音楽メディア・フリーマガジン

Rhythmic Toy World

夢を現実に変えてきた仲間たちと共に 新たな景色を切り拓く決意と覚醒の歌

RTW_mainRhythmic Toy Worldの新章幕開けを高らかに宣言するような、ニューアルバムが完成した。昨年は1stフルアルバム『BUFFeT』をリリースし、“FREEDOM NAGOYA 2015”や“ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015”、“RUSH BALL 2015”など大型フェスにも多数出演した彼ら。大観衆を前に演奏するという経験を重ねたことは、4人の中に大きな“変化”をもたらしたようだ。これまではギターロックという枠の中で大きな振り幅を持った楽曲を発表してきたが、今作『「HEY!」』では攻撃的なサウンドにキャッチーなメロディというシンプルな表現に立ち返っている。それによって研ぎ澄まされた楽曲は、いずれも一聴しただけで初めて聴く人の心を射抜く強烈な殺傷能力を搭載。もっとオーディエンスと共に歌い踊りたいという意志を反映した楽曲は、かつてないほどのライブ感に満ちているのだ。歌の表現力をさらに増した内田直孝(Vo./G.)を筆頭にメンバーそれぞれが成長を遂げたことで、バンドは確実にネクストレベルへと突入した。普遍的でありながら唯一無二の独創性を放つ存在となったRhythmic Toy World、覚醒の一枚。

SPECIAL LONG INTERVIEW #1

「やっぱり大事なのはライブで。音源だけじゃわからない、そこにいるからこそ伝わるような空間を作れる楽曲が必要だなというところで、そういうものを作ろうと思ったんです」(内田)

●今回のアルバム『「HEY!」』は明確なテーマがあって、作り始めたそうですが。

内田:どういう作品にするかというところをまず決めてから、曲を選んだ感じですね。曲自体は前から作り貯めていたんですけど、選ぶ段階でアルバムのテーマに一番近いものを選んでいって。その基準がライブと直結している感じの曲というか、ライブが想像できる曲で。あとはバンドのキャラクターをそのまま反映したような曲…気取ったり背伸びしたりしていない、ありのままのバンド感をサウンドに昇華できればなと今回は思っていました。

●そういうものにしようと思ったキッカケとは?

内田:去年は前作の1stフルアルバム『BUFFeT』を出してからツアーをまわったのに加えて、初めて大型のフェスにも出させてもらって。その経験が、自分たちの見たい景色や作りたい景色に変化を与えたというか。こつこつとライブハウスをまわってお客さんを増やすというのは今までもやってきたことでもちろん大切なんですけど、それをやっていた時期も、自分たちの中で“大きなステージに立ちたい”とは思っていたんですよ。そういう場所に呼んでもらえるようになった時に、今度はそっちも今までとは別のラインとして戦っていかなきゃいけないステージになったんです。

●ライブハウス・シーンだけじゃなくて、フェス・シーンも新たな戦いの舞台になったと。

内田:「今年出られて、ラッキー。嬉しい!」だけで終わったら、意味がないから。これから死ぬまで出続けるくらいじゃないといけないし、そこで勝っていくためには自分たちに何が必要かと考えるようになったんですよ。そう考えたら、やっぱり大事なのはライブで。音源だけじゃわからない、そこにいるからこそ伝わるような空間を作れる楽曲が必要だなというところで、そういうものを作ろうと思ったんです。

●その空間をフェスの大きな舞台でも作れるような曲ということですよね。

内田:大きな会場だと僕らの一挙一動がお客さんから見えるわけじゃないから、そうなると歌詞やアレンジの部分で遠くにいる人まで1つにできるような曲が必要になってくる。しかもライブハウスでやっても、同じように楽しめる曲でないといけない。フェスでしか、ライブハウスでしかやれない曲というのがあったら、曲がすごくかわいそうじゃないですか。だったら、どっちでもやれるものを作りたいっていうところはすごく意識しました。

●ライブハウスでやっても、フェスでやっても盛り上がる曲を作ろうとしたと。

内田:やっぱりその2つがあまりにも乖離的だと、商業的な感じになってしまうじゃないですか。僕らはそんなふうにやりたいわけじゃなくて、片方があるからもう一方もあるというようなリンク感が必要だなと思ったんですよ。その時に一番大事なのは自分たちのバンドのキャラクターというか。そこを絶対にブレさせてはいけないということで、こういう作品を作ろうとなりました。

●そういうことをメンバー間でも話し合った?

