2015年にデビューしたバンドの中で今最も勢いのあるバンドが、Mrs. GREEN APPLEではないだろうか。7月にミニアルバム『Variety』でメジャーデビュー以降、数々の大型夏フェスにも破竹の勢いで参戦。9月に渋谷WWWでの初ワンマンを即完させたかと思えば、12月には東名阪ワンマンツアーのファイナルを恵比寿LIQUIDROOMで飾った。そんな猛烈なスピードで上昇中の彼らが、1stフルアルバム『TWELVE』をリリースする。高まり続ける周囲の期待をさらに上まわるような、珠玉の名曲を満載した快作を作り上げた5人に迫るインタビュー。
●2015年7月にメジャーデビューしてから猛烈なスピードで駆け上がっている印象がありますが、自分たちとしてはどういう感覚なんでしょうか?
大森:自分たちの環境や意識的なものは特に変わっていないと思うんですけど、やっぱり期待してくれる人が増えた感じはしますね。ライブでも自分たちがステージに登場する段階から、お客さんがすごいエネルギーで迎えてくれていて。そういうところは今までと違うなと実感しています。
●ライブの会場もどんどん大きくなっていますが。
若井:ありがたいことに、大きな会場のイベントに呼ばれることも多くなりましたね。夏フェスも色々と呼んで頂いて…。
山中:2015年は4本、出させてもらいました。
大森:ワンマンに関しても年末(2015/12/24)は恵比寿LIQUIDROOMで、2016年4月には赤坂BLITZも決まっていたりして、自分たちでも想像できないようなスピードで会場が大きくなっていますね。(そのスピード感に)ついていくのに必死だった2015年だと思います。
●その間に今回のアルバム制作もしていたわけなので、色々と大変だったのでは?
大森:大変でしたね…。夏はフェスに出演しながら、赤色のグリッターとのツアーもあったりして、その中でレコーディングをしながら制作していったんです。もう8月〜9月頃の記憶がない…っていうくらい制作は大変でした(笑)。だからアルバムを作るとなってから一気に曲を作ったというよりは、今まで温めてきた曲というのも今回の作品には入っているんですよ。
●ライブでずっとやってきた曲や初期の曲も入っているので、これまでの集大成的な意味もあるのかなと。
大森:そうですね。過去とこれからをつなげられる作品にできたらなと思って制作を始めました。
●アルバム全体のヴィジョンはあった?
大森:「こういうものにしよう」というのはなかったですね。作っていく上で自分たちも模索しながら、答えを最終的に見つけられるような作品にはしたいなと思っていました。M-10「InTerLuDe 〜白い朝〜」を除くと12曲なんですけど、1曲1曲がアルバムだというくらいの気持ちで書きたいなと思っていて。それぞれが12個の概念だという感じで考えていった時に、『TWELVE』というタイトルが思い浮かんだんです。
●12曲というのは最初から想定していたんですか?
大森:そこは最初から固まっていた部分でした。いっぱい詰め込みすぎるのも違うし、12曲というのが今の僕らの中で一番きれいな数なのかなと思って。
●楽曲のセレクトは、みんなで話し合った?
大森:いや、基本的には僕から「これはどう?」と提案していく感じでした。今作に関しては、僕がミセスを組む前に書いた曲も入っていて。そういう試みは初めてだったので、「こういうふうにしたいんだ」という相談は事前にメンバーとしましたね。
●メンバーも初めて聴く曲があったりする?
髙野:M-5「キコリ時計」に関しては、僕は今回初めて聴きました。他のメンバーはデモの段階で聴いたことがあるかもしれないんですけど、僕は加入したのが2014年なのでそれ以前の曲は知らないものもあったりして。
大森:中3〜高1くらいの時期に作った曲なので、まだ若井(G.)ともバンドを組む前で。でも友だちとしては一番近い存在だったので、若井は聴いてはいたんじゃないかな?
若井:聴いていましたね。でもそこから今回のアルバムに入るとなって、またリアレンジされたり、いっぱい楽器の音が加わったりしているんです。
●元々の形とは違う?
