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nano.RIPE

進化するほどに深まる“らしさ”。上昇気流のその先に広がる七色の未来。

nano.RIPEが、ニューシングル『虚虚実実』を11/15にリリースする。2016年10月に5thアルバム『スペースエコー』をリリース後、突如発表されたリズム隊2人の脱退というニュースに驚いた人も多いだろう。それでも彼らは立ち止まることなく、2017年に入ってからはサポートメンバーを加えてライブ活動を続けてきた。4/29から東名阪で行った“nano.RIPE LIVE TOUR 2017「せいなるたねび」”では、会場限定でシングル『夜の太陽』も発売。創作意欲もライブでの勢いも増していく中で、流通盤としては約1年ぶりの新作がいよいよリリースされる。TVアニメ第3期『食戟のソーマ 餐ノ皿』ED主題歌となっている表題曲「虚虚実実」は、とりわけロック色の強いアグレッシヴな1曲だ。小田和奏(ex. No Regret Life)をサウンドプロデュースに迎えるなど新たな挑戦も見える今作は、変化を恐れず突き進んでいく意思表明でもあるかのよう。だが、オリジナルメンバーのVo./G.きみコとG.ササキジュンという核になる2人がいる限り、軸にある“nano.RIPEらしさ”は決してブレることはない。終わらない最終章のページは、もう既に開かれている。

 

SPECIAL SOLO INTERVIEW:Vo./G.きみコ
「“自分がやってきたことは正しかったのか、間違っていたのか?”というところから、“虚実”という言葉がまず頭に浮かんで。“何が真実で何が嘘かわからない世界に今もいるし、この先もそういう世界で生きていくんだ”という気持ちの表れですね」

●流通盤としては5thアルバム『スペースエコー』(2016年10月)から約1年ぶりのリリースとなりますが、これだけ期間が空くのはnano.RIPE的には珍しい気がします。

きみコ:初めてかもしれないですね。メンバーチェンジがあってバタバタしていたんですけど、やっと落ち着いてきた時に今回のタイアップのお話を頂いて。

●それで今回のシングル『虚虚実実』のリリースが決まったと。昨年末でリズム隊の2人が脱退してからは、サポートメンバーを加えて活動しているんですよね。

きみコ:リズム隊というバンドの根っこにあたる部分が変わったことで、最近は“よりロックなnano.RIPEになっていっているな”という感覚があって。前メンバーとは得意なことも違ったりするので、そういう意味では新しいサウンドになっているのかなと思います。

●実際に今作のタイトル曲M-1「虚虚実実」はロック色がすごく強くて…、最初に聴いた時は“nano.RIPEって、こんな感じだっけ?”と思ってしまいました。

きみコ:イントロだけ聴くと、“違うバンドのCDをかけちゃった!?”みたいな感じですよね(笑)。『食戟のソーマ』のタイアップを担当させて頂くのは2回目なんですけど、前回の「スノードロップ」もnano.RIPEの中では攻めたロックなサウンドだったんです。それを認めてもらった上で今回のお話を頂いたので、そういう方向をより突き詰めてみようと思って書き下ろしました。

●前回の「スノードロップ」での経験を踏まえた上で、こういう曲になったと。

きみコ:それにしても(作曲者のササキ)ジュンは、“相当やったな…”という曲を持ってきましたけどね(笑)。

●ジュンくんがかなり攻めた曲を作ってきたわけですね(笑)。候補曲は他にもあったんですか?

きみコ:もう1曲あったんですけど、満場一致でこっちになりました。もう1曲のほうはnano.RIPE色が強い曲調だったんです。でも今回は“新しいことに挑戦しよう”と思って、あえてこっちにしました。

●そこにも新しいことに挑戦しようという意志が表れている。

きみコ:今は挑戦しやすいタイミングだなと。メンバーが変わったから音も変わって当たり前だし、“そこに便乗して色んなことをやっちゃえ!”というタイミングなのかなと思っています。

●サウンドプロデュースに小田和奏さんを迎えたのも、新たな挑戦の1つでは?

きみコ:そうですね。初めて出会ったのはあたしが新代田crossingでの弾き語りイベントに出た時で、そのお店で和奏さんが働いていて。名前と顔は元々お互いに知っていたんですけど、そこから急に仲良くなったんです。一緒にイベントをやったり、ツアーに出たりした中でコラボしたりもして、“こういうことをnano.RIPEでも一緒にやりたいな”と思っていたのが実現した感じですね。

●和奏さんは今回の制作にどういう関わり方をしたんですか?