岸:よりライブを意識して、お客さんにわかりやすい曲というか。“ここで手を上げる”とか“ここで声を出す”というのが伝わりやすい曲を作ろうということは、みんなで話し合いましたね。

須藤:前作のフルアルバムでは色んな幅を見せたんですけど、ライブのセットリストを考える時にちょっと組みづらくて。“こういうところにこういう曲があったら良いな”というところに、今作の曲はちょうど当てはまるんですよ。2枚合わせるとすごく密度が濃いものになったと思うので、ぜひ両方とも聴いて欲しいですね。

●前作と2枚合わせることで、相互補完している。

須藤:両方聴いて頂くと“Rhythmic Toy Worldって、こういうバンドなんだ”と明確にわかるというか。そこからどんどん未来につながっていくような感覚もあるから。

内田:今作には色んなタイプの曲が入っていて。ラップ調やメロコア調だったり色んなエッセンスが入っているんですけど、どれもすごくわかりやすい形で作られているんですよ。でも『BUFFeT』にはその色んな要素をもう少し深く突き詰めたものが入っていたというのが、面白いところで。

●先に出た作品のほうに、色んな要素を深く突き詰めたものが入っていると。普通は逆ですよね(笑)。

内田:今作を聴いて“ラップ調の曲とかもあるんだ”と思った人がさかのぼって前作の『BUFFeT』を聴くと、モロにラップの曲とかも入っているっていう(笑)。この2枚が対になっていることで、好きな音楽がつながっていくというか。そういう楽しみ方もできますね。

岸:(今作は)“名刺代わり”みたいな感じですね。今作を聴いて“さらに深く楽しみたい”と思った人は、前作も聴いてもらえたら“もっと色んな要素がありますよ”っていう。

●普通は1stフルアルバムが“名刺代わり”という場合が多いと思いますが…(笑)。

内田:僕らの場合は、ゲームでいうところの“やりこみ要素”ですね(笑)。それが僕らにとっての『BUFFeT』なんです。

●前作で学んだことを活かした結果、今回はこういう作品になったんでしょうね。

岸:本当にそうだと思います。

磯村:良い意味で、そこまで“カッコ良さ”を求めなくなったというか。今回は制作の時も“これってどうなんだろう? ちょっとダサいかもな…”というものも、あえて取り入れたりしたんです。“これで良いと思ったんだから、良いじゃん”と思えるようになってきて。

●変にカッコつけようとせずに、自分が良いと思うものを素直に出せるようになった。

内田:もちろん“カッコ良い曲を”という気持ちはあるんですけど、曲自体というよりは“その曲をライブで演奏している自分たちをどう見せるか?”ということのほうが大事かなと。CDだけ買って満足してライブには来てもらえないっていうのは、僕らみたいなライブバンドからするとすごく寂しいことで。CDで曲を好きになってくれて、ライブでさらに好きになってくれるというのが一番美しい形だと思うんですよね。だから“何をどういうふうにやっているか”というところをより強く出そうと思って。自分たちが楽しそうに気持ちよくやれているほうが絶対に良いライブができるはずだと思ったら、そういう曲になりました。

●自分たちは“ライブバンド”だというのが軸にある。

内田:最近はより意識していますね。ライブって、やっぱりエンターテインメントなんだなと思っていて。今までは演出を入れたりすることに対して“予定調和感があるのってどうなんだろう?”と思っていたんです。でもみんなを楽しませるために練習をして、“魅せる”っていうことにかけてきた時間とライブ本番をやる時の“喜んでくれるかな?”っていうワクワク感って、お客さんに対する気持ちとしては純度が相当高いと思うんですよね。たとえ予定調和感があったとしても、“何とかしてみんなを楽しませたい”っていう純粋な気持ちはステージからも伝わるんだろうなっていう。

●決してマイナスな伝わり方はしない。

内田:“これってダサいんじゃないか?”とか自分たちで色々と懸念している部分はあったとしても、お客さんは意外とそう思わないんじゃないかなって。音楽が好きな人たちのことをもっと信用しないとダメだなと。だからそこにエンターテインメント性みたいなものをどんどん乗せていくことは、ライブバンドとしては必要不可欠だなというのは感じています。

●ライブの見せ方も変わっていく?

