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佐藤聡美

異なる感情や想いを投影した多彩な言葉と歌が ストーリーの深層から鮮やかに情景を甦らせる

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声優アーティストとして活動する佐藤聡美が、3rdシングル『雨の菫青石(アイオライト)』をリリースする。表題曲はゲームアプリ『NOeSIS羽化』フルリメイク版のエンディング主題歌で、自身も作品中の“鷹白千夜”と“鷹白一夜”というキャラクター役で出演。カップリング曲の「恋は劇薬、口に甘し。」と合わせて、作中に全部で5つあるキャラクタールートのうち、“千夜ルート”と“一夜ルート”という2つのエンディング曲を担当している。さらにはOVA『「英雄」解体』の主題歌である「crystal song」も含めた3曲は全て佐藤聡美が作詞を担当し、いずれも作品の世界観をしっかりと取り込んだものになった。三者三様のカラフルな楽曲の中で、様々な表情を見せる彼女の歌の魅力も存分に味わえる1枚だ。

 

「しっかり作品に寄り添っている曲だということを感じて頂けると嬉しいなと思います。自分がキャラクターを演じているからこそ、ここまで書けたのかなというところもあって」

●今回の表題曲M-1「雨の菫青石」は、ゲームアプリ『NOeSIS羽化』のエンディング主題歌なんですよね。元々、作品を知ってはいたんですか?

佐藤:実は、以前にドラマCD化した際にも携わらせて頂いていて。それがゲームアプリになるということで、気持ちを新たに録り直したものが前作『NOeSIS嘘吐いた記憶の物語』だったんです。今回の『NOeSIS羽化』については、前作が謎掛けだとしたら今作がその答え合わせになっているような内容なんですよね。

●ゲームの中で佐藤さんは“鷹白千夜”と“鷹白一夜”という2役を演じているそうですが。

佐藤:その2人はいわゆる“二重人格”で、1人の身体の中に千夜と一夜という2人の人格が入っているんです。それぞれに抱えている問題や気持ちだったり、バックボーンが全く違っていてストーリーも全く異なるので、エンディングも全然違うものになっていて。だから、楽曲も全く毛色が違うというか。

●“千夜ルート”のエンディングが「雨の菫青石」で、“一夜ルート”のエンディングがM-2「恋は劇薬、口に甘し。」となっていますが、確かに曲調は全く違いますよね。歌詞の内容としても、それぞれストーリーに沿うものになっているんでしょうか?

佐藤:台本から抽出した単語を使ったり、ストーリー上でのキャラクターの気持ちの流れを汲んで書いています。たとえば歌い方についても最初は静かに歌っているところからだんだん盛り上がっていく感じになっていたりとか、そういう部分も意識していて。千夜に関しては最後にちょっと希望が見える感じで終りたいなと思っていたので、そこを意識して歌いました。

●ストーリーの中でキャラクターの気持ちが移り変わっていく様子も反映されている。

佐藤:丁寧に気持ちを追いかけて歌詞を組み立てていったので、最後は希望もあるようなものにしたいなと思って。千夜は主人公(鹿倉時雨)のことが好きになってしまうんですけど、それを認めたくない…という葛藤があるんです。そういうところもちゃんと彼女っぽいニュアンスの言葉で入れてあげたいなという気持ちがあったんですよね。自分自身が演じているからこそわかるキャラクターの気持ちだったり、『NOeSIS』という作品のイメージをしっかりと出せるように…というのはすごく意識しました。

●タイトルの“菫青石(アイオライト)”というのは、どこから出てきた言葉なんですか?

