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the band apart 木暮栄一 × □□□ 三浦康嗣

宇宙 日本 世田谷 氷川台 神楽坂。不可思議なリンクが導く神話具現

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□□□がasian gothic labelに移籍し、the band apartとの初のフィーチャリング・ミニアルバム『前へ』をリリースする。元々は全く異なる活動形態を取ってきた両者だが、いとうせいこうを除くメンバー同士が同い年ということもあり、ここ数年で急速に仲が深まっていく。ほぼ呑み会の延長線上の会話から実現したという今回のコラボレーション作品に加え、“the band apart (naked)”名義で初のアコースティックアルバム『1』も同時リリースされるというこの機会に乗じて、木暮栄一と三浦康嗣に両バンドを代表してじっくりと語り合ってもらった。

●この2バンドは元々、仲が良かったんですか?

木暮:3年くらい前に村田シゲ(□□□)主催のライブが富山であって(※2013年10月4日@富山市民プラザ)、その時に集まったメンバーの中に俺と(三浦)康嗣と川崎(亘一/the band apart)がいて、そこから始まった感じですね。

三浦:シゲはそれ以前から面識があったらしいですけど、すごく仲が良かったというわけでもなくて。

●そのイベントをキッカケに仲が深まった?

木暮:その日の夜に酒を飲んだ川崎が一生懸命、原(昌和/the band apart)のエピソードとかを話して、みんなが笑うっていう飲み会があって。その時に、徐々に上向いていた株式市場が急騰した感じですね(笑)。

三浦:一部上場したという夜でした(笑)。それまでにも何回かリハーサルを重ねていた中でお互いバカバカしいノリでちょっとずつヴァイヴスを調整していってはいたんですけど、富山での本番後の打ち上げが楽しくて、より深まったというか。その後も東京で同じメンツでやろうということになったりして(※2014年2月18日@渋谷WWW)、そうこうしているうちに今度は俺が荒井岳史(the band apart)のソロにアレンジャーとして参加したり、サポートメンバーとして村田シゲも一緒にツアーをまわったりして、ちょっとずつthe band apartのメンバーと仲良くなっていったんですよね。

●いとうせいこうさん以外は同い年ということで、共通の話題が多かったりもするのかなと。

木暮:この間、康嗣が「(the band apartのメンバー4人とは)4通りの話題がある」と言っていて。たとえば俺とだったら90年代のHIP HOPとか音楽の話で、他の3人とはまたそれぞれ別の話題があって…という感じらしいんですよ。特に川崎とは、傍から見ていると口ゲンカの一歩手前みたいな会話をしていますね(笑)。

三浦:“かまし合い”と言われています(笑)。でも俺がナメ狂ったことばかり言うのに対して、あいつ(川崎)が喜んじまっているところもあるんじゃないかっていう。「うるせぇな!」とか言いながらも、どこか嬉しそうな気もしていて。

●1人1人にチューニングを合わせて話している?

三浦:無意識にそうしているところはあるかもしれない。あと、これは□□□のメンバーにも言えることですけど、どんな話題でも楽しく盛り上がれるというのがあって。本当に何の役にも立たない、無駄なところで盛り上がれるというのが仲良くなったポイントかもしれないですね。利害とか立場とか思想とか関係なく、目の前のしょうもないことで一緒に盛り上がれるから。たとえば川崎について「あいつはドMだから」みたいな話だけで盛り上がれるっていう。

●ハハハ(笑)。そういう関係性があったからこそ、今回の“□□□ feat. the band apart”という企画も実現したのでは?

三浦:“□□□ × the band apart”だと、どっちが主導権を取るべきなのかわからなくなるから。だったら“□□□ feat. the band apart”という形にして、俺が主導権を握ってプロデュースするという形のほうが良いんじゃないかと。そうすることで基本的に曲やアレンジについては俺が全て責任をもってやるということになるし、自分1人にプロデュース権が集中するわけじゃないですか。…となるとそこで「なぜ(the band apartを)全員ボーカルにしたのか?」と訊かれると思うんですけど、俺は自分がプロデュースするとなったら1人1曲はメインで歌う曲を作りたいと考えていたんです。なぜなら、面白いからっていう(笑)。川崎に対しては、ただイジメができるからっていうだけなんですけどね(※M-3「スニーカー feat. 川崎亘一」)。

●ドMだけに(笑)。

三浦:ドMだけに。でも実際はどうなるかわからないところもあって。荒井くんはソロでも一緒にやっているから、大体どうなるかは読めるんですけどね。でもやっぱりボーカリストだから色んな側面が出てくるだろうし、それに対処する楽しさっていうのもあるから。

