音楽メディア・フリーマガジン

ピアノガール

偶像をブッ壊せ

pgartistmain201502京都のロックバンド、ピアノガールが2009年の結成以来初となるフルアルバムをリリースする。今作『軍団』はM-2「砲台跡浜」、M-10「about shit」、M-13「日本人は二度死ぬ」という3篇の新曲に加え、デモやシングル等の過去音源からも多数の曲が収録されているベスト盤的な1枚だ。Vo./G.内田による歌詞には強い衝動や主張がにじみ出ており、単に共感や感動を与えるだけに留まらない、人を動かすほどのエネルギーを放っている。世界を変える為に必要なのは、こういうロックミュージックなのかもしれない。

 

「“俺ら”という偶像をブッ壊せたときに、そいつの中で何かが絶対に変わる。そのためには俺らがやりたい放題やって“ここまでやっていいんや”っていうのを提示しないといけない」

●今回の1stフルアルバム『軍団』には、過去音源で発表されていた曲も多く入っているんですよね。

内田:『赤心』(シングル/2014年9月発売)が俺らにとって初めての流通盤で、それを出すタイミングで4枚のデモCDを廃盤にしたんですよ。ただその中にも思い入れのある曲がたくさんあったし、これから俺らのことを知ってくれる人たちに聴いてもらえなくなるのはもったいないなと思って。だから今回のアルバムはケジメというか、ベスト盤的な感じで作ろうっていうことになりました。

●でも聴き比べてみると、アレンジがガラッと変わっていたりしますよね。新曲以外は全曲再録なんですか?

米谷:そうですね。全部再録です。

●まずM-1「安田講堂の虹」ですが、これは“東大安田講堂事件”から取っているんでしょうか?

内田:そうです。俺はガキの頃に三島由紀夫の本をよく読んでいたんですよ。それで三島と学生運動の関係を知って、学生運動の事にも興味が沸き始めて。

●なぜ興味を持つように?

内田:学生運動って強い情熱を持って大きな力と戦うような部分があって、若者のエネルギーみたいなものを感じるんですよ。それがすげぇ良いなと思って。

●“若者のエネルギー”というのは、テーマとしてどの曲にも共通しているように感じます。M-3「玉屋ビル綺譚」も以前からあった曲で、過去にMVも作られていましたね。

内田:玉屋ビルって俺が住んでいる建物なんですよ。存在感があって見た目もいい感じだから住む前からずっと興味があって、入居してからソッコーでその場所について曲を書こうと思って。そのビルを映像にもしたかったから、MVを録ったんですよね。出演しているのも、実際にビルに住んでいる奴らなんです。

米谷:ベースの長友のアイディアで、曲はフリーダウンロードで配信していたんですよ。今までやっていないことを実験的にやるという意図もあったんですが、結果的にたくさんの人に聴いてもらえていると思います。

●バンドの方針はどのように決めているんですか?

内田:アイディアをしっかり形にしてくれるのは長友ですね。彼が具体的な形で動いてくれるから、ただの夢物語で終わらせずに作れるというか。バンドの方針や大まかな動きは基本的に俺が考えることが多いです。ただ俺がひとりで突っ走っている訳じゃなく、みんなで「こうしていこう」って持っていく感じがありますね。

●アイディアを出すのが内田さんで、それを全員で整えていく。

米谷:最初に作った形から広げていくんですよ。最近はスタジオでイチから作るやり方がスタンダードになっていて、音を付け合わせて作っていく感じです。

内田:パンチラインができていたら話は早いんですけど、最終的には感情論で作っていると思います。「ここはもっとこんな感じで」みたいな話をして。

●性格や好みの違いでぶつかる事はありませんか?

内田:ないですね。例え俺が作ったものが他の人たちの趣味じゃなくても、4人でひとつのものを作る以上“好きになるにはどうしたらいいか”を考えてくれているように思います。趣味嗜好も全然違うんですけど、むしろそれが最高なんですよ。

●米谷さんとしては、どのようなこだわりを持って音作りをしていますか?

米谷:曲によって、上手く音を使い分けるように心がけています。例えばM-2「砲台跡浜」ならメロコアテイストだったり、M-7「Candy apple red sacrifice」なら重めのハードロックをやっているイメージだったりと、自分なりに最適だと思う音を出せたらなと。

●元々バックボーンになっている音楽があるわけではない?

米谷:ジャンル的にはメタルが好きなので、激しめのサウンドにしたい気持ちはあります。ただ僕がドラムを続ける上で根底にあるのは、尊敬するドラマーである長谷川浩二さんのプレイスタイルなんですよね。ボトムがしっかりしていて骨太なビートを出すんですけど、繊細さも合わさっていて。曲やシーンによって幅広く表現できる人なんです。

●実際、今作は曲のバラエティに富んでいますね。M-6「Nevermind」は勢いや怒りが感じられる曲ですが、どのようにして生まれたんですか?

