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reading note

一瞬一瞬を刻み込むように生きる4人が鳴らす音は力強く美しい

PH_readingnote悲しみや憤りを抱えつつも必死にもがきながら今を生きていく歌詞の世界観が若年層を中心に共感され、“五月病バンド”とも称されるreading note。前作『7+3』を2013年末にリリース以降、数多のライブを重ねながら制作にも取り組んできた彼らだが、昨年は様々な葛藤と挫折に見舞われた1年だったという。中井真貴(Ba.)が肺気胸で入院し、同じ4人で活動することの脆さと尊さに気付かされたことは、ソリッド感とグルーヴを増したバンドサウンドへと昇華された。生きることの覚悟を持って鳴らされる今作『19200』は、紛れもなく現時点での最高傑作だ。

 

 

「バンドって“生き様”やと思っているので、reading noteが生きているというのをちゃんと見に来てほしいですね。やっぱり僕らはライブの“あの場所”で生きているから」

●Twitterで平田くんが「苦しくも実りのあるとてもいい1年でした」とつぶやいていましたが、苦しかったというのはどういったところで?

平田:一番大きかったのは、真貴(Ba.中井)が入院したことですね。今回のアルバムに向けて曲を作っている途中だったので、制作もいったんストップしたんですよ。そこで色んなことを考えてしまって、「(バンドを)やめようかな」と思ったこともあって…。

●そこまで思い悩むくらいの危機だったと。

平田:その頃はちょうど、曲も全然作れなくなっていた時期で。自分の中で今までどんな想いで曲を作ってきたのかを忘れかけていたんですよね。前作『7+3』は“そこまでの自分たち”というものがあったので勢いで進められたんですけど、作り終えた時に「次は何を歌ったらいいんだろう?」とか「どういうものを出せばいいんだろう?」というのがわからなくなっていたんです。そういう時に(真貴の)入院もあって、本当に色々と考えました。

●他のメンバーも危機感を感じていたんですか?

鈴木:(真貴が)入院する前から、僕は「4人でずっと音楽を続けていくって、本当に難しいな」とは思っていたんです。だから自分の中で、危機感は常にあって。そういうところへちょうど(入院が)重なったので、急に現実味を帯びたというか…。

平郡:僕の中で一番大きかったのは、ライブでのサポートをオトループのフッキーさん(Ba.吹原賢吾)にお願いしたことで。久しぶりに真貴以外のベーシストと一緒にやったんですけど、曲調やグルーヴ感も「こんなに変わるんや」と思うくらい違ったんです。そういう意味で、やっぱり正規のメンバーでライブに臨まないといけないなと感じましたね。

●この4人であることの大切さを実感できた。

平郡:改めて実感できました。ずっと一緒にいるので、そういうところがちょっとナアナアになっていたというか。真貴が入院したことによって、良い意味で気付かされたところはありますね。

●入院していた真貴くん本人は?

真貴:ライブを1本トバしてしまったことだけは心に引っかかっていたんですけど、それ以外はできるだけポジティブに考えようとしていたので、僕自身は大丈夫でしたね。入院中もネット上の共有サーバに上がってくるスタジオの音源とかを聴いて、進行状況は確認できていたんですよ。だから退院した後に「自分はどうしようかな?」というのを前向きに考えていただけでした。

●本人は前向きだったと。先ほど平田くんが話していた次作への苦悩は、M-4「なにもない部屋」の“伝えたい事は何だった? 歌いたい事は何だった?”という歌詞にも顕著に出ていますよね。

平田:たとえば真貴が入院した時に僕が「バンドをやめる」とか「大阪に帰る」って勝手に言うことはできるけど、「じゃあ残された他の3人の人生はどうなるのか?」と考えたりもしたんですよ。そこで「自分1人でやっているわけじゃないんやな」ということを改めて感じて、自分の中で「本当に歌いたいことは何だったのか? 伝えたいことは何だったのか?」ということを考えるようになったんです。でも今まではそれをそのまま歌にすることが、こっ恥ずかしくて…。

