさわしいということで、勇壮で壮大なイメージのある単語を意識的に選びましたね。

●M-5「魔法」は、他の曲とは歌詞のテイストが少し違うように思いました。

Fuki:この曲は、私の好きな『魔方陣グルグル』というマンガがモチーフになっていて。主人公の勇者ニケと魔法使いの女の子ククリという2人が一緒に冒険へ出かけるという物語なんです。ククリちゃんはニケくんのことがずっと好きなんだけど、まだ幼くて気持ちがなかなか伝わらないというところから最終的には結ばれるというお話で。十代前半くらいの甘酸っぱさを表現したかったんですよ。曲調もそういう感じだったので、甘酸っぱいイメージを歌詞に落とし込んだ感じですね。

●確かに曲調も甘酸っぱい感じがします。今作でも一際ポップな曲ですよね。

Fuki:もはや完全なポップスだなと、自分でも思っています(笑)。もちろん楽器がちゃんと目立つインストパートもあるんですけど、今までのLIGHT BRINGERの中でもここまで曲も歌い方もポップなものはなかったですね。でも私はこの曲がすごく大好きだし、他のメンバーも「これは良い曲だな」と言っていましたね。

●M-7「名もなき友 〜Lost in winter〜」もこの曲に近い雰囲気を感じました。どちらもどこかピュアな感じがするというか。

Fuki:この曲の歌詞は、私が最近ハマっている某恋愛ゲームからですね(笑)。主人公が女の子で、男の子たちがたくさんいる学園の中で恋愛をしていくっていうゲームなんです。そこに出てくる個性的な男の子キャラの中で、なんと幽霊の子がいるんですよ。

●幽霊!?

Fuki:この曲のデモを聴いた時に、すごくファンタジックな要素の中にちょっと怖い部分があるなと思ったんです。サビの最後の部分がちょっとドヨ〜ンとしているというか、ミステリアスな曲調になっていて。全体を通しておどろどろしい曲調のものは今までもあったんですけど、部分的に怖い感じというのは初めてだったので歌詞を書くのが難しかったんですよ。どういう歌詞にしたら曲調にマッチするんだろうかというところで試行錯誤していた時に、ゲームをやっていたおかげで“幽霊”というワードがパッと浮かんで(笑)。

●ハマっていたゲームのおかげで、ピッタリのイメージが浮かんだ(笑)。

Fuki:幼い頃によく一緒に遊んでいたんだけど今では顔もうっすらとしか覚えていないような友だちが今でも身近にいて、自分を守ってくれていたり幸せを願ってくれていたりしたら素敵だなっていう。でもちょっとホラーな感覚もあるような、微妙なバランスになっていて。思い付いた時は「このモチーフは絶対にいける!」っていう感じで、自分の中でガッツポーズをしました(笑)。

●苦しんだけど、良い歌詞が書けたと。

Fuki:これは本当に難産でしたね。でもそのぶん、自分でも納得できる歌詞が書けたので良かったです。どれも好きなんですけど、この曲は特にお気に入りかもしれない。

●どの曲も最後はポジティブな方向で終わっている歌詞が多いですよね?

Fuki:私は基本的にハッピーエンドじゃないと嫌なんですよ。映画にしろマンガにしろ、絶望的な感じで終わっちゃうものは苦手なんです。自分で歌詞を書く上でもあまり暗いものは書きたくないというのはあるので、今回も暗いものは全然ないですね。

●作品全体を通して見た時に、自分の中で最高傑作ができたという感覚もある?

Fuki:個人的な感覚なんですけど、私はレコーディングやライブを重ねる度に色んな歌の引き出しを増やしていくタイプのヴォーカリストだと思っているんです。過去の作品を聴き返してみても、「今だったら違う歌い方ができるんじゃないかな?」という感じで反省点ばかりが見えちゃって(笑)。だから今まで色んなCDを出してきた中で、間違いなく一番好きなのはこのアルバムですね。

●毎回、最高傑作を更新していくというか。

Fuki:やっぱり更新していかないと、成長できないと思っているから。今の自分ができることを、ここに全て詰め込んでいるという感覚はあって。“歌”という面でも、このアルバムを今一番気に入っているのは間違いないですね。自分の中では新作を出す度に、それが最高傑作になるんですよ。

Interview:IMAI

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