音楽メディア・フリーマガジン

HEY-SMITH

自由を体現するHEY-SMITHが眩しいほどの輝きを放った夢の2日間

MAIN_HEY-SMITH2014年9月13日と14日の2日間、泉大津フェニックスにて“OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL 2014”を開催し、大成功させたHEY-SMITH。今や音楽シーンの一翼を担ってると言っても過言ではない彼らは、結成当初からフェスを夢に見て活動を重ね続け、そして遂に2014年9月、自らの手でその夢を形にした。彼らが全国のライブハウスでたくさんのリアルなドラマを生み出し、多くの仲間たちと笑い、共に駆け続けてきたのは、そこに何にも代え難い大切なものを見出しているからこそ。その夢が現実となった2日間を収録したDVD『Live at OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL 2014』が1/1にリリースされる今回は、同フェスの仕掛け人にしてピュアなバンド熱を持ち続けるシーン最重要人物、HEY-SMITHのG./Vo.猪狩にじっくりと話を訊いた。

 

INTERVIEW #1

「“HAZIKETEMAZARE FESTIVAL”のきっかけはその2つですね。みんなで一気に飲みたいというのと、楽しいイベントがやりたかった」

●今年の9月、“HAZIKETEMAZARE FESTIVAL”を過去最大規模の野外会場で開催されましたけど、そもそもいちばん最初、2010年の“Vol.0”はどういう理由で開催したんですか?

猪狩:“VoL.0”は心斎橋のFANJ twiceとDROPとKING COBRAの3会場でやったんですけど、その頃、周りにかっこいいバンドがすごく多かったんです。で、そういうかっこいいバンドを集めてイベントを企画しようとずっと思っていたんですけど、でもあまりにも一緒にやりたい人たちが多かったから、“これいったいどこで何回やったらええねん?”と。そうやって色々と考えたんですけど、“よく考えたらやりたい人たち全員と一気にやったらええんちゃうん?”と思ったのがスタートなんです。

●あ、なるほど。それがいちばん手っ取り早いと。

猪狩:ライブイベントじゃなくて、昼間からスタートするフェスティバルにして、お祭りみたいにアメ村を占拠する形にしたらみんなと一気に対バンできるんちゃうかと。俺、とにかく全員で飲みたかったんですよね。

●ハハハ(笑)。

猪狩:4〜5バンドずつで飲むのもいいですけど、かっこいいと思う20バンドくらいで一気に飲みたかったんです。それがひとつの理由。あともうひとつは、その頃の俺はフェスに行くことに結構ハマっていて。そこで思ったのが、楽しいフェスと楽しくないフェスがあると。

●ほう。

猪狩:お客さんとして普通に楽しくて“イエーイ!”と思えるフェスもあれば、実際に遊びに行ったら“これは商業的なイベントだな”と思うこともあって。そういうときは、俺は楽しいと思えてなくて。

●ああ〜、なるほど。

猪狩:やっぱりバンド同士で呼んでいたりすると、MCの言葉とかも変わってくるじゃないですか。大人同士が決めたライブというより、バンド同士でやっているライブの方が、観ていてすごく気持ちが良くて。だから俺がやるときも、そういうイベントがしたいと思ったんです。“HAZIKETEMAZARE FESTIVAL”のきっかけはその2つですね。みんなで一気に飲みたいというのと、楽しいイベントがやりたかった。

●その当時から、野外でフェスをやるというイメージは描いていたんですか?

猪狩:描いてました。

●お。

猪狩:やっぱり“Warped Tour”や“AIR JAM”というのが自分の中の理想みたいな感じであって。特に“Warped Tour”の、ステージが何個もあってスケートもあって、そのまま各都市に移動していく感じ。あれにすごく憧れていたんですよ。だから“Vo.0”のときから複数の会場にしたんです。

●なるほど。そして毎年規模を大きくしていき、今年は初めて野外での開催が実現したと。

猪狩:実は、野外での会場はずーっと探していたんですよ。3年くらいかな。

●え? そんなに前から?