●恥じらいがあった。

平田:「自分たちはそんな感じじゃないよな」って(笑)。でもそういう想いだからこそ、1回ちゃんと歌ってみようかなと思ったんです。それで書き始めたのが「なにもない部屋」で、できあがった時は自分の中でも「ちゃんと言いたいことが言えたな」っていう感覚がありましたね。…自分は皮肉の塊なんですけど(笑)、この曲では皮肉っぽくならずにちゃんと言えたなと。

●自分の中にあるものを素直に出せた曲なんですね。

平田:実は心の奥にいる自分はすごく素直なんですけど、それを出せないので何か1つフィルタを通してしまうというか。そこを解くことを考えながら歌詞を書いたので、今回はすごく内面的なものが多いのかなと思います。…でも本当は、何もないと思うんです。

●「何もない」というのは?

平田:自分の中に“本当の自分”というのはいなくて、それを悟られたくないから今までは必死に隠していたんやと思うんですよ。そこにやっと自分も気付いたというのが、すごく大きなことで。

●それに気付いたのは何かキッカケがあった?

平田:やっぱり歌詞を書けなかった時期が大きかったと思います。言いたいことがないというのを悟られたくなくて何かあるようなフリをしていたけど、ちゃんと向き合ってみたら実は自分の中に何もなかったなと。それをそのまま書いたのが「なにもない部屋」だったので、すごく自分のことのように書けましたね。

●この曲を作って、突き抜けられた部分もあるのでは?

平田:この曲ができてから、色んなことがスムーズに書けるようにはなりましたね。M-2「clap hands」みたいな皮肉めいた歌詞はすぐに書けるんですよ。でもやっぱり自分のことを書くとなると、すごく時間がかかってしまう…。そういう中で「なにもない部屋」ができてからは、言いたいことも徐々に見えてきたというか。

●ちなみに今作の収録曲は、前作リリース後に全て作ったんでしょうか?

真貴:M-8「誰かのいた風景」だけは前作収録の「drop out」と同時期に作ったものですね。この歌詞はすぐに書けたんですよ。個人的な話になるんですけど、上京してすぐに僕の祖父が亡くなって。それで実家の大阪へ行き来する新幹線から外の風景を見ながら、「このメロディの中でこういう想いを歌いたいな」というものが浮かんだんです。

●その想いというのは?

平田:僕は祖父に内緒で音楽をやっていたので、そこの後ろめたい気持ちも何か1つの形にして残したいと思っていたんです。久しぶりに祖父の家に行ってみると、風景とかも色んなところが変わっていて。「忘れてしまうものだけど、忘れたくないな」っていう想いがすごくあったので、その気持ちを書きました。そういうのもあって個人的な思い入れが強すぎるから、前作にこの曲を入れるのはちょっと違うなと。

●それを今作に収録したのはなぜ?

平田:前作から時間が空いたことで、自分の中で気持ちの整理もできて。改めて聴くと個人的な主観よりも、もっと広いものが含まれているなと思えたので今回は入れました。

●そのエピソードを聴かなければ、女性に対する歌とも取れますよね。そういう解釈も許容する広さがあるというか。

平田:“君”というのが、彼女のことにも取れますよね。一見、恋愛っぽい歌詞にも見えるんですけど、実はそうじゃなくて。でも自分の手元を離れたら、あまり僕の意図は気にしないでほしいというか。勘違いしてくれたほうが良い方向に転ぶこともあるし、曲を受け取ってくれた人なりの解釈でいいかなと思うんです。僕の祖父の曲ということでイメージされても、祖父の良さは僕にしかわからないですからね(笑)。

●確かに(笑)。この曲以外は前作以降に作った曲なわけですが、最初にできたのはどれなんですか?