内田:これから僕らのライブは、どんどん形が変わっていくと思います。“やれないことはないな”って思うんですよ。でも最初から“やれない”と決めつけてやらないのは、やれないのと一緒だから。“やるかやらないか”だったら、“やる”っていう。

 

SPECIAL LONG INTERVIEW #2

「“えっ、こんな曲だっけ!?”みたいな感覚があって。みんながすごく成長したんだなということがわかったし、本当に今の“カルテット”が奏でている感じがして感動しました」(岸)

●アルバムの収録曲の話に移りますが、M-10「カルテット」は初期の自主制作音源に入っていたものの再録なんですよね。この曲の歌詞を読むと、当時から数多くの人たちの前でライブをやる姿をイメージしていたのが伝わってきます。

内田:本当にそのとおりですね。「カルテット」を作ったのは4〜5年前で、当時はまだライブハウスにお客さんが10人来てくれたら嬉しいっていうくらいの状況だったんです。「大きな会場でライブをする時にこの曲で始まったら、すごく良いよね」みたいなことを当時みんなで話していたんですけど、その時に思い描いていたのは赤坂BLITZだったんですよ。ライブハウスの中では最大級なので、その時点では遠い場所なんですけど何とか掴めそうっていう、日々の励みになるような距離感があって。そこに僕らを観に来たたくさんのお客さんがいる前でやりたいっていう、未来の僕らに向けた曲を書いたんですよね。

●そして、遂に今回のツアーファイナルが赤坂BLITZという…。

内田:だから今回のツアーファイナルが赤坂BLITZに決まった時にどうしてもこの曲を入れたくて、“今しかない”と思ったんです。

磯村:「今が入れたいタイミングだ!」と言っていましたね。

●このタイミングを逃せないと。

内田:もう1段〜2段上のステージへ行けた時にこの曲をやっても、それは僕らのドラマではないというか。それは曲の勝手なドラマになっちゃうから。生身のドラマみたいなものをリンクさせたいということで、“今しかない!”っていう。メンバーやスタッフにもその気持ちを理解してもらえたので良かったです。

岸:この曲は昔からやっていたんですけど、今回入れるにあたって久しぶりにバンドで合わせたんですよ。そしたら昔とは全然違っていて、“えっ、こんな曲だっけ!?”みたいな感覚があって。みんながすごく成長したんだなということがわかったし、本当に今の“カルテット”が奏でている感じがして感動しました。

内田:“四重奏”ですからね。

●当時からこの4人でずっと続けてきているという部分も大きいのでは?

内田:確かにそうですね。もしメンバーが変わっていたりしたら、意味合いが変わってくるのかもしれない。「カルテット」というタイトルも相まって、“僕ら4人で一生やっていくんだ”っていう固い意志も入っているし、すごく熱い曲だと思います。

●しかも当時は赤坂BLITZをイメージしていたわけですが、今となってはもっと大きな会場でもイメージを重ねられる内容になっていると思うんですよ。

内田:僕もすごく大きな規模感を持っている曲だと思うんですよね。会場が大きければ大きいほど映えるんじゃないかって思えるくらいのポテンシャルを持っているというか。この曲をいざレコーディングするとなった時に、自分たちの中で最大のキャパシティがもっと上がっていたんですよ。作った当時は赤坂BLITZをイメージしていたけれど、今はたとえば大阪城ホールが浮かんでいたりするのが曲にも出ていて。昔の自主音源はやっぱり自信がなさそうな感じがするのに対して、今回の音源では“これを武道館とか横浜アリーナでやったらすごく気持ち良いんだろうな”と思えるんです。

須藤:昔のデモと比べると、確かにスケールがデカくなった感じがしますね。

●音にも自分たちの今の心境が反映されている。

磯村:昔の自主音源のほうが、背伸びしている感じはあったかもしれない。ストリングスが入っていたりしたのも、自信のなさの表れだったのかなって今は思いますね。今回は本当にバンドの4人だけっていうアレンジをしているんですよ。スタジオでこの4人だけで合わせた時に昔より勢いがあったし、「この曲には相当な可能性があるんじゃないか」と思えたから。内田が言ったように自分たちの想像しているステージがもっと大きくなっているので、曲は同じでも見える景色はスケールが大きくなっていて。4人でもう6年くらい一緒にやってきているんですけど、この曲は結成した当初くらいにできたんです。6年間温めた甲斐があったなと思うし、今回この曲をできて本当に良かったなと思います。

●実際にフェスでたくさんの人たちの前に立つようになったからこそ、よりスケールの大きな景色を思い描けるようになったところもあるのでは?

