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ヤマジカズヒデ(dip) × 波多野裕文(People In The Box)

比類なき音と存在感を放つ両雄が対峙する至高の2マン

ph_mainJUNGLE☆LIFEと下北沢CLUB251の共催による新イベント“Melody Laughter”の第1回として、ヤマジカズヒデ(dip)と波多野裕文(People In The Box)の2マンの開催が決定した。dipのギタリスト/ヴォーカリストとして長きに渡り篤い支持を受け続けるヤマジカズヒデと、幅広く高度な音楽性と独特な歌の世界観で数多くの信奉者を持つPeople In The BoxのVo./G.波多野裕文。世代は違えども共にジャンルなどという枠をとっくに超越した比類なき音と存在感を放っている両バンドのフロントマン同士が、同じ空間で対峙する。誰もが期待を抱かずにはいられない至高の2マンを前に、両者が初めてじっくりと言葉を交わし合うスペシャルな対談が実現した。

●dipとPeople In The Boxとしては、2008年4月にART-SCHOOLも交えたイベントで対バンしたことがあるんですよね?

波多野:その後にソロでも新宿MARZで1回ご一緒しているんですけど(※2008年5月)、どっちも緊張し過ぎていて僕はほとんど記憶がないんです(笑)。ソングライターとしてもそうなんですけど、ギタリストとしての存在感が自分には恐れ多いくらいで…。ヤマジさんは当時mixiによく書き込まれていて、それを僕は勝手に見ていたんですよ。

ヤマジ:そういえば、毎日書いていたね。

●どんなことを書かれていたんですか?

波多野:その時はたとえば“SONIC YOUTHのこの曲のこの部分は、このペダルを使っているんじゃないか”みたいなことを書かれていて。

ヤマジ:あぁ、研究していた頃だね。

波多野:僕はその情報を見て“なるほど!”と思って、その機材を試したりして。そうやって、人の研究をパクるっていうことをしていましたね(笑)。

●ヤマジさんはTwitterでも時々そういうことを書かれていますが、自分の演奏に還元していたりもする?

ヤマジ:フィードバックする部分はあるよね。

波多野:でもヤマジさんのプレイはそういう研究があった上でも“そのもの”にはならずに、“ヤマジさんの音”になっているというすごさがあって。

ヤマジ:何かの影響を受けてすぐに出すと“そのもの”になっちゃうから、自分の中で消化できるまで貯めておくことはあるね。(好きなミュージシャンと)同じ音が出せて嬉しいという感覚はあるけど、それを自分の曲にどう持ち込むかっていうのはそこで1回考えるかな。

●受けた影響をそのまま出すことはしない。

ヤマジ:それならカバーとかコピーで十分な感じになってしまうから。自分がやっている意味を出したほうが楽しいなと思います。

波多野:そうですよね。たとえばマイブラ(My Bloody Valentine)のKevin Shieldsにしても“機材がこれだからこういう音が出る”っていうわけじゃなくて、彼の“耳”で作っている感じがちゃんと音に出ている印象なんです。僕は最初にdipを聴いた時に、洋楽みたいだという感覚があって。それでライブを観てみたら、すぐに謎が解けたんですよ。結局、何が音を作っているかというと、“指”なんですよね。実際に演奏している音の肌感が伝わるというか、弦がちゃんとブルンッと鳴っているのがわかる人というのが僕はずっと一貫して好きで。dipのライブを観た時にそれが裏付けられた感じがして、“あ、僕は本当に好きなんだな”と実感しましたね(笑)。

●逆にヤマジさんが波多野くんのライブを最初に観た時の印象はどうでしたか?

ヤマジ:申し訳ないんですけど、俺は対バンはあまり観ないことが多くて…。

波多野:でも当時mixiを見ていたら、ソロで一緒にやった時にヤマジさんが僕のことについて一言書いて下さっていて…。

ヤマジ:何て書いていた?

波多野:「Elliott Smithみたいで、結構良い」って。僕はElliott Smithが大好きなので、家に帰ってから舞い上がっちゃいました(笑)。

ヤマジ:そう書いたっていうことは、良いと思ったんだろうね。

●普段はあまり対バンのライブを観ないのには、何か理由があるんでしょうか?

