音楽メディア・フリーマガジン

PANIC SOUP

壮大なサウンドスケープを描き出す、“幻想音響衆団”の実像。

PS_PICロック〜ジャズ、クラシックなど、メンバーそれぞれが持っている素地を活かしたサウンドを鳴らすPANIC SOUP。楽曲は緻密に構築しつつも、インプロヴィゼーション(即興)に重きをおき、録音では人間臭さを追求したという初のアルバム『ADAPTATION』は、4曲収録にも関わらず収録時間30分以上という大作だ。叙情と混沌が絶妙なバランスで同居し、上質な音楽がパッケージングされている今作。固定メンバーという概念を取り払い、“楽団”として柔軟に活動していくことを標榜する彼らには今、何が見えているのか? アルバムの発表に合わせ設立された自主レーベル、「KARAKURI RECORDS」の主宰でもあるZOLOに訊いてみた。

 

●2008年の結成以来、PANIC SOUPとしての活動は7年目になりますよね。このタイミングでリリースをするきっかけは何だったんですか?

ZOLO:「今が何年目だから」とは特に考えていなかったんですけど、「ちゃんとしたアルバムを作ろう」という考えは4年くらい前からあったんです。2013年にiTunes限定シングル『DAI DAI』のレコーディングをした時に使った吉祥寺のスタジオがとても良くて、「このスタジオをもう一回使いたい」と思ったんですよ。それを「せっかくだからCDに残そう」と思ったことがきっかけですね。

●モノとして残したかったと。

ZOLO:映像やアートワークなどの物質的なものと合わせて、観たり聴いたりして欲しかったのもあったんです。個人的にCDというものに対する考えは変わってきていますけど、そうやって全てを含めて出すのなら、やっぱりCDが良いかなと思って。

●音楽だけを作品として出しているイメージではないんですね。

ZOLO:むしろ音楽がなくてもいいかな?(笑)。小説だとかエッセイや写真集を作品として出しても全然良いでしょ? って。

●プロフィールに“固定メンバーでの演奏には特に固執していない”と書かれていますよね。これは?

ZOLO:僕らの周りでもいろんな理由があって、音楽を辞めていっちゃう人が多い。でも、考えてみれば吹奏楽団なんて結団40周年経った時に、全員同じメンバーで続いているわけではないじゃないですか。PANIC SOUPっていう1つの楽団は、いろんなメンバーが集まるスペースで良いと思うんですよね。だから僕がギターを弾かないPANIC SOUPもあって然るべきだし、例えば子供が生まれたりしたら「ちょっと休むから、誰か代わりに(メンバーを)入れて」。みたいな。

●「その後、落ち着いたら子供と一緒にバンドに入る」。みたいな?

ZOLO:ははは(笑)。世襲制ですか? いいですねえ!

●じゃあリーダー的な存在のZOLOさんがいなくなったとして、その時のPANIC SOUPの核は何になるんですか?

ZOLO:特にないですね。その時に集まっているメンバーがやりたい風景や音像を作れば、それで良いんじゃないかと思います。そういう「楽団であり、劇団であり、クリエイターチームでもある」っていう考え方になってからは、すごく上手くいくようになったんですよね。レーベル設立もそんなフラットな在り方を見越して、というのが大きいです。

●それまでは逆に、キッチリ決めて活動をしていたと。

ZOLO:昔はそうでしたね。元々僕がやっていたバンドが突然解散してしまって、残っていた3本のライブをこなすために急遽結成したバンドがPANIC SOUPだったんです。最初はボーカルやDJもいたんですけど、活動をしていくうちにインストをやる方向に変わっていって。気付いたら、自由にやりたいことをやるようになっていたんですよ。

●その中で作られた『ADAPTATION』ですが、緻密に計算されて作られたような印象を感じます。今作の中で、特に練って作られた曲はどれですか?

ZOLO:練り上げた曲は…1曲目の「Pulse145」ですね。元々はライブで演奏できる、2分くらいの軽めの曲が欲しいっていうことで作ったんですよ。だから、当初は2分くらいの曲尺だったんですけど、いざライブで演奏してみたら「2分じゃもったいないね」って話になって。そこからスタジオで作り込んでいったら11分を越してしまったと(笑)。

●ははは(笑)。「Pulse145」はすごく小さい音から始まってフリージャズのような混沌としたものになっていきますよね。それが京料理で言うところの出汁に近い気がしたんですよ。あえて薄味のものを初めに出すことによって、舌の感覚を敏感にさせるというか。

ZOLO:確かに京料理のニュアンスはあるかもしれないですね。今回はレコーディングでもタッチを活かしたかったので、マスタリングではミニマムな音量からマキシマムな音量まで楽しめるように、全体の音量を下げてあるんですよ。コンプレッションをかければもっと音圧や音量は上がるんですけど、それをあえてやっていないんです。

●その場の空気感もパッケージングしたいと。

ZOLO:エフェクターを踏む音も入っていますし、ちょっとした弦の揺れとか、普通なら録り直すようなレベルのものも僕らは大歓迎なんです。途中のポエトリー・リーディングの部分以外は一発で録り切ったので、相当な緊張感でしたよ。

●それに対してM-2「DAI DAI」は、ギターが前面に出ていてロック色が強いですよね。

ZOLO:この曲こそが初期のPANIC SOUPなんですよ。昔はツインギターで、こういうロック色が強いものをやっていました。今作の中では異色な作品です。

●確かに。でも、聴きやすい曲ですよね。

ZOLO:未だにライブでも人気がありますね。唯一「Yeah!」ってできる曲ですから(笑)。

●そういうところで言うと、M-4「瑠璃」の最後の超ロングトーンのパイプオルガン。あれは「Yeahhh!」って思いましたね。『2001年宇宙の旅』のオープニングみたいな画が浮かびました。

ZOLO:それは嬉しい! 「瑠璃」のイメージは、深海から上がっていって、最後に宇宙から地球を眺めるっていう曲なんです。それをノーカットでずっと俯瞰して撮影しているようなイメージなんです。

●なるほど。次の作品について、何か考えていますか?

ZOLO:構想はすでにありますね。今回は「星と人と文化のストリーム」というコンセプトを作って作品にしたんでけど、次の作品は生活とか人間臭さがもっと出るような作品になると思っています。

Interview:馬渡司

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