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バンドハラスメント

今この瞬間にしか放てない歌が胸の奥に秘めた感情を呼び覚ます


名古屋発・平均年齢21歳の4人組ロックバンド、バンドハラスメントが新レーベル“SANTA IS PAPA”より1stミニアルバム『エンドロール』をリリースする。昨年10月には今作にもその表題曲を収録している1stシングル『君がいて』を名古屋2店舗限定で発売し、初の全国ツアーも敢行した彼ら。臆病系男子の切ない想いを描いた歌詞を、温かくも芯のある歌声で叙情的に歌い上げる楽曲は今作でさらなる広がりを生み出そうとしている。20代前半の今この瞬間にしか放てないエモーショナルな言葉と音は世代を超え、胸の奥に秘めた感情を呼び覚ますだろう。

「後から振り返れば間違っていたとしても、その時は間違っていないんですよ。その時に本当に思っていたことは“本当”だし、“正しい”んじゃないかなと思っています」

●“バンドハラスメント”ってすごくインパクトのある名前ですが、どういう意図で付けたんですか?

斉本:そんなに深い意味はないんですけど、バンドによるハラスメントのようなキラーチューンを作っていきたいなと思って。聴いていない時にも頭の中でそのバンドの曲がずっと流れてくるっていうのが、“嫌がらせ(=ハラスメント)”みたいなものなんじゃないかなと思って付けました。

●嫌になるくらい頭の中でリフレインするような曲というか。最初から、このバンド名だった?

斉本:いや、全く違いました。元々はボーカル以外の3人で別のバンドをやっていて。そのバンドが解散してから井深を誘って、新たに始まった感じですね。

井深:それまで僕は地元の岐阜でハードコアバンドをやっていたんですけど、“名古屋に出たい”っていう想いがすごくあったんです。元々こういう音楽も好きだったので、今までやったことのないジャンルに踏み込んでみようかなと思って加入しました。

●元々はハードコアバンドをやっていたんですね…。

井深:ハードコアが好きで、そういうバンドばかりやっていました。でも自分の新しい可能性も見つけたいと思っていたので、誘ってもらえて良かったです。

●その当時はシャウトやスクリームをしていたわけですよね?

井深:やっていました。

斉本:クリーントーンで歌っている時の声に惚れて、僕らは誘ったんです。表現力や声の質感がすごく気に入ったので、即決でしたね。

ワタさん:入ってからも活動を続けていく中で、すごく成長しているのが見えるんですよ。

はっこー:他にも候補はいたんですけど、井深は声質が圧倒的に一般人離れしているなと思って。やっぱり声質が魅力的なのがボーカリストとしては一番重要なので、そこが良かったです。

●歌い方というよりも、表現力や声質がハマった。

井深:当時からメロディを最も重要視していたので、そういう意味でもこのバンドに入って良かったですね。歌の醍醐味って、叫ぶだけでは表現できない部分があるから。こういう曲だからこそ、自分の特徴を活かしきれると思いました。

●“こういう曲”という表現も出ましたが、自分たちではバンドハラスメントの音楽をどういうものと捉えているんでしょうか?

斉本:そこは自分たちでもいまいち、よくわからなくて。誰かに似ていると言われたりもしないんですよね。“こういうジャンルをやっているんだ”っていう自覚はないので、基本的には何でも良いんです。いずれは“バンドハラスメント”っていうジャンルになれたら良いなと思ってやっています。

●それぞれにルーツも違ったりする?

はっこー:僕はギターロックが好きでBUMP OF CHICKENやthe pillowsとかをよく聴いていたので、バンドをやるならそういう音楽がやりたいなと思っていました。

井深:僕はメロディのきれいな歌が好きで、ジャミロクワイやジャスティン・ビーバー、ブルーノ・マーズとかがすごく好きですね。

●ハードコアだけが好きなわけではないんですね。

井深:そういうバンドをやっていた時期はハマっていたんですけど、元々は洋楽中心でメロディ
のきれいなアーティストや歌が上手い人の曲をよく聴いていました。

●ワタさんは?

