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wash?

轟音で撒き散らされた鮮烈なる飛沫が その胸の鼓動を速めて揺さぶり続ける

ph_wash3ピース・轟音オルタナティブロックバンド・wash?が、8枚目のニューアルバム『SPLASH』をリリースした。前作『PURE CURE SURE』の発売からレコ発ツアー、そして渋谷TSUTAYA O-WESTでのワンマンと精力的な活動を見せた2015年。そこで得た手応えと実感を胸に作り上げた今作では、3人の新たな進化を感じ取ることができる。深化を遂げた歌詞の世界観と凄みを増したサウンドの中で“非日常”と“ハッピー”が共存する様は、wash?にしか表現し得ないものだろう。この新たな傑作が撒き散らす、鮮烈な“飛沫”を全身で浴びて欲しい。

 

「“wash?じゃなきゃ聴けない音楽だ”っていうところにあぐらをかくんじゃなくて、“もっと予想を裏切ろう”と思うし、誰もが感じる急激な変化じゃ俺はつまらないと思うタイプなんですよね」

●公式サイトで“2015年は結成以来最大の飛躍の年になった”と書かれていましたが、どういうところでその実感を抱いたんでしょうか?

奥村:そうですね。TSUTAYA O-WESTでワンマンをやれるようになるとは思わなかったし、ツアーの規模も今までで一番大きくて。どこに行っても人がいて、どこに行ってもライブの後にすごくCDが売れて、どこに行っても対バンの人たちが「またやりたい」と社交辞令じゃない感じで言ってくれて、友だちもすごく増えたんです。単純に少しでも客観的な評価が高まるのは本当に嬉しいことだなと思ったし、すごく好意的に応援してくれる人が増えたという実感はありました。

●去年出した前作『PURE CURE SURE』も大きかったのでは?

奥村:前作から3人になったのは大きいかなと思います。より伝わる感じに変わって、“邪念”みたいなものがあんまり見えなくなったというか。それによって苦手になった人もいるだろうけど、体感としては逆にますます好きになってくれた人のほうが多く感じましたね。

河崎:3人になって最初のアルバムだったので、もう“やるしかない!”となって。その中でのツアーだったし、ファイナルのO-WESTも“やれるかどうかわからないけど、やるしかない”という感じでした。本当に邪念がなくなって、死にもの狂いでやったのが去年かなと。

●その結果、飛躍を感じられたわけですね。

河崎:ぶっちゃけ(メンバーが)4人から3人になって、お客さんが0になるかもしれないと思っていたし、そういう覚悟の上でやっていて。でも絶対にお客さんを増やしてやろうと未だに思っていますし、“絶対に4人より3人のほうが良いに決まっている!”という気持ちじゃないとできないですからね。

奥村:簡単に言うと、“今が一番良い”っていうことで。常に更新できていなかったら、やっている意味もあまりないと思うから。そのアップデートを良い方向に受け取ってもらえたなというのは実感したし、3人の共通認識になっていますね。今が一番良い状態だという手応えもあるし、それがちゃんと伝わっているんだなっていう。

●それを踏まえて、今回の新作『SPLASH』の制作に入られたわけですよね?

奥村:今までは特に歌詞のことやどういう感じのアルバムにするかは、俺に任されている部分が大きかったんです。でも前作から予感はあったけど、今作からはもう一歩進んで、“3人でやっている”感じになって。河崎が色んな友だちや先輩から俺の歌詞について「こんなことを言っていたよ」という話を聴いてきてくれたことが、すごく大事なヒントになったりもしたんですよ。あと、11月のO-WESTが終った頃から曲をいっぱい作ろうというモードになって、ほぼずっと曲作りはしていましたね。

●もうその頃には制作が始まっていたと。

河崎:いつも直前にガッと作るんですけど、今回は珍しく準備をしたんですよ。そしたら曲を作り過ぎちゃって。

奥村:わけがわからなくなっちゃったよね(笑)。時間をかけたから良いものになるとも思っていないけど、時間をかけて良いものを作るという感覚ももちろんわかっていて。だから、今回は新たな感じというか。俺はいつもは曲を作ったらすぐにライブでやりたいタイプで、逆に河崎は「今は時期じゃないから待って」って言うタイプなんですよ。戦略を完璧に考えてくれるタイプなので今回そのへんは彼に任せて、ライブですぐやるのを抑えてもらっていたおかげか、いっぱい曲ができましたね。

●新たに作った曲自体はもっとたくさんあった?