内田:何千人もの前でライブをやるっていうのがどういうことなのか、自分たちの身に沁みたというか。そこでしか得られない幸福感みたいなものが病みつきになっちゃって。だからずっとそこに立ち続けたいと思うし、そこに対して不誠実な態度で音楽はやりたくないなっていう気持ちも芽生えたんです。やっぱり、ありのままの姿で愛されるのが一番良いことじゃないですか。お化粧したりする努力も大事なんですけど、僕らが選んだのはすっぴんを愛して欲しいということなんですよね。

●包み隠していない状態で愛して欲しい。

内田:暑苦しいかもしれないし、泥臭いかもしれないけど、それでもクシャクシャになって笑いながら泣く…みたいな感じが僕らには合っていると思うんです。僕らが音楽をやっていて良かったなと思う瞬間って、そういう顔を見せてくれるお客さんが目の前にいる時だから。そこにより近く、自分たちの音楽があるようにというのが自分たちのテーマかなと。“Rhythmic Toy Worldというのはこういうバンドなんだ”というのをやっと理解できたというか。自分たちの中でもその答えをずっと探していたと思うんですけど、知らず知らずのうちに気付いていたというか。それを声に出して言えるようになったから、ここまで純度の高い状態で音楽に落とし込めたのかなって思います。

●M-1「あなたに出会えて」は内田くんの中では具体的な対象があって書かれた歌詞ということですが、この“あなた”をファンや応援してくれる人たちに置き換えても伝わる歌詞になっているなと思いました。

内田:そこは意図的にそうしました。具体的なワードを抜くことによって、自分に置き換えて欲しいんです。僕が感じたことを“こういうことってあるよね”っていう共通項にしたいから。聴いてくれた人に“これは自分のアルバムなんだ”と思って欲しいんですよね。実際、メンバーに何も言わずに聴かせた時は「恋愛の曲だと思った」と言われたんですけど、それで良いんですよ。失恋したばかりの人がこの曲を聴いたら完全にそういうものにしか聞こえないだろうし、恩師に向けた歌だと感じる人もいるだろうし、もしかしたら人に対してじゃないかもしれない。そこはすごく多様に受け取って欲しいし、“キャッチー”ってそういうことだと思うんです。汎用性があるというか。

●もし歌っている対象が明白に見えていたら、その人を知らない人にはわからないですからね。

内田:それはそれでグッとくるものはあると思うんですけど、今回はそうじゃなかったというか。みんなの歌でありたいと思っていたんです。

●リード曲でもあり1曲目でもあるわけですが、この曲がアルバムの軸になっていたりする?

内田:軸というか、このアルバムの根底にあるのはM-5「輝きだす」なんですよ。そこから派生して出てきた、色々なシーンがあって。生活している中で感じる感情やシーンの1つ1つを集めたものが『「HEY!」』のような気がします。だから「輝きだす」がなければ、「あなたに出会えて」の歌詞も出てこなかっただろうなって思うんです。

●「輝きだす」は昨年12月にシングルとして先にリリースしているわけですが、そこが今回のアルバムの出発点にもなっているんでしょうか?

内田:そうですね。あの時に色々と考え方が変わったから。歌詞に弱さを出すようになったのがそこからで、すごく大きな変化だったと思います。それまで自分が頑なに守ってきた“弱いところを見せない”というルールを破ってみたら、自分が心配していたようなことは何もなかったんですよ。逆に弱いところを見せたほうが、みんなも
「らしくて良いよ」と言ってくれたりして。それがすごく嬉しかったので、今回のアルバムを作る時に「俺もそういう時があるんだよね」っていう立ち位置で書けたところはあります。

●「輝きだす」をキッカケに、自分の弱さを見せられるようになったことが大きかった。

内田:大きかったですね。そこからどんどん広がっていったから。「輝きだす」は“記念碑”みたいなもので、そこからの意志がどんどん枝分かれして曲になっていったという感じです。

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SPECIAL LONG INTERVIEW #3

「ライブに救われたところはありますね。過去が現在になって、そこから未来にもつながっていくんだなと。Rhythmic Toy Worldをやっていて良かったなと今ひしひしと感じています」(須藤)

●すごく良い曲でキーにもなっている「輝きだす」のすぐ後に、ファニーなM-6「MUSHIBA」が入っているのも“らしさ”かなと。

内田:楽曲だけで言うと、超絶にカッコ良いんですよ。ノリも良いし、かなり殺傷能力の高いエッジの効いた曲だと思うんですけど、歌詞を読んでみたらただ虫歯が痛いと言っているだけの曲っていう…その感じがRhythmic Toy Worldっぽいなと(笑)。

●この曲は実際に歯医者の先生に言われた言葉がキッカケで作った曲なんですよね?