猪狩:野外でやるって決まる前から、“2014年頃には野外でできる規模くらいには成長するだろうな”ってなんとなく思っていたんですよ。

●確か、以前のインタビューで猪狩くんは「いつかはわからないけど近い将来、野外でやるだろう」と言っていましたね。

猪狩:だから2012年くらいから会場の候補をリストアップして。で、実は当初は泉大津フェニックスではない場所で決まっていたんですよ。でも2014年の年明けに、その会場から「やっぱりロック系のイベントはダメ」みたいなことを言われて。

●うわ!

猪狩:そこから色んな人に相談して、色んな人に協力してもらって、泉大津フェニックスでやれることになったんです。

●泉大津フェニックスは“RUSH BALL”が行われている会場なんですよね。

猪狩:そうそう。“RUSH BALL”は何年も前から観に行ってるからよく知っていて、いい場所だなと思っていたんですよ。だからちょうど良かった。

●出演者はどうやって決めたんですか?

猪狩:いちばん大きいのは、やっぱり繋がりがあるということで。俺が直接電話して誘える相手っていうか、気持ちを伝えて「それならやるぜ」と言ってくれそうな人。

●うんうん。

猪狩:そこをいちばん大事にしたかな。あと、自分の中ではパンクバンドにこだわったところもあって。もちろん音もそうですけど、精神的なパンクバンドっていうか。音はポップでもライブがパンクバンドだなと思うような人。そういう部分にこだわりましたね。

●確かに今年のラインナップを見ると、ゴリゴリのライブバンド揃いですね(笑)。

猪狩:キラキラした人は居ないですよね(笑)。正直、そこは悩んだんですよ。いろんな層に向けた方が集客が良くなるだろうし。もっとポップな方とかギターロックの方とか、キラキラした人とか、人気のある人とか。そういうところにも繋がりのあるバンドは居るんですけど、でもやっぱり最初はこのメンツでやりたくて。

●まずは自分たちといちばん繋がりの深い仲間と一緒にやりたいと。

猪狩:そう。何回もツアーを一緒にまわっていたり、お互いのツアーファイナルに呼び合ったりとか。それくらいの人とやりたかったんですよね。

●今回の出演者を見てびっくりしたんですよね。「出演者全員、俺が好きなバンドじゃないか!」って。

猪狩:アハハハ(笑)。それはめっちゃ嬉しいです(笑)。

●しかもバンド同士がリスペクトし合っているのがステージから伝わってきたし、それがお客さんにも伝わってる感じがしたというか。

猪狩:お客さんにも伝わってますかね?

●伝わっていると思いますよ。フェスに来る人たちというより、ライブハウスに来るキッズみたいなテンションだった。

猪狩:うんうん。

●出演者のラインナップを見たらHEY-SMITHとの繋がりもすぐにわかるし、HEY-SMITHの活動そのものが形になっているような気がしたんです。

猪狩:とにかくみんな、他のバンドのライブをずっと観てました。

●そうですよね。客席から観ててもそれがわかりました。

猪狩:ステージの袖は常にパンパンやったし、出番が夕方の人もみんな朝から来てくれたし。あれは嬉しかったですね。ずーっとステージの横に居た。やっぱりどんなライブをするか、みんな気になるんですよね。

●ハハハ(笑)。

猪狩:みんなライブが好きやから、ただ単に観たいんでしょうね。あの感じが良かった。バックヤードは飲み放題やし、自分の出番が終わったら酔いつぶれてもいいじゃないですか。そういう楽しみ方もあるし。でもそっちよりも、みんなライブを観ることを優先させていた感じがすごく良かったですね。

●あと、客席エリアにはスケーターがパフォーマンスするハーフパイプも設置されていたじゃないですか。先ほどの話からすると“Warped Tour”への憧れを形にしたんだと思うんですが、スケーターの人たちとはどういう繋がりなんですか?

