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COMIN’KOBE16

世界一感情が忙しいイベント“COMIN'KOBE”が教えてくれること

2016/5/7@神戸ワールド記念ホール、神戸国際展示場1号館、2号館、3号館(4会場同時開催)

main_IMG_9037“COMIN'KOBE”は、毎年神戸で開催されている日本最大級の無料チャリティーフェスだ。今年で12回目となるこのイベントは、シーンの最前線を駆け抜けるメジャーアーティストから今後の活躍が期待される要注目のインディーズバンドまで百数組の出演者が存在し、毎年数万人の動員を誇る、もはや神戸の人のみならず全国の音楽ファンにとってなくてはならない存在となっている。その素晴らしいイベントを主催しているのが、COMIN'KOBE 実行委員会 代表の松原 裕 氏(36)。彼は神戸でライブハウスを運営したり、音楽レーベルやスタジオ、グッズ制作会社や飲食店などを経営したりしている、職業を聞かれたら何と答えたらいいかわからない人物トップテンに入りそうな存在だ。ただ間違いなく言えるのは、たくさんのアーティストや音楽ファンから絶大な信頼を寄せられ、愛されているということ。ゆえに親しみを込めて“神戸に咲く一輪のバラ、松薔薇”と呼ばれていたりする。

そんな松原さんが、腎臓ガンであると発表されたのが今年4月のこと。しかも進行状況は5年生存率10%というステージ4。このことに、どれだけ多くの人がショックを受け悲しんだか…前述の文章を読めば想像に難くないことと思う。それでも本人は悲観せず「絶対跳ね除けてみせます!」と力強く答えた。“結果を決めて努力で帳尻”という自身の座右の銘に則って戦うことを決めた彼が、命を懸けて作り上げているイベント。それが“COMIN'KOBE”なのだ。

そして迎えた当日、まずはどこよりも早く開演するひとぼうStageで、本年度カミングライダーのこんそめぱんち 木村が弾き語りをする。盛岡〜神戸を自転車で横断し、“COMIN'KOBE”を広めながら歌い続けた木村は、旅の課程で生まれた想いを音に乗せて伝えていく。そこで観客と共に松原コールを巻き起ったときは、“今日は絶対に最高の一日になる!”と確信した。その後、花団のVo.塚原一繁による宣言をもってイベント開会! ところで花団って本当に解散してるんですか?

続いてビジュアルアーツ「R」Stageにて、近石涼のステージへ。彼はYouTubeで公開しているBUMP OF CHICKENなどのカバーが話題を呼んでいるシンガーだ。透き通っていて優しくて、それでいて力強い伸びやかな歌声は非凡の才と言えるだろう。近年のライブは人間性やエンターテインメント性にウェイトが増してきており、私自身それを好ましくは思っているが、だからこそ純粋に歌声で惹き付けることのできる人物の素晴らしさが際立っているように思う。彼はそれができる希有な存在だ。歌の世界にどっぷりと浸れる、そんな音楽を堪能する。そこからESP BLACK Stageへ移動してHORIZICのライブを拝見。ロッカーという在り方をそのまま示したかのような、ドストレートなロッカー然としたバンドだ。「よく“変わらないね”って言われます。違う、変われなかったんです。このままいくよ!」。そんなVo./G.たかぼーの言葉は、不器用で、だけどとてもまっすぐで眩しかった。

“今だけ写真を撮れ”という張り紙を持って登場した密会と耳鳴り。メンバー4人がセンターに並び揃うと、オーディエンスがさっとケータイを構え撮影する…まるで人気モデルのファションショーみたいな光景だ。そして持参したウサ耳を客席に投げ込むと、当たり前のようにファンがそれを受け取って装着しライブがスタート! ほんの1分程度のやりとりで、バンドとファンの信頼関係が伺える。彼女たちの楽曲は変拍子でマニアックなリズムであるのに対し、その歌詞はキャッチーでコール&レスポンスが非常に楽しい。男顔負けの頼もしさを感じるのに、絶対に女性にしか出せない独特の雰囲気があるのも印象的。四星球は「今から1曲目の途中でやるネタのリハをします!」と、リハーサルで早々にライブのネタバレをする(笑)。本番の前から、つかみもバッチリなあたりは流石歴戦のライブバンドだ。そして1曲目の「Mr.Cosmo」では、小道具をふんだんに活用しつつ、予告通りネタを披露し(かつ一部変更して意表を突きつつ)会場を盛り上げる。「ひとつだけルールを設けます。僕らがたくさん笑わせるので、笑った分だけ募金してください」という発言の後、“UFO降りてこい”という定番のシンガロングと共に宇宙人に交信する場面では“ガン細胞どっかいけ”と松原さんの快復を祈願。このイベントに込められた想いや、無料で開催を続ける意味をしっかりと受け止め、自分たちなりのやり方で発信していける人たちだ。