内田:僕が個人的に通っている歯科医院があるんですけど、そこの先生がバンドに愛がすごくあってアドバイスをくれたりもするんですよ。僕の歯を治療しながら「いろはにほへと」(『BUFFeT』収録)がすごく好きだという話をされて、「ありがとうございます。でも痛いですね〜」と答えたら、「その想いを曲にしてよ」と言われたんです。

●治療中に言われたんだ(笑)。

内田:それで「どういう曲が好きなんですか?」と訊いたら、「中毒性のある曲が良いな」と言われて。その日、家に帰ってからすぐに作ったのがこの曲なんです。

●サビはほとんど“痛い”しか言っていないけれど、それがすごくキャッチーで覚えやすくて中毒性もある。

内田:それ(“痛い”)しかないから、しょうがないんですよ。治療中に思うことって“痛い”か細かい雑念くらいしかなくて、あとはもう自分との壮絶な闘いじゃないですか。“大人だから泣けないし、手を上げることもできないし、どうしよう…?”みたいな、心の中の葛藤をサウンドに変換するとこのようになるという(笑)。

●歯医者が怖いというのもそうですが、今回の歌詞を見ると“子どもの頃の気持ちを忘れたくない”という想いが垣間見えるかなと。

内田:確かにそうですね。“大人だから、大人みたいなことしか考えちゃいけない”っていうのはもう嫌だなと思って。自分が大人になったなと感じる瞬間はあって、そういうことをちゃんと意識するようになってから4〜5年くらい経つんですよ。でも大人になり切る必要もないし、「僕は大人です」と言えるようなカッコ良さは別に要らないなと。大人だと周りから見られることよりも、「子どもみたいな人だよね」と言われるほうがすごく良い気がしたというか。それって、キラキラしているっていうことだと思うんですよね。鈍色になっていないというか。

●いくつになっても、ちゃんと輝いていることのほうが大事だと思った。

内田:やっぱり、いつまでもキラキラしていたいじゃないですか。自分で決めたことで首を絞めてしまってどんどん鈍くなっていくのは、歳を取ることよりも怖いんですよね。そういう想いがあったから、“昔はこう思っていたよな”っていうのを定期的に振り返らなきゃいけない気がしていて。M-7「ミーン宣言」で“三歩進んで二歩下がって”と歌っているんですけど、二歩下がることの大切さというか。進みっぱなしではなくて、たまには“どういう二歩前だったのかな?”と確認しながら、でも確かに一歩は前に進んでいる。それを積み重ねていけば良いんじゃないかっていうテーマはありますね。だから“過去”っていう、今とは違う考え方を持っていたであろう時の気持ちを常に思い出して振り返って、それを今の自分がどういうふうに吟味して選択していくかっていう作業が実はすごく大事なんじゃないかなと。

●「かごめかごめ」や「カルテット」はバンドにとって“過去”なわけで、それを今やることで見えたこともあるんでしょうね。

内田:本当にそのとおりですね。

●先ほど“キャッチー”さを意識しているという話も出ましたが、今作はどの曲もリード曲になりうる強さを持っていると思うんですよ。

内田:実際にリード曲を決める時も、メンバーそれぞれに考え方があったので迷いました。元々「アルバム曲っぽいものは作りたくない」という気持ちはすごくあって。全部がメインだし、全員が主役だから。その中で自分に一番当てはまる曲が、聴く人にとってのリード曲だと思うんですよ。僕らがリード曲として提示しているものが必ずしもその人に当てはまるとは限らないし、それで良いんです。あくまでも自分たちにとって意味のある、想いのすごく深い曲を選ばせてもらった感じですね。

●「あなたに出会えて」や「輝きだす」のような聴かせる曲と、M-2「Dear Mr.FOOL」やM-13「Team B」のようなアッパーな曲という感じで、リード曲でも二面性があるのが面白さかなと。

須藤:確かにそうなっていますね。

内田:「Dear Mr.FOOL」だけは、ちょっと異質ですからね。

●イントロでウィスパーボイスで何を言っているのかと思ったら、「KUSO(クソ)」っていう(笑)。

内田:MVではあんなにドヤ顔をしているのに、実は単に「クソ」って言っているだけですからね(笑)。

●どういうところから思い付いたアイデアなんですか?