大森:全然違いますね。当時は頭の中で鳴っていてもそれをアウトプットするということができなかったので、イビツなパズルのピースを頑張って無理やりハメている感じがあって。でも今回は何を鳴らしたいというのが頭の中にあって、それを1つ1つ形にしていけたんです。たくさん楽器を使ったりもして、当時思い描いていたヴィジョンに近いものはできたのかなと思います。
●頭の中にある音を今回は具現化できた。
大森:やっとアウトプットできるようになったのかな。自分でも「成長したな」って思います。
若井:元貴(大森)が本当にこの曲で鳴らしたい楽器たちが入っているなというのは、今回のデモの段階から感じていて。それをちゃんとアルバムに落とし込めたのはすごく大きいですね。
●今作の中では「キコリ時計」が一番古い?
大森:M-4「藍(あお)」も同じくらいの時期に書いたんですけど、一番古いのは「キコリ時計」ですね。
●「藍」とM-12「HeLLo」は自主制作盤の1stミニアルバム『Introduction』にも入っていたわけですが、この2曲を再録した理由とは?
大森:自主制作盤を作っていた時の気持ちを忘れたくないというのと、当時やっていた曲を今鳴らすとどうなるのかという興味もあって。『Introduction』はライブ会場限定販売で枚数も限定だったので、いつか復活させたいなとは思っていたんです。そこで今回、「藍」と「HeLLo」の2曲が復活するのが美しいかなと思って入れました。あと、『Introduction』の中でもライブ感のある2曲だったので、今回もそういった面を大事にしようというところで復活させましたね。
●『Introduction』のバージョンから、アレンジも変わっていたりする?
大森:「藍」は、アレンジじゃなくて“リメイク”と言っても過言じゃないくらい変えました。今回の「藍」では若井がずっとタッピングしていて。当時からそのイメージはあったけれど、(技術的に)できなかったんです。そういう部分でのもどかしさみたいなものも今回は打破できたんじゃないかな。
若井:元貴が(元々の)「キコリ時計」の時に上手くアウトプットできなかったように、自分も当時はできなかったことが今はできるようになってきました。
藤澤:この曲では、僕もアコースティックピアノを弾いていたりして。自分のピアノに関しても、この曲を通して成長できたら良いなと思っていたんです。「この曲で成長する!」というのをそれぞれが掲げて臨めた気がしますね。
●リズム隊の2人はどんなことを意識しましたか?
山中:『Introduction』の時は簡単なリズムパターンが多くて、そんなに低音が出せていなかったんです。でも今回はパターンが難しくなったり、重低音を担うタイトな重さというのが出せるようになったと思います。
髙野:『Introduction』の時はまだ僕は加入前だったんですけど、その頃と曲の構成自体は変わっていなくて。上モノがすごくテクニカルなことをやっているので、それをベースとドラムでしっかりと支えるというか。グルーヴ作りみたいなところにはこだわりました。
●逆に「HeLLo」のほうは、そこまでアレンジを変えていない?
大森:全く変えていないです。当時のものを残そうとしたんですけど、逆に“変えない”ことの難しさがハンパじゃなかったですね。“あの時の感じ”みたいなものがサウンドに出てこなくて、すごく大変でした。
若井:何回録ってもその感じが出せなかったので、みんなで散歩に行ったんです。
●散歩?
山中:気持ちを切り替えるために…。
若井:あの時の気持ちを思い出しながら散歩して、スタジオに帰ってきてからまた録ったっていう。
大森:「あの時の気持ちを思い出す」と言っても、髙野は当時まだいなかったんですけどね(笑)。
髙野:僕は想像するしかなかったです(笑)。
●ハハハ(笑)。あの時の気持ちというのは、初期衝動感みたいなもの?