GOOD4NOTHINGにかかれば、数千人規模のキャパを誇るBASS ON TOP Stageもライブハウスへと変わっていく。1997年から活動しているベテランであり、自身も“堺のオッさん”と名乗る彼らだが、ライブ中の姿はいつだって若々しい躍動感に溢れていて弾けるような生命力がほとばしっている。流れる汗までキラキラしているようで、ノンストップで駆け抜けるステージはまさに“生きている”という意味でのLIVE感に満ちた時間だ。ヒーローと呼ばれるような、誰かにとっての憧れの存在になれるのは、こういう人たちなんだろうなと思う。ワールド記念ホールへ向かう道中、太陽の風 Stageではクリトリック・リス(通称スギム)がオーディエンスの視線を釘付けに。パンツ一丁というギリギリな風貌と“下ネタのナポレオン”というギリギリのキャッチフレーズに違わない歌詞を含みつつも、金がないため東京への移動に新幹線が使えず深夜バスで移動するという内容の「BUS-BUS」、同年代の友人たちと自分を比べて焦る気持ちを綴った「1989」のような、人生の不安を赤裸々に歌う曲には共感を禁じ得ない。ちょうど何年か前にもこのイベントで、彼のライブを観たことを思い出した。そのときスギムが股間をまさぐりながら歌っていた「バンドマンの女」に感銘を受けたこと、そして今も変わらず感動できることに嬉しさを感じながら、World ROKKO Stageへ。

自分たちを育ててくれた大切な人の為に。そんな想いを込めて、1日限定で復活を果たしたEGG BRAIN。「今日は3人にとって大切な1日になりました。ありがとう松原さん」。Vo./G.ジョーイが告げ演奏を始めると、3ピースとは思えない骨太で重厚なサウンドを次々と差し込んでいく。約1年ぶりのライブということで、オーディエンスのテンションも尋常じゃないのだろう、1曲毎にイントロが鳴った瞬間の歓声がすさまじい。その音楽に夢中になっているからだろうか、「歌おう」「踊ろうぜ」というシンプルな呼びかけがすぅっと身に入っていく。そして「ひとつになろうぜ」という言葉ののち演奏が止まり、響き渡る“YEAH”の声。私の知る限りもっともシンガロングの気持ち良いバンドである彼らの歌が、辺り一帯に広がっていく光景は鳥肌モノだ。そしてラストの「SEVENTEEN」で、ステージとフロアの結びつきはより強固になった気がした。次いでビジュアルアーツ「R」 Stageで見たThe Winking Owlは、壮大なスケールの音楽で聴く者を魅了する。高い技術力を持って表現される楽曲は、キャッチーでありながらどこか気品の漂うラグジュアリーな雰囲気をまとっており、そこにVo.Luizaの歌声が乗ることで誰にも真似できないオリジナリティを作り出していた。圧倒的な実力を持ったうえで、他者に向けて開けた楽曲を撃ち込む彼らだから、新しい世界を切り拓いていけるのだろう。