内田:“クソ野郎”ってあんまり人前で使って良い言葉ではないけれど、みんなも結構使ったりするじゃないですか。その言葉を放ったところで誰に責められることもなく、逆に肯定されるような場所をこの曲では作りたかったんです。普段の会話の中で「クソだな」とか言っていたら、すごく口が悪い感じがするわけで。でも「Dear Mr.FOOL」を歌っている時に“クソ”と言っていても、それはもう曲のせいにしてくれて良いから…という感じですね。

●人前で口にできない言葉を歌える気持ち良さというか。

内田:きっとスカッとすると思うんですよね。みんなが言いたいけど言えない言葉を正当化できるような場所を作ろうと思ったところから始まった曲なんです。だから楽曲的には精神的な部分に特化したものになっていて。今を良いと思えない人は結局どんなことをやっても、この先もずっと良いと思えないだろうから。逆に今を良いと思える人は、この先のことも良いと思える。そういうすごくシンプルなことで、実は自分の人生って色が変わるんだなっていう。自分に対する自戒的な意味もありますけど、たとえばこの曲を聴いた人が悩んでいる時に“でも面白いことも確かにあるよな”と思うキッカケになってくれたらなと。“とりあえず、ストレス解消から始めようぜ”っていう曲ですね。

●ライブや音楽は、自分を解放できるものでもありますからね。

内田:(※須藤のほうを見ながら)ライブに命を救われたりすることも実際にあって…。

●須藤くんはライブに命を救われたんですか?

須藤:僕が本気でバンドをやろうと思うキッカケになったのは、大学の時に女の子にフラれたことだったんですよ。その時は本当にショックで「もう人生終わったな。死にたい」と思っていたくらいで。でも部屋に買ったばかりのベースがあるのが目に入った時に“まだローンが残っているから家族に迷惑がかかるな…”と思って、それで命を救われたんです。

●ローンを払い終わるまでは死ねないと(笑)。

須藤:その後で大好きなマキシマム ザ ホルモンを観るために、初めてフェスに行ったんです。その当時はまだ他の出演者の方とかもほとんど知らなかったので最初は後ろのほうで観ていたんですけど、ライブが楽しすぎてテンションが上ってしまって、気付いたら最前列まで行っていたんですよ。ステージ上から飛んで来るパワーがすごいなと思って。“僕も向こうに立って、自分と同じような人を救いたい。そういう人たちの力になりたい”と思って、本格的にバンドを始めたんです。そこからメンバーを集めてRhythmic Toy Worldが始まったので、ライブに救われたところはありますね。

●その経験がなかったら、Rhythmic Toy Worldもなかったかもしれない。

須藤:それがあったから今があるという流れがあって。過去が現在になって、そこから未来にもつながっていくんだなと。Rhythmic Toy Worldをやっていて良かったなと今ひしひしと感じています。

内田:今を良いと思える人は、良い未来に出会えるということですね。

 

SPECIAL LONG INTERVIEW #4

「去年フェスにたくさん出た中で“ここでこういう曲が欲しいな”とか“ここでお客さんにも歌って欲しいよね”というのがあって作ったのが、今回の13曲だから。そこはすごく具現化できたかな」(磯村)

●ラストの「Team B」は現所属事務所の“Teamぶっちぎり”のことを歌っているんですよね?

内田:そうですね。Team Bの中でも表に立つ側と裏方の両方があるわけなんですよ。でも裏方という立ち位置でも面白いヤツはいるので、そういうのも知って欲しいと思って。そういう人たちも現場と同じ熱量でやっているんだということをもっと知って欲しいんですよね。そのためにできることがあれば、僕らは何でもするっていう。音楽って、CDを出してライブをやるだけではないということを自分たちで体現したいというか。

●このタイミングでそういう曲を作ろうと思ったのは?

内田:“過去最高のものを過去最大の場所で”っていう中で、去年のフェスみたいにずっと出続けたいと思うものに出会えたりして。そこで“この人たちを連れて行くんだ”と思える仲間が増えたなと改めて感じたんですよ。そういう時にフンドシを締め直したというか、“ここから行くぜ!”みたいな気持ちを今、形にしようということでした。

●今後にもつながっていく曲になっている。

内田:これからの僕らにとって、テーマソングみたいな曲だと思うんですよね。たぶん一生聴ける内容の曲だし、どのタイミングで聴いてもその時の状態に合わせて聴けるテーマソングだと思うから。Team Bというものの輪をもっと大きくしていって、行けるところまで行こうという感じですね。“意思表明”みたいな感じもあるかもしれない。

●ちなみに、制作としてはM-11「Cheki-Cheki」が今回最後に作ったものなんですよね?

