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Predawn

Predawnの核にある“エモ”の部分が際立った、リキッド単独公演の全貌

2015/5/30@恵比寿LIQUIDROOM
“Nectarian Night #02”

PH_Pre_mainシンガー・ソングライター清水美和子のソロ・プロジェクト、Predawnが自らプロデュースするワンマン・ライヴ“Nectarian Night #02”が5月30日、恵比寿LIQUIDROOMにて開催された。彼女にとってライヴハウスでのワンマンは、2013年6月30日に新代田FEVERでおこなわれた、アルバム『A Golden Wheel』のリリースツアー・ファイナル以来となる。つまり、ちょうど今から2年ぶり。昨年11月の“Nectarian Night #01”では、品川キリスト教会を舞台に小林奈那子(チェロ)、武嶋聡(フルート/クラリネット/ソプラノ・サックス)、そしてRayonsこと中井雅子(グランドピアノ)を迎えて華やかかつ賑やかなチェンバーポップを披露したが(現在、DVD化され発売中)、今回は、そのときにも参加した最近のコアメンバー、神谷洵平(ドラム)とガリバー鈴木(コントラバス/エレキベース)を率いた3人編成でのパフォーマンスだ。

会場に到着すると、すでに多くのファンがフロアに集まっている。清水の選曲と思われるBGMに耳を傾けつつビールを飲んでいると、開演直前にはビートルズの「Revolution 9」が流れ出した。確か2年前のワンマンでも、この曲を休憩時間にかけていたっけ。そんなことを考えていると、時間ぴったりに場内が暗転、いつものように清水がひょっこりと姿を現わす。“#01”では黒いドレスの大人っぽい装いだったが、今日はノースリーブのシャツにオーバーオールというカジュアルな格好。少し伸びたボブヘアの左サイドを、髪留めでまとめた姿はまるで野原を駆け回る少女のようだ。

おもむろにアコギを抱えて弦を爪弾き始める。まずは「Keep Silence」からスタート。力強く踏み鳴らされるキックとコントラバスが低音を支え、一つ一つの言葉を確かめるような清水の歌声が、低空飛行から徐々に軌道を上げていく。ああ、やっぱり。たとえ教会のリバーブに包まれながら大編成で演奏しても、たとえレコードショップの片隅で一人弾き語っても、Predawnの本質は何も変わらないな、ということを改めて確信した。喜びや哀しみ、強さや脆さを全て持った声、圧倒的な情報量を含んだコードとメロディは、彼女の音楽の一部であると同時に全てなのだ。

ライヴではもうすでに、すっかりお馴染みとなったCD未収録曲「Black & White」「Skipping Ticks」が続き、ティーンエイジ・ファンクラブやアレックス・チルトンあたりを彷彿とさせる、シャッフルビートのパワーポップ・チューン「Kinds of Knot」で最初のピークが訪れる。ちょっとコミカルなカズー・ソロや、エンディングのジャンプで会場を大いに沸かせていた。

この日の第一声は、カズーをくわえたままドナルドダックのような声で「こんばんは!」と挨拶。笑いを取った後、アコギからエレキ(フェンダー・テレキャスター)に持ち替え、しっとりと「Tunnel Light」を奏で始めた。鈴木は弓で弦を擦りながら、コントラバスとチェロの中間のようなフレーズを紡ぎ出し、音数の少ないアンサンブルに立体感を持たせている。照明も控えめながら相変わらず凝っていて、この曲ではオレンジの逆光で“トンネルの灯り”を表現し、次の「Dont' Break My Heart」になると、高さを変えて吊るされた複数のランプがゆっくりと瞬き始める。ジュディ・シルを思わせる、ここ最近の彼女のレパートリーの中でも屈指の名曲を、さらに幻想的に演出していた(フェイクのホーリーな響きは、美しくて身震いがするほど)。かと思えば、バックスクリーンに木の葉のシルエットを映し出し、1stミニアルバム『手のなかの鳥』の世界観を表現。うららかな曲調と、喩えようもなく孤独な歌詞、優しく包み込むような歌声がないまぜになって琴線を揺さぶる「霞草」には、しばし放心状態となった。

「Autumn Moon」を演奏した後、彼女がピアノを弾いた新曲「Sigh」は(一度トチッって最初からやり直す)、ジョン・ブライオンのようなコード進行と、ジェーン・バーキンのようなファルセット・ヴォイスが狂おしいほど切なく胸を刺す。続く「Apple Tree」は、歪みまくったベースとハネるドラムが中期ビートルズ〜ヴェルヴェット・アンダーグラウンドを彷彿とさせ、さらにエイミー・マン(ジョン・ブライオンの元恋人)の「Wise Up」(映画『マグノリア』の中で印象的に使われた名曲)をカヴァーするという流れは、個人的にこの日のハイライトだった。これまでも「Blackbird」や「Lucy In The Sky With Diamonds」など、ビートルズのカヴァーを積極的に演奏してきた清水だが、ここまでビートリー全開なのは久しぶりじゃないか(2年前のFEVER以来?)。

ボサノヴァ風に料理したジョニ・ミッチェルの「Both Sides Now」のあと、レイドバックしたリズムがスケールを感じさせる「Universal Mind」へ。さらに名曲「Suddenly」、『A Golden Wheel』のボーナス・トラック「虹色の風」とたたみかけ、ここで「給水ポイント」と称してビールを一口すすって終盤へ。印象的だったのは、やはりジョン・ブライオンやショーン・レノンを思わせる「Hope & Peace」。“#01”のときは、「アレンジが2日前に完成した」と話していたこの曲も、繰り返しライヴで披露したことによりブラッシュアップされたようだ。

極めつけは「Breakwaters」。音源では、静謐なアコギの弾き語りだったこの曲が、ドラムとベースも加わりミドルテンポのアーシーなフォークロックに。しかも、後奏ではドラムとベースがバーストし、カオティックな轟音へとなだれ込んだ。ついにPredawnもシューゲイザーに!? あとで清水本人に聞いたところ、この日の裏テーマは“エモ”だったそうで、それを象徴していたのがこの曲のリアレンジだったと思う。

本編は「Free Ride」で終了。アンコールは「Milky Way」「キャンバスシューズ」そして「Sheep & Tear」を演奏し幕を閉じた。

どこか遠い場所の、遠い時代に迷い込んだような“Nectarian Night”。今宵の“#02”は、華やかだった前回に比べてとてもパーソナルかつ、ハードコアな内容だった。スパークルホースことマーク・リンカス直系の、この“エモ”な部分がPredawnの音楽の核にあるからこそ、いわゆる“癒し系”とは違う響きを常に持ち続けていられるのだろう。

TEXT:黒田隆憲(「SHOEGAZER DISC GUIDE」監修)
PHOTO:Tetsuya Yamakawa