ところは再びWorld ROKKO Stageへと戻って、グッドモーニングアメリカのアクトを待つ。彼らは毎回、入場からして趣向を凝らしたネタを何かしら仕込んでくるため、頭から終わりまで見逃せない。この日は“ROKKO” Stageにちなんで、「六甲颪(ろっこうおろし)」を歌いながらトラの着ぐるみを着たBa.たなしんが先陣を切ってやってきた! オーディエンスをかき分けながら、ステージを目指して颯爽と着ぐるみや靴下を脱ぎ捨ててひた進んでいき、やっとこさ1曲目「空ばかり見ていた」へ。現代人の誰もが思っている疑問、葛藤、憤りなどを思想として具現化した「アブラカタブラ」を経て入ったMCで、Vo./G.金廣が言った「未来が笑顔に溢れるものであるように願って」という言葉は、胸の奥まで響くものがあった。そこから披露された「輝く方へ」「未来へのスパイラル」は、いっそう深く突き刺さり、またステージ上からも感情が溢れ出ているように感じられた。続いて対面のWorld MAYA Stageに、黒いスーツをビシッと着こなしたLACCO TOWERが華麗に登場。艶やかなピアノロックサウンドは、寂寥感・激情・きらめき…そういった人間の繊細かつ複雑な感性を刺激するような情緒を匂わせ、心奥を震わせる。Vo.松川が全身を使って感情を表現する様はさながら指揮者のようで、その動きでもってフロアの空気を操っているみたいだった。ライブ後半、「神戸の素晴らしい人たちにこの曲を」と披露されたのは珠玉のメロディアスナンバー「薄紅」。松川の地元である神戸で歌われたその曲は、美しいメロディで人情の機微に触れ、内側から揺さぶる音楽だった。そして今年は、セックスマシーンがメインステージに参上! 冒頭から単純明快な史上最強のラブソング「サルでもわかるラブソング」で一気にボルテージを上げていく。シンプルで短い曲ながらワンセンテンスごとにグッとくる「久しぶり!」の後、「俺は君の未来をこれっぽっちも心配していない。ただただ大丈夫だろうなという曲」とVo./Key.森田が告げて贈られた新曲の「新世界へ」。バンドもお客さんも汗でぐちゃぐちゃになりながら一緒になって歌ったり飛び跳ねたり…よく考えると、“ライブ”って考えれば考えるほどすごい時間だ。「ライブハウスじゃこんなことが毎日のように行われている(森田)」と言われたとき、改めてライブハウスの素晴らしさを知った気がする。最後は松原さんが経営しているライブハウス、太陽と虎に向かってシンガロング!

一昨年は四星球・MONOBRIGHTと共に1ステージを作り上げたり、去年は“イスズPANベーカリー”という名前で出店したり何かと話題になっていたPANだが、正式な出演はなんと3年ぶり! 今日も「Z好調」なステージングでフロアを沸かし、自己紹介がてらお馴染みのパン投げでオーディエンスの心をキャッチすると、今度はVo./G.川さんが「COMIN'KOBE」というタイトルで即興の弾き語りソングを歌ってみせる。“四星球もセクマシも大きいステージなのに 俺らはちっちゃいステージ”などと笑いを交えつつ、今日にまつわる歌詞を音に乗せていく。「21年やっていてホンマに良かった。今がいちばん楽しい」。そんなメンバーの言葉を噛みしめつつ「想像だけで素晴らしいんだ」を聴くと、どうしようもなく感じ入るものがあった。想像だけで笑えたり泣けたりするくらいの光景を、彼らは現実にしてくれる。この日のアルカラは、「アブノーマルが足りない」から「キャッチーを科学する」へ、まったく途切れないまま絶妙な繋ぎで繰り出していく。経験に裏付けされた演奏力と、幾多の場数を踏んだ人間だけができるライブは何度観てもドキドキする。何より彼らのすごいところは、ただカッコいいだけでなく、ただ面白いだけでなく、そこに含蓄があるところだと思う。「今日はチャリティーイベントや。稲村さんは大人やから皆まで言わん。自分で考えてやることをやろう。それと明日は母の日です」。あとはわかるでしょと言うように告げられた言葉は、多くの人たちに“キッカケ”を作ったことだろう。

ここでいったんワールド記念ホールから離れて、KissFM Stageへ向かうとSWANKY DANKが「Listen to the Radio」ですさまじい熱量を放出していた。速さ、音の勢い、ポジティブ感、カッコよさ…そんなライブキッズが求める要素が全て揃っているグッドミュージックを聴くと、これぞ究極のポップパンクだと声を大にして叫びたくなる。「みんなと想い出作りたいから、デッカいサークルを作ってくれ!」。そんなメンバーの声に応えるようにできあがった、巨大な円の尊さがその気持ちを物語っていた。FABLED NUMBERはCLUB MEETS LIVEHOUSEというような、打ち込みのエレクトロサウンドをバンドに上手くブレンドしたダンスナンバーが目白押し。「今日はTシャツをびちゃびちゃにして帰れ! 俺らは革命を起こしにきたんや!」というセンセーショナルな発言は決して大言壮語などではなく、それに恥じないハイセンス&ハイクオリティな楽曲ばかりだ。近い将来、日本の音楽シーンに席巻するであろう彼らのFABLED(伝説的)なライブの目撃者になれたことを誇りに思う。