佐藤:菫青石というのはいわゆるパワーストーン的なものなんですけど、実は作品中にこの言葉が出てくるとか、最初から使いたいという意図があったわけでは全くないんです。

●あっ、作品に出てくる言葉ではないんですね。

佐藤:“夜”を表現できるような言葉がないかなと探していた時に、“そういえばパワーストーンには色んな色があって、石ごとに意味もあるな”ということを思い出して。夜っぽい色で、意味も重なるようなものがないかと探していた時にたまたま見つけたのが菫青石だったんです。色も綺麗なブルーだったし、この石には“二面性の中にある本質を見抜く、羅針盤の意味がある”というのも良いなと。千夜と一夜というキャラクターや、2人と主人公との関係性を表すのにもとても良いなと思って使いました。

●“夜”を表現できる言葉を探していた理由とは?

佐藤:歌詞の1行目にもあるんですけど、千夜と一夜(の人格)が入れ変わるタイミングというのが“夕暮れ5時”なんです。5時頃って結構暗くなるし、夕方と夜の間だなと思ったので、菫青石がちょうど良かったんですよね。藍色みたいな感じなので夜過ぎないイメージで、かといって変に鮮やか過ぎないっていうのがちょうど良くて。

●ちなみに「恋は劇薬、口に甘し。」にも“アメジスト”が出てきますが、これはあえて“石”という共通点を持たせている?

佐藤:実はM-3「crystal song」にも“クリスタル”が入っているという(笑)。今回、菫青石とは運命的な出会いをしたなと自分では思っていて。これも何かの縁だし、全くバラバラの3つの曲に、あえてそういう共通点を入れるのも面白いかなと思ったんです。「恋は劇薬、口に甘し。」に関しては“片思い”がテーマになっているので、“恋のお守り的な石ってあるのかな?”って探していた時にアメジストを知ったんですよね。“恋を成就させるためのお守りの石すらも振り向いてくれないような、全くもって見込みのない片思いをしているんです”っていうメッセージをここに置いておこうと思って入れました。

●そういう意味があったんですね。「恋は劇薬、口に甘し。」は、すごくかわいらしい曲調というか。

佐藤:「恋は劇薬、口に甘し。」はメロディがとってもキャッチーでかわいい感じではあるんですけど、歌詞の内容に関しては“ちょっと病んでいる片思い中の女子”みたいなイメージで書いたんです。曲に関しても作って頂く前に、自分から「こういうキャラクターで、こういう作品で…」というのを全部お伝えしてから作って頂いたんですよ。「雨の菫青石」はこういう作品のエンディングにおける“王道”なイメージだなと思っているんですけど、逆に「恋は劇薬、口に甘し。」のほうは“…どうした!?”みたいな感じでちょっとビックリするようなメロディになっていて。でも一夜って何にも縛られていない生き方をしているというか“何でもアリ”なキャラクターなので、逆にこういう何でもアリな曲のほうがハマるのかなと。だからこの2曲は王道と変化球みたいな感じで、対になっているなと思います。

●確かに「恋は劇薬、口に甘し。」は“変化球”的な曲になっていますよね。最初は明るくてかわいい印象なんですけど、途中でセリフが挿入される部分はちょっと不気味な感じもして…。

佐藤:セリフの部分は作品の中に出てくるワードを拾ってきて、あえて左右(のチャンネルに)違う言葉を入れたり、逆再生にしたりしていて。でも“一夜に関係のある単語に関してはハッキリと聴こえるように”っていうオーダーをさせて頂いたんです。解析するのがお好きな方は、ぜひ逆再生して“何を言っているのかな?”っていうのを調べたりして頂くのも楽しみ方の1つかなと思います。

●聴き込むことで発見する楽しさもあるというか。

佐藤:“あっ、これのことかな?”とか映像を思い浮かべられる単語を、作品の中からチョイスしていて。わかった時に“あっ!”という感動があるかもしれないです。『NOeSIS』ってすごく熱心に応援して頂いているファンの方が多い作品なので、こういう仕掛けがあるとニヤッとするんじゃないかなと。こちらの曲も、ファンのみなさんに刺さると良いなと思っています。