きみコ:“メンバーの1人”みたいな感じです。一緒にスタジオに入って「ここはこういうコードにしたらどうだろう?」といったことをみんなで話し合いながら、実際に試してみるという感じでやっていって。“絶対的な存在”にプロデュースされているというよりは、“同じメンバー”という感じで一緒にやって頂いたのですごくやりやすくて、面白かったです。

●これまでもプロデューサーを入れたことはあった?

きみコ:いわゆる“プロデューサー”という感じでは、あまりなくて。アレンジャーとして入って頂いた方とそういう作業をしたことはあるんですけど、ここまで“メンバー”みたいな形で一緒にやったことはなかったです。

●ロック色が強くなったのは、和奏さんと一緒にやったことも関係している?

きみコ:この曲のデモは、ジュンが最初からこういう感じで作ってきて。その後に和奏さんとやることが決まって、手を加えていったところもあるんです。だから元々ジュンに“こういう方向のnano.RIPEを試してみたい”という気持ちはあったと思うんですけど、そこに和奏さんのエッセンスが加わった感じですね。

●「虚虚実実」に関しては、ジュンくんが作ってきた段階からイメージがある程度固まっていた。

きみコ:デモの段階から自分でドラムも打ち込んできていて、“ここはこう”というのがジュンの中でも相当ありました。そこをちょっとずつ、イジっていった感じですね。ドラムも実際に叩いてみて、今のサポートメンバーが得意とする部分を伸ばしたりもして。でも大元にあるものは、ジュンが持ってきたイメージのままです。

●歌詞に関しては、今回のTVアニメ『食戟のソーマ 餐ノ皿』からインスピレーションを受けて書いたんでしょうか?

きみコ:『食戟のソーマ 餐ノ皿』で描かれるストーリーを読んで、自分の共感する部分を引き出して書いた感じですね。

●誰か特定のキャラクターをイメージしていたりもする?

きみコ:前回の「スノードロップ」の時は登場人物のみんなが“料理”の世界で闘っているイメージから書いたんですけど、今回は“薙切えりな”というキャラクターの気持ちを書いたというか。「餐ノ皿」では、その子が色んなことに巻き込まれていくような展開になるんです。その子の体験を見ていると、あたしが去年末くらいからメンバーチェンジがあったりして色んな壁にぶち当たっていたところと共感する部分がたくさんあったので、そこを書いた感じですね。

●きみコさん自身も壁にぶち当たっていた時期があったんですね。

きみコ:前メンバーでのライブは去年の12/25(“nano.RIPE TOUR 2016 FINAL「スーパーノヴァ」”)が最後だったんですけど、その時点ではまだ“来年はどうなるんだろう…?”という気持ちがあって。“やめない”と決めたものの、“本当に大丈夫なのか?”という不安はあったんです。それが今年に入って何本かライブをやったり音源を作ったりしていく中で、“やめなくて正解だった”ということがだんだん自分たちでもわかってきたというか。そういう感覚はありましたね。

●メンバー2人になってからホームページで“nano.RIPE最終章”と書かれていたのを見た時は一瞬、“解散するのかな?”と思いましたが…。

きみコ:“最終章”の気持ちではいますけど、“終わらない最終章”なんです。“まだ最終章をやっているよ!”みたいな(笑)。

●ずっとやっている閉店セール的な(笑)。原点の2人に戻ったことで、“続けていく”という覚悟も強まったのかなと思います。「虚虚実実」の歌詞にもそういう強い意志が表れている気がして。

きみコ:薙切えりなというキャラクターの色も出ていると思うし、置かれている状況がそれくらい大変だということもあって。あとは、曲のメロディや雰囲気から引っ張り出されたようなところもありますね。サウンドとメロディが強いので、ヌルっとしたことを歌う感じではないなと。1つ1つの言葉が強くても良いなと思っていました。

●“籠の中から見上げた空”というのは比喩的な表現だと思いますが、これは何をイメージしているんですか?

きみコ:アニメの中に、まさにそういう描写があって。えりなのお父さんが今回のシリーズから登場するんですけど、その育て方が異常というか。(えりなは)籠の中に入れられて育って、そこで植え付けられたものが正解だと思って生きていたんです。でも実はそれが正しくなかったんじゃないかという疑念が生じたことで、壁にぶつかったりして。そういうところでまさに彼女が籠に入っている描写があって、すごく印象に残っていたんですよね。

●実際のシーンからインスピレーションを受けて書いた歌詞なんですね。逆に、自分と重ねて書いた部分とは?