ヘヴィなサウンドとシャウトに引き寄せられるように近付くと、そこにはAnother Storyが荘重たる佇まいで存在していた。世界レベルの演奏力と唯一無二の色を持ったボーカルが印象的で、どこかファンタジックな世界観を作り出している。「世界にありったけの愛と憎しみを込めて」と言って歌われた曲には、ダークな雰囲気の中にえも言えぬ美しさがあった。そのまますぐ右手にあるBASS ON TOP StageにはDizzy Sunfistの3名が現れ、のっけからキラーチューンを連発しフルスピードで駆け抜ける。身の丈ほどの楽器をかき鳴らしながら歌うVo./G.あやぺた&Vo./Ba.いやまの女声ツインボーカルと、リズム&コーラスでそれを支え彩るDr./Cho.もあいの組み合わせは相性バッチリ。一音一音の爆発力がハンパない。これだけパワーのある若手がいるのだから、パンクロックの未来も明るいというものだ。観るたびにどんどん増している、天井知らずのライブ力はまだまだ成長していくに違いない! 2014年から2年振りのHEY-SMITHは、もはやライブハウスシーンの重鎮としての風格・オーラを放っていた。ゴリゴリのギターリフやブラスの華やかな張りのある音色など、タフなアンサンブルが音の厚みを感じさせる。そこから裏拍のカッティングが小気味よいAメロとサビの開放感がたまらない「True Yourself」、そこはかとなく色香の漂うアダルティな新曲「Dandadan」、フル英詞ながら前向きなメッセージを感じる「Jump!!」など、力強くバイタリティに満ちた楽曲を続々と投入。本当にパワーのあるバンドは、オーディエンスのパワーを何倍にも引き出してくれる。だからそんな彼らに「俺はあいつ(松原)がいなかったら神戸がこんなに復興していたとは思えない。3分だけお前たちのパワー、あいつを思って向けてくれ」と言われたとき、客席から凄まじいエネルギーが生まれたのだろう。

いまや押しも押されもせぬ人気を得たキュウソネコカミは、兵庫の若手を代表するバンドのひとつだろう。「難しいことは言わん。自分のできる範囲で、困っている人がいたら手を差し伸べろ」。Vo./G.ヤマサキの言葉を皮切りに「ウィーアーインディーズバンド!!」からスタート!! “音楽で飯は全然食えない”という歌詞のこの曲も、曲の間に黄色い声が飛び交う今聴くと改めて感慨深いものがある。そしてまた、彼らも神戸の若手代表として次世代を担う力を秘めている。2013年以来、毎年出演しているステージのトリを務めているドラマチックアラスカだ。「無理無理無理」ではG./Vo.ヒジカタがステージ前方に乗り出してオーディエンスを煽ったり、「ニホンノカブキ」では、歌舞伎が始まる前のように拍子木(カチカチ音がなる木)を叩いたり…昨年と比べて魅せるライブに磨きがかかり、ステージ上の姿はさらに輝きを増していた。ますますライブの幅を広げながら、それでもまだ伸びしろの限界が見えない、可能性の塊だ。

この時間になると、会場に残っているほぼ全ての人々がワールド記念ホールに集まりだしたのではないだろうか。そんな中で舞台に立ったのは、ガガガSPと並んで“COMIN'KOBE”皆勤賞のワタナベフラワー。オオトリに最高の状態でバトンを渡すべく、“楽しいかどうかじゃなく、楽しもうとする気持ちが大事”という信念のもと、「ゴーゴーレッツエンジョイサマー」「わーい」と最高にワクワクするロックンロールを届けていく。イベントとも松原さんとも深い関わりのあるバンドだからこそ、MCで語られたVo.クマガイの言葉が沁みた。「まっちゃん(松原)に電話越しで病気の話を聞いて、泣きながら「頼むからネタにしてくれや」って言われました」。普段はチョケた友達にこんなことを言われたら、自分ならどう思うだろう。「まっちゃんは今この瞬間生きています。みんなもそう、僕も生きています。明日死ぬかもしれません、それはみんな同じです。もしまっちゃんにあったら、「今日は楽しかった」って言ってあげてください」。大好きな人たちに、涙ながらにこんなことを言われたらどうするだろう…最後に彼らが歌った「一生懸命はやめられない」に心が動かされた人が、きっとたくさんいたことだろう。なぜなら、発信する者にもそれを受け取る者にも、“一生懸命”があったからだ。