ワタさん:僕は元々ギターが好きでバンドを始めたので、ギタリストが好きで。一番好きなのは、ブルースギタリストのDerek Trucksですね。

斉本:好きなものやルーツがみんな、バラバラなんですよね。僕は基本的に音楽を聴かない人なんですよ。だからメンバーは色々聴いていて、すごいなと思っています。

●その音楽を最も聴かない斉本くんが、基本的に曲を作っているそうですが…。

斉本:ワタさんと一緒に作るんです。僕が何かを出して、それをワタさんが形にしていくというところから曲を作っていきます。

ワタさん:どの曲も僕がパソコンで一度まとめてから、バンドに投げる感じですね。

●出発点が斉本くんのアイデアだと。

斉本:曲作りは僕が“こんな感じ”と言ったものを、他の3人が表現するという形になっています。

●歌詞は恋愛に関するものが多いですよね?

斉本:歌詞も僕が書いています。僕が今でも音楽をやり続けている理由は、昔付き合っていた女の子なんですよ。バンド好きな子で、元々はその子が喜んでくれるからバンドをやっていたんです。別れた後も、“メジャーデビューしたらその子とヨリを戻せるんじゃないか?”っていう気持ちでずっとやっていて。

●ずっと想いを抱き続けているんですね。

斉本:だから、その子こそ僕が一番の影響を受けたアーティストと言っても過言ではないと思います。その子はバンドが大好きで、ギターも弾いていたから。歌詞はその子についてしか書いたことがないですね。

●M-6「9月4日」の“あなた”もその子?

斉本:まさにそうですね。他の曲では誰にでもあてはまるように歌詞を書いているんですけど、その曲だけはビシっと定めて書きました。

●“9月4日”に込めた意味とは?

斉本:その子の誕生日です。別れた後も関係なく、その日は毎年やってくるじゃないですか。本
人はもうバンドも音楽もやめちゃったみたいなんですけど、元々はその子が「好き」だと言ってくれたから僕はバンドを始めたし、煙草も吸い始めたんです。でもその子を失った時に気付いたら、その2つしか僕の中に残っていなかった。

●その子がキッカケで始めたものだけが自分の中に残っている。

斉本:その子は大学に行ったりしてどんどん大人になっていくのに、僕だけ子どものままなのが切ないなと思って。その子の誕生日がやってくる度に、そういう気持ちになるんですよ。こんな歌を作っているくらいなので自分は今も全然成長できていないんだなと思うんですけど、歌詞はそういう感覚で書いています。

●そういう他人の想いをボーカルとして歌うのは、どういう感覚なんでしょうか?

井深:難しいですよ。でも自分のものではない感情をみんなに伝えるっていうことが楽しくて。斉本の曲はどれもすごく素直で、ストレートに響いてくるなというのは歌いながらも感じているんです。それを“いかに生々しく、表現力豊かに伝えるか”っていうのを考えるのも面白いので、そういう挑戦は楽しいですね。

●共感するところもある?

井深:すごくあります。特にM-2「大人になるために」は自分の中で当てはまることが多いので、表現しやすくて。僕自身もあまり大人ではないので、そういう共感できる部分があるからこそ歌いたいと思うんですよね。

●斉本くんが思い続けている女の子を知らなくても、誰しも共感できる部分はあるわけですよね。

斉本:この曲は、別の子について歌っているんですけどね。

●さっき「歌詞はその子についてしか書いたことがない」と言ったじゃないですか(笑)。

斉本:基本的には、その子に歌っています。

●“君だけのことを愛した”とか歌っておきながら…。

斉本:その時はそう思っていたんですよ。その子とは中学時代から付き合っていたんですけど、別れた後で大学に入ってから別の方ともお付き合いしたんです。でもその方とは「元々付き合っていた子のことが忘れられない」と言って別れて。「大人になるために」は、その時のことについて書きました。

●MVにもなっているM-3「サヨナラをした僕等は2度と逢えないから」も、その子に向けて書いた曲?