ヤマジ:観ると持っていかれるから。“今日は静かに始まろう”と思っていたのに、前のバンドがすごくテンションが高いとそれに引きずられて自分もテンション高く始まりかねないっていう…。流れは気にするんだよね。

波多野:それは僕もわかります。対バンイベントだと、“この後に自分がやるんだ…”っていう頭になっちゃうから。そういう意味で影響されちゃうので、僕もあえて観ないことはあります。ただ逆に最近はソロの時だと対バンのリハや本番も観て、それで自分の本番に影響されることが楽しいという時もあるんですよ。

ヤマジ:それはきっと余裕が出てきて、楽しめるようになったんだろうね。

波多野:そうですね。あとは“自分にプレッシャーを与えたい”、みたいなMの精神が出てきたのかもしれないです(笑)。

●対バンを観ることで、自分にプレッシャーをかけていく。

波多野:それで大コケする時もありますけどね(笑)。自分より前に出た人のライブが良すぎてテンパッちゃう時もありますけど、それはそれで修行になるし、その緊張感も面白い。でもバンドの時は、対応がすぐにできるわけじゃないから…。

ヤマジ:自分だけテンションが上がっても、他の人はそうでもなかったりするからね。

波多野:だからバンドの場合は、僕も対バンを観ないことが多いんですよ。

●ソロとバンドとでは、ライブに臨む気持ちも違う?

ヤマジ:俺は違うかな。ソロはまずライブを受けるかどうかで躊躇するよね。1人でやるのはあんまり好きじゃないから、今までもずっと断ってきていて。でも今回はタイミングが良かったんですよ。やっと最近は1人でもやれそうな形ができてきたという時に誘われたから、ちょうど良かった。

波多野:すごく光栄です。

●まだソロでのスタイルに関しては、模索中という感じでしょうか?

ヤマジ:そうだね。アコギも試したりしたけどなかなか上手くいかなくて、結局エレキに戻って今の形に落ち着いた感じで。色んなことを試しながらも大抵のことは失敗して、淘汰されてやっと今の形になりつつある…みたいな感じかな。

波多野:ソロって、バンドとは違う“嫌な”自由度があって…。何でもできちゃう嫌な感じというか。

ヤマジ:乗っかるものもないからね。やろうと思えばいくらでもいけるから、形を作るのが大変なんですよ。

波多野:だから“自由の枠”を自分で作らなきゃいけないっていう段階がまずあって。たとえばバンドの曲をするにしても、そのままだったら自分が楽しめないから。僕の場合はソロに向かう時の意味合いみたいなものをまず作るので、ワンクッションありますね。“不自由なほうが案外楽しいんだな”って思いました。

ヤマジ:やることが限られてくるからね。

波多野:その中で高めれば良いっていうことを、バンドはできるんですよね。僕はソロのライブではアコギ1本という制約を自分に無理やり課すことで、やっと方向性が見えた感じです。

●ソロのライブではバンドの曲もやったりする?

波多野:最近はソロ用の曲をある程度作って、それをやるようにしています。バンドの曲も1〜2曲はやったりするんですけど、それはサービス的な感じというか。ヤマジさんはソロの時って、選曲はどうされていますか?

ヤマジ:そこも困るんだよね。いくらでも出てきちゃうから。候補曲をノートに書き出すと、50曲くらい出てきちゃって。それを1ヶ月くらいかけて、だんだん削っていく作業があったりする。

●ライブに向けての準備期間が長いんですね。

ヤマジ:長いよ。今もノートに曲を書き出しつつあるもん(笑)。

波多野:僕もわりと前から落としどころや着地点を決めて、そこに向かってイメージトレーニングをやったりしながら、本番を迎えるのが好きで。そうしたほうが面白いんですよね。本番で変わる部分もあるんですけど、“どこからどこまで達成されたな”とか、そういうのを考えるのがすごく好きなんです。

ヤマジ:俺も50曲書き出した候補をじっと眺めていたら、着地点が見えてくる時はあるね。そこに合わせて削っていくような感じというか。

●本番で着地点に辿り着けた時はどういう感覚なんでしょうか?

ヤマジ:そういう時は楽しいよね。

波多野:逆に全然ダメだった時は、その翌日からの憂鬱ったらなくて…。

ヤマジ:本当に落ち込むよね。ソロに関しては高校生の時に文化祭に1人で出て大失敗して以来、ずっとやりたくなくて…。その思い出をずっと引きずっているんだよね。あの時も、文化祭の後でずっと落ち込んでいた気がする。本当に“やんなきゃ良かった”って思った(笑)。

波多野:10代のそういう経験って結構、尾を引きますよね(笑)。

●ライブ中は、客席の反応も気になったりする?

ヤマジ:気になるね。入り口のドアが開いて、“あ、誰か帰った”みたいなのとか考えちゃう。

波多野:ライブをやっている時って神経が研ぎ澄まされているから、ドアが開くとわかっちゃうんですよね。

ヤマジ:光がちらっと見えんのよ。だから、絶対に客席は見ない。

●目に入ったりもしないんですか?