きみコ:2番のAメロの“快楽に身を委ねれば緩やかに削られる野心〜(中略)〜いつまでも咲き誇る美談”のところは、バンドにも置き換えられるものになっていて。たとえばライブの打ち上げとかで「昔は売れていた」とか「自分が××というバンドを育てた」みたいな話をする人がいて、周りは“また始まったよ…”と思っていたりするというのはよくある場面じゃないですか。「そういうふうになりたくないよね」と色んなバンドマンとも話すんですけど、まさにこれが“いつまでも咲き誇る美談”だなと。

●過去の栄光にいつまでもすがっている感じというか。

きみコ:昔の美談に寄りかかっていても、どうしようもないと思うから。nano.RIPEもメンバーが固まって良い感じでやっていた時期に、その中で甘えて慢心している部分があたし自身にもあったなと思って。そういうところで自分に釘を刺すようなイメージで、その2行を書きました。このあたりは、かなり自分のことを歌っていますね。

●“答えはヒトツとは限らない”という歌詞も、バンドに通じるところかなと。続けることもやめることも、どちらが正解というわけでもない気がします。

きみコ:選ばなかったほうの結末は、わからないじゃないですか。だから“選んだほうの良いところを探していかないと、やっていけないよな”と思ったりしますね。

●選んだことは変えられないですからね。タイトルの「虚虚実実」は、どこから浮かんだんですか?

きみコ:これはまさに“自分がやってきたことは正しかったのか、間違っていたのか?”というところから、“虚実”という言葉がまず頭に浮かんで。それで調べてみたら、虚実という言葉は元々“虚虚実実”という四字熟語を略したものだということを知ったんです。この字面と曲のイメージもすごく合っている気がして、これにしようと思いました。“何が真実で何が嘘かわからない世界に今もいるし、この先もそういう世界で生きていくんだ”という気持ちの表れですね。

●だから最後も“ぼくはぼくじゃなきゃ居られない 変われるほど器用じゃないさ”という意思表明で終わっているのかなと。カップリングの2曲は、どういう基準で選んだんでしょうか?

きみコ:M-2「ヒーロー」は最近あたしが書いた中で、自分でも気に入っていたので収録して。M-3「深く」は3〜4年前に書いていて、ストックの中からひっぱってきた曲なんです。(歌詞中に)“秋”というワードもあったので、今回のリリースタイミングにもハマるかなということで選びました。

●「虚虚実実」が新たな挑戦を感じさせる一方で、「ヒーロー」はnano.RIPEの王道を行くような曲だなと感じました。

きみコ:変わることもすごく良いと思うし、そこに対して臆病にはなりたくないんです。でも「変わっちゃった」と言われることだけは嫌だなと思っていて。表面的には色んなことに挑戦して変わっていったとしても、芯となる部分は変わらないから。そういうことをわかりやすく打ち出したくて、“これぞザ・バンドサウンド”というシンプルなnano.RIPEのロックにしたいなと思って作った曲ですね。

●こちらもリード曲になってもおかしくないクオリティですよね。

きみコ:そうなんですよ。結果的にアレンジも含めてすごくカッコ良くなったので、“これが表題曲でも良かった”と思うくらいの曲になりました。

●歌詞はどういうイメージから?

きみコ:たとえば雲の上に映った飛行機の影の周りに七色の輪が見えることを“ブロッケン現象”というらしいんですけど、それがすごく素敵だなと思って。そこから曲を書こうと思って、物語を作っていった感じですね。

●そこから「ヒーロー」というタイトルに至ったのは…?

きみコ:そこ(※雲の上)まで辿り着くって、普通はできないじゃないですか。誰かの力が必要になるというか。たとえば飛行機に乗る場合でもパイロットが必要で、自分1人では雲の上までは行けないから。“遠くに見える雨雲の中で誰かが泣いている”という場面から始まる歌詞なんですけど、“それを救ってくれるような存在がいたら良いな”という希望から生まれた物語ですね。