奥村:今作には入れなかったけど、良い曲というのもあります。河崎がアイデアを出してすごく良い曲になりそうだったのに、どうにも最後の詰めのアレンジと歌詞が出てこなくて、もうちょっと寝かすことになった曲もあって。あと、“これは中核になるだろうな”と思っていたのに、他の曲が良くなり過ぎて“もう要らないな”となった曲もあるんですよ。ライブで(曲を)鍛えることなく、こんなにちゃんと準備したのは自分の人生でも初めてじゃないかな。

河崎:でも最終的には、直前になるといつものwash?でしたけどね。「曲が足りねぇ!」とか言ってピリピリしていました。

●足りなくなったんだ(笑)。

奥村:曲はあるんだけど、「これは違う!」とか言って。最後のリハーサル2回くらいで、M-2「水なしで一錠」ができたんです。

●リード曲が終盤にできたんですね。

奥村:他にもリード曲にしても良い曲はあったんですけど、やっぱり常にアップデートしていきたいバンドマン3人の集団だから、最新曲が一番良いと感じてしまう部分はありますね。

河崎:M-6「utUtu」の歌詞はミックスの日まで書いていたので、結果的には一番ギリギリまで作っていたアルバムだと思います。

●リリースまでライブではやらないというのは、戦略的な理由から?

奥村:いや、やっていくうちに何となくそうなったんですよね。

河崎:もう良い歳のバンドなので、1回コケたら終わりだと思っているんですよ。変な曲を出したらアウトだと思うし、そういう緊張感や責任感みたいなものはあって。だから今回に関しては直前まで曲をアップデートして…ということをやっていたら、ライブでやっていなかったんです(笑)。

●直前までアップデートし続けた結果なんですね。

河崎:やっぱり自分たちが“ワァ〜!”ってならないと、やる意味がないと思いますからね。

奥村:wash?を知っている人には“今回もヤベェ!”って思って欲しいし、知らない人にも“新曲が一番良かったな”と思って欲しいから。

●自分たちも周りもテンションが上がるようなものを作りたかった。

河崎:やるからには見たことも聴いたこともないものをやらないと、やる意味がないと思っているから。自分たちはもうオッサンなのでバンドの後輩も先輩もいっぱいいて、そういう人たちから見てもヤバいものをやっていないと色んなところで支障をきたすわけですよ。だから大ちゃん(奥村)の才能とかもややこしいところはいっぱいありますけど、そこは俺にはない感覚なので受け入れて。もし10年前とかなら“面倒くさいな”で終っちゃっていたんでしょうけど、そこが40歳を過ぎたミュージシャンの面白いところで。大ちゃんが言ってきたことに“俺はこっちなんだけどな”と思いながらも、実際にやってみると“あ、こっちだったか”って思うことがよくあるんですよ。“wash?にとってどうなのか?”とは一瞬考えますけど、それをやることによって俺も新しい感覚を取り入れることができるし、日々勉強だなっていう。

●他のメンバーのアイデアを受け入れることで、幅を広げられている。

河崎:杉山(Dr.)に関しても、本当にヒドい最高のアイデアを持っているヤツなんですよ。“そんなことを思っているんだ!”と思ったりはするけど、それを頭ごなしに否定する感じではないですね。何でもやってみようっていう。

●歌詞についても、変わってきた部分があるのでは?

奥村:そうですね。同じ内容でも、自分の中では光の当て方が違うというか。人って好かれたり嫌われたりするように、見る人によっては同じ人でも印象が全然違ったりする。優しいヤツにもとんでもなく冷たい瞬間があれば、すごくストイックな人にもいい加減な瞬間があるわけで、そういう矛盾を孕むことで初めて立体感やリアリティが出ると思っていて。それをちゃんと作品にしていきたいなという想いはずっとあったんですけど、今回はちょっとできたかなという気がしています。