内田:本当は入れる予定じゃなかったんですけど、12曲を作り終えた高揚感の中で“もう1曲くらい作れるんじゃないか?”という感じになって。試しに作ってみたらすぐにできて、スタッフの反応も良かったので急遽入れることになったんです。結果的に、相当強い曲になりましたね。

●この曲の歌詞にある“感情が無ければ良かったのにな 到底無理な話 見て、触れて、心が息をした おかげでここまで来た”という言葉を書き終えた時に「なんだか肩の荷が下りた気がしたし、その瞬間にもっと大きな夢を描いた」とTwitterでつぶやいていましたよね。

内田:最後だから、その言葉が書けたというか。そういうことを考えながら、他の曲も書いていたと思うんですよね。“嫌だな”と思うこともいっぱいあるし、“辛いな、悔しいな”と思うことも噛み砕きながら色々なことを思い出して言葉を書いていたけど、最後に“でもあの経験がなかったら、この曲たちは出てこなかったんだな”というのをシンプルにまとめられたというか。わかりきったことだけど、言葉にしないと伝わらないなと思って書きました。歌詞の中で、そこの部分だけ最後まで空いていたんですよ。最後にここに何を当てはめたいんだろうと思った時に、歌詞を書くというよりもただ自分の想いをつらつらと書いてみたら“良いかも!”と思って。そこを歌っている時の、俺の声は自分でもヤバいと思います。

●それはすごく思いました。聴いていると、その部分でフッと引き込まれるというか。

磯村:キャラクターが一気に変わるよね。

内田:エモーショナルになるスイッチがパッと入った感じですね。言葉も大事だけど、聴く人にはそこに乗せた気持ちが一番伝わって欲しいなと思うんですよ。“何かこの部分って良いな”と思った時に歌詞を見てみて、“こういうことを歌っているんだ!”となって欲しい。やっぱり歌う立場の人間としては、聴いていて“グッとくるな”というものが表現できないと他の楽器陣に申し訳ないというか。他の楽器陣は言葉を使わずに音だけでやってくれているわけだから、僕も“まずは声だけで勝負しないと”っていうことを考えながら歌いました。

●歌の表現力が今まで以上に増した気がします。

内田:僕自身は“今回も楽しくやれた”くらいの感覚だったんですけどね。レコーディングが終わった後にスタッフからも「歌の表現力がすごく上がっている」と言ってもらったんですけど、自分としては別に表現力を上げようとしていたつもりはなくて。そういうところも出せるような環境があって、それを作ってくれたのはみんなだから。すごく良い状況だなとは思うし、そう言ってもらえたことは素直に嬉しかったですね。

●各メンバーも今作を通じて成長を感じられた?

岸:成長できましたね。ギターに関しては、前までは曲に合わせた感じで弾いちゃっていたところがあって。リードギターの良いところを出せていないのかなと思っていたので、今回はちょっと目立つように弾いてみたんです。レコーディングで苦戦しても良いから、やりたいことをやろうと思って色んなことを詰め込んでみました。…本当はタッピングとかやらないんですよ。

●「MUSHIBA」やM-12「24時間方程式」に入っていますね。

岸:正直、ちゃんとしたやり方も知らなくて。独学なので、今でもこれで合っているのかどうかわからないんですよ(笑)。あと今回は手癖は全く使わずに、頭で浮かんだメロディを弾くことでよりキャッチーさを意識したりとか、色々と挑戦した部分はありますね。

●須藤くんは?

須藤:今思い出したんですけど、「カルテット」を作り始めた頃に他のメンバーはみんな「すごく良い」と言っていたんですけど、僕だけはよくわからなくて。でも今改めて録り直したものを聴いてみると、すごく好きなんですよね。当時は激しい音楽しか好きじゃなかったんですけど、色んな人と出会って色んな音楽を聴いてきて、僕自身もすごく成長したというか。そこも、このバンドをやってきた中で変わった1つの部分かもしれないです。

●自分の幅が広がったことを実感できた。

須藤:静かな曲でもそれに合うベースラインを考えられるようになったし、自分の中で幅が広がったところはありますね。あと、今回のアルバムに関しては歌とメロディがすごく好きで、それをどうやって前面に押し出すかというところでいつも以上にリズム隊の2人で話し合ったんです。曲の地盤を固めるという意味でリズムをまずガッチリ固めて、お客さんをどうやってノらせようかと。最終的には内田の歌を聴かせるのが目的なんですけど、その前に“俺らのリズムで揺らしてやろうぜ”みたいなところもあって。歌を前面に出しつつ、その合間に自分らしいベースも入れているので、そこも聴いてもらえたら嬉しいですね。