ヤマジ:歌っている時は、目をつぶっていることが多いね。あとは歌詞を見ていたりして。

波多野:僕は最近、良い意味でお客さんのことを気にしないようになってきて。やっぱり返ってきた反応がちょっと嬉しかったりすると、何かをやろうとする時にそれが頭の片隅にあったりするんですよね。バンドって、そっちに取り込まれちゃうことがすごくあると思うんです。そういう部分は、dipを見ていてすごく勉強になりますね。People In The Boxもdipもそうですけど、お客さんに対して歌っているわけではないじゃないですか?

ヤマジ:そこに訴えている感じではないからね。

波多野:まずこっちで完結しているものがあって。もちろんお客さんは大好きですけど、そこに向かって歌うというのは気持ち悪いなという感じが僕はしていますね。まずは、音楽があるわけだから。それにPeople In The Boxやdipのお客さんは、そういうものを求めているんだと思います。もしヤマジさんがお客さんを意識するようなことを始めたら、ショックですもん。

ヤマジ:コール&レスポンスとかね(笑)。

●ハハハ(笑)。

ヤマジ:それが自然発生なら良いんだけどね。

波多野:自然発生ということに尽きると思いますね。だから音楽以外のアクションをお客さんに求めるというのは、僕にはあんまり意味がないんです。ヤマジさんはそういう部分で悩んだりしましたか?

ヤマジ:昔は悩んでいたね。dipの前にDIP THE FLAGっていうバンドをやっていたんだけど、その時はお客さんがすごくいっぱい入っているのに全く無反応で。ワンマンの時でさえ“自分のバンドを観にきたんじゃないんだ?”って思うくらいだったから、客席に背を向けてやったこともある(笑)。“静かに聴くのがカッコ良い”みたいな感じの時があったんだよね。でもそういうのも自分の態度に対する反応なんだっていうことに、そのうち気付くんだけど。

●今は客席の反応も当時とは違う?

ヤマジ:前とは違うね。みんな「ワァ〜!」って言うし。きっと俺の態度が徐々に軟化していったんだよ(笑)。突き放すにしても、突き放し方っていうのがあって。音が開放されていれば良いのよ。前はたぶん“スタジオでやれよ”みたいな感じの演奏だったんだろうね。

波多野:お客さんは僕らの態度や演奏、音楽を反映しているんだっていう考え方を持っていることが大事だと思っていて。ちょっとタイムラグがありますけど、それがわかっているとすごく楽しいです。

●だからヤマジさんの変化に伴って、観客の反応も変わっていった。

ヤマジ:“普通に楽しんで良いんだ”って思ったのかもしれない。昔は俺が“踊るな!”と思っていると感じていたのかもね。

●今は踊ってくれても構わない?

ヤマジ:動いてくれたほうがわかりやすいしね。プラスの要素はいくらでもあって良いのよ。マイナスな要素は、ライブが終わってからにして欲しい(笑)。

●ハハハ(笑)。10/7の2マンも楽しみですが、そこに向けて考えていることもあるんでしょうか?

波多野:僕は基本的にはいつもの感じで行こうと思うんですけど、ヤマジさんのお客さんがいるということを考えると、普段出さない部分で“こういうところを出しても良いかも”っていう気持ちもあって。選曲に関しては、色々と考えていますね。

ヤマジ:俺はポップな曲があっても良いかなと思っていて。ソロでやる時はポップな曲が多いんだけど、もっとポップなのもあっても良いかなと思ったりする。

●対バンの相手を意識して、セットリストを考えたりもするんですね。

ヤマジ:いつも考えちゃうんだよね。つい(相手に)寄せちゃう。でも自分では寄せているつもりなのに、誰にも“寄せている感”を感じてもらえないんだけど(笑)。

波多野:元の基盤がちゃんとあるから、そうなるんでしょうね(笑)。

ヤマジ:今までソロのライブを観に来たことがある人は、“やっぱりそれか”って思うかもしれない(笑)。

●お互いに刺激を受ける部分もあるのでは?

ヤマジ:あると思う。インプットもあるだろうし、刺激される部分は多いと思うな。

波多野:今って音楽の形式や骨組みのところばかりが語られている気がしていて。だから、もっと根本的なところを大事にしているミュージシャンの先輩とやれるっていう嬉しさはありますね。ヤマジさんのTwitterを見ていると、僕はすごくシンパシーを感じることが多くて。自分が演奏とかに対して“こうじゃないかな”と思っていたものを裏づけるようなことをヤマジさんが書いていたりすると、“間違いないな”と思えるんですよ。本当にすごく好きな方なので、勝手に僕は“絶対に楽しいだろうな”という気がしています(笑)。

Interview:IMAI
Assistant:森下恭子