●『NOeSIS』と同様に深みを持った曲になっている。

佐藤:しっかり作品に寄り添っている曲だということを感じて頂けると嬉しいなと思います。自分がキャラクターを演じているからこそ、ここまで書けたのかなというところもあって。こういうコアな作品でヒロインを演じているという立場なので、とことん突き詰めてキャラクターに寄り添って、作品のファンの皆さんがどちらも納得してくれるようなものを作らねばという気持ちはありました。

●そういう強い気持ちを持って、今回の楽曲に取り組んだと。

佐藤:実はドラマCD化された時に原作者の先生から「いつか『NOeSIS』の曲を佐藤さんにも歌ってもらいたいな」と、雑談的な感じではあるけど言って頂いていたんです。そこで「私もそんな機会があれば良いなと思います」という話をしたのが、2年前のことなんですよね。そういった中で誰かが意図したわけでもなく、今回『NOeSIS』のタイアップの曲を歌わせて頂くことになって。原作者の先生との約束が果たせる2曲というところで個人的な思い入れもあったので、“約束の曲”みたいな感じでより力が入りましたね。

●『NOeSIS』関連の2曲に加えて、今作にはOVA『「英雄」解体』の主題歌である「crystal song」も収録されているわけですが。

佐藤:『「英雄」解体』は端的に言うと、英雄として活躍していた人を地球に連れ戻して、一般社会に馴染めるように訓練させる組織を舞台にした物語で。(出てくるキャラクターに対して)“この人はどんな英雄だったのかな?”みたいに、想像する余白が多い作品なんです。だから、こちらの曲に関してはわりと大きな枠組みで作詞をしても大丈夫という許可を頂いていたんですよ。(登場人物が)地球に来てからは英雄として生きていた時の力もなくて、周りには誰も知っている人がいなくて、周りにあるものが何もわからないっていう状況の中で、“それでも自分は自分として生きていくことが大事なんだ”というような、新天地に降り立った人への応援ソングになっています。

●作品のストーリーの中だけではなく、実生活にも当てはめられるものというか。

佐藤:そうですね。言葉のチョイスはファンタジーっぽいものになってはいるんですけど、たとえば高校に入ったとか、社会人になったとか、引っ越しをしたとか、新しい場所に行く人への応援ソングにもなると良いなと思っていて。もしジャンヌ・ダルクが英雄として周りから歓声を浴びていた時代から現代の地球にやって来たとしても、自分がジャンヌダルクであることや培ってきたものは決して変わらないので、そこから新たな一歩をどう踏み出すかっていうのを自分自身に問いかけるというか。自分と向き合うような歌をテーマに書きました。

●聴く人の背中を押してくれるような曲になっているのかなと。

佐藤:発売は10月ですけど、クラス替えや進学とかの変化がある春の時期に聴いてもらっても良いのかなと。初登校の日や出勤初日に家を出る前に聴いてもらって、“よし、頑張るぞ!”みたいな気持ちになって頂けたりもするんじゃないかなと思います。『「英雄」解体』に関しては自分なりに考察したり想像したり、色々と考える楽しみをくれる作品でもあるなと個人的には思っていて。作品を見て下さった皆さんが“もし仮に自分が英雄で、知らない土地に行ったらどうなっちゃうのかな?”とか、そういう妄想をしてもらうのも楽しいかもしれないですね。

●全くイメージの異なる作品のタイアップ曲が、1枚の作品に入っているというのも面白いですよね。

佐藤:『NOeSIS』はすごくダークサイド寄りな作品なんですけど、『「英雄」解体』に関してはどんな状況に陥っても生きていく強さだったりとか比較的ポジティブな内容になっているので、…本当に真逆だなと(笑)。でもすごく良い相互関係というか、毛色が全く違う作品だからこそ両方を楽しんでもらえたりもするのかなって。対照的だからこそ、どっちの作品も好きになってもらえたら良いなって思います。

Interview:IMAI
Assistant:森下恭子

 

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