猪狩:安床武士くんっていうインラインスケートの世界チャンピオンが居るんですけど、彼は何回も世界チャンピオンになっていて。彼は大阪在住なんですよね。出身も豊中で。

●あ、そうなんですね。

猪狩:俺はもちろん彼のことを昔から知っていたんですけど、知り合いとかではなくて。で、何年か前にTOTALFATのDr./Cho.Buntaくんが「紹介したいんだけど」って俺のところに連れて来てくれたんですよ。で、俺は「あっ! あの世界チャンピオンの安床くんだ!」となって。

●なるほど。

猪狩:そこで知り合いになって、「いつかこういうことしたんですよね〜」みたいな感じでぼんやりと話していたんですよ。まだ野外で“HAZIKETEMAZARE FESTIVAL”をやること自体全然具体的じゃない段階で。

●はい。

猪狩:安床くんもライブが好きで、ライブハウスでちょくちょく会うようになったんですよね。HEY-SMITHのライブも観に来てくれたりして。そうやって少しずつ仲良くなって、いざ今回野外でやろうと決まったタイミングでちょうどまた安床くんに会う機会があったんです。そこで「こういうことってお願いできるんですかね?」って訊いたら、彼もライブ会場でバンドがやっている中で滑りたいという想いを昔から持っていたらしくて。「じゃあ完璧やん!」と。

●そういう経緯があったんですね。

猪狩:彼のお父さんがスケートパークを経営しているんですけど、その繋がりでスケーターを集めてくれて。ハーフパイプ自体もそこから持ってきてくれたんです。

●あれ持ち込みだったのか(笑)。

猪狩:自分たちで建設もしてくれたんですよ。「ぜひやろう!」って。

●すべて繋がりで成り立っているフェスなんですね。

猪狩:嬉しいですね。ありがたいです。

 

INTERVIEW #2

「“自分がいちばんかっこいい”と思っていたのに、それ以上にかっこいい人たちに出会って、挫折感を味わったり。そういうことも全部含めて楽しいんですよね」

●今回のDVDにも少しだけ映像が収録されていますけど、出演したバンドから聞いてめっちゃ笑ったことがあるんです。バックヤードにハジマザスナック(※2日間バックーヤードに設置されていた特設のスナック / 出演者が女の子と一緒に楽しくお酒が飲める)があったらしいですね(笑)。

猪狩:はい(笑)。会場の設営とかは俺がやりたいことを言ってスタッフにすごくがんばってもらいましたけど、ハジマザスナックだけは全部俺が動きました。

●ハハハ(笑)。今までも、“HAZIKETEMAZARE FESTIVAL”は出演者たちがバックヤードで飲むビールの量がハンパないという話でしたけど…。

猪狩:俺、笑えることが全部好きなんですよ。バックヤードでバーベキューができるとかお酒が飲めるっていうのは、他のフェスでもよくある話じゃないですか。だから“HAZIKETEMAZARE FESTIVAL”では特別感を出したくて。“何かないかな〜?”とずっと考えていたんです。俺、サッカーが好きだから、バックヤードにゴールを設置してみんなでサッカーするとか色々と考えたんですけど、「いや! 俺サッカー好きやけど、女の子の方が好きや!」という結論に至ったんです。

●ハハハ(笑)。

猪狩:女の子はみんな好きじゃないですか。だからプレハブ1つをスナックみたいにして、いやらしい感じじゃなくて「イエーイ!」と言えるような雰囲気にして。そんなもんがフェスのバックヤードにあったら笑えるじゃないですか。「こんなん、要る?」みたいな。

●要らん要らん(笑)。

猪狩:ハハハ(笑)。要らんでしょ? ソファーとかガラステーブルも借りてきましたからね。女の子も別にプロの方とかじゃなくて、地元の友達に手伝ってもらって。

●あ、素人さんなんだ。

猪狩:中学や高校の先輩も後輩も居ましたけど、とにかく飲むのが好きな人を集めようと思って。あの子ら、出てるバンドとか全然知らないんですよ。でも飲むのが好きやから手伝ってくれて。

●出演者のみんなは度肝を抜かれたでしょ?

猪狩:驚いてましたけど、喜んでくれましたね。ライブが終わったら1回そこに行って、飲んで、またライブ観る、みたいな。

●猪狩くんは2日間忙しかったんですか?

猪狩:いや、ライブを観て楽しんでいただけなので、“忙しい”というより“楽しい”っていう方が余裕で上回っている2日間でしたね。

●自分たちのライブの前は、緊張しました?

