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lynch.

凶暴にして美しき唯一無二の音が道なき道を切り拓いていく

自らの象徴たる“ダークネス”をテーマに突き詰めた前作『D.A.R.K. -In the name of evil-』から1年も経たずして、lynch.が放つニューアルバムのタイトルは『AVANTGARDE』(アヴァンギャルド)。“パンク・ハードコア”というキーワードのもとに制作されたという今作はサウンドの凶暴性を全開にしつつも、耳を捉えて離さないメロディの強度もより研ぎ澄まされている。激しさとキャッチーさが絶妙なバランスで融合する楽曲群は、彼らにしか生み出せないものと言えるだろう。特定のジャンルやシーンに収まらず、流行にも決しておもねることなく、最前線で闘い続ける姿はまさに本来の意味での“アヴァンギャルド(=前衛的)”と呼ぶにふさわしい。メジャーデビューから5年を経た今もなお攻めの姿勢を緩めない5人は、これからも道なき道を突き進んでいく。

 

「元々の語源としてはフランスの軍隊の最前列にいる兵隊(※前衛部隊)のことを“アヴァンギャルド”と呼ぶらしいんですよ。それが今のlynch.の状態と似ているなっていう。どこかのジャンルに属して、誰かのフォロワーとしてやっていく感じは全くないから」

「lynch.って結成当初からむしろフォーマットを作る側にまわろうという意識があったんですよね。そういった意味で“アヴァンギャルド”という言葉はまさしく当てはまっているし、客観的に見て今のlynch.はどこにも属しているし、どこにも属していない存在だなって思うんです」

●新作タイトルが『AVANTGARDE』だと発表された時に“前衛的”という言葉の意味から、当初はどんな作品なのか予想がつかなかったんです。元々はどういう意図で付けたんですか?

葉月:最初はイメージでしかないですね。たまたま“AVANTGARDE”という言葉の字面を見た時に、きれいだなという印象が残っていて。今回の個人的なテーマというか、ヒントになる言葉が“パンク・ハードコア”だったんですよ。よりシンプルでソリッドにいくというところで、それが何となく自分の中のパンキッシュな感じとリンクしたのかなと。

●言葉の意味というよりも、字面から浮かぶイメージが近かった?

葉月:後付けで知ったんですけど、元々の語源としてはフランスの軍隊の最前列にいる兵隊(※前衛部隊)のことを“アヴァンギャルド”と呼ぶらしいんですよ。それが今のlynch.の状態と似ているなっていう。どこかのジャンルに属して、誰かのフォロワーとしてやっていく感じは全くないから。何なのかもわからないまま、とにかく道なき道を行く姿がその言葉とリンクしていて良いなと今は思っています。

●メンバーはタイトルを聞いた時にどう思ったんでしょうか?

玲央:即答で「良いと思うよ」って返事しましたね。アルバムのキーワードとして“パンキッシュ”とか“ハードコア”というイメージがあることは事前に聞いていたので“前衛音楽ではないんだろうな”というのは理解した上で、攻撃的で良いなと思いました。攻めている感じが、今の自分たちが出したいイメージなんだろうなっていう。

●“パンク・ハードコア”というキーワードのもとに、今回は作曲を始めたんですね。

葉月:最近の激しい音楽はすごく丁寧に作り込まれているものが多いので、もっと単純なリフを使って勢いだけでドカンといくようなものが今は新しく響くんじゃないかなと。そもそもそういうものが好きだったなと思ったんですよ。“よくわからないけど、すごい”っていうものを目指したいなと思っていました。

●そのアイデアはいつ浮かんだんですか?

葉月:今年3月からのツアー(“TOUR'16「DARK DARKER DARKNESS」#2”)をまわっている間もずっと曲作りはしていたんですけど、最初は全然できなくて。ツアーをまわっている中で“ライブでもっと単純に楽しめる曲をいっぱい作って、それを詰め込んだアルバムにしたいな”と思ったんです。そこからフレーズやアレンジをどうするかというところで“シンプルでストレートなものにしたい”というのが浮かんで、そういう方向性になりました。3月からの2ヶ月くらいで作った感じですね。

●ツアーファイナルの新木場STUDIO COASTが5/4でしたが、その時点で楽曲は出揃っていた?

葉月:出揃ってはいなかったです。STUDIO COASTが終った翌日から、最後の1曲を作り始めて。それがM-2「EVIDENCE」ですね。

●曲作りの当初は難航していたと。

葉月:(前作の)『D.A.R.K.』から時が全然経っていないので、自分の中の“旬”がまだそこから変わっていなくて。その状態で作っても『D.A.R.K.』は超えられないから作るだけ無駄だなと思って、新しい“旬”が浮かぶまでは何もしなかったんですよ。結局、3月からのツアー中に“シンプルでパンキッシュ”というキーワードが浮かぶまでは、何も生まれなかったですね。

●自分がそもそも好きだったものを作ろうとしたという意味では、原点回帰的なところもあるんでしょうか?