●現場で対処していく楽しさがある。

三浦:たとえばM-2「前へ feat. Lil E a.k.a. 木暮栄一」については、木暮くんが高校生の頃にラップグループをやっていたのを知っていたので「ラップを書いてきてよ」と言って。最初に木暮くんのドラムを録音して、それをエディットしてトラックも作っているんですよ。でも木暮くんのラップがすごくカッコ良くて安定していたから、結果的にラップのパートからはドラムをほとんど抜いたんですよね。ラップがもし不安定だったらもっとビートを出したほうが形になって聴きやすいんですけど、実際はカッコ良かったので(リスナーには)ラップに集中して聴いて欲しいと思ったし、できるだけ裸にしたいというのもあったから。そういう感じで、出てきたものに対するリアクションというのはそれぞれの曲でやっていると思います。

●返ってきたものが想像以上だったことで、当初のアレンジから変更したりもした。

三浦:想像以上というか、期待通りだったところもありつつ、まさかの「ギタリストなのにこんなにもギターが弾けないの…?」っていうのもあったりしました(笑)。しかも一度は「やる」と言っていたのにレコーディング当日になって、歌うことに対して文句を言ってきたりとか…本当に色んな人がいて四者四様で楽しかったですね。

●川崎さんは歌うのを嫌がったと(笑)。

木暮:嫌がったのはレコーディング当日だけじゃなくて、ツアー初日の広島でも「こんなことってあるんだ…?」っていうくらいの登場の仕方をしていましたけどね。なぜか怒っているっていう(笑)。

三浦:衝撃の登場の仕方だったよね。怒っている上に、アホみたいにテンパっているっていう(笑)。俺から会話を振っても「えっ、何?」みたいな感じで全く言葉も耳に入っていないし、キレているし…。一応、一番慣れていない人には最初にデモを作ってあげて、猶予期間を一番長く取ったりはしたんですよ。

木暮:準備する時間はわりとあったとはいえ、本当にその瞬間になって怒っちゃう気持ちもわからないでもないなと思いましたね。

●見ず知らずのたくさんのお客さんが観ている前で歌うわけですからね。

三浦:逆に見ず知らずのたくさんのお客さんに対して、「歌いたくねぇ」とか駄々をこねるヤツがいるんだっていう…40歳近くにもなって。そういう演技をしているわけでもなくて、ただの本音なんですよ。ビックリするな〜と思って、爆笑しましたね(笑)。

●川崎さんにとっては、新たな扉を開くような経験にもなったのでは…?

三浦:ツアー初日が終わった後に「何かが開けた」とは言っていましたよ。何かチャクラみたいなものが開けたとか言っていましたけど、その次の福岡でもステージに出てきた時に「やりたくねぇ」って怒っていましたからね。結局、何も開けていないんだろうっていう(笑)。

●まだ抵抗があるんでしょうね(笑)。

三浦:でも歌うことに対して、味をしめたっぽいんですよ。ちょっと「悪くねぇな」と思いかけている気がするので、それは良いことなんですけどね。

●音の空気感も含めて、すごく味のある曲になっていますよね。

三浦:味わいしかないと思います(笑)。この寂しい感じは好きですけどね。この曲を聴くと、本当に寂しい気持ちになるんですよ。そこは良い味が出せたなと思っています。

●「スニーカー」の歌詞は、川崎さんをイメージして書いたんでしょうか?

三浦:完全にイメージして書きましたね。あいつはスニーカーマニアらしいという情報があったので、くたびれたスニーカーに川崎を重ね合わせるっていうシンガーソングライター的なやり方で書きました。

●くたびれ感みたいなものが曲調にも表れている?

三浦:「思っていたよりもくたびれたな」とは思いましたけど(笑)、それはそれで良いものになったと思います。あと、M-1「板橋のジョン・メイヤー feat. 荒井岳史」も荒井くんが自虐的に自分のことを“板橋のジョン・メイヤー”だと冗談で言っていたので、それを使ってみたんです。これまでのソロやthe band apartでもあまりなさそうな歌詞とか曲調にしないと、チャレンジング感が出ないなと思って。曲を書く前から荒井くんは「俺は何でも良いですよ。何が来ても驚かないので」と言っていたんですけど、さすがにこの曲を送ったら「この手があったか」と言われましたね(笑)。

●予想外のものを提示できた。

三浦:「これは確かに今までやっていない」と言われて。最初は「こんなの嫌だ」と言われるかもしれないと思っていたんですけど、ノリノリでやってくれたので良かったなと思っています。自分でも気に入っていますね。

●M-4「神話具現 feat. 原昌和」は、どういうイメージだったんですか?