斉本:そうです。最初の出会いって、その子と出会いたくて出会ったわけではないじゃないですか。そんな感じで出会ったのに、別れた今となってはメチャクチャ会いたくても会えないんですよ。乗り換えの駅も一緒なのに、会えないのはなぜなんだ? …っていう。顔もわかるし、どの電車に乗っているかもわかるのに、なぜか会えないんですよ! それが嫌だなって。

はっこー:エモいわ!

●そういうエモさも楽曲の特徴かなと。

斉本:僕らは曲をストックしたりしないので、毎回その時の感情を書いているんです。だから1年後には、全く逆のことを言っている可能性もあって。今作もその時々の感情を入れた作品になっていますね。もし僕がその子とヨリを戻せたら、次はハッピーな曲ばかりになるかもしれない(笑)。

●歌詞の内容的にも、20代前半の今しか書けない等身大な気持ちが表れているように感じました。

斉本:そこはすごく大事にしていますね。後から振り返れば間違っていたとしても、その時は間違っていないんですよ。僕は明日変わっていても良いと思っていて。「昨日言っていたことと違うじゃん」と言われるかもしれないけど、その時に本当に思っていたことは“本当”だし、“正しい”んじゃないかなと思っています。

井深:妙に飾っていないというか。世代が上の人たちには“若いな”って思われるかもしれないですけど、実際に僕らは今20代なのでその時にしか歌えない曲を歌っていくだけなんです。僕らが飾った曲を歌ったとしても、生々しさには勝てないと思うから。その部分は歌っている時も大事にしていますね。

●今この年齢だから歌えることを生々しく表現している。

井深:でも誰もがその年齢の時にはそういう気持ちを経験してきているはずだし、年を重ねたからといって完全にそういう感情が消えるわけではないと思うんです。どこかでは覚えているはずの感情を掘り起こせるような曲になったら良いなと思っています。

●歳を取ったからといって、若い頃に抱いた感情が消えてしまうわけではない。

斉本:今回の『エンドロール』というタイトルもメンバー全員が20歳を超えてからのリリースなので、1つの節目という感じで付けたんですよ。それこそ今年は大学も全員辞めてバンドマン兼フリーターになったというところで、物語が1つ終わった感覚があって。物語が終わったら、絶対にエンドロールが流れてくるじゃないですか。20歳まではエンドロールの一番上に自分の名前があると思うんですけど、20歳を超えて第2章の物語が始まるとなった時に自分の名前はまだそこにない気がしていて。

●自分の名前がエンドロールにない?

斉本:20歳になってから1年ちょっと過ぎたんですけど、今はまだ“周りの人たちが主役なんじゃないだろうか”って急に思い始めたんです。20歳までのエンドロールが終わってすぐ第2章の物語は始まっているんですけど、また自分が主役でこのまま上手くいくというわけではなくて。今の立ち位置としては第1章が終わって第2章が始まるまでの“間”にいると思うので、そういう気持ちをこのアルバムには詰め込みました。

●そのアルバムを持って、ツアーにも出るわけですが。

はっこー:ツアーは前に1回やったことがあるんですけど、すごく楽しかったんですよね。

井深:前回のツアーで色んな人と出会って、土地ごとに全然違う色があるんだなと知ったんです。それを自分たちの音楽に照らし合わせてみたら色々と新しいものが生まれたりして、ためになることが多かったんですよね。そういう経験をしたからこそ今回のアルバムも作れたので、今度のツアーで得たものをどう次の作品に反映していけるかというところで、自分たちのステップアップも兼ねてまわっていきたいと思っています。初めて行く場所もあるので、そういうところで僕たちの音楽がどう響くかというのも楽しみですね。

Interview:IMAI
Assistant:室井健吾

 

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