猪狩:うーん、“バトンが重いな”というのは正直思いましたけど(笑)。

●みんなでバトン繋いでましたからね。

猪狩:うん、最初から最後まで。特に、同世代のcoldrainから始まって、同世代のSHANK、SiM、HEY-SMITHという形で終わりたかったんですよ。その想いがすごくあって、実際に当日coldrainのライブを観て“おおーっ!!”と思って。ずーっとバトンを繋いでくれて、特にSHANKからSiMという流れのときに“このバトンは重いな”と内心思っていたんです。

●SiMは特に、鉄のバトンかと思うくらい重いバトン繋いできましたよね(笑)。

猪狩:むちゃくちゃでしたよね(笑)。特にVo.MAHの感じはヤバかったし、心の中では“ウオーッ!!”と思っていましたけど、ライブに対する緊張は特になかったんです。だからめっちゃ楽しかったんです。

●そう、HEY-SMITHのライブはめっちゃ楽しそうだった。思うんですけど、SiMのMAHくんはHEY-SMITHらしいライブをさせようと考えたからこそ、あそこまで感情を爆発させるライブをしたと僕は感じたんです。イベントの中の1つの役割として。

猪狩:はい。

●SiMから感情を詰めまくった重いバトンを受け取ったHEY-SMITHが、すごくカラッとしたライブをして。観ていて“あれ? この人たち、ちゃんとバトン受け取ったんかな?”と思うくらい(笑)。

猪狩:アハハハハハ(笑)。スカした感じですよね。あの時の俺はそういう心境になっていたんだと思います。「無理無理無理無理! そのバトン重いって!」って(笑)。

●ハハハ(笑)。でもそれが本当にHEY-SMITHらしい。HEY-SMITHの真骨頂をあのステージから感じたんですよね。

猪狩:めっちゃ楽しかったですもん。今まででいちばん楽しかった。“自由やな”って思いました。

●猪狩くんはステージで「俺たちは自由や!」と言ってましたよね。

猪狩:夜になってきたら結構暗いし、モッシュとかダイブするの怖いと思うんですよ。でもみんな全然止まらないし、「お前ら何人ダイブしてんねん!」っていうくらいグッチャグチャになっていて。“野外でここまで無茶苦茶にいけるって、自由やな”と思ったんです。それぞれがそれぞれに対して自由を見せびらかしている感じがしたんです。「俺は自由やでー!」って。それがすごく良くて。

●同じく猪狩くんの言葉で印象的だったんですけど、「みんなバンドやろぜ」と言っていましたよね。それは前からずっと猪狩くんが言ってきたことですけど、その想いが最後にステージで溢れていましたよね。

猪狩:うん。ほんまに楽しかったんですよ。とにかく。やっぱりバンドを始めたときは“かっこいい男になりたい”と思っていたんです。それって純粋な動機じゃないですか。それでバンドをやっていく毎に伝えたいこととか、最初はなかったような感情も出てきて。

●うんうん。

猪狩:それまでは“自分がいちばんかっこいい”と思っていたのに、それ以上にかっこいい人たちに出会って、挫折感を味わったり。そういうことも全部含めて楽しいんですよね。みんなで競い合っている感じというか。

●ああ〜。

猪狩:音楽は芸術のはずなんですけど、でも運動会みたいな競争している感じがあって、それが本当に楽しいんですよね。芸術やけど、もっと精神的な部分で競争している感じがあるんです。それが本当に楽しい。

INTERVIEW #3

「“いいバンド”という言葉に含まれた言葉の多さとか、そこに込められたものが色々と伝わってきたので、すごく嬉しかったんです」

●“HAZIKETEMAZARE FESTIVAL”の次の日、“MASTER COLISEUM”の会場でお会いしましたけど、あの時の猪狩くんは抜け殻みたいでしたよ(笑)。

猪狩:抜け殻でしたね(笑)。というか、余韻は今も残っている感じですよ。9月いっぱいなんて完全にあの2日間のことしか考えてなかったんです。あの2日間が楽しすぎたから、“もう1回やりたい”という気持ちがどんどん強くなったし、だからもう1回やるためにはちゃんとギターの練習をせなあかんということで、練習してました。