葉月:そうかもしれないですね。ここ最近では一番、コンセプトがないアルバムだから。特に『EXODUS-EP』(2013年)以降は“前作をヒントにして、次はこうしよう”ということの繰り返しだったんですよ。それがプツッと途切れて今回は衝動のままに作っているから、本当に“1stアルバム”みたいになっていますね。

●今作で最初にできたのは、どの曲だったんですか?

葉月:曲として最初にできたのは、M-6「UNELMA」ですね。そこで“良い曲だけど、何のヒントにもならないな”と思って(笑)。

●Twitterでも「リード曲にはならないけど、みんなに気に入ってもらえそうな曲」とつぶやいていましたね。

葉月:lynch.って、こういう曲が多いんですよ。ライブでも別に盛り上がるわけでもなく、アルバムの軸やリードになったりするわけでもないけど、人気がある曲っていう。僕自身も作っている段階から、そういう認識でしたからね。そういう意味では、“らしい”のかな。

●そんな曲が1曲目にできてしまったと(笑)。

葉月:アルバムの軸にはならないので、困ったなと思いました(笑)。その後にM-5「DAMNED」ができた時に、“あ、これだ!”となって。そこからは速かった気がします。

●「DAMNED」がキッカケになったんですね。

葉月:そうですね。今回のテーマに一番近いのは「DAMNED」です。

●モロにパンクやハードコアっぽい曲というか。

葉月:“っぽい”っていうのが良いんですよね。実際、僕は(そういったジャンルを)通ってきていないから。何となくのイメージで作ったので、そこが僕は気に入っているんですよ。

●パンクが好きな人なら、バンドのほうのダムド(The Damned)が浮かびますが…。

葉月:そこもヒントにさせてもらいました。“パンクと言えば、ダムドでしょ”っていう、浅い知識で(笑)。あくまでエッセンスの1つとして利用させて頂いたというところが良いのかなと思っています。lynch.はlynch.の音だから。

●エッセンスを取り入れつつ、自分たちなりの音に昇華している。この曲が今作における1つの軸にもなっているんでしょうか?

葉月:軸になっているのは、2〜6曲目ですね。そこに7〜12曲目で色付けをして、幅広さを表現しているというか。M-11「THE OUTRAGE SEXUALITY」なんかは、軸っぽいですけどね。

●軸になっている曲のほうが先にできていたりする?

葉月:「DAMNED」ができてから、M-3「PLEDGE」やM-4「F.A.K.E.」ができるまでは速かったですね。後半のM-8「KILLING CULT」やM-10「NEEDLEZ」「THE OUTRAGE SEXUALITY」は最後のほうにできたんですよ。

●M-9「PRAYER」はAK(明徳)さんとの共作ですが、これも後半にできたんですか?

葉月:残された作曲期間が少なくなってきた時にとりあえずアイデアが浮かんだものは全て形にするという手法を取っていたんですけど、ある日ふとアイデアが浮かばなくなった瞬間があって。“ヤバい!”となった時に、「AKメタル」っていう曲を(ストックの中から)見つけたんですよ。

●元ネタになったデモは「AKメタル」というタイトルだったと(笑)。

葉月:それを聴いてみたら、メロディは良いなと思って。でも他の部分はちょっと違うなと思ったので、イントロや構成からリフも変えさせてもらって、テンポも大幅に上げました。メロディは、AKが作ってきたものをそのまま採用しているんですけどね。

明徳:『EVOKE』(2015年)くらいの時期に作ったと思うんですけど、自分では完全に忘れていて。そんな曲がイントロもリフも変わった状態で出されてきたので最初は“新しい曲かな?”と思っていたら、“このメロは聴いたことがある!”となりました(笑)。

●自分でもちょっと忘れていたくらいだった(笑)。

明徳:普通とは逆ですよね。楽器の人がリフを作って、ボーカルの人がメロディを作るっていうほうが多いだろうから。そういう意味でも、不思議な曲になったと思います。

葉月:メロディがすごくわかりやすいんですよ。シンプルなので、ディレクターは「これが一番、歌を録りやすい」と言っていました。

●AKさんは、キャッチーなメロディを作る才能があるわけですね。

葉月:リフとかは考えなくて良いから、メロディだけ書いていたほうが良いかもね(笑)。

明徳:それもなんか寂しい話ですね…。一応、演奏者なんですけど…。

●ハハハ(笑)。今回、AKさんのベーシストとしての見せ場は「F.A.K.E.」の間奏パートでのスラップかなと。

葉月:あれは元々、「PRAYER」に入っていた間奏なんですよ。AKの曲だからベースが目立つようにしようと思って入れていたんですけど、リード曲に入れることで“ライブがすごく楽しそうだ”と思ってもらえるかなということで「F.A.K.E.」に移植して。リード曲には、とにかく転調を入れたかったんですよね。

●そんな経緯があったんですね。M-7「PHANTOM」とM-12「FAREWELL」は悠介さんの作曲ですが、これはいつ頃できたんですか?