●歌を中心に置きつつ、それぞれの色も出せている。

磯村:土台をしっかりと構えてメロディを前に出して、自分たちも出すところは出そうという感じでやりました。今まではメロディが途中で変わることもあったんですけど、今回はメロディ主体で作ってきてもらっていたのですごく土台が作りやすかったんですよ。メロディは絶対的にある中でリズム隊はどっしり構えて、歌のない間奏の部分では動いたりしましたね。

●歌が軸にあるからこそ、そういうこともできるわけですよね。

岸:そうですね。だから、すごくやりやすかったです。

須藤:ドラムとギターの間で、ベースの僕がバランスを取るという感覚もあって。ギターが前に出る時は自分が後ろで支えるし、ギターが下がっている時は自分が前に出て、軸にある歌をみんなが相乗効果で押し上げているというか。その結果、すごく聴き応えのあるものになったと思いますね。

磯村:役割分担がしっかりしてきたというか。

●ちゃんと“カルテット”であることの意味が体現できている。今のバンドとしての状態の良さが伝わってくるような作品にもなっているかなと。

内田:そうなんですよね。“飾らない、気取らない、背伸びしない、楽しくてしょうがない”っていうのを表せるものが、この『「HEY!」』というタイトルしかなかったというか。今までみたいなちょっと気の利いたタイトルも考えたんですけど、何か違うんだよなと思って。

●このタイトルはどこから出てきたんですか?

内田:信じるか信じないかは別として…、曲が「HEY!」と言っていたんですよ。僕に向かって曲が「HEY! HEY!」とずっと言ってきたので、“じゃあ、「HEY!」にする?”っていう。

磯村:車で移動している時に今回の音を聴いていたら、内田が急に「今回は『HEY!』でいくわ」って言い出したんです。でも僕らも「そうだね」っていう感じで…。

岸:本当に違和感がなかった。僕らも普通に「『HEY!』だね」と納得しちゃうくらい、現場のテンション感がそういう感じだったんです。

●メンバーも納得しているということは、きっと今作を象徴していたんでしょうね。

内田:そうですね。でも良い言葉だと思うんですよ。ナンパだし。

●ナンパ?

内田:僕らがやっている音楽って、そういうものじゃないですか。「俺たちの音楽は良いから、聴いていきなよ!」みたいなナンパな部分が良いというか。それくらいラフな感じでやれるところに、音楽の楽しさというものがあって。「ちょっと寄っていきなよ」くらいの感じが良くて、無理矢理聴かせるようなものでもないと思うから。ジャケットもショップでCDを見ている人たちに「HEY!」って呼びかけている感じになっていて、そういうのが良いなって思いました。

●ライブを想定して作った作品だけに、リリース後のツアーがいつも以上に楽しみですよね。

岸:ライブでお客さんからもらった刺激を元に作ったCDなので、それをまた還元した時にどんな光景が見られるのかすごく楽しみです。

磯村:去年フェスにたくさん出た中で“ここでこういう曲が欲しいな”とか“ここでお客さんにも歌って欲しいよね”というのがあって作ったのが、今回の13曲だから。そこはすごく具現化できたかなというのが、この前の“FREEDOM NAGOYA'2016”で何千人もの前で新曲をやった時にすごく実感できましたね。

内田:今作の新曲をやるのはそこが初めてだったんですけど、狙いどおりでしたね。去年の経験を活かせたなっていうのを実感できました。“こういう景色を作りたい”と思っていたものを作れたというか。まだ発売もされていない段階で既に理想の形を作れるということは、CDが出てからみんなに聴いてもらえている状態でやったらもっとヤバいんだろうなって思うともう…ニヤニヤしちゃいます(笑)。

●それくらい楽しみだと(笑)。ツアーファイナルの赤坂BLITZで「カルテット」を歌えるというのも感慨深いのでは?

内田:感慨もひとしおだと思いますね。BLITZの景色が楽しみです。いつもリリースしてからツアーをするんですけど、リリースした直後よりもファイナルの時のほうが同じ曲でも成長しているんですよ。それの繰り返しで今回の『「HEY!」』ができているので、そのツアーファイナルからまたさらに成長したものができるんじゃないかと思うと楽しみですね。

Interview:IMAI

 

 
 
 
 

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