●アハハハハ(笑)。

猪狩:高校生のときの“もっとギターを練習して、もっといいライブにしていこう”みたいな。だからひたすら練習してました。あの2日間がモチベーションになって。

●めっちゃ楽しかったけど、もっと楽しい“HAZIKETEMAZARE FESTIVAL”をやるために。

猪狩:はい。やっぱり“楽しい”という感情は、何かを達成したからこそやと思うんです。だからもっと楽しい達成感を味わいたくなって、練習してました(笑)。

●いいなぁ(笑)。

猪狩:HEY-SMITHの曲も練習しましたし、HEY-SMITHではやったことないようなジャンルの曲とかもコピーしたりして。マジで高校生みたいな感じでしたね。

●今年の“HAZIKETEMAZARE FESTIVAL”は猪狩くんにとってものすごく大きな経験なんですね。

猪狩:うん。めっちゃ初心にかえりました。HEY-SMITHは8年くらいやってますけど、その中でダントツの経験でしたね。初めてCDをリリースしたくらいの頃に、ここまでの想像はしていたんですよ。それが来たっていう。バンドを始めたときに“俺はこれをやるんだ”と思っていたことがちょうど来たというか。

●憧れというか夢が現実になった。

猪狩:そうですね。大きいですね。今年の中でいちばん大きかった。それが叶った今は、次のものがどんどん見えてきたというか。言ってみれば、バンドを始めたときは今年の想像までしかしていなかったんですよ。で、その夢を叶えたときに、音楽が楽しくなって、ギターが楽しくなって、CDを聴くのがほんまに楽しくなって。今年の“HAZIKETEMAZARE FESTIVAL”以降はずーっとそういう日々を送ってます。

●いいことですね。

猪狩:ここ数年は、誰かの曲を聴いたりしても“自分やったらこういうアレンジにするのに”とか、“これはかっこいいから採り入れてみよう”みたいなクリエイトの方向で音楽を聴いていたんですよ。でもパーン! と全部それが弾け飛んで、今は普通に音楽を聴いたり、CDショップの試聴機を5時間ぐらい視聴して厳選した3枚を買ったり。

●ハハハ(笑)。音楽観がガラッと変わったというか、戻ったというか。

猪狩:そうですね。戻った感じかな。めっちゃ楽しいんですよ。ここからまたすごく色んなことを作れそうな気がしています。曲もそうだし、バンドの活動自体も。ぶっちゃけると、最近は時代の流れとかもあって“こういう曲が必要かな?”と考えるときもあったんですよ。でもそういうのが一切なくなって、ナチュラルに自分のいちばん好きなものに反応するというか。

●ピュアになったと。いいことですね。

猪狩:めちゃくちゃいいことだと思います。めっちゃ楽しいですもん。

●この2日間で何か印象に残っている出来事はありましたか?

猪狩:dustboxのBa./Cho.JOJIさんとANDREWさん(FUCK YOU HEROES / FULLSCRATCH / BBQ CHICKENS / RISE / TIGHT RECORDS代表 / サウンドエンジニア)が、それまではずっとステージの袖でみんなのライブを観ていたんですけど、「HEY-SMITHのときはいちばんいい場所で観るから」と言ってPAブースから観ていたみたいで。

●ほう。

猪狩:それでライブが終わった後に戻ってきて、そこで2人が肩をポーンと叩いて「HEY-SMITHっていいバンドだね」って言ってくれたんですよ。俺、それがすごく重くて、すごく嬉しいひと言だったんです。

●ああ〜。

猪狩:「いいバンドだね」って、捉え方からしたらすごく軽い言葉に聞こえるかもしれないけど、でもなんというか…。

●いや、わかります。あの日のHEY-SMITHに対して最高の褒め言葉ですよね。

猪狩:俺、あの2人のことすごく好きやし、それ以外のことは特に何も言われなかったんですよ。その感じがすごく嬉しくて、めっちゃ覚えてますね。

●その「いいバンド」って、すごく色んなものが含まれていますよね。

猪狩:そう。色々含まれてる。「感動した」とか「上手かったね」とか「盛り上がったね」じゃなくて「いいバンドだね」っていうのは、このイベント全部とか、ここ何年かの動きも含まれていると俺は受け取ったんです。