●言葉遣いというか、歌詞の雰囲気が変わったように感じました。前は聴く人にケンカを売ってくるような感じがあったというか…。

奥村:全部ブッ壊しちゃうような言葉…ギクッとかドキッとするような言葉を、聴く人を潰すような意味合いで書くっていうのは、今回は違うなと思ったんです。

●表立ってのトゲトゲしさやヒリヒリする感覚は少し和らいだのかなと。

奥村:そういうものも潜ませつつ、直接的ではなくなりましたね。ピリッとスパイスが効いていないと嫌だという人にとっては物足りなく感じちゃうのかなという危惧も少しあったけど、今回はダシを効かせたいと思ったんでしょうね。中に潜ませておいて、後から“ウォッ!”って遅れてくるような感じ。

●強烈なスパイスを隠し味として使っている。

奥村:良い歌詞を書きたいといつも思っているし、誰かにとっての大事な曲になったら良いなとは思っていて。去年O-WESTでワンマンをやって、“味方がこんなにいるのか”ってしみじみ思ったのは事実なんですよね。味方に聴かせるのに“その人たちをぶん殴ってどうするんだ?”という想いもどこかにあるとは思います。1年程度で俺の内心が変わるわけじゃないけど、作った時期はそういった幸せや安堵というか、“ありがとう”っていう気持ちが大きかったのかな。

河崎:大ちゃんが歌詞に込めたいものって、変わっていないと思うんですよ。ただ、年々精度が上がっていて、相手をボコボコにして伝える方法論よりも一言そっと言ったほうがケンカに勝てるのがわかったというか。前は6個の言葉を言わなきゃいけなかったところが、1個の言葉で同じことが相手に伝わるんだったらシンプルなほうが良いじゃないですか。そのくらい歌詞の精度が上がってきていると思います。

●その結果、こういう歌詞になった。

奥村:聴いてくれる人の胸ぐらを掴んで、目を覚まさせようみたいな感覚はなくなったというか。これからもそうじゃないといけないというわけではないけど、書いた時はきっとそういう気分だったんだと思います。笑顔で好意的に寄ってきてくれる人の胸ぐらを掴んでブン殴るのは無茶苦茶だろうっていう(笑)。以前は“そばにいるけど、こいつの腹の中はどうなんだろう?”という想いの方が大きかったんですよね。基本的には人間不信だから。

●でも今回は“信じても良い”と思えていたんですね。

奥村:そうですね。音楽がこれだけ除け者になっている世の中で、俺らに興味を持ってCDを買ってくれて、しかもライブまで来てくれるなんて、すごく数少ない人だと思うから。そこはやっぱりライブのことをいっぱい考えているからなのかな。やっぱり去年のツアーで、手応えみたいなものって大事だなと思ったのは事実ですね。リスナーやライブに来てくれるお客さんからもらえるものってすごく大きいから、裏切れないし、自慢してもらいたいなって思うんですよ。

●そういう姿勢だからwash?の核は変わらないままで、毎回進化を続けられているんでしょうね。

奥村:“wash?じゃなきゃ聴けない音楽だ”っていうところにあぐらをかくんじゃなくて、“もっと予想を裏切ろう”と思うし、誰もが感じる急激な変化じゃ俺はつまらないと思うタイプなんですよね。「変わらないね」って他の人が言うのは良いけど、自分たちが変わることを拒否するのは誠実じゃないなと思っていて。毎回一番良いアルバムを作るためにその時のベストを出しているんだから、そのベストを超えるには何かが変わらなきゃ無理なんですよ。

河崎:本当に必死こいて作ったアルバムですし、今やれる全ては詰め込めたかなと思っています。自分でも何回も聴けるし、すごく良いアルバムができましたね。

●そのアルバムに『SPLASH』(=飛沫)というタイトルを付けた理由とは?

奥村:河崎が俺のことを面倒くさいと言うように、一生懸命やっていると自分なりには愛されようと思っていても必ず人に迷惑をかけるし、逆に人から良いものをもらったりもして。1つの飛沫も立てずに過ごしていくことはできないわけで、誰もが影響され合っているんです。“俺らがここにいるんだぞ!”ってやることでその飛沫がどこかにかからないかなと思うし、自分たちも逆にどこかから飛沫がかかってきた結果こういうふうに変わったりしている…というところからですね。

●今作がまた1つの飛沫になって、新しい変化を生むかもしれないわけですよね。

奥村:そうだと良いですね。もちろん、それを願っているから。

Interview:IMAI
Assistant:森下恭子

 

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