●“上昇気流を捕まえて”というサビが特に印象的ですが、バンドとしてもさらに上を目指すというポジティブな今の気持ちにもつながるフレーズかなと。

きみコ:色んなことに対して、昔よりもだいぶ前向きになりました。あと、バンド自体も吹っ切れたというのはありますね。メンバーがやめると決まってから実際に脱退するまで何ヶ月かあったんですけど、その間は“終わりに向かって進んでいるな”という感覚があったんです。それが(脱退を経て)一度ゼロになって、“それでもジュンと2人でやる”と決めたところで、何周かして吹っ切れた感じはあって。

●吹っ切れたことが、前向きな気持ちにつながっている。

きみコ:怖いものは減った気がするんですよね。誰かの一言とかも昔はすごく気になっていたんですけど、最近は全然気にならなくなってきたというのはあるかもしれないです。

●「深く」は3〜4年前に書いた曲ということですが、こちらは当時の心境も出ているんでしょうか?

きみコ:これは当時何を思って書いたのか思い出せないんですけど、今歌った時にしっくり来たんです。特にストリングスや鍵盤も入ったりして、和奏さんのアレンジも加わったことで、より一層この曲で表現したいことがちゃんと音にできたなと。そういうタイミングも良かったのかなと思いますね。

●この曲が表現したいことを、今だからちゃんと音にできた。歌詞は“愛”がテーマになっていますよね。

きみコ:“愛とは何か?”という。何年か前に書いたからこそ、今改めて録るとなった時に読み直して。自分が書いたものではないような感じで、客観的に言葉を読んでいたんです。最後の“きみやぼく自身がすでに愛だ”(※歌詞中では“愛という名のきみやぼくだ”)という結論は、自分でも随分思い切ったなと思いましたね。でもそれが、“あたしらしさ”なのかなと。

●恋愛的な意味ではなく、普遍的な愛を歌っているように感じました。

きみコ:そうですね。これは人間の愛や母親の愛とかについて歌っていて。なぜ当時こういう歌詞を書いたのかはわからないんですけど、きっと今とはもうちょっと違う気持ちで書いていたんだろうなとは思います。寝かせていた意味がすごくあった曲になりました。

●「深く」というタイトルは、作った当時から変わっていない?

きみコ:その時から決めていました。「何で秋だけ“深く”って言うんだと思う?」と色んな人に訊いていた時期があって、その時に書いたんです。その疑問はまだ解消していないんですけど、深くなるのは“秋”と“夜”と“愛”だなっていう。

●確かにその3つはどれも“深まる”と表現される言葉ですよね。先ほど話題に出たストリングスも、この曲では効果的に使われています。

きみコ:最初あたしとジュンの間では「ピアノがあると良いかもね」という話をしていたんですけど、和奏さんからストリングスを入れる案をもらって。今までやったことがなかったから、やってみたいという部分もありました。鍵盤も弾いてもらったし、弦のアレンジも全部やって頂いたので、“和奏節”が今回の3曲の中では一番出ていますね。

●和奏さんと一緒にやることで、表現の幅も広がった?

きみコ:そうですね。和奏さん自身がバンドマンなので、ちゃんとバンドサウンドというものもわかっていて。その上で視野が広い人なので「こんなことをやったら面白いんじゃない?」というアイデアを、すごくわかりやすい形でたくさん投げてくれるんですよ。だから、無理なく広げてもらったというか。nano.RIPEらしさを理解してもらった上で、それを広げて頂きました。

●nano.RIPEらしさは変わらないままで、幅を広げることができた。SNSでの発言を見る限り、今作を作り終えた後もどんどん新曲を作っているみたいですね。

きみコ:どんどん作っています。来年1年分くらい作り始めていますね。

●そんなに(笑)。相変わらず、曲のアイデアは尽きないと。

きみコ:尽きないです。それに、ジュンも(曲作りのペースが)速いですからね。ジュンは最新の音楽も片っ端からちゃんと聴いていて、面白そうなものがあったら“こういうのもやってみたい”とどんどん言ってきて。そういうものも反映させながら、結構なハイペースで曲を作ってくるんですよ。だから逆にあたしは「ヒーロー」みたいな“ザ・nano.RIPE”みたいな曲を作り続けていられるなという安心感があって、無理のないペースで作れていますね。

●その2人のバランスが今回のシングルによく表れている感じがします。新しいことに挑みつつも、変わらないnano.RIPEらしさが見える作品というか。

きみコ:“何をやってもnano.RIPEだな”というところに落ち着きたいんです。“新しいものもカッコ良いけど、やっぱりnano.RIPEだ”というふうになりたいですね。

Interview:IMAI
Assistant:室井健吾

 

 
 
 
 

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