●うんうん。

猪狩:そこはめっちゃ日本語なんですよね。英語ではそういう表現がない。「いいバンド」という言葉に含まれた意味の多さとか、裏側に隠れた言葉とか、そこに込められたものが色々と伝わってきたので、すごく嬉しかったんです。

INTERVIEW #4

「みんな“童心を忘れてない”とかのレベルでもなくて、ただ単に童心なんですよね。あの感じは本当に楽になれる。好き。」

●JOJIさんとANDREWさんの話を聞いて思いましたけど、今回のDVDには各出演者とHEY-SMITHのメンバーとのやり取りとか、出演者同士のやり取りが随所に収録されているじゃないですか。

猪狩:はい。

●その映像を観て関心したというか納得したんですけど、HEY-SMITHと各出演者の関係性がすごくフランクだし、出演者全員がすごく子供みたいなんですよね。

猪狩:ハハハ(笑)。そうですね(笑)。

●なかなかあそこまでのテンションになれないと思うんです。それはHEY-SMITHがいちばん大切にしてきたもので、さっき猪狩くんが言っていた“楽しい”という言葉とか、JOJIさんやANDREWさんの「いいバンドだね」という言葉に集約されているような気がして。今回のDVDを観たときに、HEY-SMITHの核に触れた気がしたんです。結構長いことHEY-SMITHを知っていますけど、“HAZIKETEMAZARE FESTIVAL”の空気感や、出演したバンドの表情からHEY-SMITHというバンドの本質が見えたような気がする。

猪狩:それは嬉しいですね。今回のDVDは結構ありのままの姿を普通に収録しているんですよ。みんな普通にアホですし(笑)。

●GOOD4NOTHINGのG./Vo.U-tanなんてベロベロに酔ってましたよね(笑)。

猪狩:呂律がまわってなかったですよね(笑)。俺にずっと「猪狩〜、イガってんのか~?」って意味不明なこと言ってきて。俺は「イガってるって何ですか?」とか「もちろんイガってますよ」とか適当な返事をしていたんですけど、それに対するU-tanさんの返しも「イガってんのか~?」で(笑)。“この人は何を言ってんねん?”って(笑)。

●ハハハ(笑)。でもその空気感がライブにも繋がっていて。やっぱり大人にはできないフェスだと思いました。

猪狩:みんな“童心を忘れてない”とかのレベルでもなくて、ただ単に童心なんですよね。

●ああ〜、なるほど。

猪狩:あの感じは本当に楽になれる。好き。

●「最初はパンクバンドにこだわりたかった」とさっきおっしゃっていましたけど、そのこだわりがフェス全体の空気感に繋がっていますよね。

猪狩:たぶんそうだと思います。この人たち(出演者たち)は、誰かを否定するとか誰かの悪口を言うとかが無い人たちなんですよ。それよりも「俺はもっとこうする」とかばかり言う人たちなんですよ。

●アハハハハハ(笑)。

猪狩:みんなポジティブでクリエイティブなことしか言わない。それが好きなんですよね。

●猪狩くんは熱いこととかメッセージをあまり口にしない人じゃないですか。でもこの2日間の空気感や各バンドのライブ、出演者やお客さんの表情から、HEY-SMITHの熱い想いや伝えたいことが全部伝わってきたというか。バンドとしての表現の延長線というか、集大成のような気がする。

猪狩:ああ〜、それは嬉しいですね。

●それにMCの冠さん(THE冠)もよかったですね。時間の都合でHEY-SMITHのアンコールができないことを、全部1人でかぶってくれるという(笑)。

猪狩:あれは本当に申し訳ないことをしました(笑)。やっぱりMCは必要だと思ったんです。色んなフェスを観てきた中で、例えば“京都大作戦”だったらMOBSTYLESの田原さんだったり、“AIR JAM”だったらブライアン・バートンルイスだったりとか。俺にとってのフェスってそういう感じなんですよ。必ずライブMCが居るっていう。