平田:M-1「エクストラタイム」ですね。前作リリース後にライブをたくさんしていく中で、アッパーな曲を武器にしているバンドと一緒にやることが多くて。僕らの曲は今までも「暗い」と言われ続けてきたんですけど、やっぱり人間って最初に聴いた時のインパクトが強いほうを良いと思ってしまうんですよ。(リスナーが)「アッパーな曲のほうがノリやすくていいな」というふうに思いがちなのが、すごくムカついてきて…。

●ムカついてきたんだ(笑)。

平田:そこでライブに意識を置いて作ったのが、「エクストラタイム」なんです。すごくリフを前面に押し出している感じというか。

鈴木:前作は空間系の音を基調としたギターが多かったんですけど、そこから幅を広げて脱却できたのが「エクストラタイム」で。アップテンポで盛り上がるような曲調って、やっぱりハードロックやパンキッシュな方向に寄ると思うんですよ。でも僕らは元々UKロックを基調としているのでその空気感も持ちながら、そういうテイストのギターになるようにということはすごく考えました。

●自分たちの良さを活かしつつ、幅を広げられた。

平郡:僕らはUKロック寄りのトロンとした空気を作るのは得意だったんですけど、やっぱりアッパーな曲が多いバンドたちと対バンする中で自分たちと比べてしまうんですよね。“ないものねだり”というか「俺らもそういうことをできるよ」という気持ちが芽生えたので、去年はそういう苦手だったところを突き詰めて。プロデューサーに相談したり、アレンジを練り直したりして、ようやくreading noteらしいアッパーチューンができたなと思えたのが「エクストラタイム」でした。

●試行錯誤の結果、完成したわけですね。

平郡:最初は何回やっても上手くいかなくて。ライブっぽい、テンションがアガる感じには全然できなかったんです。そこで根底から覆してみたというか。元々持っていたものとは真逆のことをしてみたら、ソリッド感が出たんですよ。

●M-5「超える」の歌詞には顕著に出ていますが、前作やこれまでの自分たちを超えていきたいという気持ちも強かったのかなと。

平田:超えていきたいですね。この曲を書いている時はそのことしか頭になくて、メロディを歌いながら「今までの自分を超えたい」とずっと思っていたんです。それをそのまま歌詞に書いてみました。

●タイトル曲のM-7「19200」は、今作で唯一のインストですが。

平田:これは真貴が作ってきたんです。

真貴:去年4月のワンマン(渋谷TSUTAYA O-Crest)でやったんですけど、前からプロジェクターを使って映像を映しながらインストを演奏したいなと思っていたんです。そういう憧れもあって、最初はそのワンマンでやるためだけに作ったものなんですよ。

●このタイトルは誰が付けたんですか?

平田:これは僕ですね。“19200”というのは成人男性が1日にする“まばたき”の回数と言われているんです。真貴の友だちが亡くなったんですけど、部屋の中で死んでいるのを発見されるまでに1ヶ月くらいかかってしまったらしくて…。その話を聴いた時に「生きていることは当たり前じゃない」と感じたのと、真貴が入院した時に「バンドをやれるのは当たり前じゃない」と思ったことが自分の中ですごくリンクして、このアルバムタイトルにさせてもらいました。

平郡:最初に数字だけを聞かされた時は、何のことかわからなくて。「19200回まばたきをできたということは、1日を生きられたということになるんだよ」と説明されて僕らも初めて意味がわかりましたね。

●そういう想いも含めて、自信作になったという感覚があるのでは?

平郡:もちろん前作もすごく好きなんですけど、それとも比べ物にならないくらい今回は全曲良いなと思っていて。完成してから聴いた時に、自分が思っていたラインを遥かに超えてきたんですよね。作っている時から薄々は感じていたんですけど、すごいものができたなと。

鈴木:ライブを意識したものにもなったし、前作からの振り幅もすごく広げられて。さらに僕らの真骨頂的な部分もしっかり表現できているので、本当に自信作だと思います。

真貴:ライブ感とポジティブな感じというのはテーマに掲げていたんですけど、そういうものがバンドとして表現できたかなと。ライブでも、それを体感してもらえるように頑張ります!

平田:いつも言っていることなんですけど、バンドって“生き様”やと思っているので、reading noteが生きているというのをちゃんと見に来てほしいですね。やっぱり僕らはライブの“あの場所”で生きているので、そこへ見に来てほしいなと思います。

Interview:IMAI

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