内田:バンドをやる中で、バンドのシーンに不満や退屈を感じるようになって作りました。ただこの曲でのパンチラインは実は怒りではなくて、切ない感情なんです。俺は広島出身なんですけど、実家に帰ると親父に作った曲を聴かせるんです。でも親父はずっとクラシックやジャズをやっていた人間で、俺のロックが全否定される訳ですよ。俺の怒りが簡単に成仏してしまって一切通じない世界があるなという事に気付いた時、妙に切なくなって。ふと“何年も会っていない友達の事を”考えたりしたんですよね。

●ただ単純に怒っているのでなく、寂寥感のような感情が鍵になっていると。そういった激しい曲もありつつ、M-5「17才」のようにしっとりした曲もあって。これは実際に17才の頃の心情を書いたもの?

内田:どちらかというと、当時の自分を振り返りつつ今の自分の心情を書いています。バンドはもちろん楽しいんですけど、続けていく中でしんどくなるときもあるんですよ。でも高校生のときは音楽をやっていて辛いなんて気持ちは一切なかったし、とにかく最高で無敵感があったというか。だから歌詞には“悲しみまで拾わなくても、それだけで良かったのにな”という想いが込められていて。

●“17才の頃はそうだったな”と思い返していると。「砲台跡浜」は、今回初収録となる新曲なんですよね。

内田:音源にしていなかっただけで、曲自体は結構前からあったんですよ。ちょっと切ない感じのタイトルがすごく気に入っていて、この機会に入れたいと思ったんですよね。廃墟みたいな空気感というか。

●MVも廃墟のような場所で撮影されていましたが、実際にモデルになった場所があるんですか?

内田:昔、兵庫の西宮砲台に行ったときに、すごく雰囲気が良くて“いつかここを舞台にした曲を作りたい”と思っていたんです。

●フィクションではなく、実際にその場所で見た景色や感情が綴られている。

内田:そうですね。特に“なんとなく先を急いでなきゃ駄目な気がして俺は帰る”っていう言葉にはすごく感情がこもっていて。無邪気に遊んでいる子どもやぼーっとしている老人を見ると、何となしに先を急がなきゃいけない気がしたというか。俺は毎日必死に生きていかなあかん立場やし、焦燥感みたいなものを感じたんですよね。

●どの曲も内田さんの感情が色濃く表れているように思います。曲を作るときは、誰かに向けてのメッセージというより自分の主張や表現に重きを置いている?

内田:そうですね。ただ具体的な対象に向けて歌うことはあまりないですが、大まかに“この歌詞をああいうこと考えてる奴らに聴かせたい”みたいな気持ちはあります。

●M-10「about shit」も新しい曲だそうですが、これは特定の対象に対してのdisが入っているように思いました。

内田:タイトル通り“shit =クソみたいなもの”について歌っています。この“shit”は他人だけじゃなく自分に対しても言っているんですが、曲中ではスクイズメンのライブを観た時に体験したことを具体的に書きましたね。俺らはみんなスクイズメンが好きなんですが、昔対バンしたときに酒を飲みながらライブを観ていたことがあって。メンバーとも仲が良かったしテンションが上がってヤジりまくってたんですけど、お客さんはおとなしめでしんみりしていたんですよ。そしたら次の日に「スクイズメンのとき、ピアノガールの奴らがマジでうるさかった」ってTwitterに書かれているのを見て、“スクイズメンのライブを冷静に見てんじゃねえよ”という気持ちが強くあったというか。やっぱりライブハウスではイカれた空気がほしいと思っているから。

米谷:本番でしか起こらないマジックが絶対にあると思うし、僕もそういう事が起こると思ってライブをしているんで。お客さんにもそれを感じてほしいし、一緒になって共有したい。

●歌詞にも“音楽にしかない衝動”や“殻を破る感動”を見たいとありますが、それらはその先にあるものですからね。M-13「日本人は二度死ぬ」は、考える事をしなくなった人間への警鐘を鳴らしているように感じました。曲を聴いた人に対して、自ら考えるキッカケを作りたいという意識があるんでしょうか?

内田:もちろん。バカでかい夢なんですけど、俺が音楽をやる上でいちばんの目標としているのが“日本人がカッコいい民族になること”なんですよ。音楽だけをやって生活したい気持ちは当然あるんですけど、その上で日本という国をもっとカッコよくしたい。

●音楽でカッコよく、ですか。

内田:もっとも、いくら「カッコよくなれよ」と歌って共感を得たとしても、その人自身が立ち上がって誇りを持たないと人間は変わらないと思うんです。例えばTHE BLUE HEARTSを聴いてバンドを始めた奴って多いじゃないですか。でも中には感動したものの“自分もやってやろう”と立ち上がらなかった人たちも絶対にたくさんいて。だから、ピアノガールのライブを観て「熱いな」とか「尖ってるな」程度の感想で終わったら悔しい。

●実際に行動へ移すところまで持っていきたいんですね。高いハードルですけど、実現できれば本当に世界が変わる。

内田:俺らのことをまだ“カッコいい”というだけの目線で見ている奴らは、言ってみれば俺らを偶像化しているわけじゃないですか。それをブッ壊せたときに、そいつの中で何かが絶対に変わる。そのためには俺らがやりたい放題やって“ここまでやっていいんや”っていうのを提示しないといけない。それがロックバンドなんだと思っています。

Interview:森下恭子

 

  • new_umbro
  • banner-umbloi•ÒW—pj