●はいはい。

猪狩:更に盛り上げてくれて、主催者や出演者との関係性もあるっていう。そういう感じのフェスをずっと考えていて。やっぱりMCが居ないフェスでの始め方と終わり方がわからなかったんですよね。俺はそんなに言えるタイプじゃないし、まとめるようなタイプでもないし。

●あ、なるほど。

猪狩:ライブが終わった後に出て行って、10-FEETのTAKUMAくんだったらちゃんとまとめることができるかもしれないけど、残念ながら俺はそういう人間じゃないので(笑)。

●ハハハ(笑)。

猪狩:だからその部分は誰かに頼りたかったんですよ。できれば大阪出身の人がいいなと思っていて、友達の芸人さんとか色々と考えたんですけど、チームの誰かが「冠さんどう?」と言って、その瞬間に「あ! 冠さんしか居ない!」と。

●そういうことか。

猪狩:俺はMCの人に真面目な話をして欲しかったわけじゃないですよ。楽しませてくれて、盛り上げてくれたらいいなと思っていて。冠さんのあのメタル声で「HAZIKETEMAZARE、開幕ぅぅぅ〜!!」と叫んでいる姿が容易に想像できて。それで電話したらすぐにOKしてくれて。

●冠さん、バンド大好きですよね。僕、色んなライブハウスで冠さん見かけますもん。

猪狩:最初は「俺にも歌わせろよこの野郎!」って言われましたけどね(笑)。「すみません! 今回だけは!」ってお願いして。で、最後に全部かぶってくれるという(笑)。時間が押してて、本当にアンコールができない状況で「締めてください」って言ったのに、冠さんはまた俺らをステージに出そうとしていたじゃないですか。

●してましたね(笑)。

猪狩:冠さんのああやって熱くなってくれたりするところがやっぱり好きなんですよね。熱くなっちゃって「もういいからやれって!」と言ってたじゃないですか。ああいう人だから頼めたんです。

●なるほど。大好きな人たちばかりで作った、いい2日間だったんですね。

猪狩:本当にそうですね。

●今日の話からすると、当然次もあると。

猪狩:もちろん。2015年って決めているわけじゃないですけど、いつか必ずやります。でもいろんな形になってもいいと思っているんです。

●うん。それもHEY-SMITHらしいですね。

猪狩:野外をやって、去年みたいなサーキットに戻ってもいいと思うし、ツアーにしてもいいし。例えばですけどね。

●うんうん。

猪狩:そういうこともこれから考えていければいいなと思っています。野外を全国の色んなところでやってもいいし。

●お。

猪狩:例えばの話ですけどね。そういうことがもし実現するなら、きっと何年も先の話だろうし。でもそれも自由だと思っていて、どうなってもいいかなって。どうなってもいいので、ちゃんと信頼できる人たちとパーティーできたら。俺は何でもいい。お客さん同士が、お客さん同士の純度を保てることができるうちはやりたいです。

●というと?

猪狩:俺、ルールを作るのがとにかく嫌いで。色んなルールを掲げないとやれないようなイベントになるならもうやらない。ちゃんとお客さん同士が理解し合ってて、“HAZIKETEMAZARE FESTIVAL”のTシャツを着た奴らが、ゴミの分別ができて、こけた奴がおったら助けてやって…そういう当たり前の道徳を隅々に張り巡らせてほしくて。それが特に何も言わなくてもちゃんと保てているうちはやり続けようと思っています。

●そこはなかなか難しい部分ですけど、でもそもそも人間の社会ってそういうことですよね。別に法律がなくても、ダメなことはダメっていう道徳というか価値観はあるわけで。

猪狩:そう。そうなんですよ。俺らは「自由だから何やってもいいぞ」と言いますけど、「じゃあ痴漢してもいいのか?」と言ったらそんなわけはなくて。「君の道徳に聞けばわかるでしょ?」っていう。そこで終わらせたいんです。道徳のない奴はほんまに来てほしくないし、それがいい感じで広がっていってほしいし、誰かがモッシュしてバーン! とぶつかって痛くても「まあいいや」って許せるくらいの範囲ならいいかなって。

interview:Takeshi.Yamanaka
PHOTO:HayachiN

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