大森:そうですね。「HeLLo」はすごくシンプルな曲なのでアレンジを変えちゃうと、全然違う曲になっちゃうのかなと思って。「藍」は(当時とは)違う良さみたいなものを出すというコンセプトだったんですけど、「HeLLo」は今の自分たちが手を加えると違うものになりすぎちゃうというか。当時のものを否定しちゃう気がしたので、当時のままでアレンジも何も変えずにやりました。
藤澤:『Introduction』の時は自分たちにとって初めてのレコーディングだったのもあって、良い意味での荒削り感もありつつ「一生懸命やらなきゃ!」という感じだったんです。でも今回の場合は、ライブでも随分やってきた曲だから演奏自体はできるんですけど、曲として大切なものを持っていない感じがしたというか。気持ちを込めることがいかに大事かというのを、このアルバム全体を通じてみんなが共有できた気がしますね。
●気持ちを込めて演奏しているので、楽曲への思い入れも深くなるのでは?
藤澤:完成した後に自分で客観的にこのアルバムを聴いてみて、M-9「SimPle」はすごく大事な存在だなと改めて感じたんです。問題とか悩みって絶対に抜け出せる道があるし、そんなに難しく考えることじゃないと思って欲しいんですよね。だから、この曲はすごく楽しくて明るい楽曲というのをみんなで意識しながら録って。特にこのアルバムでミセスと初めて出会った人が「SimPle」を聴いた時に、「1曲目からもう一度聴き直したら自分の考え方が変わるんじゃないか」と思うんじゃないかなと…。
●この曲にはそういうメッセージ性がある?
大森:悩みごとも含めて全てのものは、意外とシンプルに構成されていると思うんです。「あなたの悩みもシンプルだよ。あとは自分がどう動くかだ!」ということを歌っていますね。全曲、根本的なコンセプトはそこにあるかなと思っていて。だから、ある意味で「SimPle」がこのアルバムの核というか。一番最後に書き下ろした曲なんですけど、そのピースがハマったからこそ『TWELVE』が完成したんだと思います。
●作品自体のラストを飾るのはM-13「庶幾の唄」ですが、これはどんなイメージで?
大森:“毎日は奇跡だ”というか。これまでのミニアルバムでは最後に何か考えさせるというか、大きい(テーマの)曲で毎回終わっていたんです。でもこの曲は陽気な感じで、最後に“では また会いましょう”という歌詞もあったりして。“陰”の部分というか、ちょっとヒリッとしちゃう曲が今回は多かったので、最後に自分たちが持っているハッピーな部分を出すことで今までとはまた違った聞こえ方になれば良いなと思って「庶幾の唄」を入れました。
●アルバムを作り終えてみての感覚はどうですか?
大森:自分たちが思っていたよりも大きなアルバムになったなという気がしていて。「次の作品を作るのが大変だね」という話をレコーディングが終わった瞬間にメンバーとはしていました。虚無感で、作り終えてから1週間くらいは音楽を聴かなかったですからね(笑)。そのくらい色んなものが(自分の中から)出ていった盤なんです。
●出しきれたというか。
大森:そうなんですよね。今までで初めての感覚かもしれないです。
山中:録る音やフレーズについても妥協せずにその時点で自分のできるもの全てを詰め込んだというか。そういう意味で、今までの集大成にもなっていると思います。完成したものを聴いた時は、普通にリスナー的な感覚で「良いアルバムだな」と思ってしまって。まるで自分じゃないみたいな感覚があって、とても不思議な感じがしましたね。だから余計に「次がわからないな」と思いますね。
若井:それぞれが色んなことに挑戦したアルバムなので、「次回作では何をしようかな?」と考えるキッカケにもなるのかなと。そういう面でも、次につながるアルバムかなと思います。
●まずはリリース後のツアーで、今作の曲を聴くのが楽しみですね。
大森:『TWELVE』というアルバムがライブでどう表現されるかというのは、僕らにもまだわからないところがあって。緊張や不安もあるけれど、「楽しみだ」というのが今の気持ちを100%表している言葉なんじゃないかな。ツアーが本当に楽しみです。
Interview:IMAI