三浦:原くんも「何でもやるよ」と言っていて。あの人は“やると決めたら何でもやる”というタイプだと思うんですよ。曲の方向性を途中で真面目なほうに修正したんですけど、最初はもうちょっとフザけた曲を書くつもりだったんです。歌詞も今までに原くんが書いたものをいくつか送ってもらって、それを参考にして書きましたね。

●真面目な方向に修正した理由とは?

三浦:原くんはフザけるほうが楽なんじゃないかと思ったから。シリアスな曲をちゃんと歌うっていうほうがチャレンジングなのかなと、最終的に判断しました。

●木暮さんは「前へ」のトラックをもらった時に、どう思ったんでしょうか?

木暮:“□□□ × the band apart”という共作じゃなくて、“□□□ feat. the band apart”という形にした時点で俺はもうプロデューサーが言ったことは“何でもやろう”と思っていたんですよ。でも渡されたトラックが普通にカッコ良かったから「おお!」となって。最初はもうちょっと歌詞の内容とかも無視した、ポリリズムで遊ぶようなリリックを作っていたんです。でもせいこうさんが書いたリリックを見せてもらったら激アツだったから、これはもうちょっと前に行く感じを出していかないとバランスが悪くなるなと思って書き直して。至極、真面目に取り組みましたね(笑)。

●せいこうさんが「前へ」というタイトルに対して書いてきた歌詞が、イメージとは違っていた?

木暮:そもそも「前へ」というのは原が今までに提案された音源のタイトルの中で一番ダサいなと思ったものなんですよ。昔、友だちのバンドがスプリットのデモテープを出そうと言ってきた時にタイトルをどうしようかとなって、1分くらい沈黙した後でその友だちが「『前へ』ってどう?」と眉間にしわを寄せて真剣な顔で言ったらしいんです。その時に原は「本当にダサいな」と思ったという話を康嗣にしたら、なぜか「じゃあ、それにしよう」となっちゃって(笑)。

●悪フザけから生まれたタイトルなんですね。

木暮:「ハハハ(笑)。あいつら、本当にタイトルにしやがった〜」みたいな感じだったんですけど、せいこうさんはその場にいなくて。何も知らない状況でタイトルが「前へ」だということだけを聞いたらそのまま“前へ行くぞ!”という意味に受け取るのが普通だから、激アツのリリックが来るのは当たり前なんですよね…。だから、自分も“何とか前へ”っていう感じで書きました。

●そんな言葉がアルバムタイトルにまでなっている。

三浦:わりとそういうノリでthe band apartのみんなとも仲良くなった感じがするので、そのままのノリで全部実現しようと。アー写とかもおかしなものになっているんですけど、これも原くんが「後方爆発(の構図)が大好きだ」と言っていたのでノリでこうなっちゃって…。「神話具現」という曲名も原くんが「俺が一番好きな四文字熟語を知っているか? “神話具現”だ」とか言うから、「じゃあ、それがタイトルな」っていう感じで(笑)。世間体とかも考えずに、「俺らがウケたから、これにした」みたいな感じで全部やっていますね。

●4人それぞれの良さは引き出せているのかなと。

三浦:まあ、良さを引き出せているのか殺しているのかよくわからないですけどね。本当に良さを活かすんだったら、全員に歌わせたりしないですもん(笑)。だからもし次回どこかで“the band apart feat. □□□”という企画をやった時に、クソ難しいギターやドラムをやらされて全然できなくてボロボロのものを(音源に)入れられても文句は言えないんですよ。

●今後、逆の企画が実現する可能性もある?

木暮:そうですね。こっちがオファーしても、「やらない」って言われる可能性もありますけど(笑)。

三浦:いや、やるよ。これだけやっておいて自分はやらないなんて、さすがにそれはないなと思うから、何を頼まれてもやります。「シタールを弾いてくれ」と言われたら、まずシタールを買うし(笑)。これだけやったんだから、逃げたらダメだなと。俺も“もっと前へ行かないとな”って思いますね。

木暮:こういう作品を出せば、一緒にツアーもできるから。いつかまた違うタイミングでやりたいですね。

Interview:IMAI

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[L→R] 村田シゲ(□□□)/原昌和(the band apart)/荒井岳史(the band apart)/三浦康嗣(□□□)/いとうせいこう(□□□)/川崎亘一(the band apart)/木暮栄一(the band apart)

 

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