悠介:「PHANTOM」のほうが先で、「UNELMA」のデモが上がってきた少し後くらいでした。Aメロのアルペジオは元々あって、そこからどうリフを作っていくかで悩んでいて。「UNELMA」の仮タイトルが「AMERICA」だったんですけど、そのワードが耳に入った時に自分のバックボーンにはないハードロックのバラード的なズッシリくる感じにしてみようかなと思ったんです。そっちの方向で作ってみたら、良い感じに仕上がりましたね。

●あえて自分のバックボーンにはないものに挑戦した?

悠介:聴いたりはするんですけど自分の中に染み込んではいないものなので、そこに挑戦することで次にも活かせるんじゃないかなと思って。自分のためでもありますね。

●もう1曲の「FAREWELL」は?

悠介:元々は8年前くらいにPro Toolsを購入した時に、その使い方を覚える目的で作ったものですね。当時は曲というよりも断片的な感じで構成もしっかりしていなかったので、パソコンの中に眠っていて。『EXODUS-EP』以降でメンバー全員で曲を出そうというスタンスになってからも何度か挑戦したんですけど、なかなか形にできていなかったんです。

●ずっと試行錯誤はしていたんですね。

悠介:それで今回「PHANTOM」を出した後にもう1曲欲しいと言われたので、もう1回チャレンジしてみようと思って。色々やってみたら、自分が納得するメロディが作れたし、構成もまとまったので出してみようかなという感じでした。

●8年の月日を経て、ようやく日の目を浴びたと。

悠介:“もったいないな”という意識はどこかにあったので、モヤモヤはしていたんですよね。ようやく自分の中でつっかえていたものが取れて、次に向けて出発できるなと思います。

●今回のアルバム自体も、次へとつながるものになっているのでは?

悠介:これからのバンドの勢いというところで、さらにもっと先に連れて行ってくれる起爆剤になるのかなと。

玲央:“シンプルでストレート”という当初のキーワードから入って、自分たちらしさも出しつつ、BPM的な意味とは違う“スピード感”と勢いのある作品ができたかなと思います。ローチューニングでありつつも、重さや鈍さよりもスピード感がすごく形にできているんですよね。そういった意味でも、ライブが楽しみな作品というか。

明徳:曲順が今までにない感じがして面白いし、すごく衝動的で良いアルバムができたなと思います。これを早く世に送り出して、ライブでどんな反応が起きるのかをすごく見てみたいですね。

●作品を重ねるごとに、どんどん独自の存在になっている感じがします。

葉月:日本のバンドが活躍して世界に羽ばたいていっている中で、“世界基準のサウンド”とか書かれたりするじゃないですか。でも“それって世界一じゃないよね?”と、僕は思っちゃうんですよね。だったら海外っぽい世界基準のサウンドじゃなくて、他にはない独自のもので“これをやらせたら世界で一番だよね”っていうものをやるほうがカッコ良いなと思って。今はそういう気持ちというか、本当の意味で昔の“ヴィジュアル系”のマインドに近い感じはありますね。はみ出したいというか、他と一緒にされたくないという部分ではそこに通ずるのかもしれない。

●特定のフォーマットやジャンルに収まらないものというか。

玲央:フォーマットありきでそこに向かっていくわけじゃなくて、lynch.って結成当初からむしろフォーマットを作る側にまわろうという意識があったんですよね。それをより濃く意識するようになったのは、『GALLOWS』(2014年)以降かなと。“◯◯系”って言われる側に、自分たちはまわりたかったんだというのをそこで思い出して。そういった意味で“アヴァンギャルド”という言葉はまさしく当てはまっているし、客観的に見て今のlynch.はどこにも属しているし、どこにも属していない存在だなって思うんです。結成当初から“個”になりたいと思っていたので、そういった土壌が今できつつあるのかなと感じています。

●“個”の存在になりつつある。

晁直:何をやるにしても“オリジナリティを出していく”という意識は、活動する中でどんどん強くなっていますね。時代と共に個人でも活動ができるような時代になってきているから、1つでも突出したものがないとすぐに埋もれていくと思うんですよ。そういう面でも、何か秀でたものがないといけないなと思っています。

明徳:それこそ“右向け右”になっちゃったら、別にバンドをやる意味もないだろうから。自分の場合は、刺激を求めて今があるというところがあって。バンドを始めてからどんどん刺激的なものを求めていって、lynch.というバンドに辿り着いたんですよね。こういう作品も出すことができたし、バンドを始めて良かったなと思えるくらい、今は良い活動ができていると思います。

●目指している場所に近付いている実感はあるわけですよね?

葉月:もうちょっと行きたいですけど、近付いてはきていますね。純粋に動員の面とかで考えると、独自のスタイルを行きつつ武道館でやれるくらいにはなりたいから…まだまだです。

玲央:まずは自分たちがどうやって見られるかというところがあって、それが認識に変わって、動員やセールスといったものはその後で付随してくるものだと思うんです。発信は常に続けているし、準備が整ったかなという感覚はあって。今回の作品を出して、さらにキャパが大きくなった次のワンマンツアーをまわって、その後でどうなっているかっていうところですね。何かが変わるような気はしています。

Interview:IMAI
Assistant:森下恭子

 

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