“君の時間をすこしだけ僕にくれよ 見せたいものがあるのさ”。Vo./G.コザック前田が、真心を込めてアカペラで歌う。遂に“COMIN'KOBE16”のオオトリ、ガガガSPのライブが始まった。「人生の最盛期を自分で決めるやつが多い。俺も昔はそうやった。でも、12年連続でここに立たせてもらってるってことは、今が最盛期ちゃうんか!」と言って歌われた「青春時代」。「さよならなんてしたくないよな!」と本当は別れたくないからこそ叫ぶコザックの“さよなら”が刺さった「卒業」。1曲ごとにMCを挟みながら、一言一言にありったけの想いを乗せてしっかりと伝えていく。ここで感極まったのか、早くも松原さんを呼び入れるメンバーたち。すると突然、2階席に大きな布のようなものバッと掲げられる。それはガンと戦う彼へ向けて、応援のために作られた横断幕だった。“松原さんのために何かできることはないか”を考えた人々が、本人にバレないようこっそりと自発的に作った幕は、アリーナの端から端まで届くほどのサイズにも関わらずビッシリとメッセージで埋まっている。とりもなおさず、松原 裕という男がいかに大勢の人に愛され、その者たちの心と体を動かす力のある人物なのかという証明だろう。いろんなバンドがいろんなライブをして、またオーディエンスがいろんな表情を見せて、松原さんは「感情が忙しかった」と言った。これほど“COMIN'KOBE”というイベントを端的に表す言葉はないと思う。その後も全力でなりふり構わず、溢れ出る衝動のままに叫ぶ姿に突き動かされるように、「線香花火」ではステージ横から真剣な面持ちで見つめていた出演者たちも表舞台に上がり共に熱唱する。ライブを楽しみたい気持ち、松原さんを応援する気持ち、音楽が好きな気持ち。そして、そんな感情を生み出す“COMIN'KOBE”という場所を愛する気持ち…オーディエンスもアーティストもスタッフも含めて、会場にいるすべての人の気持ちがひとつになった。

12年開催されるなかで、もはや神戸にとって必要不可欠な大切な場所として、当たり前のものとして存在する“COMIN'KOBE”。だけど、それが存在するためには誰かが指揮を執ってやらなければならないことがたくさんある。例えば場所を押えて交通面 / 警備面の手配をして、無料で開催するためにスポンサーを募って、当日の出演者のケアやアクシデントのフォローなど膨大な仕事をこなし、予想だにしない問題があれば解決するための手だてを講じなければならない。当たり前のことを成り立たせるためには、すさまじい努力と労力が必要なのだ。考えてみればそれこそ当たり前のことなのだが、当たり前だからこそ普段は意識しなくて気付かなかったりする。意識しなくても当然のように存在するから、そのことに対して感謝の気持ちを忘れてしまったりする。だけどタチの悪いことに、大抵それらの大切さに気付くのは当たり前が崩れてしまった後だ。

“COMIN'KOBE”は、それらが崩れる前に大切なものに気付かせてくれる。じゃあどうやって気付かせてくれるかというと、それは“好き”というエネルギーが“キッカケ”を生み出すからではないだろうか。例えば自分の好きなアーティストが「“COMIN'KOBE”のために力を貸してほしい」と言えば、きっとファンの人たちは力になりたいと思うだろう。では何故アーティストがそう言うのかというと、“COMIN'KOBE”が、松原さんが好きだからだ。結局のところ、人間は好きなものにしか真剣になれないと私は思っている。逆に言うと、好きなもののためなら必死になって考えるし、どんなに大変なことでも行動に移せる。大勢の人たちが松原さんのために横断幕を作ったのも、きっとそういうことではないだろうか。

早い話が、私は“COMIN'KOBE”が好きなのです。私にはステージに立っているバンドたちみたいにカッコいい姿を見せてフロア全員の心を動かすことはできないし、松原さんのように街ひとつを巻き込んでイベントを作っていける力もない。だけど大好きな人たちが作る、大好きなイベントのために何かできることをしたいから、この文章を通じて1人でも多くの人に“COMIN'KOBE”を好きになってほしい。このライブレポートは、ただそれだけのために書いた9000字の短冊のようなもので「“COMIN'KOBE”を好きになってもらう」という、要約したら22文字で収まるような願いを、ちょっとでもたくさんの人に興味を持ってもらえるように考えて工夫した絵馬なのです。つまり読んでくれた人は神様です。どうかたくさんの神様が、この願いを叶えてくれますように。

TEXT:森下恭子